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29. 廃神殿

イヒョンの瞳がエミリアと対峙した瞬間、揺らぎ始めた。彼の頭の中は真っ白になり、一瞬、何も考えられなくなった。心臓が深い海の底にずぶりと沈むような感覚が彼を包み込んだ。


エミリアの顔の上に、5年前の事故で失った妻、ソ・ユンの姿が重なった。


「どうして… こんなことが…」


最も温かかった日々の記憶と、最も痛ましい喪失の瞬間が同時にイヒョンの心を揺さぶった。薄暗い部屋の中で、エミリアの姿は彼の胸の奥深くに眠っていたソ・ユンを鮮やかに呼び起こした。


ソ・ユンは温かみがありながらも落ち着いた雰囲気を持つ人だった。柔らかく丸い額の上に、黒褐色の長い髪が肩を越えて流れ、濃い栗色の瞳にはいつも穏やかな光が宿っていた。彼女の顔はいつでも微笑みと温もりで満ちていた。話すときには右の口角がわずかに先に上がる癖、緊張すると右手で左の親指を包み込むように握る習慣まで、エミリアの仕草と不思議なほどに重なった。


だが、頭ではわかっていた。目の前の女性がソ・ユンではないことを。それでも、失った心の欠片が蘇ったかのように、胸の奥深くから熱い何かがこみ上げ、彼の内面を揺さぶった。


『これは… 一体何だ?』


エミリアはそんなイヒョンを見つめ、切迫した、懇願するような声で訴えた。


「お父さんを助けてください。お願いします、どうか助けてください。」


イヒョンは心を落ち着けようと努め、ゆっくりと息を吐いた。


エミリアの切実な眼差しと繰り返される懇願を前に、彼は小さく頷いた。


「はい、とりあえず行ってみましょう。」


落ち着いて話そうと努力したが、震える声は隠せなかった。


イヒョンはセイラを振り返り、冷静に言った。


「とりあえずアルコールと清潔な包帯を持って行こう。」


「はい、ルメンティア!」


セイラは食材を片付けていた手を素早く拭き、鞄を準備し始めた。


キッチンで夕食の支度をしていたリセラは、突然の騒ぎに戸口から顔を出し、状況を確認しようとしたが、エミリアを見た瞬間、動きを止めた。


彼女の胸の内で鋭い警告が響いた。


エミリアから漂う気配――それは殺意だった。ルーカスがカレンを睨むときに放っていた、あの冷たく暗い気配とぞっとするほど似ていた。


『この人… 本当に危険だ。絶対にイヒョンさんを行かせてはいけない。』


リセラは本能的に体を動かした。彼女は出て行こうとするイヒョンの腕を、まるで奪うようにしっかりと掴んだ。


「イヒョンさん、ちょっと待ってください。」


リセラの声は低く、力強かった。


「この人… 何かおかしいです。むやみに付いていってはいけない気がします。」


イヒョンは彼女の突然の行動に驚き、振り返った。リセラの顔に漂う不安と警戒の光を見て、彼は一瞬、言葉を失った。


エミリアは二人を交互に見つめ、焦るように口を開いた。


「お願い… 時間がないんです。父が危険なんです!」


彼女の声は切実だったが、リセラの目には、彼女の必死さの裏に隠された何かがより鮮明に見えた。


イヒョンはリセラの手を優しく撫でながら言った。


「リセラ、何かあった? 何を感じたのか教えて。」


リセラは息を整え、低い声で囁いた。


「この人… 信用できないんです。」


部屋の空気が一瞬にして重くなった。イヒョンの視線はエミリアとリセラの間を行き来した。彼の心の中では、過去のソ・ユンと現在の危険が絡み合い、混乱を引き起こしていた。それでも彼は冷静さを失わないよう懸命に努めた。


