182. パボル
イヒョンの眼差しは確信に満ちていた。
黒馬もその気配を感じたのだろうか。もう荒い鼻息を吹き出すことなく、じっと立ったままイヒョンを見つめていた。
他の者の目には、背中にいつ爆発するかわからない爆薬を抱えた怪物で、狂ったやつに映っていた。しかしイヒョンには、磨かれていない原石のように見えた。
「わかりました。こいつと契約しましょう。」
「はあ……どうしてもということであれば。後から返金してくれとおっしゃっても困りますよ?」
「ご心配なく。この後は私が何とかします。」
管理人は心配半分、諦め半分で頷いた。
次はライルの番だった。
「よし!兄貴が黒馬を選んだなら、俺は白馬だ!どうせなら白馬の王子様みたいに!南部の自由な魂には、くすんだ黒よりも眩しい白馬のほうが似合うってもんだ。」
ライルは、つい先ほど黒馬に頭をかち割られそうになったことなど忘れたかのように、あっという間に元気を取り戻して服の乱れを整えた。
放牧場の真ん中で優雅に草を食んでいる、がっしりとした白い馬に向かって、大股でずんずんと歩み寄った。
「おい、かわいこちゃん。このお兄さんと一緒に、この広い世界を旅してみないか?」
ライルが得意のねっとりとしたウィンクを飛ばしながら手を伸ばした。
ぶるるっ——!
しかし反応は即座だった。
白馬はライルの手が届く前に耳をぴたりと後ろに伏せると、前脚を鳴らして激しく威嚇した。
「うわっ!」
ライルはびっくり仰天して後ずさった。
「な、なんだよ?お前までどうして?俺の顔が気に入らないのか?」
ライルは納得いかない様子で相手を変えた。今度は艶やかな濃い茶色の毛並みを持つ馬だった。
「そうだ、お前だ!目つきがなかなか落ち着いてて、話が通じそうな面構えを……。」
ヒィーン!
話が通じるどころか、そいつはいきなり尻をぐるりと向けて後ろ蹴りを放った。
ヒュッ!
ライルは仰天して地面を転がるように避けなければならなかった。もう少し遅れていたら、みぞおちに穴が空くほどの強烈な一撃だった。
こんな状況が何度も繰り返された。
ライルが近づくたびに、おとなしく草を食んでいた馬たちが豹変した。
歯を剥き出して「ぶるるっ」とやるか、前脚を蹴り上げるか、さもなければ汚物でも踏んだように嫌がって尻尾を振り回しながら逃げ去った。放牧場はあっという間に、ライルから逃げ回る馬たちで修羅場と化した。
「ライル、あまり急いで近づかないでください。馬にも礼儀が必要です。」
イヒョンが呆れたように助言したが、ライルは泣きそうな顔だった。
「いや、兄貴!俺ちゃんとゆっくり行ったぞ!猫みたいにそろりそろりと行ったんだ!なのにあいつら、俺を見るたびに疫病神でも見るみたいな目しやがって!」
ライルは悔しくて気が狂いそうだった。
「俺が風呂入ってないとでも?臭いとでも言うのか?いったい俺のどこが悪いんだよ!?」
その時、イヒョンの視線がライルの腰のあたりで止まった。
『……あ。』
「もしかして、あの日以来、ちゃんと洗いましたか?」
「シッ!兄貴、何言ってんだ。ゴシゴシ洗ったって。本当だぞ!」
ライルは結局、放牧場の隅にひとりぽつんと離れていた老いた馬のもとへと向かった。
肋骨が浮き出るほど痩せ細り、目やにがこびりついたやつ。ライルが近づいても反応する気力すらないのか、ぼんやりと虚空を見つめていた。
「……はあ。そうか、まさかお前が俺の運命の相手なのか?」
ライルが虚脱した表情で老いた馬の首を撫でようとした。
ぺしっ!
