70. 交渉
「ここだ」
ドアを押し開けた瞬間、イヒョンの背筋にぞっとするような寒気がじわじわと這い上がってきた。まるで古代の墓を開けたような、湿っぽくて重い空気が肌を圧迫する感覚だった。
家の中へ足を踏み入れると、ベルティモとその部下たちと思しき屈強な男たちが彼を待っていた。
光が一筋も漏れ出ないよう窓は板でしっかりと塞がれ、薪の火の代わりにぼんやりとしたろうそく一本が辛うじて照らすこのぼろぼろの部屋は、湿った空気と人々の体臭が絡みつき、息をするのも辛い雰囲気を発していた。
「親分、あいつは誰だよ?」
鋭いトーンの声が部屋に響いた。その声の主は腕にびっしりと刺青を彫った男で、彼の仲間たちも一緒にイヒョンを睨みつけるように見据えていた。
「聞いただろ。エダンが連れてきた奴だってよ」
別の部下が嘲るように鼻で笑った。
「ふん、あのエダンの野郎か? 尻尾巻いて逃げたじゃねえか」
雰囲気は以前、エダンと一緒に彼らの隠れ家を探した時とは全く違っていた。あの時は少なくとも歓迎されている気配だったのに、今は敵意と疑いが空気を満たしていた。
イヒョンは内心で『余計なところに来ちまったかな』という後悔がよぎったが、このまま引き下がれないという現実を直視し、深く息を整えた。
『よし。虎穴に入らずんば虎児を得ず……どうにか気を引き締めなきゃ』
頭の中で、万一の事態が起きたらどう逃げるかを素早くシミュレーションしてみたが、この喧嘩に慣れた奴らの中で無事に脱出するのは夢物語でしかなかった。
ベルティモが低く重い声で口を開いた。
「静かにしろ!」
興奮が高まっていた男たちが一瞬で口を閉ざした。彼の一言で部屋が静まり返るのを見ると、リーダーとしての威厳が感じられた。
ベルティモはイヒョンの方へ体を向け、口元に奇妙な笑みを浮かべた。
「イヒョンよ。うちの連中は気性が荒いんだよ。勘弁してくれよな」
彼は口にくわえていた覚醒ハーブを「ぺっ」と吐き捨てながら呟いた。
「それとお前ら、必要以上に威嚇すんじゃねえよ。怪しい真似したら、その時こいつの首を飛ばしても遅くねえからな」
雰囲気は依然として刃物のように鋭かったが、少なくとも対話の扉は開かれていた。イヒョンはその隙を逃すまいと心に決めた。
ろうそくのぼんやりした炎の向こうでベルティモの視線と向き合い、イヒョンが言った。
「わかりました。でも一つだけ約束してくれませんか」
「なんだよ、それ」
「俺の話を最後まで聞いて、証明する機会を与えてください。その後どうするかはお任せします」
一瞬の沈黙が流れた。灯りがベルティモの傷だらけの顔に長く不気味な影を落としていた。彼は鼻で一度笑うと、腰に差していた刀を解いてテーブルにドンと置いた。
「いいぜ。なかなか自信ありげじゃねえか。まずは聞いてやるよ」
ろうそく一本がちらつく狭い空間、でかい男たちがびっしりと詰まった部屋は、鋭い視線と張り詰めた緊張で満ちていた。まるで嵐の前の静けさのように、いつ爆発するかわからない圧迫感が部屋を押し潰していた。
古びたろうそくの芯がゆっくりと燃えていく。
「さあ、始めろ」
テーブルの向こうからベルティモの声は低かったが、その中に好奇心に満ちた期待が滲んでいた。
イヒョンは頷いた。自分にももう後退する道がないことをよくわかっていた。
“もう知ってるかもしれないけど、俺はかなり古い話から始めなきゃいけないんだ”
ベルティモはポケットから短く切った覚醒ハーブの葉をまた取り出して、口に放り込み、むしゃむしゃと噛み始めた。
「わかったよ、わかったから。さっさと本題に入れよ」
「そのエダンの野郎がなんで逃げたのかから話せよ。あいつ、俺たちを裏切ったのか?」
