転売ヤー、悪役令嬢に転生する
地獄の沙汰も金次第って、ほんと昔の人は上手いこと言うよね。
愛とか、夢とか、友情とか。
そういうのが大事って人もいるんだろうけど、私にはちょっとピンとこない。
だってそれ、いくらなの?
評価できないものに価値なんてないでしょ?
人の価値はお金じゃないとか力説されても、ソウデスネーとしか返せない。
値札がないものって信用できないのよ。
そんな私の前世は、二次流通業者だった。
分かりやすく言うなら、転売ヤーってやつ。
響きは悪いけど、やってる事はシンプル。
欲しい人がいる商品を手に入れて、高く売るだけ。
ただ、それだけ。
悪いことはしていない。
むしろ親切?
なのに散々な言われようだった。
販売開始5分で完売した!
転売ヤー、最っ低!
子供が欲しがっているのに手に入らない!
転売ヤー、滅びろっ!
いや、そんなん知らんし。
欲しいなら、金を出せばいいんじゃない?
だって、その値段が本当に正しい価格なんだから。
それが無理なら、縁がなかったってことでしょ?
結局、お金が一番ってことなのよ。
みんな口にはしないけど、心の中ではそう思っているはず。絶対に。
ある日、いつもと同じようにチケットを捌いていた。
人気のアイドルグループのやつ。
なんだか妙に、静かな男がいるなって思ったんだよ。
で、次の瞬間、刺された。
「は…?」
いやほんとに、そんな感じ。
痛いとかより先に、理解が追いつかない。
「え、なに?」ってなった。
それから少し遅れて、じわっと痛みが来て、刺されたんだってようやく理解した。
膝が崩れて視界が歪む。
まず頭に浮かんだのは怒りだった。
ふざけんなよっ! まだ売り切ってないのに!
在庫、普通に残ってるし。
赤字になったらどうしてくれんの?
怖いとか痛いより先にそっちが気になるあたり、自分でもどうかと思うけどさ。
で、文句を言おうとして顔を上げたら、世界が変わっていた。
「…………は?」
さっきまでいた場所じゃない。
音が違う。空気が違う。
やたら広い部屋。高い天井。
豪華なシャンデリア。
床は顔が映るくらいピカピカだし、ドレスの人がたくさんいる。
……何なの? これ………
状況が追いつかなくて、立ち尽くしてたら、目の前の美少女が悲痛な声を上げた。
「イザベル様、誤解なんですっ!」
え? なに? イザベル様??
そして美少女は、お人形みたいな瞳からポロポロと涙を流し始める。
「アルフレート殿下とは本当にただのお友達で……」
ん? アルフレート殿下??
その名前を聞いた瞬間、頭の奥のほうに何かが一気に流れ込んできた。
これは………イザベルの記憶?
あーはいはい、思い出した。
ここは、ゲームの世界だ。
売り切れ続出の乙女ゲーム『女神の祈りと悪魔の誘惑』の中ってことね。
販売当初、転売で稼がせてもらいましたよ。
ようするにコレは、異世界転生ってやつだ。
私は、悪役令嬢のイザベルってキャラで、ヒロインに嫌がらせして断罪される人。
で、目の前の子がヒロインで、隣の男が王子様。
つまりこれって、そのうち私が婚約破棄をされるってことだよね?
うーん………そっか。
むしろ、望むところ?
だって王妃様って面倒くさそうだし、別になりたいとか思わない。
それなら、実家に戻って好き勝手やる方が断然いい。
イザベルの実家って公爵家だし、貴族相手の商売ってめちゃくちゃ儲かりそうじゃない?
この世界なら、転売やっても文句言われないし、ねずみ講だって違法じゃないよね?
やばっ! 異世界最高じゃんっ!