「その女の人について行っちゃダメ!」


リセラの切迫した叫び声に、イヒョンは驚いて彼女を見た。彼の目に映るリセラの顔は青ざめ、彼女の瞳は激しく揺れ、不安で満ちていた。


「リセラ、詳しく話してくれ。何を言ってるんだ?」


イヒョンの声には驚きと疑問が混ざっていた。


リセラはエミリアをじっと見つめ、震える声で言葉を続けた。


「この人… エミリア… 彼女から感じるんです。彼女の中には… 暗い何かがある。ルカスから感じたあの気配と似ていて… いや、もっと深くて冷たい感じがします。」


彼女の声はまるで泣き出しそうなほど震え、ひび割れていた。


「行かないで、お願い… この感じ、絶対に良くないんです。」


リセラの手はひどく震え、彼女の眼差しには恐怖が宿っていた。イヒョンは彼女の言葉を聞いた瞬間、朝にリセラが発した警告が脳裏をよぎった。彼の心の中で深刻な葛藤が渦巻いた。リセラの特別な能力、彼女が感じる感情は、決して軽く見過ごせるものではなかった。


だが、ドアの外で焦るように待つエミリアの姿を見た瞬間、イヒョンの頭の中で鳴り響いていた警告の音と葛藤が、霧のようにぼやけてスーッと消えていった。彼女の顔の上に、再びソ・ユンの姿が重なった。その切実な眼差し、震える声が彼の理性を揺さぶった。


イヒョンは深く息を吸い、心を落ち着けようと努めた。


「リセラ、わかった。君の言うことを信じるよ。でも… 誰かが怪我してるって言うのに、見ず知らずで放っておくわけにはいかない。気をつけるよ。約束する。」


イヒョンは自分の腕を掴んでいたリセラの手を優しく包み込み、静かに言った。


「この人は僕たちの助けが必要なんだ。」


リセラは絶望と恐怖が混ざった眼差しで彼を見つめた。


「イヒョンさん… お願い… もう一度考えてください。」


彼女の声は切実さに震えていた。


セイラは一瞬、戸惑った様子だったが、決意したように鞄を手に持ち、イヒョンの後を追った。


「私がルメンティアについて行ってちゃんと助けるよ。お姉ちゃん、気にしすぎないでね。」


彼女はリセラを安心させようと微笑んでみせたが、緊張した声はどうにも隠せなかった。


イヒョンとセイラがドアに向かうと、エミリアの顔に一瞬、安堵の色が浮かんだようだった。彼女はドアの外で焦るように待ちながら、二人を急かすような眼差しを送った。


三人は急いでドラン邸を後にした。


コーランの暗い通りには、数少ない街灯がほのかに道を照らすだけで、冷たい夜の空気が彼らの顔をかすめた。イヒョンは鞄を肩にしっかりと掛け、エミリアの後を追って歩いた。


ドアがガタンと閉まる音が、まるでこだまのように響いた。リセラは閉まったドアをぼんやりと見つめ、その場に凍りついたように立ち尽くした。


彼女の手は抑えきれずに震え、心臓は誰かに強く締め付けられるような鋭い痛みが走った。


リセラは自分の直感、つまりコルディウムの力で感じた感情がほとんど間違ったことがないことをよく知っていた。だからこそ、今この瞬間、彼女を包む不安はまるで嵐のように激しく吹き荒れた。


窓の外に、イヒョンとセイラの姿が彼女の目に映った。彼らはエミリアを追い、早足で家を離れ、どんどん遠ざかっていった。


リセラの手がスカートの裾を強く握りしめた。指先に力がこもり、白くなるほどだった。


『イヒョンさんをこのまま行かせるわけにはいかない。』


彼女の心の中で決然とした声が響いた。何かをしなければならなかった。決意を固めたリセラは、一気にキッチンへと駆け込んだ。そこでドランとアンジェロが肉をさばきながら冗談を交わし、笑い合っていた。


