55. 模様
子はリセラのマントに顔を埋め、彼女の腕に抱かれて完全に平穏を取り戻した様子だった。
イヒョンは子を優しく抱き上げたリセラをじっと見つめ、慎重に口を開いた。
「大丈夫かな……?」
イヒョンの瞳にはまだ驚きの色が残っていた。
単に子が落ち着いたからだけではなかった。リセラが一言も発さず、ただ温かなぬくもりと共感だけで子の心を撫で、幼い魂の奥深くに染み込んだことが、彼には到底信じがたいことだった。
ついさっきまで自分の一言、一つの仕草にも鋭くびくついていた子が、彼女の手の温もりで細い霧のようにすっと溶けていくまでだったから。
リセラは馬車の外で子を見守っていたエレンに向かって優しく微笑み、呼んだ。
「私たちの姫様も入っておいで。」
エレンは目を輝かせて素早く馬車に飛び乗り、リセラのそばに潜り込み、子の手をぎゅっと握った。
「昔、エレンが感情を抑えきれなくて大変だった時に使った方法よ。エレンがそばにいてくれれば、もっと安心するわ。」
リセラはもう一方の手でエレンを一緒に抱き寄せ、囁くように言った。
「ごめんだけど、夕食はお願いね。」
「もちろん。あるものを全部持ってくるよ。」
リセラは馬車の扉の方に視線を向け、外を覗きながら尋ねた。
「まだ日が完全に沈んでないわよね?」
「うん。もうすぐ暮れそう。」
「罠籠を仕掛けたの、一度確認して。魚がかかっていたら内臓を取って、木の実や果物と混ぜて袋に入れておいて。」
イヒョンは少し眉をひそめて聞き返した。
「そ……それ、なんで?」
リセラは真剣な眼差しでゆっくりと説明した。
「そうすれば、狼や熊みたいな野生の獣たちがその匂いに誘われてあっちの方に行くわ。私たちは正反対の方向だから、それだけ安全になるのよ。袋は少なくとも50ヤード離れた木に吊るして、風の吹く方向をよく見てね。」
「お……なるほど。だから罠籠を……大きな魚は食べてもいいよね?」
イヒョンは新鮮な驚きを込めて感嘆し、頷いた。
「さすが牧場の女主人だな。」
リセラは鼻先が少し上がるほどくすっと笑った。
「知ってることをこんな時に使わなかったら、いつ使うの?」
イヒョンも彼女に向き合い、口元に微笑を浮かべてから、川辺へ大股で降りていった。
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夜明けが始まるばかりの、とても早い朝、イヒョンは体に染み込む寒気で目を覚ました。冬が来るまでにはまだ余裕があるが、夜になるとすでにかなり涼しい気配が漂っていた。
『朝の空気は冷たいな。次は野営の代わりに洞窟でも探してみるか。』
焚き火はすでに消え、ほとんど温もりを失って灰だけが残っていた。イヒョンがその灰をかき回すと、かすかな火種がうごめいて生き返ろうとするが、再び萎えてを繰り返した。
イヒョンのガサガサという音に目を覚ましたのか、困惑した表情のリセラが馬車から出てきた。
「イヒョンさん、子がいなくなったわ。」
「え? 誰が?」
「あの子よ。夜明けまで馬車の中でエレンと一緒にいたはずなのに、今起きてみたら消えてるの。」
イヒョンは慌てて馬車に近づき、中を覗き込んだ。エレンとセイラは毛布を顎まで引き上げてぐっすり眠っていた。しかし、子が横になるはずの場所には、くしゃくしゃになった毛布だけが寂しく残っているだけだった。
イヒョンは素早く焚き火から松明を作って持ち、周囲をくまなく探った。
馬車の近くで、彼は子のものと思われる裸足の足跡を発見した。イヒョンとリセラは、周囲の森に向かって続く足跡の痕跡を追って、慎重に足を進めていった。
草むらと岩の間では足跡がまばらに途切れていたが、森に向かってまっすぐに伸びているので、追うのはそれほど難しくなかった。
しばらくすると、木の下に小さな影が見えた。
あの子だった。
子は木の下にうずくまっていた。木に向かって体を曲げ、祈りを捧げるようにじっと動かなかった。
イヒョンは子に一歩一歩近づきながら、慎重にその様子を観察した。以前、自分の手に子が激しくびくついた記憶がよみがえり、さらに慎重を期した。
子は目を開けたまま、ぼんやりと地面を見つめていた。
眠っているようでも、起きているようでもない……瞑想に没頭しているようで、遠くのどこかに魂が奪われたような、あいまいな境界に留まっていた。
子の足首まで深く沈んだ湿った泥は、まだ湿って光っていた。
