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私の愛し人  作者: 鏡花水月
第一部 失楽園
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魔法の使い方

 部屋に戻ると側仕えと護衛を外に待機させた。夕食まで入ってこないでね、と告げると頷いて出ていった。


「……ゔっ」


 バタバタとトイレに向かいゲエエエと吐いた。


 ……胃が。胃が狂ってる。ラリってる。気持ち悪い……。


 さっきからずっと吐きそうだった。胃が食べ物を拒否している。グルグルグルグルなるお腹を抑えながら必死に吐き気と戦った。


「っはあ、げっほ!ごほ!」

『大丈夫?』

「……だいじょばないです」


 あらーと言われた。あらーじゃねーよ。ふざけんな。


 息を整えてトイレの中を見てみる。この世界ではたして水洗トイレがあるのかないのか。


「……え、気持ちわる!」


 何故かネバネバとした物体がトイレの底にいた。これは何!?


『それスライム』


 スライム!?私が知ってるスライムと違いますが!?


 薄緑色に所々ピンク色も入った謎の物体が蠢いていた。しかもぼっとんトイレである。落ちたらどうしてくれよう!?


 うごうごと緩慢に動きながら私の吐いた物を取り込んでいる姿は、ミス汚物の座に座るのに相応しい佇まいだった。おおぅ……、汚い。


 なんでスライムがこんな所に?と記憶を探ってみると、どうやらこいつらはどんな物でも時間をかけたら分解できる性質を持っているらしい。しかも結構な数が生息しているので乱獲しても大丈夫。各家庭で一匹飼うことにより自宅でゴミ処理ができるという素敵さんだ。ごめんね、きもいとか言って。


 ゴミでもなんでもいいから何か物をやっておけばそれが餌になる。スライム達のおかげでトイレの後処理や街を清潔に保つことが容易になり、この世界の感染症で死ぬ人が少なくなった。


 ……若干こいつら残飯か汚物しか食べれないんだ可哀想と思ったけど。仕方ない、これも捕まってしまった者の定めだ。強く生きろ。


 トイレに隣接している水場で口をゆすいだ。口の中に広がる吐瀉物の感覚が無くなり少し気分が良くなった。


 あー、疲れた。


 ポキポキと身体を鳴らしながら自室に戻ろうとするとリーゼロッテに止められた。何?


『ここで魔力を使う練習をしよう』

「え!?ここトイレですよ!?」

『ここじゃなきゃ駄目なの!』


 なんと、自室で話すと外にいる護衛達に話が聞かれるかもしれないので、少し奥まった場所にあるここが話し合いのベストだそうだ。魔法の使い方が分かれば盗聴防止の魔法が使えるらしい。


「……ん?でも朝私達普通に話してましたよね?聞かれてないですか?」

『リリーベルが聞こえないように盗聴防止の魔法陣を張ってくれてたから大丈夫。でもあれお部屋から出ると消えちゃうやつだから今はもうないの』


 ……リリーベルさーん!


 イケメンだ!顔も心もイケメンだ!気遣いの塊だ!素敵さんだ!貴方に会うのは怖いから無理だけど今すっごく感謝してます!素敵!イケメン!


 リリーベルさんの好感度がぐんぐん上がる中、第一回リーゼロッテの特別集中講座〜魔法の使い方について〜が始まった。頑張ります!


『はいまずは身体に流れている魔力を意識しようね』

「はい先生!どこをどう意識すれば魔力の流れがわかるんですか?」

『厳密には違うけど血液と一緒に流れてあると考えましょう』


 おっけー。ん?これか?


 血管の中に血液以外の何かが流れてるのかなー?と思って意識してみるとあった。液体のようで所々結晶化しており、身体中を循環していた。


『はい、じゃあ意識してねー。ちょっと早く魔力を巡らせてみて』

「イエス、閣下(サー)!」

『ノリいいね』


 行け!ほと走れ魔力よ!身体を駆け巡れー!


 ぐんぐん身体中に魔力が巡り、なんだかポカポカし始めた。もうこれ血液と同じでは?


『いいよー!キレてるよ!』

「うおりゃー!」


 次第に身体から薄い(もや)が出てきた。ゆぅらりゆぅらりゆーらゆーらと揺れていて不思議な色合いをしていた。


「せんせー!これは何ですか!?」

『溢れ出した魔力です、特に害はないので放置で』

「ラジャー!」


 ぐるぐるぐーるぐる……。待っていつまでこれ続けるの?


「あの、もう結構です!」

『はいじゃあ次はお腹の辺りで長方形のものをまたみたいに手を作って』

「こうですか?」

『違う、手同士の感覚をもっと広げて』

「こうですか!?」

『そう。じゃあ魔力を右の手から左の手に移動させて。距離はそのままで』


 なんと、手から手に魔力を移せという課題だった。やってみるが、意外と難しい。


『もうちょっと無駄を無くさない?』

「ちょ……っと待ってくださいね」


 頭の中で理科の実験を思い浮かべた。それなりの距離がある鉄柱同士が電気を行き来させるあれである。いや、そもそもあれは理科の実験だったけ……?