ベルティモの部下の一人が我慢できずに口を挟んだが、ベルティモが手を挙げて制した。
イヒョンは深く息を吐き、気持ちを落ち着かせた。
そして、レンから聞いた、遠い昔のプルベラの話をベルティモに語り始めた。
小さなざわめきが部屋に広がった。おそらくプルベラの古い因縁を知る者は少ないのだろう。15年以上も前の話だから、この若い連中にとっては遠い過去の伝説みたいなものだ。
ここに集まったでかい体躯の奴ら、険悪な面構えの男たちもせいぜい20代前半だろう。
オルディンという名前。
その名前を口にした瞬間、ベルティモの傷跡だらけの目元がわずかにぴくりと動いた。まるで忘れられた傷が再び蠢くような、微かな痙攣だった。
「オルディン・・・その名前、久しぶりに聞くぜ」
「あの方は確かに尊敬に値する商団の頭領だったそうです。その下でルカエルとエスベロが一緒に働き、あなたも護衛隊長としてあの方に従っていたと聞きました」
ベルティモは重く椅子の背もたれに体を預けた。古い木がきしむ音を立て、部屋の静けさを切り裂くようだった。まるで歳月の重みがその音に染み込んだかのように。
「そうだよ。俺にとってオルディンはほとんど父親みたいなもんだった。あの方は・・・誰よりも不屈の精神を持った人だった。ルカエルとエスベロがしょっちゅうぶつかっても、中心をしっかり押さえてくれてたからな」
一瞬、昔の思い出に浸ったように彼の口元に浮かんだ微笑は、すぐに苦い味のように歪んだ。
「問題は、あの方が世を去ったあの日だったよ」
「一体何があったんですか?」
「普段よりひどく疲れた様子だった。誰が見てもおかしい気配がはっきりしてたよ。それなのにあの会議・・・あの忌々しい会議の席で、二人が大喧嘩を始めて、突然倒れられたんだ」
ベルティモは拳でテーブルをドンと叩いた。その衝撃が部屋の空気を震わせるようだった。
「みんながお互いを師匠殺しの犯人だと責め立てたけど・・・俺の目には・・・まあ、何か腑に落ちないところがあったよ」
彼はしばらく言葉を続けられず、テーブルに流れ落ちるろうそくの蝋をぼんやりと見つめた。その視線の中に、抑え込まれた後悔がじわじわと浮かび上がるようだった。
「とにかく、あの状況は誰だって互いを疑うのにぴったりだった。俺が証言したって無駄だったよ。護衛隊長として会議室の外にいたから、中の様子をちゃんと見られなかったんだ」
イヒョンは口を閉ざし、ベルティモの眼差しをじっと観察した。彼の声は低く重く、その中に古い嘆きが溶け込んだようだった。
「だから、オルディンの死からこの誤解と対立を解かなきゃならないと思います」
ベルティモが笑った。
「うはははは。もう15年以上も経ってるぜ。二人の間の恨みは日増しに深くなって、今じゃ手がつけられない状態だよ。昔は喧嘩しても一日二日で収まってたのに、今は命のやり取りが日常茶飯事さ。長いと一ヶ月以上続くなんてざらだよ。時間が薬なんてのはでたらめだ。傷は初期に埋めないとどんどん深くなるだけだからな」
その嘲笑に混じった絶望的な気配を見たイヒョンが再び口を開いた。
「だから・・・今の状況はどうなんですか? その後、二つの商団は不倶戴天の敵になって街を争いの渦に巻き込み、ニルバスはその隙間で利益だけを掻っ攫ってるんですよね」
ベルティモの口角が斜めに上がった。
「ニルバス、あの毒蛇みたいな野郎。元々賄賂で腹を肥やす奴だったよ。二つの商団が喧嘩で身動き取れなくなってるから、自分が間に入ってあらゆる汚いことをやりまくってるクソ野郎さ」
「結局、今もあの時と大して変わらないんですね」
イヒョンは腰を少し前にかがめ、声を低くした。まるで秘密を囁くようなトーンで。
