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32. 火の矢

回廊のテラスが崩れ落ち、轟音がこだまのように静まる頃、空気は濃い土埃と砕けた石片で覆われていた。


崩れた石柱の残骸から噴き出した埃は、霧が地面をそっと這うように広がり、その中に黒い影がゆっくりと姿を現した。


セルカインだった。


彼は黒いマントの裾をはためかせ、埃の霧を突き抜けて歩み出た。テラスから落下したにもかかわらず、その姿勢には微塵の乱れもなく、眼差しは普段よりも深く、怒りに燃えて赤く輝いていた。


仮面に隠された彼の表情は読み取れなかったが、一歩一歩踏み出す動作には抑えきれない怒りが滲み出ていた。


イヒョンに向かってゆっくりと近づく彼は、右の手で腰に差したアーミング・ソードの柄を柔らかく握りしめた。そして、優雅でありながらも脅威的な動作で剣を抜き放った。彼の手にある剣はアルマ・コルディアではなかったが、決して平凡なアーミング・ソードでもなかった。


剣身は黒い鉄の光沢を帯び、闇の中で月光を受けて仄かな輝きを放ち、冷たい気配を漂わせていた。刃は真っ直ぐで鋭く、中央に深く刻まれた二重の溝は、まるで敵の血を求めるように設計されたかのようだった。柄には黒い革が精巧に巻かれ、握りの先端には血に飢えた獣の姿が繊細に刻まれていた。


セルカインが剣を抜き放つと、その剣はまるで闇に潜み冷酷に獲物を狙う豹のような気配を放った。


「今度こそ…」


彼は低く、しかし断固たる決意を込めた声で口を開いた。


「必ずお前を殺す。」


崩れた瓦礫の山から這うようにして辛うじて抜け出したイヒョンは、手についた土を乱暴に払い落とし、後ずさった。


心臓がドクドクと激しく脈打っていたが、彼は平静を保とうと声を整えた。


「なぜ俺を殺そうとする?」


セルカインは答えの代わりに身を低くし、黒い影が溶け込むように一瞬にして距離を詰めてきた。


—シュッ!—


彼の刃がイヒョンの顔を目掛けて鋭く振り下ろされた。


イヒョンは身体を横に投げるようにして紙一重で攻撃を避けたが、セルカインの剣はすでに二度目の軌跡を描き、彼を追い詰めていた。


—ガン!—


急いで拾った折れた椅子の脚に剣がぶつかり、鋭い音が響いた。イヒョンはセルカインの圧倒的な力に押され、瓦礫の上を転がった。椅子の脚を両手で握りしめた彼の手の甲には、赤い血が滲んでいた。


戦略を考える余裕が必要だったが、目の前の力の差はそんな暇を与えてくれなかった。


「戦闘の腕は情けないな。貴様が知っていることなど、首が繋がっている時にしか意味がない。」


セルカインの冷たい声が神殿内に低く響き、こだました。


イヒョンはその嘲笑に動じなかった。彼はセルカインの視線を真っ直ぐ見据え、距離を取るために柱の方へ慎重に移動した。障害物があれば、彼の長い剣を自由に振るうのは難しくなるはずだった。


再び、セルカインの剣が空気を切り裂いた。鋭い刃がイヒョンの顔をかすめ、柱を擦った。金属と石がぶつかる不気味な摩擦音が神殿内を切り裂くように響いた。


イヒョンは素早く身を屈めて刃先を避けた。


彼の袖が裂け、布の破片が宙に舞った。セルカインは剣の軌跡を折り曲げ、今度はイヒョンの胸を狙って猛烈に突き刺してきた。


反射的に身体を捻って辛うじて剣を避けたイヒョンは、柱の後ろに飛び込むようにして身を隠した。


神殿の奥で戦闘の音を聞いたドランとアンジェロは不安に駆られたが、濃い埃の雲のせいで状況を正確に把握できなかった。


回廊の半分が崩れ落ちた廃墟の中で、徐々に埃が収まった。


砕けた石柱の破片の上に立ち上っていた土埃がゆっくりと沈むと、その向こうに二人の姿がかすかに浮かび上がった。


ドランとアンジェロは息を殺し、その光景を食い入るように見つめた。埃の雲の向こう、壊れた柱を背にしたイヒョンと、その前にアーミング・ソードを握り、威圧的に迫るセルカインの姿がはっきりと見えてきた。


