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72. オルディン

「奥様も亡きお父上を深く尊敬なさっていたのでしょうね。」


カエラはイヒョンの問いに、肯定の光を帯びた眼差しで少し頭を下げた。そしてルカエルの傍らに静かに腰を下ろし、夫の腕を優しく包み込んだ。


「ええ。お父様は……フルベラの皆にとって、支柱のような存在でしたわ。」


部屋の空気が、寂しい思い出の重みに押しつぶされるようだった。イヒョンは低いトーンで、まだ信じられないという様子を見せながら首を横に振った。


「しかし……私は全く知りませんでした。エスベロがオルディン様を毒殺したなんて……」


その言葉にルカエルは拳を握り、卓を強く叩きつけた。


「毒殺は確かだよ。いや、毒殺だと断定できる。証拠を掴みきれなかったが……あの日のことを思い出すたびに今でも……」


彼はその日の感情を改めて噛み締めるように口を閉ざした。


イヒョンは慎重で真剣な態度で尋ねた。


「失礼でなければ……エスベロの奴がどうやってオルディン様を害したのか、お聞かせいただけますか?」


ルカエルは師匠であり義父でもあるオルディンを、心から尊敬し愛していたようだった。


イヒョンの質問に、十数年の歳月が流れてもその場面が眼前にはっきりと浮かぶようで、ルカエルは拳を握りしめ、指の関節が青白くなるほどだった。


そんな夫の姿が哀れに思えたのか、カエラは横から低く彼の名前を呼び、肩を撫で下ろした。しかしルカエルは首を振り、それを払った。


「いいよ。思い出すだけで胸が張り裂けそうだが、再び口にしても変わるものはない。それでも……誰かはこの真実を刻み込んでおくべきじゃないか? 君のような世を渡り歩く旅人ならなおさらだ。」


ルカエルはしばらく心を整えるように、両親指で顎を支え、深く考えに沈んだ。やがてゆっくりと口を開いた。


「話をきちんとするなら、最初から解きほぐすのがいいだろうな。ふむ……」


彼は落ち着きを取り戻そうとするように背筋を伸ばし、深いため息を吐いた。


「オルディン……師匠は本当に偉大な方だったよ。」


イヒョンは黙って彼の次の言葉を待った。


「エフェリア戦争が終わった直後だった。大陸が統一されたが、灰燼の中に絶望だけが満ちた時代だった。あの頃フルベラは小さな漁村に過ぎなかった。粗末な小屋がぽつぽつと建つだけで、今と比べれば荒野同然だったこの湖畔で、師匠はその潜在力を見抜いたんだ。」


ルカエルの視線は遠い思い出を辿るように虚空を彷徨った。まるで風に揺れる霧の向こうを眺めるように。


「船数艘で魚を獲って売る村だったよ。でも師匠は言ったんだ。『この湖と川が我々の道になる』と。海運を活用した貿易の中心地を一目で見抜いたんだ。」


「そして実際にそうなったんですね。」


「そうだ。未来を見通す眼力が抜群だったよ。」


「最初は村人たちが鼻で笑ったよ。でもオルディン様は彼らを説得し、埠頭を築き、人手を集めて貿易路を開拓した。漁師出身であれ、戦争で居場所を失った流民であれ、数多くの人々があの人の下で新しい人生を見つけたんだ。」


彼の声は静かだったが、次第に熱気が加わっていった。炎がゆっくり燃え上がる焚き火のように。


「そして……その下で私とエスベロも一緒に働くことになったよ。」


イヒョンの目に好奇心の光が差した。


「エスベロも……?」


ルカエルは頷いた。


「私たちは二人とも戦争孤児だ。故郷がどこだったかもぼんやりしているが、私は十九、エスベロは十七だった。戦乱の中でどうやってこの小さな村に流れ着いたのか、神殿が運営する孤児院で暮らしていたよ。あの頃私たちは孤児院を手伝ったり、魚を獲る雑用をしたりしていた。」


「私たちは一緒にオルディン商団に入り、懸命に働いて、結局あの人の右腕と左腕と呼ばれるようになったよ。」


彼は苦々しい微笑みを浮かべた。


その微笑みの中には、前に見せた敵意や激怒の気配はなかった。むしろ昔をぼんやりと懐かしむ郷愁が滲み出ていた。


「私は市場を駆け回って品物を吟味し、値下げ交渉をし、時には船に乗って遠い都市へ行ったよ。」


「エスベロはどうだったんですか?」


イヒョンが柔らかく尋ねた。


「あいつは行政に才能があったよ。書類を整理し、長期計画を立て、税金を計算し、契約書を夜通し書いてたものさ。私たちは本当にオルディン様の手足だったよ。」


ルカエルは背をソファに預け、髭をいじくり回した。


「そうして二人は数年を一緒に過ごしたよ。あの頃は本当に血肉のように近しかった。」


カエラが夫の肩を軽く叩いた。


「そして商団がどんどん繁盛したんでしょうね。」


イヒョンが頷きながら共感の言葉を添えた。


「繁盛したよ。船が増え、埠頭と船着き場が拡張され、村には絶え間なく建設の音が響いた。あの人のおかげでフルベラは戦争の傷跡を一番先に払い落とし、どの場所より速く繁栄の道を歩んだよ。」


