73. エスベロ
イヒョンは、オルディンの古い執務室を、忘れられた遺物に刻まれた秘密を探るように、細心の注意を払って見回した。その後、あらかじめ用意しておいた箱の中の石鹸サンプルを、ルカエルに慎重に手渡しながら、丁寧な挨拶を述べた。
「オルディン様のお部屋を直接見せてくださって、深く感謝申し上げます。おかげで、噂でしか聞いていなかったお方の姿を、まるで目の前で対面したかのように生々しく感じられます。レオブラム侯爵様には、私がすぐに手紙を送らせていただきます。侯爵様からの返信が届きましたら、改めてお伺いいたします。」
ルカエルは、髭をゆっくりと撫で下ろしながら、満足げな微笑みを浮かべた。彼の眼差しには、長年の歳月が積み重ねた叡智が染み込んでいた。
「そうしてくれ。レオブラム侯爵閣下ならば、公平無私な判断で最善の道を示してくれるだろう。さあ、行きたまえ、若者よ。世は待ってくれぬのだから。」
イヒョンは、本部の石段を一歩一歩降りながら、心に渦巻いていた圧迫感が徐々に散っていくのを感じた。背後で上団本部の重い扉が静かに閉まる音が響くと、ようやく肩が軽くなるような解放感が押し寄せてきた。
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翌日。
朝の空気は、もうずいぶんと肌寒い気配を帯びていた。プルベラの夜明けの霧が、船着き場近くの広場を覆い、世界を白濁したベールで包み込んでいた。まるで小説の中の、霧に包まれた港町のように、すべての輪郭が柔らかく溶け落ちる風景だった。
イヒョンは宿を抜け出し、広場を横切り、船着き場へと続く路地をゆっくりと踏み進んだ。
そこに聳え立つエスベロ上団の本部は、ルカエル上団の優雅で洗練された石造りの邸宅とは全く異なっていた。
高い屋根には鮮やかな赤い瓦が葺かれ、外壁は太い木の柱と重厚な煉瓦が層を成して積み上がり、荒々しい風と歳月を耐え抜いたような印象を与えていた。
門前では商人たちと荷運び人たちが絶え間なく出入りし、荷物を運び込んでおり、窓越しに賑やかな喧騒が波のように広がっていた。
まるで旅人ギルドのように、活気あふれ、雑然とした気配が染みついた場所だった。
四方に掲げられた看板と旗には、上団の象徴である掌の文様が鮮やかに刻まれていた。
『雰囲気は確かだな。ここはもっと生々しい生活の匂いがするよ。』
イヒョンの視線が、門前を守る警備兵たちに向かった。
ルカエル上団の護衛隊のように、綺麗な制服や輝く槍と盾は見当たらなかった。
代わりに剣と盾を帯び、擦り切れた革鎧をまとった彼らの姿は、都市の自治警備隊や暗い路地の守護者たちを連想させた。
本部に近づくイヒョンを察知した警備兵の一人が、ずかずかと歩み寄ってきた。
彼は短く刈った頭に革帽をかぶり、汚れのついたマントを巻きつけ、荒々しく尋ねた。
「おい、初めて見る面だな。ここがエスベロ上団の本部だって知ってるよな? 何しに来たんだ?」
「ええ、知っています。」
イヒョンは首にかけた旅人識別札を取り出し、彼に差し出した。
警備兵は識別札をじっくりと確認すると、少し柔らかくなった様子で尋ねた。
「ふん、何の用だ?」
イヒョンはあらかじめ用意していた言葉を落ち着いて口にした。
「私はコランから来たソ・イヒョンという旅人です。エスベロ様に役立つ薬剤を紹介したいと思い、参りました。可能であれば直接お渡ししたいのですが。」
警備兵は腕を組んだまま、イヒョンを頭から爪先までじろじろと眺め回した。
それから、門脇に立っていた同僚に顎で建物を指し示しながら言った。
「中に入って、団長様に伝えてみろ。この旅人が薬剤を売りに来たってよ。」
門番役の男が内側に消えていった。
入口では荷運び人たちが木箱をせっせと運び入れ、都市の商人らしき若者たちが品物を買うために本部前に長く列をなしていた。
イヒョンはその喧騒の中で、自分に向けられた警備兵たちの鋭い視線が、かすめるように染み込んでくるのを感じた。
『ここも雰囲気は穏やかじゃないな。でもルカエル上団とはかなり違う。ここは……なんだろう、もっと活気があり、人間味があふれている感じかな。』
「団長。」
古い木製の扉が、きしむ音を立てて開いた。
団長室の内部は、冒険者ギルドのように書類と貿易帳簿が山のように積み上がり、混沌の中に秩序を求めるような雰囲気を醸し出していた。
執務室の真ん中に置かれた大きな机に座っていた男が、顔を上げた。
黒い髪の間に白髪が混じった彼は、疲労の染みた目元に古い眼鏡をかけていた。
まさに団長、エスベロだった。