「イヒョン!」


ドランは焦ってイヒョンの名を叫び、反射的に弓を構えて矢を弦に番えた。


彼の手の動きは鋭く正確だった。矢は空気を切り裂き、鋭い破裂音を響かせながらセルカインに向かって真っ直ぐに飛んだ。


—シュク!—


セルカインは踊るように身体を捻り、空中に跳び上がった。彼のアーミング・ソードが風を切り、矢を一瞬にして真っ二つに斬り裂いた。そして、彼は黒いマントをはためかせ、羽のように軽やかに着地した。


仮面の目の穴から覗く彼の眼差しは、氷のように冷たく輝いていた。


「その程度で俺を止められるとでも思ったか?」


彼は嘲笑を交えた声で嗤い、剣を軽く一振りした。


「カテナ・テネブラルム。」


[闇の鎖]


彼の指先から黒い気配が閃き、迸った。その気配は剣を伝い、地面に染み込むと、やがて鉄の鎖で編まれた蛇のように地面を裂き、二手に分かれて伸びていった。


ドランとアンジェロに向かって瞬く間に伸びた闇の鎖は、地面から飛び出し、二人の足首をがっちりと絡め取った。


彼らは驚いて身を引こうとしたが、鎖は毒蛇のようによじれ、彼らの動きを完全に封じた。


「俺を止めるなら軍隊でも連れてくるべきだ。今のお前たちでは話にならない。」


セルカインは冷たく吐き捨て、再びイヒョンに向かってゆっくりと歩を進めた。


灰色の回廊に闇が降り、わずかに青い月光だけが断続的に差し込んでいた。その月光は彼の剣に反射し、不気味な輝きを放った。


「だが、イヒョン。お前は少し特別に扱う必要があるな。こんなに早く終わらせてしまうには惜しすぎる。」


セルカインの声には奇妙な加虐性が滲んでいた。その口調は余裕というより、かつてネルヴァでイヒョンを抑えきれなかった時に感じた不安と恐怖を振り払おうとする執着のようだった。


彼の足取りは軽やかで正確だった。瓦礫を踏んでもほとんど音がしないほど繊細だった。彼は黒い影が残骸の間を滑るように動きながらイヒョンに近づいた。


イヒョンが息を整える暇もなく、セルカインはイヒョンが隠れた柱の裏に自然に進路を曲げた。イヒョンは目の前をかすめた剣の残像と石壁に刻まれた深い斬り跡を見て、背筋が凍った。


セルカインはまるで狐が兎を追い詰めるようにイヒョンで遊んでいるようだった。イヒョンを窮地に追い込み、楽しむようなその態度は、単なる殺意を超えていた。このまま逃げ回るだけでは、この絶体絶命の状況から抜け出せなかった。


ドランとアンジェロは足首を絡め取った闇の鎖に縛られたまま、イヒョンがいる方向を焦燥に駆られて見つめた。しかし、薄い青い月光だけでは彼らの状況を正確に把握するのは難しかった。このままでは指一本動かせず、全員が死の淵に立つかもしれない緊迫した瞬間だった。


「なあ、アンジェロ、何か方法はないか? このままだと俺たち全員やられるぞ。」


ドランの声には焦りが滲んでいた。アンジェロは一瞬目を閉じ、思案に沈んだ。やがて彼の目がきらりと光り、アイデアが浮かんだようだった。


「俺がドランの矢に火をつけてあそこに射ったら、もっと見えるんじゃないか?」


「お、そりゃいい考えだ!」


ドランはすぐに外套を乱暴に裂き、矢の先にしっかりと布を巻き付けた。そしてその矢をアンジェロに渡した。


「よし、俺の力を見せてやる。」


「イグニス・イラエ。」


[憤怒の炎]


アンジェロの手のひらの上で空気がかすかに揺れ、赤い炎が湧き上がった。その炎はタバコに火をつける程度の小さなものだったが、彼の手の上でまるで生き物のように蠢いていた。


アンジェロはその炎を慎重に扱い、ドランから受け取った矢の布に火をつけた。そして素早く燃える矢をドランに返した。


燃える矢を受け取ったドランは、迷わず弓の弦にかけ、イヒョンがいる方向へ大まかに狙いを定めた。炎の矢は暗い神殿の空気を切り裂き、鋭い軌跡を描いてイヒョン周辺の虚空の真ん中に落ちた。


だが、油も塗られていない炎の矢一本では周囲を照らすには力不足だった。しかも、ドランの矢筒にはあとわずか五本しか残っておらず、むやみに無駄にはできなかった。


「ちっ…これ、思ったより効果ないな。」


ドランは別の方法を模索しながらため息をついた。しかし、彼が気づいていなかったのは、その微弱な炎の矢がイヒョンにとって救世主のような光をもたらしたということだった。


