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2. 人間ハンター

「ここは…どこだ…」


思わず口をついて出た言葉だった。


彼の前に広がる荒涼とした大地には、草も木もほとんどなく、風に力なく揺れる背の低い茂みだけがまばらに生えていた。


目を細めて、彼は遠くの地平線を眺めた。


小さな丘が連なる地形、そして時折現れる岩々。静かで、寂寥感に満ち、どこか空虚な感覚。


イヒョンがかつて訪れたアメリカ西部のデスバレー砂漠に似ていた。


だが、何か違った。


正確に指摘することはできなかったが、地球と似たような親しみと同時に異質な違和感が混在する、不思議な感覚がした。


彼は立ち止まり、ポケットを探った。


車のキー、レシート、5万ウォン札が数枚挟まれたマネークリップ、そして、ジャケットの内ポケットから馴染みのあるものが手に触れた。


スマートフォンだった。


イヒョンは電源ボタンを押した。画面が点灯した。


一瞬、安堵感が押し寄せた。


だが、すぐに違和感を覚えた。


電波がなかった。


「サービス圏外」という文字が画面上部に表示され、Wi-Fiもデータ通信も繋がらなかった。


彼は時間を確認した。


画面には、書店を訪れた時の時間がそのまま固定されていた。


秒単位すら動いていなかった。


まるで時間そのものが止まったような感覚。その瞬間、奇妙な悪寒が彼の背中を走った。


彼は一つ一つ機能を点検してみた。


通信関連の機能はすべて麻痺していたが、懐中電灯やカメラ、メモ機能は動作した。


彼は懐中電灯を点けては消した。


動作はしたが、それだけだった。電話もインターネットも地図も、何の役にも立たなかった。

「これ…役に立たない装置になってしまったな。」


彼はほとんど使い道がないと思われるスマートフォンを、習慣的にジャケットの内ポケットに戻しながら、予想以上に深刻な状況であることを認識した。


彼はゆっくりと歩きながら周囲を観察した。


空に浮かぶ太陽でさえ、地球で見たそれとは微妙に違っていた。


太陽は頭上に浮かんでいたが、少し大きく、夜空に浮かぶ月のような惑星は、月と呼ぶにはあまりにも大きすぎた。


この情報では東西南北すら判断できなかった。


彼は地形や地物を頭に記憶しながら、遠くに見える丘の方へと歩みを進めた。


高いところに登れば、人の痕跡や道が見つかるかもしれないという判断だった。


歩きながら、彼は無意識に環境を分析していた。


空気、植物、土の手触り。地球のものと大きく変わらなかった。


彼はかつて有望な外科医であり、同時に成功した実業家だった。



彼は膨大な情報を素早く整理し、判断することに長けた人物だった。


だが、この場所ではその分析力も無力に思えた。


数時間歩くと、軽い喉の渇きと疲労が押し寄せてきた。


太陽はいつの間にか空の真ん中に達し、気温は着実に上昇していた。


やがて、息を吸うことさえ熱く感じるほど、空気は重苦しかった。


額と首筋に汗が流れ、口の中はどんどん乾いていった。


喉は焼けるように渇き、舌先はざらざらに乾ききっていた。


陽射しは容赦なく彼の肌を焼き、熱く焼けた地面は熱気を跳ね返し、イヒョンの足首まで熱くした。


歩くほどに足は重くなり、集中力は徐々にぼやけていった。


一番の問題は、どこに向かっているのかさえ分からないことだった。


見慣れた地形も、目印も、誰の足跡もなかった。


ただ荒涼とした大地と風、そしてその間を歩く自分だけが存在していた。


イヒョンは何かの手がかりをつかむために歩いていたが、進む方向さえ分からないその足取りは、まるで果てしない迷路を彷徨うようなものだった。


彼は一瞬立ち止まった。


乾いた唇をぎゅっと結び、灼熱の太陽を見上げた。


息苦しい空気、濃い陽射し。


