95. 戦闘開始
フルベラの夜明けがゆっくりと訪れようとしていた。
窓の外から差し込むかすかな陽光が、宿の木の床を優しく染め始めていた。埃の粒子たちは空中で軽やかに舞い、踊っているかのようだった。
イヒョンは目を開くとすぐに体を起こし、ベッドの端に腰を下ろした。彼の体は疲労で頭が少し重かったが、すぐに訪れる戦闘を思い浮かべると、全身の筋肉が徐々に張りつめ始めた。
彼はベッド脇のテーブルに置かれた武器たちをじっと見つめた。
彼は外套を着込み、それらを肩に担ぎ、静かに部屋を出た。
部屋の中とは違い、外の冷たい風が窓枠の隙間から入り込み、廊下の空気をひんやりとさせていた。その風が彼の頰を撫でて過ぎると、イヒョンは胸に現実が迫ってくるのを感じた。
彼は重い足取りで、リセラとセイラのいる部屋へと向かった。
ドアを軽くノックすると、中から馴染みのある温かな声が流れ出た。少ししてドアが開き、リセラの柔らかな微笑みが彼を迎えた。
部屋の中は、焼きたてのパンの香ばしい匂いで満ちていた。小さなテーブルの上には質素だが整った朝食が用意されていた。焼きたてのパン数切れとチーズ、果物が置かれ、その香りが部屋全体を心地よく包み込んでいた。
エレンはまだ布団の中に埋もれ、規則正しい寝息を立てて深く眠っていた。世間知らずの平和なその姿が、すぐに戦争が起こることを知るイヒョンの胸を少し疼かせるようにした。子供の純真さが、この瞬間ほど残酷な現実をより鮮明に刻みつけるようだった。
リセラはイヒョンを見て、手をタオルで拭きながら近づいてきた。
「イヒョン、もう起きたの?」
彼女の声はいつものように柔らかく温かかったが、目元に影を落とした疲れは、夜通し眠れなかった痕跡をそのまま表していた。心配げな視線が自然と彼の肩に担がれた武器たちに向かった。
「それにしても…あなたがあそこに行くのは本当に危なくないかしら?」
イヒョンは軽く頷きながら中に入った。彼の足取りが部屋の温かさに溶け込むようだった。
「それでも行ってみるよ。僕が行ってどれだけ役に立つかわからないけど、状況を知ってるのにただ待ってるだけじゃいられないんだ。それがもっと辛いよ。」
彼の視線がセイラに移った。
セイラは窓辺に座り、ガラス瓶に何かを慎重に移し入れていた。窓辺にはそんなガラス瓶がびっしりと並べられ、朝の陽光が瓶の中の液体をきらきらと輝かせていた。
「セイラ、お前…一晩中寝てないのか? それらの瓶は何だ?」
セイラはガラス瓶を置いて軽く微笑んだ。彼女の目には疲労が滲んでいたが、その中に輝く決意が彼女をより強靭に見せていた。師を助けたいという思いが、彼女の小さな体を支える原動力のように感じられた。
「はい、ルメンティア。戦闘が起きたらたくさん必要になると思って、事前に準備したんです。」
彼女は瓶を整理しながら付け加えた。
「師匠、夜通しアルコールを蒸留したんです。消毒用に使おうと思って。ガラス瓶に入れておけば持ち運びやすいですよ。心配しないでって言われたけど、それでも負傷者が出たら役立つかなって思って。」
「それで、材料はどうやって手に入れたんだ?」
「宿の主人から買いましたよ。はは…は…」
彼女の笑い声がぎこちなく途切れ、部屋の中に一瞬の静けさが流れた。
イヒョンは言葉に詰まり、何も言えなかった。お金を使ったことが問題なのではなく、負傷者が出るのを予想して一晩中こんな準備をしたという事実が、彼女をより立派に思わせたからだ。幼い年齢にもかかわらず見せるこの献身が、彼の胸を温かくした。
「ごめんなさい…」
イヒョンが無言で自分を見つめると、セイラは気後れして肩を少し縮めた。まるで悪いことをした子供のように見えた。
イヒョンはそんな彼女を見て、優しく肩を叩いた。彼の手の感触には温かな励ましが込められていた。
