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転売ヤー、悪役令嬢に転生する

作者: 貧血みかん
掲載日:2026/03/24


 地獄の沙汰も金次第って、ほんと昔の人は上手いこと言うよね。


 愛とか、夢とか、友情とか。

 そういうのが大事って人もいるんだろうけど、私にはちょっとピンとこない。


 だってそれ、いくらなの?

 評価できないものに価値なんてないでしょ?


 人の価値はお金じゃないとか力説されても、ソウデスネーとしか返せない。

 値札がないものって信用できないのよ。


 そんな私の前世は、二次流通業者だった。

 分かりやすく言うなら、転売ヤーってやつ。


 響きは悪いけど、やってる事はシンプル。

 欲しい人がいる商品を手に入れて、高く売るだけ。

 ただ、それだけ。


悪いことはしていない。

 むしろ親切?

 なのに散々な言われようだった。


 販売開始5分で完売した!

 転売ヤー、最っ低!

 子供が欲しがっているのに手に入らない!

 転売ヤー、滅びろっ!

 

 いや、そんなん知らんし。

 欲しいなら、金を出せばいいんじゃない?

 だって、その値段が本当に正しい価格なんだから。

 それが無理なら、縁がなかったってことでしょ?


 結局、お金が一番ってことなのよ。

 みんな口にはしないけど、心の中ではそう思っているはず。絶対に。



 ある日、いつもと同じようにチケットを捌いていた。

 人気のアイドルグループのやつ。

 なんだか妙に、静かな男がいるなって思ったんだよ。


 で、次の瞬間、刺された。


「は…?」


 いやほんとに、そんな感じ。

痛いとかより先に、理解が追いつかない。


「え、なに?」ってなった。


 それから少し遅れて、じわっと痛みが来て、刺されたんだってようやく理解した。


 膝が崩れて視界が歪む。

 まず頭に浮かんだのは怒りだった。


 ふざけんなよっ! まだ売り切ってないのに!

 在庫、普通に残ってるし。

 赤字になったらどうしてくれんの?


 怖いとか痛いより先にそっちが気になるあたり、自分でもどうかと思うけどさ。


 で、文句を言おうとして顔を上げたら、世界が変わっていた。


「…………は?」


 さっきまでいた場所じゃない。

 音が違う。空気が違う。

 やたら広い部屋。高い天井。

 豪華なシャンデリア。


 床は顔が映るくらいピカピカだし、ドレスの人がたくさんいる。


 ……何なの? これ………


 状況が追いつかなくて、立ち尽くしてたら、目の前の美少女が悲痛な声を上げた。


「イザベル様、誤解なんですっ!」


 え? なに? イザベル様??


 そして美少女は、お人形みたいな瞳からポロポロと涙を流し始める。



「アルフレート殿下とは本当にただのお友達で……」


 ん? アルフレート殿下??


 その名前を聞いた瞬間、頭の奥のほうに何かが一気に流れ込んできた。


 これは………イザベルの記憶?


 あーはいはい、思い出した。


 ここは、ゲームの世界だ。

売り切れ続出の乙女ゲーム『女神の祈りと悪魔の誘惑』の中ってことね。

 販売当初、転売で稼がせてもらいましたよ。

 

 ようするにコレは、異世界転生ってやつだ。

 私は、悪役令嬢のイザベルってキャラで、ヒロインに嫌がらせして断罪される人。

 で、目の前の子がヒロインで、隣の男が王子様。

 つまりこれって、そのうち私が婚約破棄をされるってことだよね?


 うーん………そっか。

 むしろ、望むところ?

 だって王妃様って面倒くさそうだし、別になりたいとか思わない。

 それなら、実家に戻って好き勝手やる方が断然いい。


 イザベルの実家って公爵家だし、貴族相手の商売ってめちゃくちゃ儲かりそうじゃない?


 この世界なら、転売やっても文句言われないし、ねずみ講だって違法じゃないよね?

やばっ! 異世界最高じゃんっ!



「あの………アルフレート殿下。お話があります」


「ん? どうした、イザベル?」


「私と婚約を解消して下さい」


「え………婚約を……解消?」


「イ、イザベル様っ! お待ち下さい! 私とアルフレート殿下は、本当にただのお友達なんですっ!」


「えーと……ソフィア様、そのお話は分かりました。私が婚約解消を申し出たのは、全く別の理由なのです」


「別の……理由?」


「実は最近、体調が優れない日が続いておりまして、だから、その、ソフィア様に良くない態度をとってしまいました。その、ごめんなさい。でも、やっと目が覚めました。私には、王太子妃なんて無理なのです」


「イ、イザベル様……」


「分かった。では、しばらく領地に戻って、療養してはどうだろう?」 


「はい、そうさせて下さい」


「婚約解消の話はすぐには決められない。もうしばらく待ってほしい」


「承知しました。アルフレート殿下」


 私は二人に頭を下げながら、心の中でガッツポーズをした。

 たぶんこれで、断罪とかされずに婚約解消できるはず。

 

 私はすぐに領地に戻り、商売の準備を始めた。

 お父様もお母様も私にとても甘い。ワガママをなんでも聞いてくれる。

 

 ドレス、宝飾品、化粧品、痩せ薬、怪しい育毛剤……私の扱う商品は飛ぶように売れていった。


 入会金システムを設け、紹介料を分配する無限連鎖講(ねずみ講)もバッチリはまり、ドンドン金が入ってくる。

 この世界にはまだ、取り締まる法律なんてないから、やりたい放題だ。


 そして、我が領地の資産は、1ヶ月でなんと3倍にも膨れ上がった。



「イザベルお嬢様、アルフレート殿下がお見えです」


「あら、アルフレート殿下が?」


 婚約解消の話をしに来たのだろうか?