「ドランさん、アンジェロさん!」


リセラの声がキッチン内に鋭く響いた。


「お願いしたいことがあります。」


ドランは手に持っていた鹿肉を置き、彼女を見た。彼の眼差しには好奇心とわずかな心配が混ざっていた。


「どうしたんだ、リセラ?」


アンジェロは酒樽から香り高い液体を慎重に瓶に移しながら、リセラをちらりと見た。彼の顔にはのんびりとした笑みが浮かんでいた。


「これ見てよ、リセラ! ハハ、ほんと、天国の香りだろ? この酒はイヒョンさんが帰ってきたら一緒に飲まなきゃ。先にちびちび飲んじゃったら面白くないよ。それまではビールで我慢しようぜ!」


彼の声は冗談めかして軽やかに響いた。


だが、リセラはその陽気な雰囲気に乗ることはできなかった。彼女の顔は暗く、心配に満ちた眼差しで二人を見つめ、口を開いた。


「今、イヒョンさんとセイラが付いていったあのエミリアって女… 何かおかしいんです。」


ドランは鹿肉に塩とハーブを擦り込みながら、首をかしげた。


「そうか? 俺は全然変だとは思わなかったけどな。」


彼の手はゆったりと肉を整えながら答えた。


「父親が怪我したってんで急いで動いたんじゃないか? 俺もカレンが怪我した時は気が気じゃなかった。焦る気持ち、わかるよ。」


アンジェロもくすっと笑いながら言葉を添えた。


「そうだな、俺も特に怪しいところは感じなかったよ。正直、怪しいって言うならイヒョンって奴の方がよっぽど怪しくないか? ハハ!」


彼は冗談めかして言葉を投げ、酒瓶を置いた。


リセラの唇が固く結ばれた。胸の奥から込み上げる苛立ちが、喉を締め付けるようだった。彼女は一歩前に進み、二人の前に立った。アンジェロの目を見つめ、彼女の声は鋭く、切迫していた。