 唸っていたらなんとかできた。無駄なく魔力を移すことができている。色付きだからどういうふうに流れているのか分かりやすい。


「できました!」 

『はいじゃあそれをもうちょっと続けて』


 指示通りにしながらちょっとしたお喋りをする。他のことをしてても余裕でできるようになるなんて、私すごくない?今度お姉ちゃんに褒めてもらおう。


「なんか身体の中に魔力の塊があるんですが……。これ詰まったりしませんか?」

『あぁ、それわざと。魔力濃度を低くするために結晶化してるの』


 話を聞いてみるとこの世界では魔力量が多いと重宝されるらしい。親の魔力量が多いとおのずと子供の魔力量も多くなるので、身分が高い人の伴侶になることが多いそうだ。


「身分が高いと魔力量が高いんですか?」

『魔力量の多い人が身分が高いの。自分より下位の人が魔力量を多い子供を産むのが嫌だから娶るんだよ。そんなプライド無い方が楽なのにね』


 リーゼロッテは魔力量が幼い頃から多かったらしく、これいつか絶対高位の貴族のもとに嫁がされるぞ、と思ったらしい。成長と共に増える魔力を結晶化、もとい圧縮して魔力量を詐欺っていたらしい。


「なんで高位の人と結婚するのが嫌だったんですか?」

『レオと付き合ったあとに気づいたの。恋人がいて結婚の約束もしてるけど、公式ではないでしょ?何言ったって多分無理矢理婚約させられるだろうから、なら自分の価値を下げようって思って』


 『もともとあの人達のために誰かに嫁ぐなんて嫌だったし』と言われた。それはほんとにわかる。ていうかなんで一回しか会ってないのに気持ちがわかるのか。


「魔力量が多いとかってわかるものなんですか?」

『自分より多いか少ないかなら魔法を使えるひとは誰でも分かるよ。公爵家の血筋なら自分がどのくらいだとすると相手はこのぐらいって分かるよ。お姉ちゃんみたいな裏七大貴族も分かるけど』


 裏七大貴族ってなんですか?カオリお姉ちゃんとなんの関係が?と思いながらあれ?と思う。


「魔力を圧縮する意味って……?」

『圧縮するとその分他の人に魔力が見えなくなるんだよ。皆んな自分の力を誇示したいからしないだけでもとからそういう方法はあったよ』


 記憶を覗くと、魔力量が多いとチヤホヤされているそうだ。わざわざ非モテになりたい人なんていないのであろう故に、リーゼロッテがこんな小細工をしているとは誰も思わなかったに違いない。


 ……姑息!姑息だよ!リーゼロッテさん!


 しかしながらリーゼロッテの目論見は功をそうし、貴族の子息との婚約はもっと成長してからにしようとなったそうだ。おかでレオンハルトと存分に付き合うことができたらしい。よかったね。


「魔力って詰まったりしないの?」

『するよ。でも大きさをちゃんと考えてれば詰まることはないから大丈夫』


 あー、タピオカミルクティーみたいな物か。あれだってストローで吸い込む時ミルクティーと一緒に普通にストローを通ってるし。ストローが魔力を通す管、ミルクティーが普通の魔力、タピオカが圧縮されて結晶化した魔力の塊ね。理解した。


『ちなみに結晶化した魔力は魔石って言うの』

「へぇ〜」


 魔石も魔力を含んでいて、魔力含有量が高いほど高く売れるそうだ。髪の毛や血にも魔力が含まれているが、魔石の方が見た目が良いため好まれるらしい。


「魔石ってどこで手に入るんですか?」

『魔獣を倒したら手に入るよ。でも生き物なら誰でも魔力を持ってるから、別に人間を殺しても魔石はとれるよ』


 生き物が死んで時間が経つと心臓部分に魔力が溜まっていき結晶化して魔石になる。魔力含有量が多い魔石は、魔力量が多い生き物からしか取れないので貴重だそうだ。


 色々と謎が解けたところで、次のステップだ。掌に魔力を集める訓練が始まる。


『この集めた魔力をエイヤー!って相手に投げつけることもできるよ。一番簡単な攻撃方法』

「当たったらどうなるんですか?」

『どれだけ魔力が含まれてるかによるよ。殴られたぐらいの時もあれば、四肢が爆散する時もあるよ。あ、撃たないでね!お部屋が壊れるから!』


 やるかぁ!んなもん!四肢が爆散って何!?当たるの怖いんだけど!?


 撃たないように気をつけながら掌に魔力をこめる。ぱああぁと光り輝く魔力はきれいだが、こいつは撃つと危険なものである。とり扱い注意!



