57. オオカミ
その時だった。
突然、世界が静かになった。風のささやきも、草虫の低い鳴き声も、遠くで鳥がさえずる音さえも、すっと消えてしまった。
世界が息を潜めたような静けさが、イヒョンを優しく包み込んだ。その馴染みの空虚さに、イヒョンはゆっくりと顔を上げた。
感情のホールだった。
足元の泥水と小石、水に濡れた草の代わりに、黒い床が果てしなく広がっていた。
イヒョンは本能的に、自分が向かうべき扉を知っていた。
南青色の扉。
[青霧の聖堂]
重みを感じさせない石扉を押し開き、イヒョンは雨が涙のように静かに降り注ぐ、巨大な空間に足を踏み入れた。
霧を切り裂きながら前へ進む彼の前に、祭壇の上に据えられた巨大な鏡が立っていた。縁が霧のようにぼやけ、滲むその鏡の中には、過去の痛ましい記憶と囚われた感情たちがうごめいていた。
イヒョンはゆっくりと右手を挙げ、鏡に近づけた。
以前は何の反応もなかったが、今回は違った。鏡の中のもう一人の自分が近づき、手を重ねるように向かい合った。
指先が触れるその境界線で、穏やかな波紋のように青みがかった光が揺らぎ始めた。
その光はイヒョンの手の甲を這い、三股に分かれて腕をゆっくりと染み込んでいった。
悲しみの感情が再び心臓に流れ込み、全身を濡らすように、その波紋は胸に根を張り、模様を刻んだ。
模様は深く鮮やかな青い光を放っていた。彼の胸から青い霧が立ち上り、瞬く間に青霧の聖堂を満たし始めた。
精神が少しめまいを起こした。
静かな川辺。
膝をついて座るイヒョンの両手には、彼女の外套が握られていた。
水にびしょ濡れで冷たく重かったが、その外套からは、なぜか彼女の温かなぬくもりが染み出るような錯覚がした。
雨に濡れた土の匂いと混じり、ほのかに立ち上る彼女の香り。
イヒョンは胸の奥深く息を吸い込んだ。そして頭を垂れたまま、リセラの外套を胸にぎゅっと抱き寄せた。
「リセラ……」
囁くように呼んだ名前が風に舞い散って消えた。しばらくそうして座っていたイヒョンは、ゆっくりと外套を畳んで、慎重に鞄にしまった。
『そうだ。まだ彼女の死を確認したわけじゃない。どこかで耐えているはずだ!』
希望は最も狭い隙間からも芽吹く。イヒョンはその小さな光を決して逃さないと誓った。
イヒョンはゆっくりと体を起こし、胸に染み込んだその悲しみを必死に抑えながら、川辺に沿って再び足を踏み出した。波が優しく海岸を濡らす音が耳元を撫でて弱まり、穏やかな風が木の葉の間を擦るささやきが聞こえてきた。
その瞬間、低く脅威的な唸り声が混じり響いてきた。
イヒョンはその見知らぬ響きに即座に足を止め、全神経を耳に集中させた。
森の向こう側、あまり遠くない場所。
濃い闇が影を落とすその陰で、野生の獣の低い咆哮と犬が牙を剥いて吠えるような鋭い鳴き声が絡みついて広がっていた。
彼は慎重に体を低くし、背負っていたベロシーダを取り出して握り、矢が正しく装填されているかを確認した後、音のする森に向かって一歩一歩近づいていった。
音は川辺からそれほど遠くない森の端、木陰の下から響き渡っていた。
月光さえ染み込まないその闇の中、鬱蒼とした木の下に六匹、いや七匹の狼が体を縮こまらせて牙を剥き、唸っていた。
彼らの視線は木の上に向かって固定されていた。
闇の合間、枝の上にぼんやりとした人の輪郭が見えた。
微動だにせず枝の上に蹲るその姿。
『まさか……』
そのシルエットがとてもゆっくりと動くのが見えた。生きているのは間違いなかった。
イヒョンは静かに草むらに体を低くして、狼たちに向かってゆっくりと足を運んだ。
心を覆っていた悲しみの幕が徐々に晴れ、かすかな希望の炎が燃え始めていた。
『待ってろ。俺が助けに行く。』
狼の群れは本能的に気配を察知し、首を上げた。
イヒョンは深く息を吸い込み、ベロシーダの引き金をためらわずに引いた。
-ピュン!-
ベロシーダの鋭い響きが鳴り響き、ベロシーダから放たれた最初のボルトが風を切り裂いて飛び、木に向かって突進する狼の肩を貫いた。
奴が悲鳴を上げて倒れる間もなく、イヒョンの手が素早く動いた。
-ピュン! ピュン! ピュン! ピュン!-
立て続けにボルトが発射され、二匹の狼がよろめきながら倒れ、周囲に赤い血の筋を撒き散らした。
