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31. 反撃

灰色の廃墟に佇む神殿は、濃い闇に包まれ、静寂に沈んでいた。崩れた柱や砕けた石像が、淡い月光の下でぼんやりとした輪郭を浮かび上がらせ、まるで忘れ去られた歳月の痕跡を囁いているようだった。


崩れ落ちた回廊の二階のテラス、壊れた欄干の陰に身を潜め、息を殺している狩人、セルカイン。彼の鋭い目は、闇の中で瞬く二つの獲物を決して見逃さなかった。一人はすでに傷を負い、よろめく者。もう一人は、怯えきった無力な少女に過ぎなかった。


その瞬間、崩れた柱の陰から何かが稲妻のように飛び出してきた。


セルカインは本能的にネルバの引き金を引いた。彼の目が捉えたのは、確かに人間の影だった。虚空を切り裂いて飛んだクロスボウのボルトは、標的を正確に貫いた。彼は狩りが終わったと確信した。


だが、ボルトが突き刺さったのは、ただのぼろ布に過ぎなかった。それに気づいた瞬間、セルカインの瞳が揺れた。まさにその時、神殿の中央を照らしていた焚き火が、誰かの足に蹴られ、粉々に散った。


炎が消え、闇が神殿を飲み込んだ。灰と火の粉が宙に舞い、崩れ落ちる中、彼は巧妙な罠に嵌まったことを悟った。


怒りがセルカインの胸を熱く燃やした。詐術の達人である自分さえも完全に欺いたこの囮は、緻密かつ大胆だった。彼が動揺した一瞬の隙に、獲物はすでに闇の中へ溶け込むように消えていた。


一瞬にして局面を覆したこの冷徹な策略に、セルカインは完全にやられたのだ。


獲物が闇の彼方へ消えた後、セルカインは昂る心を鎮めようと深く息を吸った。彼の目にはなお怒りの火花が燃えていたが、狩人の本能が再び鋭く目覚めつつあった。


「なかなかやるな。だが、所詮は籠の中の鼠だ。」


廃墟と化した神殿は、広大で巨大な建物だったが、獲物が逃げ出す道は神殿の入り口ただ一つしかなかった。そこへ向かうには、必然的にセルカインが待ち伏せするこの回廊を通らねばならなかった。


狩人と獲物。その本質は変わらない。


イヒョンがこれまでに見せた狡猾な策略は、セルカインに警戒心を抱かせたが、獲物が逃げ切れたとしても、狩人を打ち負かすことなど、ほぼ不可能に近いことだった。


「焦る必要はない。ただ待てばいい。」


セルカインはネルバに否定の欠片を再び装填しながら、闇を突き刺すように見つめた。彼の目は鷹のように鋭く輝いていた。


今、闇の中へ飛び込んで彼らを追うよりも、彼らが自ら姿を現すのを待つ方が、はるかに確実な狩りの方法だった。神殿の内部は迷路のように複雑だった。狭い廊下や繋がる部屋、崩れた壁の間を無理に追跡すれば、獲物が神殿の外へ逃げ出す可能性があり、そうなれば狩りはさらに面倒になるだろう。


闇はますます深まり、静寂は息を詰まらせるほど長く続いた。


ここは人の足跡が途絶えた廃神殿。セルカインはどれだけでも待つ準備ができていた。たとえ日が昇ったとしても、彼にとって不利になることはなかった。彼の手は依然として冷たく、心は固く締まっていた。


やがて、回廊の向こう、廊下の入り口に、かすかなシルエットが姿を現した。


イヒョンだった。


セルカインは眉をひそめ、慎重にネルバを構えて狙いを定めた。心臓、首、頭を狙えば一撃で仕留められるだろう。だが、この深い闇の中で心臓を正確に撃ち抜くのは、彼にとっても簡単なことではなかった。それなら、胴体を狙って撃つ方が確実だ。傷を負わせさえすれば、その後の始末は雛鳥の首をひねるより簡単なことだった。


これは決闘ではない。狩りなのだ。


およそ20ヤード。この距離なら、セルカインのボルトが外れるはずはなかった。


「今だ。」


セルカインは息を殺し、引き金を引いた。


「カチン!」発射音とともに、ボルトはイヒョンをめがけて猛烈に飛んでいった。


その瞬間、セルカインが全く予想だにしなかった出来事が起きた。


ボルトが発射された刹那、イヒョンはまるで倒れるように身を翻し、床を転がった。鋭いボルトは彼がいた場所をかすめ、石の床を激しく叩いた。


-バン!-


その光景を目にした瞬間、セルカインは理性を失いそうになった。


「まただ!」


ドランの家でのことだった。突然飛び出してきた子供の不可解な力によって、最初のボルトが外れた。それはセルカインがノクトリル騎士に任命されて以来、初めて失敗した射撃だった。二度目はセイラという少女が盾のように割り込んだせいで外した。三度目はイヒョンが巧妙に作り上げたダミー人形のせいだった。そして今、すでに四度目だ。


