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第十一話 ゆるむ日差し、ほどける鼓動

傾いた陽が、森の枝葉を透かして淡くこぼれ落ちる。日中のぬくもりは名残を残しつつも、空気は少しずつ夜の気配を帯び始めていた。

三人と三匹の影は、長く細く地面に伸びながら、ゆっくりと町への道を進んでいく。


 町に戻る道は、来たときよりもずっと明るく感じられた。


 「ねえジウイ、その鳥……なんか歌ってない?」


 ミルフィが笑いながら指差す。ジウイの肩に止まった小鳥のアニマが、口元をちょんちょんと開き、リズムのような音を出していた。鳥の言葉ではないけれど、どこか気持ちが浮き立つような響きだった。


 「……歌ってる、かも」


 ジウイが苦笑すると、小鳥がぴょんと頭をつつくように跳ねた。まるで、照れ隠しをするみたいに。


 後ろをついてくるもふもふウサギも、今日に限ってやたらと跳ねている。

道端の花に顔を突っ込んでくしゃみをしたかと思えば、突然、カイルの足元に突進してきて、彼をたじろがせる。


 「ちょ、重っ……! おい、こいつテンションおかしくないか?」


 「いつもより二割増しくらいで元気だね」と、ミルフィが笑った。


 「……安心したんじゃない? 結界の残響、消えてたから。あれって、アニマたちにもずっと重かったのかも」


 ジウイはそう言いながら、歩みを止めて、ふと振り返る。さっきまでいた境界の森の奥が、静かに風に揺れている。


 「わたしの目も、あれ以来、変な感じしないし」


 「紋章、消えてた?」とミルフィ。


 「うん、たぶん。今は、ただのジウイ」


 そう言うと、肩の小鳥がくちばしを軽く擦り寄せてきた。アニマたちは、確かに“何か”を感じている。言葉ではない信頼。説明のできない、でも確かな安心。


 「……じゃあ、ちゃんと描いてやらないとね」


 ジウイはそう言って、スケッチブックを取り出す。小鳥は「待ってました!」と言わんばかりに、ぽんと翼を広げた。


 カイルは半分呆れた顔でため息をつきながらも、ほんの少しだけ笑っていた。


 「寄り道はほどほどにな」


 「はいはい、かっこいい兄ちゃん、道案内よろしく~」


 軽口が交わされるたびに、足取りが軽くなる。大きな事件が終わったわけではない。でも、たしかにいま――ジウイは、少し前よりも息がしやすくなっていた。


 誰かに認められたわけでも、全部を解決したわけでもない。


 けれど、自分の力を少しだけ受け入れられた気がした。



町に戻った三人は、ひとまず馴染みの宿に腰を落ち着けた。


「じゃあ改めて、今後の方針だけど……」

 ミルフィが広げた地図の上には、彼女の字でいくつかの注釈が書き込まれていた。


「境界の手前で見たあの結界跡、そして黒ずみに侵された動物。どれも手がかりになるけど、現状は断片ばかり。

……私は、森のどこかにあるって言われてる“古い神殿”が気になるかな。地元の伝承だと、祈りの場所でもあり、何かを封じる場所でもあったらしいし」


「遺跡なんて、お宝の予感しかしないな」とカイルが笑いながら腕を組む。


「お宝とか、そういうのじゃないと思うけど……」ジウイは呆れたように小声で言いながらも、鳥のアニマを肩に乗せ、地図をのぞき込んだ。




 翌日、彼らは町で得た手がかりを頼りに森へと向かった。


 木々が折り重なるように茂る静かな谷に、それはあった。半ば崩れた石造りの柱、絡みつく蔦。天井はとうに抜け落ち、石畳も風化して苔むしていた。


「……これか、神殿の跡?」


 誰ともなく呟いた言葉が、苔の匂いにまじって消えていく。確かにそこには建物の痕跡があった。だが、結界の痕も、魔力の残滓も、何一つ感じられない。


「違和感はないな。……っていうか、逆に違和感があるくらい何もない」


 カイルが慎重に周囲を歩き回る。ミルフィも古びた石の装飾に手を当てて感触を確かめていたが、首を振るばかりだった。


「封印の痕跡も、結界の名残もなし……か」


 風が吹いた。柔らかい日差しが差し込み、鳥のアニマがジウイの肩からふわりと飛び立つ。しばらく神殿跡の上を旋回し、何も見つからなかったとばかりにまた戻ってきた。


「まあ、こんな日もあるよね」

 ジウイが苦笑しながらそう言うと、ミルフィも「うん」と笑った。


「少しのんびりして、戻ろうか。夕方までには町に帰れるし」


 草の上に腰を下ろし、風を感じる。モフモフのウサギが足元で丸くなり、小鳥がジウイの髪をついばむ。ネズミは葉の陰から顔を出し、じっとあたりを見ていた。


 何も得られなかった日。それでも、前日の緊張から解放されて肩の力を抜ける日でもあった。


読んでいただきありがとうございます。

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毎日3回程度投稿しています。

最後まで書ききっておりますので、是非更新にお付き合いください。

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