イヒョンが躊躇する様子を見せると、リセラが前に出た。リセラの手が慎重に近づくと、子はゆっくりと首を振り、リセラと視線を合わせた。
瞳に何かがよぎるような気配が過ぎったが、それが本物の感情か、本能的な反射か、リセラには判断できなかった。
「こんな……一晩中寒さに震えていたでしょうね。」
リセラは自分のマントで子の肩を優しく包み、焚き火の方へ連れてきた。子は何も言わず、引き寄せられるようにふらふらとついてきた。
焚き火のそばに子を座らせた後、イヒョンは鍋に水を張って火にかけた。
その時になって、子の顔に刻まれた、まるで爪で乱暴に引っ掻いたような傷がイヒョンの視界に入った。
イヒョンはリセラに目で合図を送り、囁くように言った。
「その傷、ちょっと見てくれますか?」
リセラはイヒョンの視線を一瞬受け止め、子の顔と体をじっくりと観察した。傷はこめかみから始まり、耳の下まで長く続いていた。
「日が昇ったらちゃんと洗わないとね。傷は深くないけど、まだ癒えてないみたい。」
しばらくしてセイラとエレンが目をこすりながら起きて、一行は一緒に朝食を取った。
イヒョンとセイラが荷物をまとめている間、リセラは子とエレンを川辺に連れて行き、体を洗わせた。
日が山の稜線の上に完全に昇り、イヒョンが出発の準備を終えて御者台に上がろうとした頃、リセラが近づいてきた。
「イヒョンさん。ちょっと話があるわ。」
「どうしたの?」
「ちょっとだけ……」
リセラはついてくるように手招きし、イヒョンは彼女について、昨日焚き火を起こしたその場所へ行った。
リセラは慎重に口を開いた。
「さっき子を洗わせている時、胸に変な刺青みたいなものがあったのよ。」
「刺青?」
「ええ。あんなに幼い子が持つようなものじゃないわ。」
「俺が見てもいいかな?」
「見た方がいいと思うわ。なんか変だもの。」
「子があまり反応しないことを祈るけど……」
イヒョンは馬車の後ろに回り、慎重に後ろの天幕をめくり、中に入った。心配とは裏腹に、子は穏やかに見えた。
イヒョンはまず、子のそばに膝をつき、目線を合わせた。
「おじさんがちょっとだけ見てもいい? 痛くしないよ。」
子は特に抵抗もせず、イヒョンの顔をじっと見つめた。
間違いなく、昨日とは違っていた。
あんなに敏感で鋭かった反応が消え、抵抗すらなかった。まだ元気がない様子で、言葉もなかったが、目つきだけは昨日よりずっと落ち着いていた。
イヒョンは子のシャツの前を開き、胸元を覗き込んだ。
『あ……この文様は……』
子の胸には、七つの文様が刻まれていた。
心臓を中心に、円を描くようにぐるりと並んだ、奇妙な形たち。
イヒョンの息が一瞬、止まるかと思った。彼は慌てて自分のシャツの下の文様を確認した。形がぴったり一致した。自分の胸に刻まれたものと同じだった。
ただ、子の文様には色がなかった。
イヒョンの体に刻まれた文様は、感情が蘇るたびに炎のように燃え上がり、色を帯びていた。
愛の文様は柔らかなピンクに染まり、怒りの文様は激しく燃える赤い気配を放つ。
一方、この子の文様はすべて色褪せた灰色で、まるで灰のように生気なく光を失っていた。
イヒョンは子の胸に刻まれた文様に、慎重に手を置いた。
自分にはわずか二つだけだったが、子のものは完全に埋め尽くされていた。
ただ、光を失ったまま。
「ありがとう。」
イヒョンは素直に従ってくれた子に挨拶を残し、馬車から出てリセラの元へ行った。
リセラはイヒョンの目を見つめ、答えを待つような顔で尋ねた。
「何か変なものあった?」
「うーん……どう説明したらいいか分からないよ。」
「私、初めて見る刺青よ。あの子が自分で胸にそんなのを彫ったとは思えないわ。」
「それは……私も分からない。でも。」
イヒョンは短く息を吐き、しばらく考え込んだ。そして、シャツの前を開き始めた。
リセラは目を丸くして驚いた。
「あ……何してるの……」
「言葉で説明するの難しいから。見る方が早いと思うよ。」
「何を見るのが早いって! 早く閉めて!」
以前、カレンの止血のために服を脱いだことがあったが、あの時は周りに人がいて緊迫した状況だったので気まずくなかった。でも、誰もいないこの場所で彼の上半身を直視するのは全く別の問題だった。
リセラの動揺を気にせず、イヒョンはシャツを大きく開いて胸を露わにした。