一瞬にして狼三匹が倒れると、残りの奴らの瞳に狂気がじわじわと湧き上がるようだった。
その中でも最も巨体な頭領が牙を剥き出し、イヒョンを睨みつけ、一歩前へ踏み出した。
頭領に続いて牙を剥いた群れが、イヒョンを取り囲むように円を描きながら近づいてきた。
地面を引っ掻く爪の音、闇を貫いて響く荒い息遣い、きらめく瞳たち。
一瞬の油断も許されなければ、引き裂かれて噛み砕かれるだろう。
イヒョンはベロシーダを背後に回し、腰のバルカを握り締めた。
「……来い。」
バルカを握る手に力がこもり、前腕の筋肉が弓のように張りつめた。
そして、まさにその瞬間。
頭領の狼が咆哮を上げ、イヒョンに向かって体を躍らせた。
-パン!-
地響きのような轟音とともに、バルカから鉄片が爆発するように噴射された。
わずか二歩先、空中に跳躍していた狼の頭が一瞬で吹き飛んだ。
骨と肉片、血が嵐のように四方八方に飛び散り、熱い血潮がイヒョンの頰を濡らした。
血の臭いが瞬く間に周囲を満たした。
肉片がだらりと揺れる狼の死体が、どすんと音を立てて地面に落ちると、残りの群れはその場で凍りついたように止まった。
今にも飛びかかってくるかと思われた奴らが、びくりと震えながら後ずさりした。
自分たちの頭領が一瞬で肉塊に変わった光景に、奴らの瞳には飢えではなく恐怖がよぎった。
奴らは警戒した視線を向け、一歩、また一歩と後退し、やがて背を向けて森の奥深くの闇に溶け込むように消えていった。
イヒョンは息を潜め、ベロシーダを再装填しながら、しばらくその場に踏ん張った。
周囲に狼の気配がもう感じられなくなったのを確認してからようやく、彼は木の下へゆっくりと近づいていった。
「大丈夫ですか? 狼たちは引いたみたいですよ。」
「わー……本当にすごいですね。どうやってあんなに……」
イヒョンの予想とは違い、木の上から響く声は澄んで軽やかで、まだ幼い少年の声だった。
木の枝の間から小さな影がぴょんと飛び降りてきた。
軽く膝を曲げて地面に着地したその姿は、十二歳か十三歳くらいに見える少年だった。
「ありがとう!」
期待が粉々に砕け散る瞬間、胸を熱く焦がしていた希望の火種がすっと消え失せたような虚脱感が押し寄せた。
「怪我はないかい?」
イヒョンは失望を押し殺し、少年に尋ねた。
少年は軽く首を振って、穏やかに微笑んだ。
「大丈夫ですよ。よくあることなんで。熊じゃなくて狼でよかったよ。熊は木登りが結構上手いんですよね。」
少年はこんな危機さえ日常茶飯事のように扱い、イヒョンに向かってにっと笑った。恐怖の欠片すら見せず、むしろ馴染みの冒険のように楽しげな様子がはっきりと見て取れた。
「ところで、こんな夜更けにここで何してるんだ?」
少年はむしろこんな時間にイヒョンが森をうろつく方が不思議だと言わんばかりに、彼の顔を覗き込んで尋ねた。
「おじさんこそ、こんな時間に森の中で何の用事なんですか?」
少年は木の根元をくまなく見回し、小さな袋を拾い上げた。狼たちを逃れるために慌てて木に登る際に落としたらしい。
「お父さんが薬草を少し取ってきてくれって。」
「こんな夜中に?」
少年は袋を開け、中身を取り出してイヒョンに差し出しながら、にっと笑った。
「野生の生姜ですよ。」
「野生の生姜だってのはわかるけど、俺が変だと思うのは、こんな真夜中に君みたいな子供が森をうろついて薬草を採りに出かけることだよ。」
「うちのお父さんは猟師なんです。今日の昼に狩りに行って、気を失って倒れてる人を見つけて連れてきたんですけど、その人にこれが急ぎで必要だって言ってて。」
少年は野生の生姜を袋にしまい、肩にかけながら言った。
「幸い薬草はすぐ見つかったんですけど、それからはおじさんが見た通りですよ。本当にありがとう、おじさん。おじさんがいなかったら、私よりその人がよっぽど大変なことになってましたよ。」
こんな夜更けに薬を切実に必要とする倒れた人がいるという言葉が、イヒョンの胸に再び火を灯した。絶対に確かめなければという衝動が湧き上がった。
「俺も一緒に連れて行ってもらえるかな?」
少年は大したことないというように微笑んだ。