しかしそいつは面倒くさそうに頭を激しく振り払い、ライルの手を弾き飛ばした。そして「ふんっ」と鼻息を吹いて、尻をぐるりと向けてしまった。
「うわ……本当にひどい!明日死んでもおかしくなさそうな馬にまで舐められた!」
ライルが頭を抱えて絶叫した。
イヒョンは腕を組んだまま、その奇妙な光景を眺めていた。
おかしかった。いくら見知らぬ人間でも、放牧場の馬全頭がこれほど敵対的に振る舞うことはまずない。しかもこいつらは、人の手に慣れたおとなしい馬たちではないか。
まるでライルの存在そのものが、馬たちの神経を逆撫でしているようだった。
「管理人さん。」
「はい、おっしゃってください。」
「元々、馬というのはここまで人見知りするものですか?私の連れにだけ、特別に敏感に反応しているように見えるんですが。」
管理人も首を傾けながら顎鬚を撫でた。
「さあ……見知らぬ人を警戒することはありますが、あんなふうに揃いも揃って嫌がるのは私も初めて見ます。普通は餌さえやればすぐ懐くもんですが。」
管理人は、ライルが馬に近づくたびにびくりとして肩をすくめる様子をじっくりと観察した。そして少しして、何かに気づいたようにイヒョンのほうへぐっと身を寄せた。
「お客様。」
「はい。」
管理人が手で口を覆い、ひそひそと囁いた。
「私の見立てでは……馬たちがあの方を『下に見ている』んだと思いますよ。」
「下に見るとは?」
「馬は見かけによらず、非常に敏感で序列に敏感な動物です。自分より強い存在、つまり『リーダー』には従いますが、弱そうに見えたり頼りなく見える存在は、不思議なほど正確に嗅ぎ取って舐めにかかります。」
管理人は確信のある目つきで、しかし静かにイヒョンに告げた。
「あの方……堂々としてはいらっしゃるんですが……何か怯えていると言いますか……そんな感じがするんですよね。はははっ。」
「……!」
イヒョンの目が見開かれた。その瞬間、絡まっていた糸がほどけるように、すべての状況が鮮明に理解できた。
ライル・ヴェルディアン。はったりと口達者、大げさな身振りで武装しているが、その本質は筋金入りの臆病者だ。
人間の目は演技で誤魔化せても、野生の本能を持つ獣の感覚は誤魔化せなかったのだ。
『心拍数、冷や汗、微細な筋肉の震え……馬たちはそれを読み取っているんだ。』
馬はもともと食物連鎖の下に位置する草食動物だ。臆病なリーダーは群れを危険にさらす。だからこそ馬たちは本能的に、臆病者が自分の背に乗ることを拒む。
信頼も依存もできない「弱い存在」に支配されることを、侮辱として感じるのだ。
『皮肉なもんだ。』
誰よりも臆病だからこそ、誰よりも優れた生存本能を持つ男。しかしその溢れんばかりの臆病さのせいで、移動手段すら確保できないとは。
「うわあああ!なんで!いったいなんでだよ!」
ライルの絶叫が放牧場に寂しくこだました。
近づくたびに後ろ蹴りを食らうか、唾を吐きかけられるか、果ては尻を向けて糞を垂れながら逃げていくやつまでいた。
「兄貴……俺、呪われてんじゃないか?馬たちが俺から何か腐った臭いでも嗅ぎ取ってるみたいだ。」
ライルが泣きそうな顔でイヒョンを見つめた。
イヒョンは老いた馬にまで無視されて呆然としているライルを見ながら、込み上げてくる苦笑いを飲み込んだ。
臭いではなく、彼が滲み出させている本能的な臆病者の気配を、馬たちが鮮明に感じ取っているのだったが、わざわざ事実を突きつけてやることはしなかった。
今の彼に必要なのは事実の直撃弾ではなく、鈍感な馬一頭だったのだから。
「兄貴……。」