リセラは顔をぱっと背けたが、イヒョンが平然と立っているのを見て、こっそり横目で覗き見た。
イヒョンの胸にも、子の文様と同じ形が二つ刻まれていた。
「イヒョンさん。これ、何なの?」
「私も分からないよ。」
イヒョンは、カレンの治療を始めた時に取り戻した愛の感情、そしてセルカインとの戦いで蘇った怒りの感情が文様と繋がり、奇妙な空間へ導かれた経験をリセラに打ち明けた。
「だから詳しくは分からないよ。どんな感情を回復すると文様が生まれ、それからその感情をちゃんと感じられる、それだけ。」
「じゃあ……」
「子の文様とはいくつか違いがあるよ。俺のは数が足りなくて、子のは完成してるのに光がない。」
イヒョンはシャツを閉めながら言葉を続けた。
「文様通りに言うと、俺は五つの感情がまだ目覚めてなくて、この子は感情が蒸発してしまったか……それとも誰かが無理やりその感情を封じてしまったんだ。」
話しているうちに、セルカインの言葉がよみがえった。『感情を制御することで、永遠の平和をもたらすことができる。』
『あ! そういうことか。』
イヒョンはリセラが馬車に上がるのを手伝った後、急いで御者台に登った。
「とりあえず出発しよう。」
イヒョンはリエント川を右手に、馬車を南へ進めた。
「私はこの子が……」
「この子じゃないよ。」
エレンが突然口を挟んだ。
「イアンだよ。名前はイアンだって言ったじゃん。ねえ?」
イアンは返事の代わりに、わずかに首を振った。
「私はイアンが自閉症を患ってると思ってた。でも、そうじゃないみたい。」
「私と似てる部分はあるけど、私とは違って、誰かが外から感情を強制的に封じてしまったんじゃないかな。確かじゃないけど。」
セイラが御者台の横にぴったり寄り添って尋ねた。
「ルメンティア、自閉症って何?」
イヒョンは馬車を操りながら、自閉症の症状についてセイラに説明した。
自閉スペクトラム障害が示す行動パターンとイアンの姿が、なぜあんなに似て見えたのか、その理由まで。
「本当に似てるね。」
「症状がすごく多様に現れる病気だからね。」
黙って聞いていたリセラが口を開いた。
「この子は。」
「この子じゃなくてイ! アン!だってば!」
エレンはイアンがかなり気に入ったようだった。イアンの手をぎゅっと握り、返事のないイアンに、休みなく囁くように話しかけていた。
リセラはその光景に優しい微笑を浮かべて、再び尋ねた。
「イアンの感情が封じられたとしたら、誰がどうしてそんなことをしたのかしら?」
イヒョンはリセラの問いに口を閉ざした。
イアンの感情が本当に封じられたものかどうかなんて、確信すら持てなかったし、無理にその内情を探れば、かえって危険を招くかもしれないという思いがよぎった。
イヒョンの頭の中が再びごちゃごちゃと絡まり、複雑になったが、とりあえずリセラの故郷ラティベルナに向かうことだけに集中することにした。
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リエント川を右手に、二日間休むことなく駆け抜け、遠くにフルベラの輪郭が徐々に姿を現した。
リエント川がセレンディス、トラクシル川に分かれる地点に位置するその街なら、船に乗って川を渡れるという噂を耳にしていた。
旅人ギルドで聞いた話では、フルベラはエッセンbier伯爵の領地で、伯爵本人が常駐はしないものの、彼の別荘もあるそうだ。
家々がはっきり区別できる距離に近づくと、川辺の渡し場が目に入った。
リエント川から南へまっすぐ流れ落ちるトラクシル川は幅が広く、深さが暗く底知れぬほど深く、水の流れの勢いも荒々しく渦巻き、泳いで渡るなんて夢のまた夢の水路だった。
フルベラでは、トラクシル川を渡るロープフェリーを利用できた。
ロープフェリーは、川の両岸に張り巡らされた太いロープを馬が引いて動かす仕組みのようだった。
イヒョン一行は川を渡る料金として、2デント70フェラを支払った。
「着いたら真っ先に旅人ギルドを探しましょう。侯爵様がくれた支払い命令書も、そろそろ使ってみないと。」
「ルメンティア。宿も急いで確保した方がいいわ。三日目も馬車で転がってるから、体中がこわばって耐えられないの。」
「そうだな。すぐそっちへ行こう。」
読んでくれてありがとうございます。
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