 穏便に解消できるなら、これ以上嬉しいことはない。


「分かったわ、応接室にお通しして」


 身なりを整え応接室に向かうと、アルフレート殿下は優雅にお茶を飲んでいた。

 さすが王族、お茶を飲む姿も麗しい。


「お待たせしました。アルフレート殿下」


「久しぶりだね、イザベル。体調はどうだい?」


 王子の視線が少し、こちらを測っているように感じて、妙に落ち着かない気分になった。


「えぇ、その、あまり良くない状態が続いております」


「へぇ、そうなの? ずいぶん活動的に商売をしていると聞いたのだけど?」


「えっ………あ、いえ、あの、そんなことは………あ、ありません…」


「本当に?」


「いえ、あの、も、申し訳ありません! 実はその、私は商売に憧れていて、だからその、少し、少しだけやってみたかったんですっ!」


「へぇ、そうなんだ?」


「あの……わ、私は罰せられるのでしょうか?」


「罰する? 君を? どうしてそう思うの?」


「いえ、あの、わ、私は殿下に………嘘をつきました」


「そうだね、それは良くない。でも、君が僕の元に戻ってきてくれるのなら、罪には問わないよ」


「も、戻る? 婚約は解消するのでは……?」


「君が健康体であるなら、婚約解消の話はナシだ」


「え……でも、殿下には、その、好きな方がいらっしゃるのですよね?」


「好きな方? もしかしてイザベルは、ヤキモチを焼いてくれていたのかい?」


「あ、いえ、その……」


「とにかく、今すぐ王城に戻っておいで」


「で、でも……」


「君には影を付けていたんだ。だから、君が何をしていたのか、全部聞いている」


「え、か、影?」


「僕はね、したたかで頭の良い女性が好きなんだ」


「は、はぁ…」


「君は僕の理想だ。だから、これを君に贈るよ」


「えっ、な、な、何ですかコレ? は、外れない……ですけど……?」


「それは王家の指輪だよ。妃にすると決めた相手に贈る習わしなんだ」


「そ、そんなもの、受け取れません!」


「イザベル………君は、資産を国外に移すためのルートを確保していたね?」


「ど、どうして、それを……?」


「ダメだよ。どこにも行かせない。君は僕の妃になるのだから」


 そう言って優雅に微笑む美しい顔を見ていたら、唐突に前世の記憶が脳裏をよぎった。

 このゲームにハマっていた知人が言ってたのだ。

 

 アルフレート殿下は、愛が重い束縛系キャラだと。

 だから、好感度を上げすぎると、監禁エンドになってしまうのだと。……………ゾクリと鳥肌が立った。


「ア、アルフレート殿下、ちょっと待って下さいっ!」


「あぁ、僕のイザベル。君はもう、僕だけのもの…」



 半年後、豪華で煌びやかな結婚式が執り行われ、イザベル嬢は正式に皇太子妃となった。


 王太子妃の指には王家の指輪、腕には王家の腕輪、首には王家の首飾りが輝いており、人々は王家の装飾品の美しさに感嘆の声を上げた。


 ちなみに王家の装飾品には、呪いにも似た強力な魔力が込められている。

 

 毒も効かず、怪我もせず、病も寄せ付けない。その代わり、それを贈った相手とは決して離れられない。

 それを外せるのも、もちろん贈った相手だけ。


 幸せそうに微笑む王太子殿下の隣には、なぜか死んだ魚の目をした王太子妃様の姿があったそうだ。


最後までお読みいただきありがとうございます。

少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。

ブックマーク・いいね・評価、励みになっております。

どんな評価⭐︎でも正直な気持ちを残していただけると参考になりますので、よろしくお願いします。


ちなみに、ヒロインのソフィア嬢は、騎士団長ルートに進みハッピーエンドを迎えました。


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― 新着の感想 ―
あはは!令嬢もぶっ飛んでるけど、王子の方がもっとぶっ飛んでたー!ヒロイン選ぶ場合もしたたかだからが理由か!? 転売ヤーなんだね。転バイヤーだ思ってました!一緒かな?うーん。転売ヤーはね。見てて悲しくな…
お金とは尊いものであり、価値は絶対のもの。それはそう。 だからこそ、それを不当に吊り上げ、健全な流通を阻害する転売には「負の価値」が付加される訳で。 良かったね、転売ヤーのレディ。 君にはバッドエン…
感想一覧
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