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50. 爵位

騎爵は、職人として卓越した技術を認められ授与される名誉ある爵位だった。序列上は男爵より下だったが、その名声によっては伯爵家でさえ敬意を表するほどの大きな威信を誇った。


平民が戦争で大きな功績を上げて男爵位を得ることは極めて稀で、騎爵は一つの分野で最高の職人として認められなければ得られない、まさに輝かしい栄光だった。


武器職人のエリセンドの例がそれをよく示していた。彼女の祖父エルブラムは王家に武器を献上するほどの名声が高く、先代のレオブラム侯爵は彼の優れた技量を高く評価し、「ブラミエル」という姓とともに騎爵の位を授けた。


騎爵の位を受けると貴族としての義務が伴うが、それによって得られる恩恵はそれ以上に大きかった。


ドランとマリエンは驚きのあまりワイングラスを落としそうになった。二人の顔は信じられないという感情と喜びで染まっていた。


彼らを満足げな笑みで見つめていた侯爵は、再び口を開いた。


「そしてイヒョン卿、そなたにはもう一つ贈り物をしたい。」


侯爵の声は温かく、かつ断固としていた。


「私が直接保証する支払保証書を発行しよう。旅人ギルドの推薦状を求めたところを見ると、近いうちにここを離れるつもりなのだろう。その旅で必要な資金をこの保証書で受け取れるようにする。受け取ってくれるか?」


イヒョンは一瞬、訝しげな表情で侯爵を見つめた。


「私がそなたを後援するという意味だ。」


侯爵が穏やかに付け加えた。


その意図をようやく理解したイヒョンは、頭を下げて深い感謝の意を伝えた。


「深く感謝いたします。閣下の名誉に恥じぬよう最善を尽くします。」


彼の声には真心と決意が込められていた。


________________________________________


一週間後、レオブラム宮の謁見室で騎爵授与式が執り行われた。


イヒョンと一行は朝早く宮殿から送られた馬車に乗り、宮に入って待合室で準備をしていた。


ドランは授与式のリハーサルのため、ガルモンに付いて行った。爵位を受ける者を除く残りは謁見室で静かに待機すればよいため、イヒョンはまだ足を自由に使えないカレンと一緒に椅子にゆったりと座っていた。


しばらくして、リセラが侯爵の宮殿から提供された礼服を着て待合室に入ってきた。


「どうかしら?」


彼女はイヒョンの前に立ち、スカートを軽く持ち上げ、膝を曲げて優雅に挨拶をした。


イヒョンは思わず姿勢を正し、彼女を見つめた。


リセラは深いワインレッドのドレスを着ていた。肩から足元まで流れる古風なラインが、彼女の気品を一層引き立てていた。袖は手首まで伸び、袖口には銀糸で刺繍されたレース模様が繊細に輝いていた。首にはドレスと調和した小さな丸いサファイアのネックレスがきらめいていた。


「本当に美しいですね。」


イヒョンは感嘆を隠せず、目を丸くした。


「あなたは嘘をつけない人だから、信じてみるわ。」


リセラは嬉しそうな笑みを浮かべ、待合室の鏡の前で体をあちこち動かして見つめ、席に戻った。


その時、待合室のドアが勢いよく開き、エレンが慌ただしく駆け込んできた。


彼女は淡い菜の花色の礼服を着ていた。絹のように柔らかなドレスは、エレンの明るく活気あふれる雰囲気にぴったり合っていた。スカートの裾と胸元には白いレースが繊細に飾られ、腰には小さな鈴がついたリボンが結ばれていた。