セルカインは今度こそ確実に当てると確信していた。だが、ボルトが飛ぶ瞬間、イヒョンはすでに彼の射撃を見破っていた。瞬時に反射的に動くことで、またしても彼の計画を打ち砕いたのだ。


「くそっ、くそっ、くそっ!」


セルカインは歯を食いしばった。手がわずかに震え始めた。彼の胸の中で何かが軋み、不吉な焦りがじわじわと這い上がってきた。


これまで一度も、どんな狩りでも、こんな屈辱を味わったことはなかった。


いつだって、一発。


最初の射撃一発で全ての狩りを終わらせてきた。一発で十分だった。なのに、イヒョンは四度も彼のボルトをかわした。


四度も彼の完璧な射撃を、すべての機会をめちゃくちゃに踏みにじったのだ。


心臓が激しく鼓動した。クロスボウにボルトを装填する手は、いつもより遅く、ぎこちなかった。回廊の向こう、闇に消えたイヒョンの気配を追いながら、セルカインは初めて味わう奇妙な不安に飲み込まれた。まるで自分が獲物となって追われているような、ぞっとする感覚が脳裏をよぎった。一筋の冷や汗が彼の首筋を滑り落ちた。


セルカインは必死に気を引き締め、ネルバを構えた。次の機会を狙って照準を始めたが、もはや彼はかつての冷徹な狩人ではなかった。


手に握ったネルバがわずかに震えた。引き金を引こうとした瞬間、頭をよぎる恐ろしい考えがセルカインを縛り付けた。


「今回も外したら? また失敗したら?」


疑いの種が彼の心の奥深くに根を張り、どんどん大きくなっていった。引き金を引こうとした指が、凍りついたように固まった。その隙を察したかのように、闇の中からイヒョンが再び姿を現した。


彼は腰を屈め、ゆっくりと、猫のようにつま先で慎重に動いていた。


その動きの方向からして、イヒョンの次の目標は半ば崩れた柱の陰だろう。


刹那の瞬間、セルカインは躊躇してしまった。


確かに照準は完璧だった。だが、その短いためらいが、引き金を引こうとする指先を止めた。


歯を食いしばり、無理やり引き金を引いたが、ネルバは震える指先に合わせてわずかに揺れた。


-ドン!-


放たれたボルトは虚空を切り裂き、イヒョンとは全く異なる方向に飛び、石の床に突き刺さった。イヒョンは一瞬にして柱の陰の死角に身を隠した。


またしても、チャンスを無駄にしてしまった。


セルカインは自分でも気づかぬうちに体を震わせた。彼は確かに自分が狩人で、イヒョンが獲物だと確信していた。だが今、この瞬間、役割が徐々に逆転しているという不吉な予感が彼を押し潰した。


主導権がイヒョンに移りつつあるという事実、そして自分が崩れつつあるという恐怖が、彼の心をじわじわと締め付けてきた。


一方、イヒョンは息を殺し、周囲を鋭く見渡した。


崩れた柱の破片、砕けたレンガの山、そして目立つ巨大な円筒形の石柱。それは片側が崩れた瓦礫の山に危うく斜めに引っかかっていた。重さに耐えきれずひびが入ったその柱は、わずかな衝撃でも転がり落ちそうな不安定な状態だった。


「これを使わなきゃ。」


イヒョンは素早く周囲を見渡した。すると、折れているが頑丈で長さも適切な木製の欄干の破片が目に入った。


セルカインの視線を避け、彼は死角で身を低くしながら、猫のようにつま先で慎重に動いた。汗が背筋を流れ、心臓は破裂するように激しく鼓動した。だが、イヒョンは歯を食いしばり、息の音さえ抑えた。


時折聞こえるかすかな足音。


セルカインが少しずつ位置を移動している合図だった。


時間は差し迫っていた。


瓦礫の山に近づくと、イヒョンは慎重に崩れた残骸をつかみ、這うように登った。粗い石の破片が手のひらを擦り、切り裂いたが、痛みを感じる余裕などなかった。


ついに円筒形の柱の破片にたどり着いた彼は、半ば崩れた石柱の陰に身を隠しながら、慎重に近づいた。その巨大な石柱は重そうに見えたが、バランスが不安定で、うまく力を加えればテラス下方に転がり落ちそうだった。


膝をつき、身を低くしたイヒョンは、手に握った木片を梃子として、崩れた円筒形の柱をテラスの方へ押し出す準備をした。彼の目は冷たく光り、息遣いは依然として静かだった。