「この状況・・・今こそ決着をつけなければなりません」
「決着をつけるって?」
ベルティモの目が細くなり、彼の鋭い視線がイヒョンを貫くようだった。
「お前一人で? どうやってやるんだよ?」
「一人じゃありません」
イヒョンの声が深く沈んだ。まるで決意の重みが乗ったように。
「二つの商団の頭領に会って、この問題を正します。誰が本当の敵か、誰が誰を欺いているのかを暴き、説得するつもりです」
「はは!」
ベルティモが虚ろに笑い声を上げた。その音が部屋に響き渡った。
「頭がおかしくなったのか? あの二人はお互いの影を見ただけで刀を抜いて飛びかかるような奴らだぞ!」
「だから、あなたの情報と勢力が必要です」
イヒョンは顔を上げ、ベルティモの目をまっすぐに見つめた。その視線の中に、妄想じみた計画ではなく、燃えるような本気が込められていた。
「ベルティモ、あなたはこの街の歴史はもちろん、隅々まで熟知しているじゃないですか? 昔から積み重ねてきた人脈と情報が、私たちにとって光になるはずです」
部屋の部下たちが互いに囁き合い、緊張を高めた。彼らの視線がイヒョンとベルティモの間を行き来した。
ベルティモはしばらく顎鬚を撫でた。その仕草に深い悩みが滲み出ていた。
「はははは。お前、完全に狂ってるな」
彼は虚空に笑いを吐き出すように流し、再びイヒョンを直視した。
「でも・・・面白いよ。この腐りきった街を少しひっくり返してみるのもいいかもな。あの蛇野郎のニルバスが地獄に落ちる姿を眺めるのも悪くない」
彼の皺だらけの口元が奇妙に歪んだ。期待と懐疑が混じった笑みだった。
「よし。イヒョン。俺、ベルティモが一度賭けてみよう。でも一つだけ覚えとけ」
「何ですか?」
ベルティモは笑いの気配をすっかり消した目で、低く呟いた。その声が刃物のように冷たかった。
「お前がもし裏切りの匂いをさせたなら、俺はお前の胸に刀を突き刺して、死体を広場に吊るしてやるよ。その姿を見て、この街の奴らが教訓にしろってな」
イヒョンは視線を逸らさず、頷いた。その動作に決意の重みが乗っていた。
「そんなことは絶対にありません。俺の命を賭けて誓います」
古びた家の中、テーブルの上のろうそくは扉の隙間から入り込んだ風に揺らめいた。その炎に合わせて、二人の男の影が壁に揺らめき、踊った。まるで不安な未来を予言するように。
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プルベラの西側、緩やかな丘が広がる区域には、裕福な者たちが集まって住む住宅地と賑やかな商店が位置していた。
珍しいことではあったが、時折川の水が溢れる災難が起きるため、自然と地勢が少し高い方に富裕層の邸宅が集まるようになったのだ。
正午が近づく直前、夜明けの冷たい空気が徐々に退く時間。本来なら貴族や商人の馬車が絶え間なく行き来するはずの頃だったが、二つの商団の争いが勃発してからは通りが閑散とし、静寂だけが満ちていた。
イヒョンはかなり重い箱を両手に握りしめ、石段をゆっくり上りながら足を運んだ。
彼の足元には滑らかに整えられた石畳の道が続き、その傍らには華麗な浮き彫りが際立つ石壁が長く伸び、まるで古代の遺跡のように荘厳な気配を放っていた。
ルカエル商団の本部は、プルベラで「サンゴ館」と呼ばれるほど、美しさで指折りの建築物の一つだった。まるでヴィクトリア時代の邸宅を思わせる、赤い瓦屋根と歳月の跡がほのかに染み込んだ灰色のレンガが調和した二階建ての建物。屋根の頂上の塔の先端には、商団の象徴を刻んだ旗が風に翻り、空に向かって堂々と靡いていた。