エレンがドアを開けて飛び込むと、鈴の音が軽やかに待合室に響いた。


その後を追い、淡いミント色のドレスを着たセイラが慌てて走ってきた。


「エレン、そこで止まりなさい!」


セイラが急いで叫んだ。


「アハハ! うわ、めっちゃ可愛い! でもこれ着て走るの本当に大変!」


エレンは笑い声を上げながら、椅子の周りをぐるぐる回った。


「宮殿でそんなに走り回っちゃダメ! お姫様のようにおとなしくしてなきゃ!」


セイラが小言を言いながらエレンを捕まえようとしたが、エレンはキャッキャと笑いながら逃げ回った。


「ちょっと、そこで止まって!」


セイラが再び叫び、ようやくエレンを捕まえたが、エレンは捕まっても笑いを止めなかった。


しばらくして、待合室のドアが開き、リハーサルを終えたドランが疲れた表情で入ってきて、椅子にドサッと腰を下ろした。


彼はカレンを見て口を開いた。


「おお、ほとんど治ってるじゃん。いい感じだな。」


カレンは照れ臭そうに微笑みながら答えた。


「我に返ったら爵位をもらうなんて、こりゃ照れくさいな。」


イノシシに突かれて倒れたと思ったら騎爵の位を授かるなんて、その心境が理解できるものだった。


「これも全部イヒョンさんと君のおかげだよ。」


ドランがニヤリと笑って言った。


「で、地獄の王ってどんな顔してたんだ?」


カレンは顎をさすりながら首をかしげて答えた。


「それが…よく覚えてないんだが、君よりはイケメンだった気がするな。」


「ククク! じゃあもう心配いらないな。よかったよ。」


ドランは豪快に笑いながらカレンの肩をポンと叩いた。


その間、マリエンが礼服を着てカレンの前に立った。彼女は柔らかな象牙色のシルクドレスを着ていた。肩から自然に落ちる落ち着いたラインが高級感を添えていた。ドレスの縁には金糸で刺繍された縁取りの装飾が控えめに輝いていた。マリエンはスカートの一端を軽く持ち、カレンの前でくるりと回って尋ねた。


「どう? 似合ってる?」


カレンはまるで目から蜜が滴り落ちそうな表情で彼女を見つめた。


「おお、なんてこと…元々も美しかったけど、今は天使みたいだ。」


「ふふ、ありがとう。」


マリエンは恥ずかしそうに笑って答えた。


ドランはカレンの足を見て尋ねた。


「もう狩猟は難しいか?」


「さあ、もう少し様子を見ないとな。イヒョンさんが3ヶ月はかかるって言ってたから…」


カレンは添え木が当てられた足を触りながら言った。


「このくらいなら神殿で儀式を受けてもいいんじゃないか?」


ドランが冗談めかして尋ねた。


カレンは少し考えてから答えた。


「考えてみたけど、イヒョンさんが教えてくれた通りに治療を受けるつもりだ。長く寝込んでたせいか、最近は体に力が入らないんだ。ハハ。でも毎日少しずつ運動してるから、良くなってるのが感じられるよ。」