「アンジェロさん、覚えてますよね? 最初にあなたがイヒョンさんを詐欺師だと決めつけて責めたこと。」


アンジェロは気まずそうに頭をかきながら言った。


「まぁ… そんなこともあったな。」


彼の声は少し躊躇いがちだった。


リセラは深く息を吸い、二人と順番に目を合わせながら言葉を続けた。


「私は相手の感情をありのままに感じ取る力を持っています。それが私のコルディウムの力なんです。」


彼女の声は震えずにしっかりとしていた。


「そして今、エミリアという女性から感じたのは、切実さなんかじゃなくて… 殺意だったんです。」


その瞬間、キッチン内の空気が重く沈んだ。ドランとアンジェロの顔が微妙に強張った。ドランは肉をさばいていた手を止め、アンジェロの笑みも徐々に消えた。


「殺意、だって?」


ドランの声が低く響いた。彼の眼差しはもはやのんびりしていなかった。


「それはちょっと…」


アンジェロが言葉を濁し、気まずく笑った。


だが、リセラは止まらなかった。彼女の声は切迫感で満ち、震えていた。


「その殺意は… 前にルカスから感じたものと同じ種類だったんです。冷たくて、暗くて、嘘で塗り固められた感情。決して切実な娘の心なんかじゃない。」


彼女の眼差しは確信に満ち、一語一語に力が込められていた。


ドランは眉をひそめ、首をかしげた。


「ルカスも変だったのか? いや、俺の目にはただのおしゃべりで気のいい若者に見えただけだが…」


彼の声には疑いよりも懐疑的なニュアンスが漂っていた。


リセラは深く息を吸い、言葉を続けた。


「イヒョンさんに何もなければいいんです。でも… もし、万が一、イヒョンさんやセイラに何かあったら…」


彼女は一瞬、頭を下げ、再び顔を上げて二人をまっすぐに見つめた。彼女の声は強烈で、切実だった。


「これからカレンの面倒は誰が見るんですか?」


その言葉に、ドランとアンジェロの視線が交錯した。重い沈黙がキッチンを押し潰した。ドランはゆっくりと、深いため息をついた。


「そうだな… もしそうなったら…」


彼の声は低く、重々しかった。


アンジェロはポケットからパイプ煙草を取り出し、口にくわえながら頷いた。彼は一瞬、考え込むような表情だったが、すぐに決意した顔で口を開いた。


「よし、ドラン。行ってみよう。」


ドランはさばいていた鹿肉の皿を脇に押しやった。


「そうだな、飯が少し遅れたって世界が終わるわけじゃない。」


「どうせお前が下ごしらえした肉だって、ちょっと寝かせた方が美味くなるよな。」


アンジェロが冗談めかして付け加え、にっと笑った。


ドランは壁に掛けてあったカレンの弓と矢を手に取り、アンジェロは腰に差したナイフを点検してから外套を羽織った。


「俺たちが遠くから様子を見てくるよ。少しでも怪しい気配があれば、すぐに連れ戻す。北の廃神殿って言ってたよな?」


リセラは目尻が潤むような視線で二人を見つめ、頷いた。


「はい… 本当にありがとう。」


「エー、そんな大したことないよ。イヒョンあの野郎、指一本触れさせないから、気にしすぎるなよ!」


アンジェロは豪快に笑いながら、ドランの肩をポンと叩いた。


そうして二人はドアを開け、イヒョンが向かった道を追い、闇の中へと大股で消えていった。


ドアがガタンと閉まる音が、再び家の中にこだまするように響いた。リセラはその音を聞きながら、しばらくぼんやりと立ち尽くした。だが、彼女の胸の奥では、消えない不吉な予感が、冷たい風のようにスーッと這うように湧き上がっていた。


一方、イヒョンとセイラはエミリアの後を追い、暗い道を歩いていた。


コランの賑やかな中心地を離れると、通りは次第に寂しくなった。石畳の道が終わり、土と草が絡まる小道に入ると、セイラの胸にじわじわと不安が染み込み始めた。


「ルメンティア。」


セイラが慎重に、そっと囁いた。


「ここ、ちょっと人里離れすぎてませんか。本当にこんなところに人がいるんですか?」


彼女の声にはためらう気配が滲んでいた。


イヒョンは短く頷いたが、緊張の兆しはまるで見せなかった。それどころか、彼は何かに取り憑かれたような眼差しで、早足で進むエミリアだけを見つめ、歩みを進めた。彼の視線はエミリアの背中に完全に囚われていた。


『似てる。あまりにも似てる。』


エミリアの顔、深い瞳、華奢な体型、風に揺れる髪の毛、さらには彼女の歩き方やほのかに漂う香りまで。すべてが、5年前の事故で失った妻、ソ・ユンとそっくりだった。イヒョンの理性は、その馴染み深い姿に深く引き込まれ、周囲のすべてを忘れたかのようだった。


セイラは普段とまるで違うイヒョンの行動を心配そうに見つめた。彼の眼差しは見慣れないもので、まるで別の世界にいるようだった。彼女は不安な気持ちを飲み込み、黙って彼の後を追うしかなかった。闇の中でエミリアの影がどんどん遠ざかり、追いかける二人の足音だけが静かな道に響いた。


やがて、民家が一つも見えない人里離れた場所にたどり着いた。まばらに続く小さな森と野原だけが果てしなく広がっていた。彼らは低い丘を越え、さらにしばらく歩き、ついに崩れかけた神殿の前にたどり着いた。


廃墟となった聖堂は、かつて神を祀った荘厳さの名残をかろうじて抱き、寂しく佇んでいた。崩れた柱と苔に覆われた壁は、歳月の重みをそのまま物語っていた。


エミリアはその場で足を止めた。


「そこに… 父がいます。」


彼女は崩れかけた神殿の暗い入り口を指さした。


神殿の片隅には馬が一本の杭に繋がれ、その横にはエミリア親子が使ったであろう古びた荷車がぽつんと置かれていた。車輪は軋むほどに古び、荷車の上には埃が厚く積もっていた。