「そんなに謝ることなんて全然ないよ。本当に良くやったよ。僕が君の行動をすごく誇らしく思って、ただ…びっくりしただけさ。」
セイラは安堵の溜息を吐き、再び明るい笑顔を浮かべた。彼女の眼差しには、師匠に対する深い信頼が滲み出ていた。
「じゃあ、これをバッグに入れておきますね。絶対に持って行ってください、ルメンティア。」
彼女は輝く目で言いながら、瓶を慎重にバッグへ入れ込んだ。
『シエラもセイラみたいにこんな気持ちを感じたのかな…』
イヒョンの心にふとそんな思いがよぎった。過去の弟子だったシエラが思い浮かび、セイラの献身がより一層尊く感じられた。
リセラがテーブルの方へ案内しながら、柔らかく言った。
「セイラが頑として朝食を用意したのよ。パンとチーズ、多くはないけど一緒に持って行きましょう。エレンはまだ夢の中だから、あの子が起きる前に急ぎましょう…」
その時、ドアの外から軽い足音が聞こえてきた。小さな影がドア枠に落ち、続いてイアンが姿を現した。いつ目覚めたのか、彼の目にはまだ眠気が満ちていたが、イヒョンの気配を感じて起きてついてきたようだった。子供の髪が乱れて可愛らしく散らばっていた。
「イアン、起きたのか。こっちに来なさい。」
イヒョンが温かな声で手を差し伸べた。イアンは無言で中に入り、頷くと、小さな手でイヒョンの裾をぎゅっと掴んだ。その小さな手触りが、イヒョンの胸を少し温かくした。
彼らはテーブルの周りに座り、簡単な食事を分かち合った。焼きたてのパンの柔らかな温もりが口の中に広がり、チーズの香ばしさが加わった。窓から差し込む朝の陽光がテーブルを照らし、パンの屑が落ちる音が部屋に小さな平和を生み出した。すぐに訪れる戦闘が遠い夢のように感じられるほど、この瞬間は静かで大切だった。
リセラはエレンをちらりと見て、軽く溜息をついた。彼女の視線には母としての切なさが込められていた。エレンの規則正しい寝息が部屋を満たす中、リセラは心の中で子供たちの安全を祈った。
セイラはガラス瓶を最後に整理しながら、イヒョンを見上げた。彼女の声には本気の心配がにじみ出ていた。
「ルメンティア、こちらがバッグです。そして、もし助けが必要なら、絶対に言ってください。私が駆けつけますよ。」
イヒョンは微笑みながらバッグを受け取った。重いバッグからセイラの心が感じられた。
「ありがとう、セイラ。大いに力になるよ。リセラ、エレンとイアンをよろしく頼むよ。イアン、今日は一緒に行けないよ。ここでお姉さんたちと待っててくれ。」
イアンはイヒョンをじっと見つめ、頷いた。その様子を見ていたリセラが口を開いた。
「気をつけて行ってきてね。無理はしないで、状況だけ見てくるのよ。」
イヒョンはリセラを見て軽く笑った。
「心配しないで。剣もまともに振れない僕が何の戦いをするっていうんだい? ただ状況を覗いてくるだけさ。」
セイラが静かに付け加えた。彼女の声は澄んで真剣だった。
「ルメンティア、無事に帰ってきてくださいね。」
「そんなに心配しないで。敵はせいぜい数十人らしいよ。伯爵の軍だけで十分だってさ。僕が戻るまでここから出ちゃ絶対ダメだよ。」
イヒョンは彼らをもう一度見回し、部屋を出た。
宿から出たイヒョンは兵営へと向かった。
朝の陽光が彼の背中を優しく照らし、風が木の葉をさらさらと揺らした。フルベラの街はまだ静かだったが、空気中に張りつめた緊張感が滲み出ていた。遠くから鳥の声が聞こえ、時折通る馬車の音が静けさを破った。
兵営が視界に入ると、ラマンの声が風に乗って響き渡った。
伯爵の部隊が整然と並び、ラマンが中央で作戦を説明している最中だった。兵士たちの顔には決意が宿り、彼らの眼差しがラマンの言葉に集中していた。