カレンはイヒョンを見つめ、心からの思いを込めて言った。


「イヒョンさん、本当にありがとう。」


「何を。ドランとマリエンがいなかったら、俺もできなかったよ。」


イヒョンは謙虚に答えた。


「命を救ってくれただけじゃなく、こんなことまで…うっ、うっ。」


カレンの声がわずかに震えた。


「おい、泣くなよ! これから爵位授与式なのに、泣いたらどうするんだ、このバカ!」


ドランがカレンの後頭部を軽く叩いてたしなめた。


「それでも…それでも…」


カレンは言葉を続けられず、目の端を拭った。


イヒョンは二人を見つめ、温かな笑みを浮かべた。


「骨がくっつくには少し時間がかかる。来月くらいなら運動を始めても大丈夫だろう。運動の方法はまた教えるから心配しないで。絶対に良くなるよ。」


「もちろんです! イヒョンさんの言うことなら信じますよ!」 カレンは明るく笑って答えた。


-トン、トン、トン-


待合室のドアを叩く音が響き、すぐにドアが開いた。行政官が丁寧な声で言った。


「爵位授与式がまもなく始まります。お手数ですが、謁見室へお移りください。授与式は練習した通り、ドラン卿とカレン卿が前に出てくだされば結構です。」


行政官の案内に従い、一行は謁見室に向かった。待合室は一瞬静寂に包まれたが、すぐにやってくる儀式への期待とときめきが彼らを包み込んだ。


謁見室はコランのすべての貴族たちで賑わっていた。


イヒョンと一行は案内された指定席に移動した。


しばらくして、ガルモンの厳かな声が謁見室を満たした。


「爵位授与の儀を始めます。」


ざわついていた雰囲気が一瞬で静まり返った。


「アルベール・レオブラム侯爵閣下がご入場されます。」


ガルモンが謁見室の扉を開けると、アルベール・レオブラム侯爵が威厳ある謁見服をまとい、ゆっくりと入場した。侯爵が礼儀に則って席に着くと、功績の朗読が始まった。


「ドランとカレンは、もともと小さな工房で働く平民でしたが、彼らの手から生み出された技術は、命を救い、都市を清める偉大な功績として記録されるでしょう。彼らはソ・イヒョンの知識を基に、この地に存在しなかった『石鹸』という清浄の技術を創出し、これは侯爵家の後継者ライネル卿の病を癒す決定的な役割を果たし、都市全体に広がっていた病の脅威を目に見えないところで抑えました。」


「本当に長いね。」


リセラがイヒョンに小さな声で囁いた。


「儀式と威信が大事だからね。」


イヒョンは微笑みながら答えた。


-コホン-


隣にいた貴族が静かにしろとばかりに咳払いをした。イヒョンは少し気まずい表情で咳払いを真似し、視線を前に戻した。


「よって、アルベール・レオブラム侯爵閣下の命により、ドランとカレンに騎爵の爵位を授与し、この瞬間を起点としてドランにはサルベン、カレンにはリネオリンの姓を下賜する。これにより、そなたたちはコラン侯爵領の技術貴族となり、その功績を認められ、コランの新たな家門の主として冊封される。」


長い功績の朗読が終了した。


「ドラン・サルベン、カレン・リネオリン、前に出なさい。」


ドランとマリエンは予行演習した通り、侯爵の前にゆっくりと歩み出て片膝をつき、頭を下げた。カレンはイヒョンが設計した松葉杖をつき、椅子に座ったまま右手を胸に当てて頭を下げた。


侯爵は儀式の椅子から立ち上がり、二人前に立った。


「アルベール・レオブラム、コラン侯爵領の主として、そなたたちの功績を認め、この瞬間よりそなたをドラン・サルベン騎爵として冊封する。そなたはコランとレオブラム侯爵家に忠誠を尽くし、コランのすべての市民のために奉仕することを誓うか?」


ドランはガルモンに教わった通り、丁寧に答えた。


「ドラン・サルベンは侯爵閣下が下賜したこの名を汚さず、私の技術をもってこの地の支配者である侯爵閣下に忠誠を誓い、コランのすべての市民のために奉仕することを厳粛に誓います。」