「セイラ、行くよ。」


イヒョンの声は依然として、まるで取り憑かれたようにぼんやりとしていた。セイラはまだ不安を抑え込みながら、彼の後を追って廃神殿の中へと足を踏み入れた。


神殿の中は薄暗く、片隅で燃える焚き火だけがかすかな光を放っていた。炎が揺らめき、壁に影を映し、その影はまるで生きているかのように揺れ動いた。


「父さん…!」


エミリアの声が空っぽの建物内にこだました。鋭い響きが石壁を伝って広がった。


イヒョンとセイラは急いで彼女を追い、焚き火のそばにうずくまる人の影に向かって駆け寄った。


「大丈夫ですか?」


イヒョンが急いで老人に近づき、手を差し伸べた。


セイラは一歩後ろで彼を見つめ、ますます濃くなる不安に胸が締め付けられるのを感じた。焚き火の熱気さえ、彼女の震えを止めることはできなかった。


その瞬間、老人の姿がぼんやりと揺らぎ、まるで黒い煙のようにスーッと崩れ落ちて消えた。彼がまとっていた古びた服だけが、抜け殻のよう力なく地面にぽとりと落ちた。


「何だ…?!」


イヒョンが驚いて叫んだ。


「きゃあっ!」


セイラはびっくりして悲鳴を上げ、後ずさった。


驚いた二人は慌てて振り返ったが、エミリアの姿はすでに跡形もなく消えていた。代わりに、虚空から冷たい声が響いた。


「ようやく。」


その声は神殿の広い空間を響き渡った。しかし、その声は決してエミリアのものではなかった。低く、陰気で、ぞっとするような響きを持つ見知らぬ声だった。


「何だこの仕打ちは!」


イヒョンが急いで叫んだ。


「ソ・イヒョン、お前はエフェリアを脅かす存在だ。そして我々の計画の大きな障害だ。」


声はどこからともなくこだまし、方向がわからないまま響いた。イヒョンとセイラは周囲を見回したが、誰が、どこで話しているのか、まるで見当がつかなかった。


『私が計画の障害だ? いったいなぜ?』


イヒョンの頭の中は混乱で渦巻いた。彼は病人を治療し、疫病に襲われた村で数多くの命を救ってきた。それなのに、なぜ自分がエフェリアの脅威だと言われるのか? 到底納得できない言葉だった。


セイラは恐怖で震えながら、イヒョンのそばにぴったりと寄り添った。彼女の目は不安でいっぱいだった。


「命令通り、お前を排除する。」


その陰気な声が再び虚空を切り裂いて響いた。


突然、闇の中から空気を切り裂く鋭い音がした。不浄な気配を帯びたボルト、不浄の欠片が闇を突き抜け、イヒョンの心臓をめがけて恐ろしい速さで飛んできた。


「ルメンティア!」


セイラが叫びながらイヒョンを力いっぱい押しやった。


―バチン!―


幸い、ボルトはイヒョンの心臓を外れ、左肩に斜めに突き刺さった。イヒョンは衝撃でよろめき、地面に転がり、セイラは彼を抱きしめながら一緒に倒れた。


肩からねっとりとした血が流れ落ちた。クロスボウのボルトに宿る不浄な気配が、彼の体を這うようにゆっくりと広がろうとしていた。イヒョンは息を荒くし、歯を食いしばった。


「セイラ、大丈夫か?」


彼は片手でセイラを抱き寄せ、かろうじて尋ねた。


セイラは震える体を必死に抑え、頷いた。


「大丈夫です。ルメンティアは私が守ります。守らなきゃ。リセラお姉ちゃんと約束したんです。」


その時、闇の中からゆっくりと静かな足音が彼らに近づいてきた。神殿の冷たい石の床に響くその音は、まるで運命のように、どんどん近づいてきた。

読んでくれてありがとうございます。


読者の皆さまの温かい称賛や鋭いご批評は、今後さらに面白い小説を書くための大きな力となります。

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