イヒョンは少し離れたところからその光景を眺めていた。ラマンの声がはっきり響いてきた。彼の指示は明確で説得力があった。
「…城門を封鎖して待機せよ。敵が近づいたら弓兵たちが西側を援護し、ベルティモ隊長の一撃を待て。その隙を狙って騎兵隊が突撃する!」
作戦説明が終わると、イヒョンはラマンの方へ近づいた。
「ラマン卿。」
イヒョンが呼びながら近づくと、ラマンは振り返って微笑んだ。彼の視線が自然とイヒョンの肩に担がれた武器とバッグの中の消毒薬の瓶たちに移った。ラマンの目には好奇心と感嘆が混じっていた。
「イヒョン卿、来られましたか。でも、わざわざ一般人がこんな戦場に出る必要はありません。あまり心配なさらず、宿に戻って休まれた方がいいでしょう。戦いはきちんと訓練された私たちの兵士たちに任せてください。」
ラマンの口調は親切だったが、その中には長年の歳月で鍛えられた指揮官の冷静さがにじみ出ていた。彼はイヒョンの熱意を認めつつ、民間人を守ろうとする本能が優先しているようだった。
イヒョンは軽く首を振りながら答えた。
「いえ、ラマン卿。僕なりの小さな力でも加えられるなら、それが役立つんじゃないでしょうか? 僕にできることがきっとあるはずです。ベルティモ側の状況はどうですか?」
ラマンが口元に微笑みを浮かべながら、荒野の北西側を眺めた。彼の視線は遠い森の向こうへ向けられ、その中には同志愛と信頼が滲み出ていた。
「ベルティモ隊長なら、今頃敵陣の北西に到着して、森の中で適切なタイミングを狙っておられるでしょう。あの方はいつも一手先を見越されますからね。ご心配なく。」
ラマンの言葉から、ベルティモに対する絶対的な信頼が感じられた。
イヒョンがアルコールが入った瓶を慎重にラマンに差し出した。
「これを持ってきました。アルコールというものです。傷を布で巻く前にこれでまず拭いてあげれば、感染をある程度防げます。負傷者が出たら役立つはずです。」
ラマンが瓶を受け取り、好奇心に満ちた目でじっくりと観察した。
「これは地球というところの知識で作ったものですか? 面白いですね。使わなくてもいいですが、万一の場合に備えてありがたくいただきます。はは、ありがとうございます。」
イヒョンが頭を掻きながら照れくさそうに笑った。
「ええ、まあ…そう言えるかな。少しでも役に立てばと思います。」
ラマンはバッグを受け取ると、近くの兵士に渡した。彼の指示は簡潔で明確だった。
「これをしっかり保管しておけ。必要な時に使うように。」
そして、再びイヒョンを見て柔らかく付け加えた。
「戦闘が始まったら危険ですから、宿に戻られた方がいいですよ。市民の安全が最優先です。」
イヒョンは頷いたが、心の中では依然として不安と好奇心が渦巻いていた。ただ見守るだけでなく、自分で出たいという気持ちが彼の足を留めていた。
遠くから鳥たちのさえずりが聞こえてきたが、兵営の張りつめた緊張感の中に溶け込み、かすかにしか感じられなかった。城壁の上から見下ろすこの朝の風景は平和の絶頂のように見えたが、その中にはすぐに爆発する嵐の前兆が潜んでいた。
突然、西側の城壁から鋭いラッパの音が鳴り響いた。その音が森と街を横切り、こだますると、空気が一瞬で重くなった。
「敵が現れた!」
その叫びが兵士たちの胸を締めつけた。平和な夜明けが粉々に砕け、戦場の匂いが立ち上った。
ラマンは素早く馬に跨った。彼の顔には長い戦闘で鍛えられた落ち着きが宿り、瞳には鋭い光がよぎった。
彼は手を高く挙げ、全軍に向かって力強く叫んだ。
「全軍、戦闘準備! 敵が西側から近づいている! すべての部隊、前進せよ!」
騎兵隊と重装兵たちが一糸乱れず西側の城門に向かって動き始めた。足音が大地を震わせ、武器がぶつかり合う音が空気を満たした。