正門前の庭園は、整えられた木々が左右対称に立ち、その間に優雅な彫像が繁栄と権威を象徴するかのように、雄大なポーズで構えていた。まるでギリシャ神話の神像のように、それぞれ異なる物語を囁くような姿だった。
庭園の中央にある小さな噴水は、柔らかな水しぶきを噴き出し、その穏やかなささやきが張り詰めた緊張を少し溶かすようだった。
しかし、この平和な庭園とは対照的に、本館の入り口には鋭い眼光の衛兵たちが槍と盾を握り、互いに向き合ってびっしりと並んでいた。
彼らはルカエル商団の紋様が陰刻された鎧を纏い、空気自体が鋭く感じられた。
「止まれ!」
イヒョンが噴水の入り口の方へ近づくと、槍の先が彼の胸元を狙ってきた。
イヒョンは呼吸を整え、急がず兵士たちに向かって歩み寄った。
「ルカエル団長にお目にかかりに来ました」
鉄板が補強された革鎧姿の兵士が彼を上から下までじろじろと見回した。その視線に警戒心が満ちていた。
「今、団長はお前みたいな外部者を会う余裕がない。お帰り願おうか」
イヒョンは箱を慎重に地面に置き、首に掛けた旅人の識別札を取り出して兵士に差し出した。
「これはコランのレオブラム侯爵様が後援しているという証です。交易品について相談しに来たので、どうかお伝えください」
「レオブラム侯爵? コランか・・・」
兵士は一瞬たじろいだ後、後ろに立っていた同僚に目配せした。
「おい、団長に客が来たって報告してこい」
彼は識別札を同僚に渡し、イヒョンに再び尋ねた。
「で、具体的にどんな用件だ?」
イヒョンは箱を指さして答えた。
「良い品があるので相談に来ました」
「開けてみろ」
イヒョンは木箱を慎重に開けて見せた。
中には上質な紙で包装された石鹸が整然と入っていた。
「これ、何だ?」
「団長に直接説明します。危険なものじゃありません。コランの貴族たちが愛用する品ですよ」
兵士は返事の代わりに鼻で少し笑い、依然として疑いのこもった目でイヒョンと石鹸を交互に睨んだ。その様子がまるで市場の商人を取り調べる役人のように厳しかった。
しばらくして、識別札を持って中に入っていた兵士が戻ってきて、イヒョンにそれを返した。
「団長がお許しになった。入るようだ」
兵士の表情が少し和らぐと、彼はイヒョンを本部の内側へ案内した。
「ついてこい」
彼はイヒョンに箱を再び持つよう手振りし、無駄のない歩みで門を開けた。
本館の内部は外の殺気立った雰囲気とは違い、静かで安定した気配が流れていた。中央ホールには二階分の高さの天井に吊られた華やかなシャンデリアが光を放ち、空間を柔らかく照らしていた。
左右に長く続く廊下からは、事務所から漏れる人々の会話の声と紙をめくるささやきが聞こえてきた。まるで忙しい商団の日常が静かに流れているようだった。
兵士の案内に従い、イヒョンは廊下の柔らかな絨毯を踏み、二階の執務室へ向かった。
壁面に掛けられた名画と陳列された美術品が、ルカエルの洗練された眼識を表していた。
『貴族たちを取引相手にするって聞いたけど、内部をかなり豪華に飾ってるな。まるで王宮の廊下を歩く気分だよ』
他の扉とは違い、精巧な彫刻が施された扉の前に到着した。
扉の取っ手と扉板にはルカエル商団の紋様が鮮やかに輝いていた。
咳払いで喉を整えた兵士が丁寧にノックをし、客が到着したことを告げた。
「団長、客がお見えになりました」
しばらくして、中から「入れ」という低い声が流れてきた。兵士は扉を優しく開けてくれた。
イヒョンは深く息を吸い込み、箱を抱えて中へ足を踏み入れた。
読んでくれてありがとうございます。
読者の皆さまの温かい称賛や鋭いご批評は、今後さらに面白い小説を書くための大きな力となります。




