生き残り
物音は、
村の奥の建物から聞こえていた。
レイはゆっくり歩き出す。
剣には手を掛けない。
リナは少し遅れて後ろをついてくる。
「……いるな」
返事はない。
だが、
気配は消えていなかった。
怯えている。
それだけは分かる。
レイは崩れかけた家屋の前で止まった。
扉は半分壊れていた。
中は暗い。
「出てこい。
敵じゃない」
数秒の沈黙。
やがて。
小さな影が、
机の陰から姿を現した。
少年だった。
年齢は十歳前後。
痩せ細っている。
服は灰まみれだった。
少年はリナを見た瞬間、
顔を引きつらせる。
「魔族……!」
後ずさる。
だが逃げる力も残っていない。
レイは静かに口を開いた。
「落ち着け。
襲わない」
「う、うそだ……」
震えていた。
無理もない。
この世界で、
魔族は恐怖の象徴だ。
だが。
レイは周囲を見る。
家屋は崩れていない。
戦闘痕も少ない。
そして。
「……やっぱりだな」
少年が怯えた顔で見上げる。
「な、なにが」
「魔王軍は来ていない」
リナが小さく息を呑む。
少年も目を見開いた。
「うそだ!
村は消えたんだぞ!」
「消えた。
だが襲われてはいない」
レイは床へ散った灰を見る。
「これは魔法攻撃の痕じゃない」
「…………」
「空間そのものが崩れた痕跡だ」
少年は震えながら、
ゆっくり首を振った。
「ち、違う……」
「何がだ」
「神父様が……
魔王軍の呪いだって……」
レイの目が細くなる。
「神父?」
「村の教会にいた……」
少年は俯いた。
「鐘を鳴らして、
みんな逃げろって……」
「その神父は」
少年の顔が青ざめる。
「……消えた」
沈黙が落ちた。
レイはゆっくり思考を巡らせる。
神父は、
亀裂を知っていた。
だから警鐘を鳴らした。
だが。
「……妙だな」
リナが不安そうに聞く。
「何が?」
「知っていたなら、
避難誘導が遅すぎる」
村人の大半は消えた。
つまり、
事前避難できていない。
それなのに神父だけは、
警鐘を鳴らしていた。
「何かを待っていた?」
その瞬間だった。
レイの視線が、
部屋の奥で止まる。
壁へ、
薄い術式痕が刻まれていた。
教会の結界と同じ構造。
だが。
「……ここも削られてる」
しかも今回は、
かなり雑だった。
急いで壊した痕跡。
リナが顔を強張らせる。
「また?」
「ああ」
レイは壁へ触れる。
《解読》が反応する。
術式の流れ。
魔力痕。
そして。
「人間の魔力だな」
空気が止まる。
少年が震えた声を漏らす。
「……え?」
レイは静かに壁を見る。
「結界を壊してるの、
魔族じゃない」
その言葉に、
リナの顔色が変わった。
「じゃあ誰が——」
レイは答えなかった。
まだ確証が足りない。
だが。
少しずつ、
繋がり始めている。
世界崩壊。
空の亀裂。
魔王軍。
そして、
結界を壊す“人間側”。
その時だった。
遠くから、
鐘の音が響いた。
低く、
重い音。
少年の顔が青ざめる。
「……教会だ」