騎兵隊はラマンの指揮の下、城門の後ろで隊列を整えていた。馬たちの荒い息遣いが周囲を回り、甲冑の金属音がリズムのように広がっていった。
彼らは門が開く瞬間を待ち、いつでも突撃できる態勢を整えていた。空気中にじわじわと立ち上る戦闘の熱気が、兵営全体を包み込んでいた。
後方には重歩兵たちが整然と立っていた。彼らの槍と盾が朝の陽光を受けて柔らかく輝き、重い甲冑が肩を圧迫しているように見えたが、その姿は威風堂々として見えた。
元々ニルバスを制圧するために連れてきた兵力は、わずか百余騎の騎兵と数十名の重装兵に過ぎなかったが、彼らの訓練レベルは非の打ち所がなく優れていた。
兵営の入り口からその進軍の光景を眺めていたイヒョンは、胸の内から湧き上がる動揺を感じた。何事もないだろうと自分をなだめようとしたが、コランとフルベラの墓地で経験したあの奇妙な出来事が思い浮かぶたび、迫り来る戦闘が予想外の道筋を辿るかもしれないという不吉な予感がした。
何よりこれから繰り広げられる状況があまりにも気になって耐えられなかった。
彼は無意識に進軍する軍の後を追って走り始めた。足音が速くなり、呼吸が次第に荒くなった。風が彼の顔を撫で、埃が舞い上がる道をしばらく駆け抜けた末、西側の城門に到着した。
城壁の階段を上ろうとすると、一人の兵士が前に出て彼を阻んだ。兵士の眼差しには鋭い警戒が宿っていた。
「止まれ! ここは民間人が上がれる区域じゃない!」
イヒョンが慌てた様子で足を止めた。
「あ…ラマン卿を追って来た…」
ちょうどその時、城壁の上からラマンの声が降ってきた。彼は下を見下ろしながら軽い微笑みを浮かべた。
「イヒョン卿、結局ここまで来られましたか。」
兵士が頭を下げて退いた。
「はい、ラマン卿。」
彼の返事は恭しくだったが、イヒョンをちらりと横目で見る視線には少しの疑問が滲み出ていた。イヒョンみたいな平凡な人間がなぜこんなところに現れたのか気になる様子だった。
イヒョンは内心で安堵しながら階段を上った。城壁の上に吹く風が彼の髪を乱し、視界に広がったフルベラの西側の森が一目で入ってきた。
森は濃い緑色に染まっていたが、その中に染み込んだ何かの気配が不快に感じられた。まるで隠れた影が潜んでいるような感覚だった。
ラマンは依然として森から視線を外さずにいた。彼の肩の線が少し緊張した気配を見せていたが、彼は変わらぬ落ち着きを保っていた。
「ラマン卿。」
イヒョンが城壁に上がると、ラマンは笑いながら声をかけた。
「普通の人なら家に戻って戸締まりをするところですが…勇気が素晴らしいですね。」
イヒョンが頭を掻きながらぎこちなく笑った。好奇心が不安を圧倒する瞬間だった。
「はは、ただ…あまりにも気になってしまって。それに僕が経験したことを思い浮かべると、敵たちも普通じゃない気がして。ところでまだ敵たちは見えませんが…」
ラマンが頷きながら森の一区画を指さした。
「あそこを見てください。森で動きが捉えられ始めました。」
イヒョンはラマンが指差す方向をじっくりと眺めたが、森の上を鳥たちが飛んでいるのが見えるだけで、特別な異常の兆候を発見できなかった。
「森の中の動きをどうやって見られたんですか?」
「一箇所だけを見ていればわかりにくいですね。でも森全体を広い視野で観察してみてください。鳥たちがあの一帯の上だけで回っているじゃないですか?」
ラマンの言う通りだった。特定の地点だけを見れば平凡に見えたが、全体を眺めると鳥たちの動きが一側にだけ集中しているのがはっきりわかった。森の枝が微かに揺れているような錯覚までした。
「森のせいで内側が見えませんが、間違いなく内部で何かが動いているはずです。」
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