周囲には口を潤す水さえ見当たらなかった。


だが、彼は焦らなかった。


いや、焦りという感情を忘れて久しかった。


事故以来、彼は恐怖も、不安も、期待も感じなくなっていた。


落ち着いているという表現すら足りないほど、彼は無感情だった。


今、彼が感じていたのは動物的な不快感だけだった。


その時だった。風に乗って何かが聞こえた。


彼は足を止め、耳を澄ませ、音のする方を凝視した。


少し離れた低い丘の向こうで、遠くに砂埃が舞い上がっていた。


「何か…来るぞ。」


風に乗って聞こえていた音は、だんだんと近づいてきていた。


「…こちらへ…行く…」


かすかに聞こえる声。見知らぬ言葉だったが、どこか馴染みのある語彙が混ざっていた。


かつて読んだ古典文献や、何度も繰り返し暗記したラテン語の文と似ていた。


完全に同じではなかったが、意味を推測するには十分だった。


ラテン語の変形言語。


イヒョンはその事実を直感で悟った。


「誰かがいる。」


彼は丘の向こうから聞こえる音に意識を集中した。


叫ぶような声、馬の蹄の音、複数の人間が移動している気配。


イヒョンは音のする丘の方向へ、ゆっくりと身体を動かした。


だが、彼の本能は警告していた。今、あの方向に近づくのは危険だと。


それでも彼はその警告を無視した。


突然、まったく知らない場所に放り出された今、危険でさえも手がかりのように感じられた。


ここがどこなのか、なぜ突然こんな現象が起きたのか、彼が理解するには未知の要素が多すぎた。


何よりも、彼が置かれた現在の状況は安全とは程遠かった。


喉の渇き、方向感覚の喪失、誰の助けも得られない孤立した環境。


ならば、たとえ一つでも情報を得る機会を逃すわけにはいかなかった。


イヒョンは息を吐き、砂埃の正体を確認するため、身を低くして慎重に近づいた。


目は鋭く動き、周囲の地形や動きを見逃さず、頭の中では素早くさまざまな可能性を整理していた。


丘の向こうには、5人ほどの集団が馬に乗って移動していた。


彼らは粗雑で厚い革の断片を編んだ簡素な鎧を身にまとい、一部は肩に獣の骨や牙で作られた装飾をかけていた。


赤い布で頭を縛った彼らのうち何人かは、古びた槍や古い剣、棍棒のような武器を持っていた。


顔を覆い、埃を防ぐためか、ぼろぼろの布でできたマスクを着けていたが、肌が露出した部分には、過酷な生活を物語るかのような傷跡が無数にある者もいた。


彼らの後ろを追う木製の荷車は、軋む車輪の音を立てながらゆっくりと引かれていた。その中には、人々が縄で縛られ、無力に座っていた。


ある者は口に猿ぐつわをはめられ、腕や足首には固く結ばれた縄が肌に跡を残していた。


うなだれた彼らの肩は力なく垂れ下がり、瞳は虚ろだった。


荷車の横では、監視するように馬に乗った強盗の一人が、荷車にぴったりと寄り添って馬を進めていた。


説明されずとも分かる残酷さが漂っていた。


誰かがうめく声が聞こえたが、すぐに周囲で響いた笑い声にかき消された。


イヒョンはその光景を遠くから目撃し、背筋を冷や汗が流れ落ちるのを感じた。


人間狩り。


イヒョンは一瞬で状況を把握した。


彼は本能的に後ろに下がった。


一瞬、身体全体が凍りついたようだった。


初めて見る世界、初めて聞く言語、そして目の前で繰り広げられる人間狩り。


イヒョンはそのような光景を、本や映画の中でしか見たことがなかった。


だが今、彼はその中にいた。


息が詰まり、冷や汗が額を伝って流れ落ちた。


心臓は激しく鼓動し、手足が震え始めた。


頭の中は空白になり、整理されない思考が絡み合っていた。


イヒョンが感じていたのは、処理しなければならないことが多すぎ、混乱して、まるで過負荷がかかった機械のように軋む感覚だった。