彼の声は、次第に冷めていく茶碗のようにゆっくりと低くなっていった。


「そうして商団は日増しに繁栄していったよ。そんなある日、商団の運営会議が開かれた。私たちはこれから貿易路をどう拡張するか、資金調達をどうするか、そして取り扱う商品群について深く議論していたよ。」


「特にその商品の部分で、私とエスベロの見解が殊に食い違ったよ。師匠もはっきりした決定を下さなかった折に、私はフルベラが既に繁栄の道を歩み、周囲の都市も豊かになったのだから、今度は宝石や高級織物、絹、香料、美術品のような贅沢品に力を注いで流通させようと主張した。あいつは正反対に、穀物、塩、日常必需品を中心に海外交易を広げようと対抗したよ。今振り返れば愚かな論争だったが、あの時はまさに運命を分ける重大事のように思えたよ。」


「やはり資本の流れと物流が核心だったんですね。」


「よく知ってるな。」


「私も昔、小さな店を経営したことがありました。」


イヒョンの言葉にルカエルは淡い微笑みを浮かべたが、すぐに厳粛な様子に戻った。


「あの場でエスベロがどこから手に入れたのかわからない、珍しいという茶を出したよ。」


ルカエルの視線に穏やかな不安の影が差した。


「その次は?」


「師匠がその茶を一口飲まれ、素晴らしい味だと褒められた。でもすぐに顔色が青ざめ……血を吐き始められた。激しい咳と共に血の塊が絶え間なく続き、どうしても収まらなかったよ。」


彼の声が哀悼の念で細く割れた。


「下僕が慌てて神官を呼んだが、もう手遅れだったよ。」


部屋の空気が鉛の塊のように重くなった。カエラは少し顔を背け、涙を拭った。


「私はその瞬間、頭の中が真っ白になったが、一つだけは明らかだった。あいつが捧げた茶を飲まれた直後にそんなことが起きたという事実だよ。」


「私はすぐにあいつの襟首を掴んで詰問したが、奴は最後までしらばっくれていたよ。師匠が既に茶をすべて飲み干された後だったので、痕跡すら残っていなかった。」


イヒョンは唇を噛み締め、深いため息を吐き出した。


「だからあの日の後……すべてが粉々になったよ。師匠の船舶、契約書類、貨物、人々まで全部二つに分かれた。あの恩知らずの反逆者は最後まで恥知らずに振る舞ったよ。そんな蛮行を犯しておきながら、副団長という地位を盾に商団の正統後継者だと強弁したんだから。」


彼はイヒョンを憂鬱で陰鬱な目で見つめながら言った。


「あいつじゃなければ、あの場で一体誰が師匠にそんな害を加えたというんですか。」


彼の声は沈んでいたが、抑えられた悔しさが熟成された毒草のように密かに滲み出ていた。


静かで張りつめた部屋の空気には、ソープの香りよりさらに濃く、歳月が層を成した血の匂いがゆっくりと立ち上るようだった。


イヒョンはこの瞬間を逃さなかった。


「その真実を……レオブラム侯爵様にお伝えすれば、必ず公正な裁きを下してくださるでしょう。」


彼は深く頭を下げた。


「その邪悪な者の蛮行が事実なら、少なくともコランではあの商団とこれ以上取引しないよう、私が必ず進言いたします。」


ルカエルの視線が少し和らぐ気配だった。


彼は長く深いため息を吐き、杯を再び握った。


「……お願いします。そうすれば師匠の魂が少しでも安らぎを得られるでしょうから。」


彼の背後でカエラは黙って夫の背を撫でた。


「まだ師匠がお使いだった古い執務室がそのまま残っています。この建物は何度も増築されてこうして巨大になりましたが、あの方の部屋だけは手をつけていないんです。興味がおありなら、一度見てみますか?」


ルカエルはしばらく沈黙した後、慎重に口を開いた。その声には今もなお、古い香水のようにぼんやりとした懐かしさが滲み出ていた。


イヒョンにとっては絶好の機会だった。既にベルティモから、ルカエルがオルディンの執務室を原形のまま保存し、あの方の遺品をそのまま保管しているという話を聞いていたので、直接確認したかったところだった。