息を整え、機会を窺っていたイヒョンの耳に、突然、荒々しい足音とともに聞き慣れた声が神殿を震わせた。


「イヒョン! セイラ! どこだ?!」


「答えろ、イヒョン!」


神殿の入り口の方から響く、ドランとアンジェロの焦った叫び声だった。心配に駆られてここまで駆けつけてきたのは明らかだった。だが、この致命的な瞬間、彼らは息を潜めるべき切迫した状況を知らず、イヒョンとセイラの名前を大声で呼んでいた。


イヒョンは一瞬、全身が凍りつくようだった。これまで築き上げてきたすべての計画が、一瞬にして水の泡となるかもしれない。


テラスの上の闇の中、セルカインはまだ彼らの正確な位置を把握していないかもしれない。だが、何も知らないドランとアンジェロが神殿の中に入ってきて彼に発見されれば、どんな惨事が起きるか分からなかった。


イヒョンは反射的に身を起こした。半ば崩れた柱の上で声を張り上げ、叫んだ。


「ドラン! アンジェロ! 来るな! 危ない、すぐに逃げろ!」


その叫び声が神殿内に反響した瞬間、イヒョンは全身に冷ややかな気配を感じた。


遠く、闇に潜んでいた暗殺者がこの好機を捉えたことを直感した。


-カチン!-


クロスボウの発射音が、心臓を突き刺すように鋭く響いた。


否定の欠片を込めたボルトが、闇を切り裂いて飛んできた。


半ば崩れた瓦礫の山の上に立つイヒョンには、避ける空間も、不安定な柱の上で体を支えながら対応する余裕もなかった。


ボルトはイヒョンを強打した。鈍い衝撃とともに、彼の体が柱の上でよろめき、倒れ込んだ。


「イヒョン!」


高い瓦礫の山の上で影が崩れ落ちるのを見たアンジェロが、驚愕して叫んだ。だが、その瞬間、ドランは見逃さなかった。


かつての狩人の本能が、彼の血管の中で蘇った。


ドランは素早く弓を取り出し、矢をつがえ、周囲を鋭く見渡した。闇を凝視していた彼の目に、テラスの向こう、月光を受けてかすかに輝く何かが映った。


ネルバ。


セルカインのクロスボウについた金属の装飾が、月光に反射して一瞬光を放った。ドランはその刹那を見逃さなかった。


短く力強く息を吐いた彼は、ためらうことなく弓弦を放した。


—シュッ—


矢は闇を突き抜け、セルカインのネルバを真っ向から撃ち抜いた。


「くっ!」


セルカインは反射的に手を滑らせ、ネルバがその手から抜け落ち、テラスの下へと落下した。石の床に落ちたクロスボウが、けたたましい金属音を響かせた。


「イヒョン! 今行くぞ!」


アンジェロが半ば崩れた柱に向かって突進した。だがその瞬間、苦しげに身を起こしたイヒョンの切迫した叫び声が神殿を震わせた。


「来るな! 俺は大丈夫だ! 近づくなと言ってる!」


彼の声が緊迫して回廊に反響した。


幸い、セルカインのボルトはイヒョンが手に持っていた木製の欄干の破片に先に突き刺さり、致命傷を防いでいた。


イヒョンは痛みを抑え込み、深く息を吸った。彼はセルカインの視界から完全に外れる角度を見極め、手に握った木の棒を石柱の下にしっかりと押し込んだ。


手のひらには血と汗がべっとりと滲んでいたが、彼は歯を食いしばり、赤ん坊の頃の力を振り絞るように棒を全力で押し上げた。


「もう少し…」


石柱が鈍い音を立ててわずかに揺れた。イヒョンは全身の力を集中させた。一度の失敗も許されない瞬間だった。


その時だった。


柱の最上部で崩れた石塊が、微妙に揺れ始めた。


「ゴロゴロ、ガラガラ!」


少しずつ動き始めた柱の上部がバランスを失い、まるで時間がゆっくり流れるように、テラスを支えていた柱の方へ傾き始めた。


円筒形の石柱が転がり落ち始めた。


—ゴロゴローン!—


神殿全体が震えるような轟音が響いた。


イヒョンも、ドランも、アンジェロも息を呑んだ。


重さを失った石塊は次第に加速し、セルカインが潜んでいるはずのテラス方向へ転がり落ちた。転がる石塊は、テラスを危うく支えていた柱に猛烈に衝突した。回廊を揺さぶる衝撃音とともに、埃が嵐のように巻き上がった。


イヒョンは素早く身を低くし、息を潜めた。瓦礫の向こうで、破片と石塊がぶつかり合う騒音が反響した。


濃い埃の雲の中で、暗殺者の影がゆっくりと姿を現しつつあった。



読んでくれてありがとうございます。


読者の皆さまの温かい称賛や鋭いご批評は、今後さらに面白い小説を書くための大きな力となります。

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