イヒョンはすべてを計画し、制御しながら生きてきた人間だった。


日常は徹底したルーティンで保たれ、予測可能な流れの中でしか安心を感じなかった。


だが今、彼はそのすべての秩序が崩れた混沌の中心にいた。


信じがたい現実の光景を前に、彼は少なからず動揺していた。


その時、彼の足元で小さな石が転がり、丘の下へと落ちた。


―カツン、カツカツ―


足元の小さな石が軽く転がり、丘の下へ「コトッ」と落ちた。


その微細な動きが不安定に積み重なっていた他の小石や岩を揺らし、その一つがガタンと音を立てて転がり始めた。


最初はごく小さな音だったが、すぐに重く鈍い轟音が続いた。


岩石がまるでドミノのように次々と転がり落ち、土埃を巻き上げ、小さな土砂崩れのように丘の下へ流れ落ちた。


馬に乗っていた集団が一斉に首を振って、岩と土の塊が崩れ落ちる方向を見た。


複数の鋭い視線が丘の上を素早く走査した。


「そこだ!」


短い叫び声とともに、二人組が腰から剣を抜き、丘に向かって駆け出し始めた。


イヒョンは素早く身体を翻し、走り出した。


だが、足は見知らぬ土地に慣れておらず、身体は重かった。


かつて毎日欠かさず行っていたジョギングも、ここでは何の役にも立たなかった。


そして、でこぼこした荒野の岩の丘と、彼が履いている革靴は、決して良い組み合わせではなかった。


何よりも、彼は今、ひどく疲れ切っていた。


「テネブラ・ウィンクラ!」


誰かが叫んだ。数歩も進まないうちに、イヒョンの足元から黒い霧のようなものが湧き上がり、まるで生きている根のように瞬時に彼の足首と脚を絡み始めた。


脚を這い上がる冷たい気配が全身に広がり、まるで氷のように冷たい指が締め付けるような感覚が足首を締め上げた。


やがて、黒い霧のように立ち上っていた影は、縄のように固まり、彼の足首と脚をがっちり縛り上げた。


それは明らかに自然の現象ではなく、イヒョンが知る科学や技術では説明できないものだった。


知られざる原理によって引き起こされた力。


彼はその力がこの知られざる世界の一部であり、自分がそれに対してあまりにも無力であることを骨身にしみて感じた。


彼は平衡を失い、崩れ落ち、頭が地面に強くぶつかった。


耳元では、彼らの叫び声がこだまのように響いた。


知られざる力、異質な現象。


一瞬にして視界がぼやける中、荒々しい息遣いと笑い声とともに、奴らが近づいてくる音が聞こえた。


「やあ、そいつを見ろよ。気品たっぷりの奴が一人でぽつんと立ってるじゃないか?」


「はっ、そいつの顔を見ろよ。つるつるで、まるで油でも塗ったみたいだ。俺たちとは全然違うな。」


「初めて見る服だ。どう見てもここの奴じゃない。海の向こうから流されてきた奴みたいだな?」


「馬鹿野郎。ここに海なんてあるかよ。」


そのうちの一人が剣の先でイヒョンの顎を持ち上げ、顔を確認した。


「オーリスビアの出身だ、間違いない。昔、白い顔に黒い髪の奴らを見たことがある。ここじゃ珍しい奴らだから、高く売れるぞ。」


「顔も整ってるし、貴族どもの趣味にぴったりだろ。神官の中にも変な趣味持ってる奴らが結構いるじゃないか?」


「ククッ、ともかく一儲けできるぜ。こいつの状態が良ければ高く売れる。殺すなよ。」


意識が徐々に薄れていった。


視界は砕けたガラス片のようによじれ、滲んでいった。強盗たちの顔は歪んだ笑いとともに遠ざかっていった。


黄褐色の肌に濃い眉、額の上に汚れた布で髪を縛った一人が風に揺れ、もう一人は前歯の欠けた口で何かをつぶやきながらケラケラ笑った。


入り混じる声、使い古された革装備から漂う汗と血の匂い、地面のざらついた土の匂いが絡み合った。


やがて視界が広がり、ぼやけていった。


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