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39. カルヌス

セルカインからの連絡が途絶えて二日が過ぎていた。ノクトリル市街団の一員として任務を遂行していた彼が、二日間も報告を送らなかったことなど、これまで一度もなかった。


アズレムは不吉な予感が胸に忍び寄るのを感じ、すぐさまセルファルクを一羽召喚した。


セルファルクは、セルカインが生み出したコルディウムだったが、今ではインテルヌム全域で広く使われる存在となっていた。


アズレムは召喚したセルファルクに命令を下すと、それを虚空へと放った。


セルファルクはインテルヌムの城塞を離れ、南へと飛び立った。荒野を横切り、巨大な丘や山を越え、森をかすめ、空中に微かに残るコルディウムの痕跡をたどりながら飛んだ。


セルカインの痕跡は途切れ、繋がりを繰り返していたが、セルファルクは執拗にその足跡を追い続けた。そして、ついにセルファルクが翼を止めたのは、コラン北部の外れにひっそりと佇む廃墟となった神殿だった。


セルファルクはゆっくりと下降し、崩れた屋根の隙間から滑り込むように潜り込んだ。


神殿の回廊の中央には、黒く半ば焼き尽くされたセルカインの亡魂が横たわっていた。


セルファルクは静かに床を這うように飛び、亡魂の周りを旋回した。砕けた柱、黒く焦げた床、そして冷たい空気の中に漂うコルディウムの微かな残響を、一つ一つ吸収し始めた。


蛇のように二股に分かれた舌をチロチロと動かし、目に見えないコルディウムの残滓を繊細に探り当てた。舌先に触れる微細な粒子は、セルファルクの内部感覚器官に送られ、解釈された。


まるで生物の体温や匂いのように残る感情の痕跡をたどり、セルファルクは失われた瞬間を追い求めた。床に残る血痕、燃え上がった柱の残骸、砕けた石の隙間に潜むコルディウムの微細な欠片が、その視界に網のように広がった。


やがて、セルファルクの舌はセルカインの亡魂を舐め始めた。まるで錬金術師が物質を分解し再構築するように、その感情を分離し、精製し、組み上げた。


最初に浮かび上がったのは、欺瞞と困惑、怒りが入り混じった鋭い感情だった。続いて敗北の恐怖、内面を蝕む怯えと絶望、そしてあらゆる手段が無力であると悟った深い恐怖が続いた。


だが、それだけではなかった。


セルカインの感情と対立するように絡み合った、もう一つの痕跡。エフェリアでは滅多に見られない、ソ・イヒョンのものとしか思えない気配だった。


冷たく澄んだ氷のように鮮明な怒り、犠牲者たちへの憐憫、緻密に計算された戦闘、復讐、そして最後まで自身の怒りを抑え込もうと必死に耐えた壮絶な痕跡だった。


セルファルクは複雑に絡み合った感情の構造を静かに収集し、分析し、一つの幻影として再構築した。廃神殿で剣がぶつかり合い、血が飛び散り、爆発が響き合ったその瞬間が、感情を媒介にして鮮やかに蘇った。


やがて任務を終えたセルファルクは、集めた情報を主に伝えるため、急いでインテルヌムへ向き直り、飛び始めた。


インテルヌムに到着したセルファルクは、自分が構築した記憶の映像をアズレムに漏れなく伝え、再構築された記憶はアズレムの脳裏に深く刻まれるように届けられた。


「彼らは不安定で欠落した存在だ。だが、この世界を破壊しうる危険な潜在能力を秘めている。我々はこれまで幾度となくこうした危機を乗り越えてきた。だが、今回現れた者は…何か違う。」


ベルダクの指先からコルディウムの結晶体が一つ、丸く浮かび上がった。無数の感情の欠片が圧縮された結晶体だった。赤い光と黒い気配が交錯し、揺れ動いた。彼はしばしその黒い結晶体をじっと見つめた。


「彼の能力が優れているなら、セルカインでは足りなかったのかもしれない。」


アズレムは驚いた目で彼を見上げた。


「ノクトリル騎士団の全軍を即刻コランに派遣します。今ならその者を排除し、あの街を一掃できます。十分な戦力です。」


だが、ベルダクはゆっくりと首を振った。彼の声は落ち着いていたが、その中に宿る威厳は刃のように鋭かった。


「いや、違う。我々はまだその者について知るものが少なすぎる。知らぬ相手と軽率に戦うのは愚かな行為だ。知られざる武器を使う者ならば…下手に排除しようとすれば、かえって大きな被害を招くかもしれない。」


彼は言葉の末尾を長く引きながら、手に持ったコルディウムの結晶を握り潰した。破片が不気味な音を立てて散らばり、霧のように消えた。


「騎士団をそんな些細なことに消耗するわけにはいかない。我々は今、決定的な瞬間を準備している。フェルトゥスを訓練し、その数を増やせ。」


「……はい、ベルダク様。」


「コルディウム結晶体を通じて全ての者の感情を支配するには、既存の支配秩序を覆さねばならない。一部の君主は懐柔できるかもしれないが、大半の領主や大神官たちは決して協力しないだろう。彼らを屈服させるには力が要る。絶対的な力だ。」


