第十七話 創造の力と王都到着
オリバーの村を発ったのは、朝の光が柔らかく山肌を照らす頃だった。
グレックの馬車は再び王都に向けて進み出し、私たちは荷台の上で揺られながら、どこか安心した空気に包まれていた。
その静けさを破ったのは、ミルフィの一言だった。
「ねえ、シグイ、ちょっと聞いてもらってもいい?」
「ん?」
「前に、あの廃屋で“感じた”って言ったじゃない? あのとき、本当は——“視えた”の」
ミルフィの声は静かだったけれど、どこか張り詰めたものを含んでいた。
「視えた?」
「うん。私の一族には、“視る力”が伝わってる。ほとんどの人は開花しないけど、私は幼い頃に一度、強く出たことがあって……。それ以来、時々だけど、“ギフトにまつわる痕跡”が視えるようになったの」
私は息をのむ。
そういえば、ミルフィの一族は昔から“記録と観測の民”と呼ばれていると聞いたことがあった。神祝福を研究する一族。その一端だったのだろうか。
「廃屋のとき、ジウイのギフトに似た気配を感じたって言ってたよね?」
「ええ。でもあれ、単なる気配じゃなかった。——封印に近い何か、創造の力そのものが“押さえ込まれていた痕跡”があった」
「封印……?」
「それと、もうひとつ……。古文書で見たの。“創造の力”は、過去に一度だけ、世界を変えるほどの事件を起こして封じられたって」
「世界を……?」
「名前は残っていなかった。でも、記録にあった描写は、どうしてもジウイのギフトと似てる。思い描いたものを現実に生み出す力。けれど、かつてその力が“崩壊”を引き起こしたと書かれていた。——想像と創造が一致しなくなったとき、破綻する、って」
私は思わず口を押さえた。
今まで、アニマはただの小動物で、便利で、かわいくて、ちょっとした騒ぎを起こすくらいだった。
でももし、私の力が、“かつて封じられた何か”と同じものだとしたら——?
「ジウイのギフトには、危うさがある。私はそう“視た”の」
「でも、封印されてたってことは……誰かがそれを制御しようとしたってことだよね?」
カイルが口をはさんだ。腕を組んで、空を見上げながら続ける。
「つまり、力が悪なんじゃなくて——扱い方の問題だ」
「それは、そうかもしれない。けど……」
ミルフィの瞳は、どこか遠くを見つめていた。
「もしかしたら、王都に行けば、その記録の続きがあるかもしれない。大聖堂の典籍室に残っている可能性もある」
私は拳を握りしめた。
「じゃあ、やっぱり行こう。王都で、調べてみよう。——この力の、意味を」
「うん。私も協力する」
「俺もな。お前の力がなんであれ、お前が使いこなす気なら、俺は信じる」
カイルが短く笑って、背もたれに身を預けた。
そのとき、チュッタが「ピヨッ」と鳴いて、荷台の上に降り立った。
「ふふ、いいタイミングだよ、チュッタ。あなたのことも、調べることになるかもしれないね」
私たちの旅は、少しずつ、ただの馬車旅ではなくなっていく。
それでも——この世界に与えられた“贈り物”の意味を、私たちは探しに行く。
王都の尖塔が、遠くに小さく見え始めた頃だった。
そして——
「……見て、あれが王都だよ!」
私が声を上げると、馬車の屋根に腰かけていたミルフィが身を乗り出した。
遠く、陽光に照らされてそびえる、白亜の尖塔。その周囲に広がる高い城壁と、ぎっしりと立ち並ぶ建物の影。まるで一枚の絵のように、整った街並みがそこにはあった。
「おお……でっけぇな」
カイルが目を細める。
「ま、王都ってのはそういうもんさ」
グレックが前方を見据えたまま、手綱を引きながら呟く。
だが、近づくにつれて私たちはある“現実”に直面する。
「……って、なんか……めっちゃ並んでない?」
王都の大門の前には、荷車や馬車、徒歩の旅人たちがずらりと列をなしていた。少なくとも数百人はいるだろうか。騎士団風の恰好をした係員たちが門前で通行証や身元の確認をしており、進みはかなり遅い。
「うわー……これ、いつになったら入れるの……?」
ミルフィがげんなりした声を出す。
「ふむ、祭事か何かが近いのかもな」
カイルが眉をひそめる。
「まぁ、しゃーねぇ。ここまで来たら、あとは待つだけさ」
グレックはため息をつきながら、列の最後尾に馬車を並べた。
「……ねえ、ミルフィ。この王都の礼拝の話、もしかしてすでに関係してたりして」
「可能性はあるわね……。王都で情報、集めないと」
「ちょっと聞いてくるわ」
カイルが馬車からひょいと飛び降り、隣に並んでいた旅人風の男に声をかけた。男は汗をぬぐいながら、面倒くさそうに顔を上げる。
「……なんだ、あんたも初めてか?」
「いや、王都に来るのは初めてじゃない。こんなに混んでるのは久々だなと思ってな」
男は肩をすくめる。
「そりゃ、もうすぐ大礼拝があるからさ。数年に一度の大祭だが今回は今までにない規模だって話だからな、遠くから信者も貴族も押し寄せてる。王都内の宿なんてもう満室だろうよ」
「なるほどな……検問が厳しいのもそのせいか?」
「ああ。噂じゃ、変なもん持ち込ませないように、持ち物検査がいつもの倍って話だ。薬草ひとつにも目を光らせてるとかで、錬金術師や薬師は特に時間がかかってるってさ」
「……ギフトの確認とかは?」
男は鼻を鳴らして笑った。
「おいおい、ギフトなんて誰がそんなもん、門番に見せんだよ。あれは基本、家族や仲間にしか言わんのが普通だろ? そもそも見た目じゃわかんねぇしな」
「そっか、ありがとな。助かった」
カイルは軽く手を上げて戻ってくる。
「どうだった?」
私は声をかける。
「やっぱり大礼拝が近いんだとよ。検問が厳しくなってるのはそのせいで、特に爆発物や薬品なんかは慎重に見てるらしい」
「……オリバーの薬、見つからないといいけど……」
ミルフィが不安げに呟く。
「ギフトの確認はないそうよ。さすがにそこまでは踏み込まないって」
「それなら……まぁ、問題ないかな」
長蛇の列はゆっくりと、しかし着実に進んでいた。
「オリバーにもらった薬が気になるようなら、俺の荷物に入れておいてやろう、これでも王都の商人だからな」
グレックがニヤリと笑いながら荷台を叩く。頼れる男のその一言に、私たちは少し肩の力を抜いた。
行列はじわじわと進み、ようやく私たちの番が来た。門番たちは荷物を入念に調べたが、グレックの手慣れた応対のおかげで特に問題は起きなかった。
そして——
「よし、通っていいぞ」
その言葉とともに、重々しい王都の門がゆっくりと開かれた。
石造りの街並みと、尖塔の影が私たちを迎える。これまでの旅路とはまったく異なる、威厳と喧騒の世界。
こうして私たちは、ついに王都へと足を踏み入れたのだった。
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