……それにしてもこれどっかで見たことあるな……。どこだったけ、えーと、なんか、ほら!撃つやつ!


「あ!ドラゴン◯ール!」

『え、何?』


 あ!ドラゴ◯ボールだ!しかもこれ撃ったらカ◯ハメ波だ!嘘!私孫悟空!?


 新事実に打ち震えていると魔力が溢れそうになった。危ない危ない、押さえ込まないと。


 むーんと唸りながら圧縮する。あ、これ身体の外でもできるんだ。ならこれも魔石になりそうだね。


『……何してるの?』

「何って……、圧縮ですけど?」

『身体の外で圧縮はできないよ?』

「え、でも……」


 どんどんと掌の光が小さくなっていく。蝶々を手で捕まえるみたく、光を覆い隠すように手を結んだ。


……あ、なんか手の中にゴツゴツしたのができた。


「ほら、できましたよ」


 できた魔石をリーゼロッテに見せると、眼玉が飛び出さんばかりに驚かれた。


『……なんって、常識外れな……』


 え?それレオンハルトと結婚するためにいろいろ画策して周囲の大人を騙してた貴女が言うの?


「ま、まあ、高く買い取ってもらえる魔石が自己生成できるようになったし!復讐の軍資金の確保は容易になりましたよ!ねっ?」

『……魔力の扱いについては合格だから魔法の使い方も教えるね』

「やった……」

『でもそのあとはこの世界の常識について学びましょうか。貴女常識外れだし。さ、早く終わらせよう』

「えええええぇぇぇっ!」


 『はいはい、さっさと行くよー』と言われた。だが言いたいことがある。


 ……常識外れに常識外れって言われたくないんだけど!


『はい、じゃあ次は収納魔法を教えるねー』

「……収納魔法?」

『“ベヘルター”って唱えて』

「……?ベヘルター」


 次の瞬間、目の前に黒い大きな穴ができた。


「……ぬぇっ!?」

『そこに手突っ込んで』

「無理無理無理無理っ!」

『やれ』


 ぅぅう〜、と唸りながら穴に手を突っ込む。これは何だよ!?


『はい、金貨想像してみて〜』

「金貨……」


 こっちの世界では紙幣じゃなくて硬貨なのか。ていうかいきなり金貨って。お金持ちかよ。


「……ん?何これ?」

『はい、引き抜いて』


 手に何かが当たった。ゴワゴワゴツゴツした感触に眉を寄せながら掴んで引き抜く。


 するとまあなんてことでしょう。目の前に金貨が入った布袋が!


「わっ!」

『これが収納魔法。頭の中で取りたいものを考えれば出てくるよ。逆に収納することもできる』

「へぇ〜!」


 なるほど!記憶にあるカオリお姉ちゃんからの貢ぎ物一体どこにいったんだろうと思ってたけど、ここか!


『ちなみにそれ他の人の前で使っちゃ駄目だからね』

「え?何でですか?」

『魔法って大体十歳くらいからでしか使えないんだ』

「……おおぅ」


 この女、召喚の儀だけでなく他にも色々やらかしていたらしい。貴女の方が常識外れだよ、リーゼロッテ。


『それにこの魔法って他の人知らないし』

「えっ?こんなに便利なのにですか?」

『わたしがこの魔法を作ったからね。教えないかぎり知らないね。お姉ちゃんとレオには教えてるんだけど』

「なんで教えないんですか?特許を取ればお金持ちですよ」


 疑問を口にするとふふっと笑われた。怖いよ。


『それね、生きてるもの以外ならなーんでも収納できるんだぁ。容量も無限大で、許可なく人の収納場所から物を取り出すことができないの』

「あぁ、なるほど。国家機密の書類や横領の証拠やら簡単に隠すことができますね」

『そうそう』


 頷きながら金貨を元の場所に戻す。これなんかあれだ。容量無限で黒い穴、ブラックホールだ。


「それに殺人した時に使用した道具とか、死体とか色々と見つかったらやばいのも入れれるってことでしょう?これだと他人の物を盗み放題ですし。悪人達に好まれそうな魔法ですねー」

『……こんな短時間でそんな悪用方法を思いつく貴女の方が悪人な気がするんだけど……』


 あらあらうふふ。失礼な。それ貴女が言いますかー?


「ん?え、これ……」


 ゴソゴソと収納魔法、もといブラックホールを漁っていると中から首輪が出てきた。金属部分に魔石がついているが、無骨なデザインだ。


「なんで首輪が入ってるですか?」

『ちょっとお姉ちゃんが大変な時期があってね、捕獲用にそれを作ったの。改良すれば何かに使えそうだね』


 ……姉よ。この世界で貴女一体、何をしたんですか!?

魔法の使い方を教わっていたらコメディチックになっていました。不思議です。ぎゃーぎゃー言っていますが二人共常識外れです。


次はこの世界についてです。

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