「そんな栄誉を賜るなら、これ以上ないことです。」


「こちらへ。」


ルカエルは自ら先頭に立ち、執務室へ通じる廊下をイヒョンを導いた。


執務室へ続く廊下は、フルベラの繁栄した商人屋敷らしく、ふかふかの絨毯で柔らかく覆われていた。壁面にはオルディン時代の商団の紋章と古風な貿易路の地図が華やかな額縁の中に収まり、過去の栄華を囁くようだった。


「この部屋です。」


ルカエルは丁寧な手つきでドアノブを回した。


音もなく開いた扉の向こうで、師匠オルディンの執務室は歳月の流れに逆らい、清らかな姿でそのまま留まっていた。


豪華な木材で彫られた巨大な机の上には、整然とした紙の束と羽ペン、インク壺が穏やかな光を放って置かれていた。


書架には歳月の痕跡が染みた黄ばんだ貿易帳簿と都市地図が秩序正しく並び、窓辺には素朴な植木鉢が静かに座っていた。


「師匠が世を去られた後、埃を払う以外は手を加えていないんです。」


ルカエルは部屋に入るなり、小さな傷でもつくのではないかと慎重に足を運ぶ様子だった。まるで神聖な神殿を扱うように。


イヒョンは机の上の物を一つずつ細かく眺め回した。


文書の山の上には、オルディンが愛用していたらしい重厚な羽ペンが置かれ、ペン先には古いインクの跡が薄く刻まれていた。


「もしかして……この遺品も掃除なさったことがおありですか?」


イヒョンは極めて恭しい口調で尋ねた。


ルカエルは即座に首を横に振った。


「いいえ。机や棚、床は時々拭きますが、師匠が直接お触りになった物は決して触れません。この外套も……」


彼は執務室の隅にある小さな陳列棚に近づいた。


陳列棚の中には、少し色褪せた紫色の外套がまっすぐに掛けられていた。


その隣には、航海中に使ったと思われる古い革の手袋と、歳月の重みを背負ったハンカチ一枚が一緒に展示されていた。


カエラは柔らかな微笑みを浮かべて付け加えた。


「洗濯はダメだと頑なに言い張るけど、夫はこの服の埃を払い、湿気が染み込まないようにいつも気を遣っているのよ。まるで古い友人を世話するように。」


ルカエルは照れくさそうに軽く咳払いをした。


「師匠を永遠に胸に刻むために、私ができるすべてをやると誓ったよ。それが私のやり方さ。」


イヒョンは頷きながら陳列棚をじっと見つめた。そして襟元と袖口に残る奇妙な染みを注意深く観察した。薄れてはいるが、ハンカチにも黒赤い気配が染み込んだ跡がかすかに見えた。


彼の視線がゆっくりと横に移った。


部屋の隅、小さな卓の上には、一つの器がガラスの蓋の下に大切に保管されていた。


オルディンが最後に口にしたというその茶碗だった。


『この染み……?』


イヒョンはその器の縁に付着した黒赤い茶色の奇妙な跡を捉えた。


「師匠のこの器も掃除なさらなかったんですか?」


ルカエルはすぐに首を横に振った。


「誰も触れていないよ。師匠を見送ったあの日のままさ。」


イヒョンは顔を上げ、壁に掛かった肖像画を見上げた。


キャンバスの中のオルディンは広い肩に薄い微笑みを湛えていたが、目立つ頰骨のためひどく痩せた印象で、肌は病んだ霧のように青白く描かれていた。首筋には小さな傷のような点が穏やかに刻まれていた。


『喀血……そしてこの衰弱した様子……』


イヒョンは頭の中にゆっくりと浮かぶ知識を素早く整理した。


『血を吐き、息が荒くなり……声が割れる症状……長引く病気の可能性が高いな。』


彼は内心で素早く推論を続けた。


『持続的な咳、血の塊、身体の衰えはたいてい肺結核の兆候だ。』


イヒョンはしばらく目を閉じ、低くため息を吐いた。


ルカエルはその変化に気づかぬまま、オルディンの肖像画を眺め、まるで生きて息づく人を前にするように呟いた。


「永遠に……忘れません。師匠。あなたの意志を継いでいきます。」


イヒョンはその光景を眺めながら内心で呟いた。


『エスベロが毒殺したというのは説得力が薄いな。おそらく……誰も知らなかった病気が……?』


部屋はきれいに整頓されていたが、オルディンの死を巡るミステリーはまだ影のように隅の闇に潜んでいるはずだった。まるで古い書斎の埃まみれの本棚のように。


『もし結核が原因なら、多くのパズルのピースがはまるはずだ。でももっと確かな手がかりを探さなければ。』




読んでくれてありがとうございます。


読者の皆さまの温かい称賛や鋭いご批評は、今後さらに面白い小説を書くための大きな力となります。


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