アズレムは頭を下げた。彼の眼差しは新たな命令を実行する決意で燃え上がった。


ベルダクは最後に付け加えた。


「カルヌスを遣わせろ。彼が最適だ。そして実験体のフェルトゥスを稼働させろ。情報を集め尽くせ。確実な機会が来たとき、その者を殺す。」


「その意志に従います。」


アズレムは膝をついたまま力強い声で答えた。大戦堂の黒い霧が彼の決意を飲み込むように、ゆっくりと旋回した。


大戦堂を退いたアズレムは、遅滞なくカルヌスを召喚した。


彼の前で空間が奇妙に裂け、影のような姿が徐々に現れ始めた。


カルヌスは背が高く、痩せた体躯だったが、均衡の取れた身体はまるで風に揺れる葦のように生気なく動いた。黒い革と金属が混ざった戦闘服が彼の体を包み、肘と肩には棘のように尖った装飾が目立った。


顔は仮面で完全に覆われていたが、その中心に宿る一つの赤い瞳が、心臓の鼓動のように静かに脈打ち、輝いていた。その眼差しには狂気と冷酷さが混ざり合っていた。


彼の両腰には、黒い革の鞘に収まった二振りのアルマ・コルディアが下がっていた。鞘に納められているにもかかわらず、剣から放たれる淡い闇は周囲の空気を凍てつかせるようだった。


感情を切り裂き、相手のコルディウムを無力化する剣、センシウム。

癒えない永遠の傷を刻む剣、ビタルム。


この双子の剣は、ベルダクが下賜したアルマ・コルディアだった。


カルヌスはアズレムの前で無言のまま膝をついた。


アズレムは、影のように現れ、命令を待つカルヌスを見つめた。


「コランへ行け。フェルトゥス試験体を稼働させろ。彼らを監視し、我々に必要なすべての情報を集めろ。そして…確実な機会が訪れたとき、排除しろ。」


カルヌスは返事の代わりに深く頭を下げた。彼の仮面の中の赤い瞳が一瞬、強く閃いた。奇妙な静寂がしばし流れ、彼は影と同化するようにスルリと消えた。


________________________________________


イヒョンはベッドに横になり、天井をぼんやり見つめながら考えに沈んだ。


エフェリアにどれほど留まらなければならないのか、わからなかった。地球へ戻る方法を見つけるには旅が必要で、そのためには金と情報が必要だった。


その第一歩として、旅人ギルドに加入するための推薦状がどうしても必要だった。十分な資金とギルド加入が叶えば、情報もずっと容易に得られるはずだった。


侯爵から推薦状を得られれば最高だが、異邦人である彼がコランのような大都市の領主に会うなど、夢のような話だった。


ふと、商人ギルド本館の前で耳にした噂が頭に浮かんだ。コランの侯爵の長男が皮膚病に苦しんでいるという話だった。


『もし彼を治療できれば、推薦状を得るチャンスが生まれるかもしれない…』


イヒョンはその可能性に希望を抱いたが、すぐに現実の壁にぶつかった。何のつてもなく侯爵の息子に会うなど、無謀な挑戦だった。


『噂だけで判断するなら、侯爵の長男は膿痂疹のうかしんである可能性が高い。神官たちが治療を試みても、根本原因を解決できなければ何度も再発するだろう。』


腕を枕にして悩んでいたイヒョンの頭に、突然火花が散るようにアイデアが閃いた。


『そうだ、石鹸を作ろう。石鹸なら可能性がある。』


細菌性の皮膚病には清潔が何より重要だった。だが、この世界では衛生や細菌の概念すら満足に根付いていなかった。香り高く、殺菌効果もある石鹸を作れば、評判が広がり、侯爵の耳にも届くかもしれない。


金を稼ぎつつ侯爵と繋がる最も確実な方法は、まさに石鹸だった。


決意を固めたイヒョンは、勢いよく立ち上がり、ドランを訪ねた。


ドランは作業場で革を塩で擦っていた。


「ドラン、獣の脂肪や油を手に入れることはできるかな?」


「もちろんさ。質のいい油なら市場で売ってるけど、質の悪い脂肪は大抵捨てられてる。そんなものならいくらでも集められるよ。」


「油をできるだけたくさん集めてくれ。急いで、古いものでも構わないし、市場に出さない品質でもいい。作るものがあるんだ。」


イヒョンはドランを真剣に見つめながら頼んだ。


ドランは頷き、笑顔を見せた。


「わかったよ。屠畜業者や猟師にも話しておくよ。どうせ捨てるものだから、ははっ。」


「ありがとう。」


「こんなことで礼を言われてもな。こんなものを必要とする奴は初めてだから、面白いよ。何を作るつもりだ? とりあえず、できる限り集めておくよ。」


イヒョンはすぐにマリエンとカレンがいる二階の部屋に向かった。マリエンはカレンに薬を飲ませていた。


「マリエン、ちょっと話せるかな?」


マリエンは顔を上げ、明るく迎えた。


「何ですか、イヒョンさん?」


「街の炉から出る灰を集めてもらうことはできるかな?」


彼は慎重に尋ねた。


「灰?」


「うん、薪が燃えて残る白や灰色の灰だよ。」


突然の依頼にマリエンは少し考え込み、頷いた。


「炉や暖炉の掃除をしてあげると言えば、皆喜んで渡してくれると思いますよ。実際、灰の処理は汚くて面倒な仕事だから、みんな嫌がるんです。掃除してくれるなら、むしろ感謝されるかも。」


イヒョンはすぐに言葉を続けた。


「じゃあ、お願いするよ。灰をできるだけたくさん集めてほしい。今作ろうとしているものにたくさん必要なんだ。」


マリエンは明るく笑って答えた。


「灰で何をするのかはわからないけど、役に立てるのが嬉しいです。任せてください。せっせと集めてきますよ!」



読んでくれてありがとうございます。


読者の皆さまの温かい称賛や鋭いご批評は、今後さらに面白い小説を書くための大きな力となります。

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