ライルが世界の全てを失ったような顔でとぼとぼと歩み寄ってきた。
「俺、もう歩いて行こうか?馬たちが俺を嫌だって言うんだし、前世で馬を食い荒らす鬼神だったのかもしれない。」
「いいえ。方法があります。」
イヒョンは管理人のほうを振り返った。
臆病者を乗せてくれる勇敢な馬はいない。ならば、怯える暇も与えないほど鈍いか、あるいはその臆病さすら感じ取れないほど間の抜けたやつが必要だ。
「管理人さん。」
イヒョンが落ち着いた口調で注文した。
「あそこにいる馬の中で、一番……お間抜けな……いや、性格がおおらかで鈍感なやつを紹介していただけますか。臆病者を乗せても、乗せたことにすら気づかないくらい鈍いやつを。」
「ちょっと兄貴!言葉選べよ!全部聞こえてるぞ!」
ライルの抗議は虚空へと消えていった。
「お客様。どうしてもということでしたら……最後の手が一つだけありますが。」
様子を見ていた管理人が、ひどく困った表情で口を開いた。
「まだ若くて、とても丈夫で、スタミナだけは抜群のやつが一頭だけ残っています。性格がとにかくおおらかで、誰が背に乗ろうとまったく気にしないやつです。」
「お!最初からそれを見せてくれればよかったじゃないですか!どこにいるんですか、その隠れた名馬は?」
死にかけていたライルの目がふたたび輝いた。
管理人はしばらく間を置いてから、放牧場の一番奥まった場所にある粗末な柵へと二人を案内した。
柵の隙間から斜めに差し込む日差しが、空気中の埃と混ざり合い、金粉のように漂っていた。その気だるい光の群れの中で、灰色の毛並みを持つ獣が黙々と顎を動かしていた。
力なくだらりと垂れた長い耳は、重力に逆らえないまま、顎が動くたびにリズムを刻むようにかすかにぴくぴくと揺れていた。
「ガリ、ガリ。」
乾いた草の茎がきゅうきゅうと臼歯の間でゆっくりと砕かれる音だけが、静かな空間を規則正しく満たしていた。獣の瞼は重くのしかかり、黒い瞳を半分ほど覆っていて、その緩慢な瞬きには、世界の速さを忘れたような余裕が滲んでいた。
そいつが息をぐっと吐き出すたびに、ぴくぴくと膨らむ鼻孔から漏れる温かく湿った鼻息が、朝の空気の中へ白く広がっていった。干し草の香ばしい匂いと獣特有の温もりが混ざり合った臭いが、鼻先をかすめた。
「……ロバ?おい、これは馬じゃないぞ!」
ライルの表情が腐った大根のようにくしゃりと歪んだ。
馬とロバのあいだに生まれた混血。力は強くて丈夫だが、見た目がお世辞にも褒められない代物だった。
「こいつは感覚が少し鈍いんです。おそらく、お客様を拒まない唯一のやつかと。」
「いや、でも一応双剣のライルだぞ……ロバはちょっと……。」
ライルはぶつぶつ言いながらロバに近づいた。
すると不思議なことが起きた。ライルが鼻先まで近寄って鼻面を撫でても、そいつはまったく反応しなかった。
ただ「またうるさいハエが来たな」とでも言いたげな目でぱちくりしながら、噛んでいた干し草を噛み続けるだけだった。
「あれ?おとなしくしてるぞ?」
ライルが恐る恐る手綱を掴んで引いてみた。ロバは素直に、いや面倒くさそうにのそのそとついてきた。拒絶感も敵意もなかった。
完璧な無視、あるいは完璧な適応だった。
「はあ……仕方ない。歩いていくよりはマシか。」
結局ライルは諦めて、ロバの鞍をぽんぽんと叩いた。
「よし、今日から俺たちはパートナーだ。管理人さん、ところでこいつの名前は何ですか?」
「パウォル(Pavor)です。」
「パウォル?おお、語感いいじゃないか?何か意味ありげだし。古代語っぽくもある。」