書類を記入するのを止めた彼の腕には、ぼろぼろの革製の腕当てが巻かれていた。
彼は外から入ってきた兵士を、眼鏡越しにじっと見つめた。
「何の用だ?」
兵士は帽子を脱いで両手に握った。その手の甲に付いた埃が、彼の荒れた日常を物語っていた。
「あの……団長。外に何か異邦人が来てるんですけど。」
エスベロは鼻先の眼鏡を少し押し上げながら、まだ書類の山に目を固定したまま、低い声でつぶやいた。
「異邦人? この荒れた世に珍しいことだな。」
「ええ。自分をコランから来た旅人だと言ってましたが、旅人ギルドの識別札を付けていました。4級に見えますが、ルカエル側の間者みたいじゃないです。」
「それで? その客は何と言っていた?」
「自分の話では……団長に役立つ薬剤を持って来たそうです。」
エスベロの手が一瞬止まった。彼の疲れた眼差しに、かすかな好奇心が浮かんだようだった。
「薬剤か……面白いな。」
彼は椅子の背もたれに体を預け、しばらく思案に耽るように机を指でトントンと叩いた。
そのリズムに合わせて、茶碗が軽くカチャカチャと音を立て、部屋を満たした。
「必要なものは溢れるほど多いがな。しかしこんな混乱の中で誰が物を売りに来るのか、直接見てみたい。中に通せ。茶の一杯くらい振る舞わねば。」
エスベロは机の上に散らかった書類を素早く整理した。
イヒョンは兵士の案内で、エスベロ上団本館の廊下をゆっくりと歩いた。
廊下の両側には貿易文書がぎっしり詰まった書棚が並び、上団員たちが書類の束を抱えて忙しく行き来し、報告を上げる姿が絶え間なく広がっていた。
建物全体が巨大な事務室のように、効率と実用が骨身に染みついた空間のようだった。
ルカエル上団の大理石の柱と華やかな装飾で飾られた回廊とは全く違う世界だった。
すべてのものが本質に集中した、無駄を許さない気配が染み込んでいた。
事務室の扉が開くと、イヒョンの視界に最初に入ってきたのは、何の装飾もない質素な机と整頓された帳簿の山だった。
壁にはただ一枚の地図と簡略な航路標識だけが貼られ、大きな窓越しに船着き場の活気ある風景が一望できた。
貴重品を展示する飾り棚などなく、床に絨毯さえ敷かれていなかった。
代わりに四方に引き出しと文書が体系的に配置された棚がぎっしりと詰まっていた。
即座に業務に没頭し、即座に判断を下せるように設計された構造だった。
「入ってくれたまえ。」
机の向こうから、低く柔らかな声が流れてきた。
エスベロは書類を閉じて席から立ち上がり、イヒョンを迎えた。
彼はルカエルよりやや若く見え、質素な薄茶色のベストとリネンシャツ姿だった。
深く刻まれた目尻の皺と鋭い眼差しは、彼が若い頃から現場で直接指揮を執ってきた男であることを如実に表していた。
しかし、人々を会い、物品を買い入れるルカエルとは全く違う気配を漂わせていた。
「遠い道を来るのにご苦労だった。」
エスベロは薄い唇を少し引き上げて微笑んだ。
親しげな表情だったが、どこか業務的な冷静さが滲み出ているようだった。
「さあ、座ってくれたまえ。私はエスベロだ。」
「ソ・イヒョンです。」
イヒョンはエスベロが指し示した椅子に慎重に腰を下ろした。広い応接室も、快適なソファもなかった。まるで師匠の前で会話を交わす弟子のように、緊張した雰囲気が漂っていた。
兵士が扉を閉めて退くと、部屋の中には二人だけが残った。
「さて、それでは。」
エスベロは手を組み合わせて机の上に置いた。
「聞くところによると、我が上団に有益な薬剤の話をされたそうだが。どんな内容か詳しく聞かせてくれないか?」
イヒョンは短く息を整えて口を開いた。
「最近、プルベラで負傷者が急増したと聞きました。神殿で治癒の儀式を受けようとしても費用が馬鹿にならず、神官が不足しているので、適時に治療を受けられない人々が少なくないそうです。」
エスベロは視線を逸らさず、首だけを軽く傾けた。
「その通りだ。それは実に哀れなことだが……避けられない現実でもある。」
彼の声には憐憫と冷徹さが混じり合っていた。
イヒョンはエスベロをまっすぐ見つめながら言葉を続けた。
「だから上団が出張って、より安価な治療用の薬草や医薬品を流通できないか……と考えました。」
エスベロはイヒョンを見つめながら、かすかに笑った。
「私だってそんな考えをなぜしなかったと思うか。」
彼は体を少し後ろに寄せ、再び指先でリズムを刻みながら机の端をトントンと叩いた。おそらく考えを巡らす時に机を叩くのが彼の癖のように見えた。
「そんな薬があることは知っている。だが大部分は旅人ギルド員たちが私的に見つけた製法なので信頼しにくい。それに……」