一方、セルカインはまるで追い詰めたネズミで遊ぶ猫のように、イヒョンを窮地に追い込んでいた。彼のアーミング・ソードが掠めるたびに地面がバリバリと裂け、瓦礫の破片が宙に舞った。


イヒョンは折れた木の椅子の脚を手に握り、必死に身体を動かした。セルカインの剣撃を辛うじてかわし、柱に身を寄せて鋭い刃を流した。


セルカインが本気で襲いかかっていたら、イヒョンは一度も避けられなかっただろう。しかし、セルカインはこの状況を楽しんでいた。敵に徹底した無力感を与え、絶望の淵に突き落とす過程を、奇妙な快楽として味わっているようだった。


目の前で閃くアーミング・ソードの剣光は、まるで生きている猛獣がイヒョンを追い詰めるようだった。荒々しい息が喉を乾いた音で響き、身体は次第に重くなったが、イヒョンは決して絶望に屈しなかった。


彼は転がりながら障害物を盾にし、セルカインの攻撃をかわし続けたが、息を詰まらせるように鋭さを増す彼の剣は、ますます苛烈になっていた。イヒョンが辛うじて耐え抜くのも、もはや限界に近づいていた。狡猾な狐の兎狩りが最高潮に達しようとしていた。


その瞬間、イヒョンの近くに炎の矢が一本飛んできて地面に突き刺さった。その刹那、イヒョンの目がパッと開いたように輝いた。


彼は逃げる足をピタリと止めた。深く息を吸い込み、手に握った木の破片をさらに強く握りしめた。


『よし、これから俺の番だ。』


彼の眼差しは、もはや追われる獲物ではなかった。しかし、セルカインの攻撃は止まることを知らなかった。イヒョンの体力はすでに限界に達していた。


セルカインの足先は地面を掠めるように音もなく動き、剣はますます精緻な軌跡を描きながらテンポを上げていった。


イヒョンの体力は急速に消耗していった。身体を捻ったり屈んだりするたびに服が裂け、肌に浅い傷が一つ、また一つと増えていった。右の前腕には鮮明な斬り傷ができ、包帯を巻いた左肩は感覚が徐々に鈍くなっていった。


それだけでなく、二度受けた否定の欠片から滲み出る暗い気配が、ゆっくりと彼の身体を侵食していた。その気配はまるで毒のようにイヒョンの意志を蝕み、息をさらに重く圧迫した。


「ドラン! もう一本、炎の矢を! 準備できたら撃たず、合図しろ!」


その瞬間、踊るように剣を振るっていたセルカインが低く笑った。


「ククク、そのようなおもちゃで俺を止めようというのか? いいだろう、その炎の矢がお前たちの最後の希望か? その希望が粉々に砕ける時の顔を見るのもなかなか面白いだろうな。」


イヒョンの息は喉元まで詰まり、冷や汗が首筋を伝ってツルリと流れ落ちた。崩れた石造の階段の下を踏み外し、彼はよろめきながら後ろに倒れそうになった。


その刹那、セルカインの剣が彼の顎下をかすめ、柱を勢いよく斬りつけた。石の破片が四方に飛び散り、耳元を掠める鋭い破片にイヒョンは一瞬バランスを崩し、地面に倒れた。


めまいがする瞬間、彼は辛うじて身体を転がして体勢を立て直した。そして今までとは違い、セルカインに背を向け、回廊の広い空間に向かって必死に走った。


息が途切れ、全身から汗が雨のように流れ落ちた。彼が駆け込んだ場所は少し余裕のある空間だった。地面は凸凹だったが、ドランが狙うのに十分な距離と角度を提供するはずだった。


セルカインは余裕たっぷりに、まるで獲物を楽しむようにイヒョンを追った。


「逃げてみろ。どこまで行けるか見てやろう…」


—ドン!—


イヒョンは逃げる途中で足に力が入らず、石に躓いて転んだ。


「はは、なんともみっともない姿だな、イヒョン。」


セルカインは剣を斜めに下げ、ゆっくりとイヒョンに近づいた。彼の歩みは、まるで獲物を前に余裕を見せる猛獣のようだった。


「待て! ちょっと待ってくれ! 死ぬ前に知りたいことがある!」


イヒョンは息を荒げ、残った力を振り絞って叫んだ。


「一体お前は誰だ? 俺は何も悪いことをしていない! なぜ俺を殺そうとする? 俺はただ…持っている知識で人々を助けただけだ。誰にも害を与えたことなどない!」


彼の叫びは、まるで死の前に迸る最後の叫びのように響いた。


読んでくれてありがとうございます。


読者の皆さまの温かい称賛や鋭いご批評は、今後さらに面白い小説を書くための大きな力となります。

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