侯爵がカレンの前に進むと、ガルモンが参列した貴族たちに向かって言った。


「カレン・リネオリン騎爵は現在、足の負傷により立ち上がることが難しいため、椅子に座った状態で授爵と誓約を進めます。」


誓約が終わると、騎爵の証書、印章、旗、そして騎爵を象徴する銀のハンマーと小さな封土の文書が授与された。厳かな雰囲気の中で授与式が終了し、続いて宴会が始まった。


宴会場でオレルバル男爵夫人がドランに近づき、話しかけた。


「ねえ…石鹸というものを作られたんですよね? イヒョン卿と一緒に。」


「え…はい、そうです。」


ドランは少し戸惑いながら答えた。


「石鹸は…獣の油を溶かして、灰を入れて…つまり…」


「獣の油だなんて、想像しにくい話ですね。」


男爵夫人は好奇心に満ちた笑みを浮かべた。


「油を入れるのに汚れが落ちるなんて、なんとも不思議ですね。ホホホ。」


彼女はすぐにマリエンに視線を向けた。


「それに、本当に竈の灰を入れるんですって? そんな汚いものを入れても、こんな香りがするなんて、どうしてかしら?」


マリエンは少し慌てて答えた。


「それは…煮詰めて…つまり混ぜて…あ、香りは後で加えるんです。花びらやハーブとか…」


横で聞いていたモルカイン子爵夫人が、さりげなく嘲るような口調で割り込んだ。


「まあ、話し方がなんとも素朴ですね。ただ、『入れる』ではなく『加える』くらいで話せば、聞く側ももっと楽かもしれませんよ。フフ。」


ドラン、マリエン、カレンは同時に身体を少しこわばらせた。彼らは自分たちの話し方が宴会の気品ある雰囲気に合っていないと感じた。周囲の貴族たちの会話は静かで端正で、言葉遣いは滑らかで品格に満ちていた。


「私が…宮中の礼儀をちゃんと学んでなくて…」


ドランは気まずく笑いながら頭をかいた。


マリエンはカレンに小さく囁いた。


「私たちの話し方が…変だったみたい…」


その瞬間、遠くからこの様子を見ていた侯爵夫人が穏やかな笑みを浮かべて近づいてきた。


「ドラン卿、マリエン夫人、初めての宴会ですから、慣れないのも無理はありません。この場の話し方や礼法は、慣れるのに時間がかかるものです。あまり気にしないでくださいね。」

「恐縮です、侯爵夫人。もし失礼がなかったか…」


ドランは頭を下げて言った。


「全くそんなことはありませんよ。」


侯爵夫人は温かく笑いながら言葉を続けた。


「むしろ、皆さんの率直な話し方がとても素敵でしたよ。でも、必要なら近いうちに侯爵宮にご招待しますわ。お茶を飲みながら、宴会場で必要な話し方や礼法を一緒に学んでみるのもいいでしょう?」


マリエンの顔が赤く染まった。彼女は両手を合わせて侯爵夫人に丁寧に頭を下げた。


「まあ…本当に大丈夫ですが…ありがとうございます。本当にありがとうございます。」


エレンはお菓子を食べながら口に付いた屑を拭い、侯爵夫人に近づいて言った。


「私も学びたい! お母さんに恥ずかしくないように話せるようになりたいよ!」


「いつでも歓迎よ。」


侯爵夫人はエレンの頭を優しく撫でながら言った。


「その学ぶ姿勢こそが本当の貴族の資質なのよ。」


宴会が終わり、カレンとマリエンは城の外の家に帰った。疲れ果てたイヒョン、リセラ、エレン、セイラはドランと一緒に宿に戻った。


「貴族の真似事がこんなに大変だなんて…」


ドランがため息交じりの声で言った。


「本当にね。こんな疲れる暮らしなんて、ほんと不思議だわ。」


リセラが相槌を打った。


「ルメンティア…私、死にそう。全身が痛いよ。」


セイラがぼやいた。


「俺もだ。ヤナギの樹皮を煎じた水が残ってたら飲まなきゃ。」


イヒョンが笑いながら言った。


「それ、体の痛みにも効くの?」


セイラが尋ねた。


「もちろんさ。」


イヒョンは礼服のジャケットを脱ぎながら答えた。


「リセラさん、明日一緒に旅人ギルドに行ってみましょう。」


「私も一緒に行っていい?」


セイラが目を輝かせて尋ねた。


「もちろん。侯爵閣下が推薦状と支払保証書をくれたから、ギルド加入もできるし、旅の費用に使える資金も受け取れるよ。」


「金を受け取ったら、リセラさんの故郷に行く準備をしなきゃ!」


ドランが付け加えた。


「わ! 私たち、ついに家に帰るんだ? やった!」


エレンは宮殿に持っていけなかった鹿の角の剣を再び手に取り、歓声を上げた。



読んでくれてありがとうございます。


読者の皆さまの温かい称賛や鋭いご批評は、今後さらに面白い小説を書くための大きな力となります。


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