エスベロは一瞬息を整えて言葉を続けた。
「材料を入手するのもそう簡単じゃない。貴族のための高級薬剤はほとんどルカエル上団が独占しているからな。」
元々瘦せた体躯と顔のエスベロは、眼差しがさらに鋭くなった。
「だから私はその代わりに、人々が日常で使う物を少しでも安く仕入れようと努めている。一人の病を治せなくても、十人の飢えは防げるからな。」
イヒョンは頷きながらエスベロを見つめた。なぜルカエルとエスベロの意見が対立したのか、今になってようやく察しがついた。
商人として見れば、誰も間違った選択などしていなかった。予算は限定的で、荷物を運ぶ船も、労働力を投入する人員も限られていた。どこかに焦点を当てるしかないはずだった。
彼の態度は好意的だったが、その鋭い眼差しは人の内面を貫くような力を備えていた。
一瞬の躊躇もなく、エスベロはイヒョンの表情を観察しながら口を開いた。
「君の話を聞いていると……君は普通の旅人ではないようだな。」
エスベロの声が少し低くなった。
「何を望んでいる?」
イヒョンは机の向こうのエスベロの視線を淡々と受け止めながら答えた。
「団長もご存知のように、神殿の儀式は時間が長くかかります。そしてその待ち時間の中で命を落とす者たちが意外と多いのです。」
エスベロは視線を少し下げて再び上げ、否定も肯定もしなかった。
「それは事実だろう。だが旅人たちが持ち歩くそんな薬が、神殿の祝福ほど効果を発揮できるはずがない。君も知っているだろう?」
エスベロの言葉にイヒョンは即座に頷いて同意した。
「その通りです。神殿の儀式を完全に代わりにできるわけではありません。でも……その貴重な時間を稼ぐことはできます。」
イヒョンは遅れることなく、傍に置いた鞄を解いた。
布で包まれた小さな薬瓶と丸薬数粒を取り出し、机の上に整然と並べた。
エスベロは上半身を前に傾けて、その瓶と丸薬をじっくりと見つめた。
濃い草の匂いとハーブの爽やかな香りがほのかに広がり、部屋の空気を満たした。まるで森の中の泉辺から立ち上る霧のように、その香りが染み込み、心を落ち着かせた。
彼は小さな瓶を手に取り、窓から差し込む陽光に翳して見た。光が瓶の中の液体を透過し、その中で光が踊るようにきらめいた。
「この品々は一体何だ?」
イヒョンは軽く息を整え、落ち着いた調子で説明を続けた。
「消毒剤です。傷をきれいに洗浄する役割をします。」
イヒョンは丸薬を包んでいた紙を解き、エスベロの前に陳列するように並べた。
「この丸薬は柳の樹皮を煎じた水で作ったものです。高熱で意識を失っていく者たちに特に有効です。熱を鎮め、炎症を緩和するのです。」
エスベロは眉を少し上げ、好奇心に満ちた視線で頷いた。彼の眼差しに、長年の歳月が積み重ねた商人の直感がよぎった。
「そしてこれは……」
イヒョンはもう一つの丸薬を指した。
「この薬は肺炎や傷が腐敗して肉が腐るのを防ぎます。私も他人から伝授された秘法を基に改良した品です。秘訣さえ知っていれば誰でも製造できます。団長もよくご存知でしょうが、傷が深く入り込めば神殿の祝福を受けても後遺症が残り、間に合わなければその祝福さえ無駄になってしまうではありませんか?」
エスベロの眼差しが一層深くなった。
彼は机の向こうに体をさらに乗り出した。
「……肺病まで治せるというのか?」
「そうです。」
イヒョンは確信に満ちた声で応じた。
「少なくとも治癒の儀式が行われるまで命を繋ぎ止めてくれます。その大切な時間が生死を分けるのです。」
エスベロは軽いため息を吐いた。彼の指先が薬瓶の蓋をトントンと叩き、一瞬思索に耽るようだった。そのリズムは、まるで静かな湖に水滴が一定に落ちる音のように、部屋の沈黙を破っていた。
イヒョンはすぐに最後の薬の包みを剥がし、説明を付け加えた。
「そしてこれは逆に体温を上げる薬です。寒さにさらされた者や水に落ちて冷気が染み込んだ者たちに使い、血液を循環させ、生気を蘇らせるのです。今日は持ってきませんでしたが、他にもいくつかあります。必要でしたらいつでもおっしゃってください。」
エスベロの視線がイヒョンの瞳と丸薬の間を行き来した。
彼の鋭い目元に驚嘆の光が宿った。まるで遠い昔の伝説の中の錬金術師を前にしたような表情だった。
「君は一体こんなものをどこで学んだんだ? 単なる旅人の技じゃないな。」
読んでくれてありがとうございます。
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