ライルの表情が少し明るくなった。口に馴染む重厚な響きがすっかり気に入った様子だった。
「パウォル、パウォル。どういう意味ですか?『偉大なる忍耐』?それとも『秘めたる力』?」
管理人は空咳をしながら、そっと視線を逸らした。
「あ……それが……『臆病者』という意味です。」
「……。」
ロバを撫でていたライルの手が、宙でぴたりと止まった。
しばらくして、彼の両頬がフグのようにぱんぱんに膨れ上がった。
「なんでよりによってそんな意味なんだ!名前までそれかよ!俺をからかってんのか!?」
ライルはロバの手綱を掴んでがくがくと揺さぶりながら、ぷりぷりと怒り散らした。
しかしロバ、いやパウォルは、主が騒ごうが騒ぐまいが、平然と大きなあくびをするだけだった。
「ぷっ。」
周りで見ていた野次馬たちと管理人は、結局こらえきれずに顔を背けた。
臆病者の旅人と臆病者のロバ。ハスケル史上、最も完璧なコンビの誕生だった。
「で、兄貴の馬は?あの真っ黒なやつの名前は何て言うんだ?」
ライルが不満そうにあごをしゃくって黒馬を指した。管理人は肩をすくめた。
「あいつは人を近づけないもんで、名前をつける間もありませんでした。ただ『狂った馬』か『黒い怪物』と呼ばれてたんです。名前はありません。」
「チッ……名無しの気性の荒い怪物と、臆病者か。俺たちも大概だな。」
ライルは口をとがらせて、地面をつま先でとんとんと蹴った。
イヒョンはふてくされているライルに近づき、ロバの額を撫でながら淡々と口を開いた。
「悪くないですよ、パウォル。」
「何が悪くないんだよ。堂々と臆病者だって言ってるのに。」
「動物が怖いもの知らずだと困ります。怖さがなければ崖の前で立ち止まらず、猛獣の前でも逃げませんから。」
イヒョンの視線がライルへと向いた。
「臆病だということは、慎重だということです。危機を察知する用心深さがあるということ。少なくとも、背に乗っている主人を無謀な危険に引き込むことはないでしょう。」
イヒョンはかすかな笑みを浮かべて付け加えた。
「ライルには、勇猛な駿馬よりもずっと優れたパートナーですよ。」
「……え?」
ライルが目をぱちくりさせた。
言われてみれば、なるほどと思えた。自分があの数多くの戦場を生き延びてこられた秘訣も、結局はその並外れた「勘」と「臆病さ」のおかげではなかったか。
「ふーむ……慎重で用心深いか。『臆病者』より『慎重派』のほうがマシだな。」
単純なライルはあっという間に機嫌を直した。耳が薄いのが彼の最大の欠点であり、長所でもあった。
彼はポケットからあらかじめ用意していたニンジンを一本取り出し、ロバの口に咥えさせた。
「そうだ、パウォル。兄ちゃんとうまくやろうな。お前も俺みたいに細く長く生きたいだろ?ニンジンやるから言うこと聞けよ。」
もぐもぐ。
ロバはニンジンを受け取りながら、ライルの肩に頭をすり寄せた。臆病な主人と臆病なロバ。妙にしっくりくる一対だった。
「行きましょう。すぐに競売場が混み始めますから、私たちは先に抜け出したほうがいい。」
イヒョンは黒馬の手綱を掴んだ。
黒馬は相変わらず他の者には近寄らせず荒い息を吐いていたが、イヒョンの手には素直に頭を下げた。
一人は名もなき狂馬を、もう一人は臆病なロバを引いて。
気質も、見た目も正反対の二人は、妙な対比を成しながら馬小屋を後にした。ハスケルの朝の陽光が、彼らの背後へと長く影を落とした。
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