「あの………アルフレート殿下。お話があります」
「ん? どうした、イザベル?」
「私と婚約を解消して下さい」
「え………婚約を……解消?」
「イ、イザベル様っ! お待ち下さい! 私とアルフレート殿下は、本当にただのお友達なんですっ!」
「えーと……ソフィア様、そのお話は分かりました。私が婚約解消を申し出たのは、全く別の理由なのです」
「別の……理由?」
「実は最近、体調が優れない日が続いておりまして、だから、その、ソフィア様に良くない態度をとってしまいました。その、ごめんなさい。でも、やっと目が覚めました。私には、王太子妃なんて無理なのです」
「イ、イザベル様……」
「分かった。では、しばらく領地に戻って、療養してはどうだろう?」
「はい、そうさせて下さい」
「婚約解消の話はすぐには決められない。もうしばらく待ってほしい」
「承知しました。アルフレート殿下」
私は二人に頭を下げながら、心の中でガッツポーズをした。
たぶんこれで、断罪とかされずに婚約解消できるはず。
私はすぐに領地に戻り、商売の準備を始めた。
お父様もお母様も私にとても甘い。ワガママをなんでも聞いてくれる。
ドレス、宝飾品、化粧品、痩せ薬、怪しい育毛剤……私の扱う商品は飛ぶように売れていった。
入会金システムを設け、紹介料を分配する無限連鎖講(ねずみ講)もバッチリはまり、ドンドン金が入ってくる。
この世界にはまだ、取り締まる法律なんてないから、やりたい放題だ。
そして、我が領地の資産は、1ヶ月でなんと3倍にも膨れ上がった。
「イザベルお嬢様、アルフレート殿下がお見えです」
「あら、アルフレート殿下が?」
婚約解消の話をしに来たのだろうか?
穏便に解消できるなら、これ以上嬉しいことはない。
「分かったわ、応接室にお通しして」
身なりを整え応接室に向かうと、アルフレート殿下は優雅にお茶を飲んでいた。
さすが王族、お茶を飲む姿も麗しい。
「お待たせしました。アルフレート殿下」
「久しぶりだね、イザベル。体調はどうだい?」
王子の視線が少し、こちらを測っているように感じて、妙に落ち着かない気分になった。
「えぇ、その、あまり良くない状態が続いております」
「へぇ、そうなの? ずいぶん活動的に商売をしていると聞いたのだけど?」
「えっ………あ、いえ、あの、そんなことは………あ、ありません…」
「本当に?」
「いえ、あの、も、申し訳ありません! 実はその、私は商売に憧れていて、だからその、少し、少しだけやってみたかったんですっ!」
「へぇ、そうなんだ?」
「あの……わ、私は罰せられるのでしょうか?」
「罰する? 君を? どうしてそう思うの?」
「いえ、あの、わ、私は殿下に………嘘をつきました」
「そうだね、それは良くない。でも、君が僕の元に戻ってきてくれるのなら、罪には問わないよ」
「も、戻る? 婚約は解消するのでは……?」
「君が健康体であるなら、婚約解消の話はナシだ」
「え……でも、殿下には、その、好きな方がいらっしゃるのですよね?」
「好きな方? もしかしてイザベルは、ヤキモチを焼いてくれていたのかい?」
「あ、いえ、その……」
「とにかく、今すぐ王城に戻っておいで」
「で、でも……」
「君には影を付けていたんだ。だから、君が何をしていたのか、全部聞いている」
「え、か、影?」
「僕はね、したたかで頭の良い女性が好きなんだ」
「は、はぁ…」
「君は僕の理想だ。だから、これを君に贈るよ」
「えっ、な、な、何ですかコレ? は、外れない……ですけど……?」
「それは王家の指輪だよ。妃にすると決めた相手に贈る習わしなんだ」
「そ、そんなもの、受け取れません!」
「イザベル………君は、資産を国外に移すためのルートを確保していたね?」
「ど、どうして、それを……?」
「ダメだよ。どこにも行かせない。君は僕の妃になるのだから」
そう言って優雅に微笑む美しい顔を見ていたら、唐突に前世の記憶が脳裏をよぎった。
このゲームにハマっていた知人が言ってたのだ。
アルフレート殿下は、愛が重い束縛系キャラだと。
だから、好感度を上げすぎると、監禁エンドになってしまうのだと。……………ゾクリと鳥肌が立った。
「ア、アルフレート殿下、ちょっと待って下さいっ!」
「あぁ、僕のイザベル。君はもう、僕だけのもの…」
◇
半年後、豪華で煌びやかな結婚式が執り行われ、イザベル嬢は正式に皇太子妃となった。
王太子妃の指には王家の指輪、腕には王家の腕輪、首には王家の首飾りが輝いており、人々は王家の装飾品の美しさに感嘆の声を上げた。
ちなみに王家の装飾品には、呪いにも似た強力な魔力が込められている。
毒も効かず、怪我もせず、病も寄せ付けない。その代わり、それを贈った相手とは決して離れられない。
それを外せるのも、もちろん贈った相手だけ。
幸せそうに微笑む王太子殿下の隣には、なぜか死んだ魚の目をした王太子妃様の姿があったそうだ。
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ちなみに、ヒロインのソフィア嬢は、騎士団長ルートに進みハッピーエンドを迎えました。