「大丈夫ですよ。道はよく知ってるんで、家もそんなに遠くないからすぐ着きます。」
「狼がまた出てくるかもしれないし、一緒に行った方がいいんじゃないか。」
イヒョンは子供を一人で帰すのが心配でもあったが、正直その倒れた人の正体が気になって仕方ない気持ちの方が大きかった。
「じゃあ、一緒に行きましょう。」
少年は松明一つなくとも、元気よく森の道を案内した。
「おじさんはこんな夜に森で何してたんですか? ここは闇が落ちると本当に怖いんですよ。私だって普段はこんな時間に絶対出ないんです。」
「実は俺も人を捜してたんだ。昼に俺の仲間が川を渡る途中で水に落ちてさ。もしかしたらその倒れた人が俺の知ってる人かもしれないと思って……」
「ああ、それは本当に大変なことですね。今日の雨で水の流れがずっと激しくなってるはずなのに……」
少年は草むらをものともせず前へ進んだ。
「それにしても、こんな夜に一人でうろつくのは危ないですよ。私だって普通は家から出ないんです。さっきみたいに狼や熊がうろついてる場所ですから。」
二人は森にできた細い獣道を歩いた。
「ちなみに、お父さんが連れてきたその倒れた人は女の人だった?」
「よく見えなかったけど、髪が長かったから女性だと思います。」
「髪の色はどんな感じだった? 茶色?」
「うーん……茶色っぽかったけど、確かじゃないんです。お父さんが帰ってくる頃に雨が土砂降りみたいに降ってきて、周りが真っ暗で……ちゃんと見えなかったんですよ。」
イヒョンは一瞬、心臓がずしんと沈むような感覚に襲われた。
リセラかもしれないという考えが頭の中を埋め尽くした。
月明かりが枝の間からほのかに差し込み、風に葉ずれがささやくように揺れるたび、その影が地面に柔らかな波のように揺らめき、落ちてきた。
少年に連れられて着いたのは、森の端、トラクシル川から少し離れた斜面の丘の下に佇む小さな小屋だった。
古い樫の柱と丸太の壁で建てられた家は粗末だったが頑丈そうで、木の板で覆われた屋根の下から、扉と窓から微かな灯りが漏れ出ていた。その光が軽やかに揺らぐたび、中から映る影が窓ガラスに染み込み、優しく踊るようだった。
「ただいま。」
「遅かったな。無事でよかった。」
小屋の中には、少年の両親らしき夫婦がいた。
暖炉のそばに座っていた猟師は、息子の後ろについて入ってきたイヒョンをじっと見上げた。
「誰だ?」
「お父さん、帰る途中で狼の群れに遭っちゃったんだ。木に登ったらこの人が助けてくれたよ。」
イヒョンは猟師に軽く頭を下げて挨拶した。
「ありがとう。今日は予想外の客が多かったな。」
少年は持ってきた小さな袋から野生の生姜を取り出しながら言った。
「助けてくれなかったら、明け方まで帰れなかったよ。」
猟師は息子が取り出した野生の生姜を拾い上げ、土を払い落とすと、慣れた手つきで何かを準備し始めた。
イヒョンはその様子をしばらく見守った。
「息子さんから聞きましたが、今日人を助けたんですよね。」
「ああ、そうだ。せっかく捌いた鹿の肉は全部台無しだがな。」
「申し訳ないんですが、その人を一度見せてもらえますか? 俺の仲間が今日の雨の川に落ちて、夜通し探してるんです。」
猟師は捌いていた生姜を置き、無言で立ち上がると、ついて来いというように顎で合図した。
古い布で仕切られた奥の部屋に入ると、猟師の妻がベッドに横たわる人を慎重に世話していた。
微かなランプの灯りが揺らぐテーブルのそばの寝台の上、その姿がイヒョンの視界に入った。
リセラだった。
目を閉じて横たわる彼女の姿は、まるで深い眠りに落ちたように静かだった。
「……リセラ?」
イヒョンの低い呼びかけにも、彼女は一切の返事がなかった。
だらりと垂れた手足、紫色に染まった唇、血の気のない青ざめた顔は、命の気配を完全に失ったように見えた。
イヒョンは慌てて彼女のそばに駆け寄り、手を伸ばして顔に触れた。
冷たい額、かすかに感じる息遣い。
生きていた。でも、それだけだった。それ以外は何も。
「あ……どうして……リセラ……」
読んでくれてありがとうございます。
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