リアルネットサーフィン
学校が終わると同時に、勢いよく教室を飛び出していく。
彼の名前は山田太郎、生粋のネットサーファーである。
自分の机と椅子に座るや否や、太郎は息もつかずパソコンを起動した。
太郎は慣れた手つきで、素早くブラウザを開く。
すると突然、彼の部屋が激しく揺れ始めた。
驚いて椅子から飛び上がった瞬間、モニターが渦を巻き始める。
なんと現実世界にもはみ出した渦は、太郎を飲み込み、太郎ごとパソコンの中に消えた。
太郎がいなくなった部屋は、驚くほど静まり返っていた。
気がつくと、太郎はChromeのような丸い浮き輪に掴まって浮いていた。
周囲を見渡すと、そこは無限に広がる青いデジタルの海。
波の代わりに、1と0の数字が押し寄せてくる。
ざあざあと、電子音がさざなみのように聞こえた。
「はぁ!?これが本当のネットサーフィンかよ!」
太郎は悲鳴を上げながらも、何とかバランスを取ろうとする。
すると遠くから、巨大な広告バナーの波が迫ってきた。
「このままじゃ押し流される!」
咄嗟に、近くに浮いていたグーグル検索バーを掴み、サーフボードのように使い始める。
なんと、それはとても効果的だった。
太郎は見事に広告の波を乗り越え、穏やかなウィキペディアの島へとたどり着いた。
太郎はそこで美しい女性と出会った。
彼女の名は@Sakura_123。
彼女もまたネットの世界に迷い込んだという。
二人は意気投合し、共にインターネットの荒波に挑むことを決めた。
しかし、ネットの世界の夜は現実とは違い危険が満ちていた。
昼よりも多くのユーザーが殺到する20時から23時には、情報の津波がウィキペディア島にも襲ってきた。
安全だと思っていたウィキペディア島でも、豪雨になり、次々と噴火が起き、火山灰が降り掛かってくる。
だが危険な海に出る訳にはいかない。
二人は小さな洞窟の中で、必死に雨風をしのいだ。
強風によって、入口からも大量の雨と火山灰が入ってくる。
それでも、仲間がいるということより心強いことはなかった。
次の日の空は、まるで昨日の豪雨なんてなかったように晴れ渡っていた。
@Sakura_123こと、サクラは空を見上げ言った。
「もっと安全な場所に行かないと。」
太郎も同意見だった。
そこで、二人は協力していかだを作ることにした。
太郎が木と植物を集め、サクラがそれを紐にして組み上げる。
丸2日かけて、ようやく頑丈ないかだが完成した。
幸い、初日の夜ほどの嵐はやってこなかった。
そしてネットの世界に来てから3日目、ついに冒険に出発することを決めた。
冒険の目的は大きく2つ。
1,元の世界に帰る方法を見つけること
2,この世界でも生きていけるようになること
元の世界に帰るのが最大の目的だが、もし無理だった場合に備えて、最低限この世界で暮らせるようにはしたい。
2日半を過ごしたウィキ島に別れを告げ、二人は暴れ渦巻く大海へ乗りだした。
しかしその時、遠くから轟音が響いた。
見ると、巨大なシステムエラーの津波が迫ってきている。
「逃げろ!」
二人は必死にいかだを漕ぎ続けるが、ついに波に飲み込まれてしまう。
「はっ!」
太郎は汗だくで目を覚ました。
モニターにはエラー画面が表示されている。
隣には「インターネット接続が切断されました」の文字。
太郎はため息をつき呟いた。
「はあ、ネットサーフィンって危険なんだな......。」
こうして、太郎のリアルネットサーフィンは幕を閉じた。
しかし、彼の心の中では、どこかで@Sakura_123に再会できる日を夢見ていたのだった。
ある日、太郎がいつものようにSNSをチェックしていると、驚くべきことが起こった。
@Sakura_123というユーザー名のアカウントを見つけたのだ。
プロフィール写真は、まさにサクラそのものだった。
太郎はすぐにメッセージを送る。
「もしかして、ウィキペディアの島で会った?」
数分後、返信が来た。
「信じられない。まさかあの太郎さん?」
太郎は、サクラと現実世界で会うことを決意した。
約束の日、緊張しながら待ち合わせ場所へ向かう太郎。
そこで彼は、画面越しではなく本物のサクラに出会った。
「やっぱり君だったんだね」と太郎。
サクラも嬉しそうに頷いた。
「私たちの冒険、夢じゃなかったんだ。」
それ以来、太郎とサクラは親しい友人になった。
ある日、太郎がサクラの家でネットを使っていると、画面が突然歪み始めた。
「まさか...」二人は顔を見合わせる。
モニターから光が溢れ、二人を包み込んだ。
気がつくと、彼らは再びあのデジタルの海の上にいた。
「また来ちゃった...」
太郎は呟いた。
サクラは興奮気味に言う。
「でも今度は、二人一緒よ!」
こうして、太郎とサクラの新たな冒険が始まった。
今度は何が待ち受けているのか。二人は期待と不安を胸に、デジタルの波に乗って進んでいくのだった。