歪な食卓
家庭内で身分が一番低い人は、最初に食堂につかないといけないというおかしなルールがあるそうだ。時間守ってれば別にいいのでは?と考えながら食堂にて他の人を待つ。
ちなみにリーゼロッテは皆んなに見えていなかった。ふわふわ浮いていて絶対、ん?となるはずなのに誰も反応しない。私が反応したら逆に変な目で見られるだろう。
しかしながらリーゼロッテは本当に私に似ていた。黒髪ストレートは珍しくないけど、金色の目って前の世界だと周りにはお姉ちゃんと私ぐらいだった。しかも二人とも突然変異。この世界も金色の目は突然変異らしい。その共通点は正直言っていらないと思う。
リーゼロッテは今黒いパフスリーブのワンピースを着ていた。腰に太めのボーダー柄リボンが結ばれていて可愛い。でも、興味深そうにフラフラして部屋を回っていたらワンピースの中が見えそうなんだけど?貴女今浮いてるんだよ?目がそっちにいくからやめて。
……待ってる間に色々と思い出そ。
退屈なので記憶を漁ることにした。これからしなければいけないことだ。今やったっていいだろう。
ふんふん。あ、髪の毛とか血とかには魔力が入っていて、しかも魔力が多い素材は高く売れるのか。なるほど。ん?買い取ってくれる店があるのか。へー、王都の近くのシュピネフェーデンっていう地区にあるのか。いつ行こっかな?
ぼんや〜と考えているとお兄様三人衆が到着した。椅子に座ったまま軽く挨拶をする。
「おはようございます、お兄様」
「ああ、おはようリーゼロッテ」
……おい貴様等!双子のうちの一人、フリートヘルムしか返事がなかったぞ!ちゃんと挨拶をしろ!そのまま席に着くな!挨拶は基本中の基本だぞ!馬鹿!
もしかしてこれが毎日だろうか。そりゃ家族認定しなくなるわけだ。ごめんよリーゼロッテ。貴女は何も悪くない。
ひとまず野郎三人組を観察する。皆んな黒髪癖っ毛でミントグリーンの吊り上がった目をしていた。双子は猫っぽい感じで、さっき返事をしてくれた方はお団子をしていた。
しばらく経つとフーベルトゥスにイングリートがやって来た。この人達は挨拶をきっちり返してくれた。これだけであの二人よりマシに見えるって一体なんのマジック?
ご飯の合図をしたあとは個人個人で食べる。私を除く五人が喋っている中黙々と口に食べ物を運ぶ。
……味がしないのはもしかしてイジメでしょうか?
ちょっと心配になり記憶を探ったがそんなことなかった。今まで味はちゃんとついていた。
……疑ってごめんなさい!料理人の皆さん!多分これストレス性の味覚障害です!
おそらくこれはお姉ちゃんを失ったストレスだ。どうしよう。近々禿げる可能性が出てきた。私六歳なのに。さっき切った髪で鬘を作るか……?
味がしない食事はなかなかの苦行だ。なんだよ。食感がある無味の食べ物って。水饅頭でも味がしたぞ。水ってほぼ無味なのに。
そういえばもとの世界で奇跡の料理音痴がクラスメイトにいたなぁ、と思い出す。あれは凄かった。カレーを作っていたら、肉じゃがになった。ほんとになんで?
『ねえ』
思わず返事をしそうになったのをグッと堪える。危ない危ない。変人だと思われるところだった。
視線だけ一瞬リーゼロッテに向け続きを促す。すいっと寄ってきて耳元で囁かれた。
『お父様に話しかけて』
え?何故ゆえ?
『お部屋からでちゃ駄目だからよ』
あー、あれか。軟禁令ね。
もぐもぐ食べながら頷く。葉野菜ってあれだね。味しないと画用紙食べてるみたいだね。
『今はリリーベルがいないから、今日も明日もいつでもお部屋から出られるようにしないと困るでしょ?』
確かになー、と思った。
今までは身代わり魔法があったから勝手に外に出られたのだ。リリーベルの協力が得られない今、部屋から出られる資格を勝ち取らなければいけない。
……でもなー。
『何?』
そっと息を吐き思いの丈をぶつける。
……いやあの中に入るのは無理ぃ!だって私のことなんて全く見ない!無視じゃなくてこれだよ!?話しかけるなんて無謀なことでもしてみろ!何しゃしゃり出てんだって目で見られるぞ!と目で訴えかけた。
『じゃあリリーベル呼ぶね』
すいません私が愚かでした。おとなしく話しかけますからやめてください。と全力で心の中で誤った。リリーベルは呼ばないでくれたのでほっとした。
話が途切れた時を狙うため虎視眈々と五人の会話を見届ける。ひとしきり話した後、微妙な間があったので話しかけた。
「お父様」
全員がこちらを向き、あ、いたの?みたいな顔をした。いましたよ、ずっと。
「なんだい?」
とフーベルトゥスが返事をする。天然パーマなのかうねった黒色の髪に吊り上がった深緑の瞳。優しそうな顔に見えるのは困り眉だからなのか。
……なんかこの人チョロそうだな。
「お父様、わたくしお願いがあるのです」
え、なんか一人称がわたくしになったんですけど!?え!?うわ!お嬢様!
喋ると勝手に変換される一人称に内心アワアワしているとフーベルトゥスがニコニコ笑って続きを促してきた。ごめんね、さっきチョロそうだなんて思って。
「わたくし、自由に図書室に出入りできるようになりたいのですわ、お父様。ついでに、お部屋から出る許可も欲しいのですが……」
この家には図書室があることをさっき記憶を覗いて知った。この際、片っ端から読んでやる。そして、お姉ちゃんからご褒美のちゅーを貰うんだ!
エセお嬢様、と頭で考えつつ口にすると全員にびっくりとした顔をされた。何で?
「リーゼロッテ、それはどういうことだい?今まで勉強をしてこなかったのに、字なんて読めるはずないだろう?」
「……え?」
何を言っているのだこの人は。リーゼロッテは二歳の時にはもうこの国の言葉を読めたし書けたぞ、と思っているとコンラーディンが口を開いた。
「我儘を言うなリーゼロッテ。今まで私が勉強している間部屋に閉じこもっていただろう?怠けているからこんなことを言われるのだ。もっと努力しろ」
「……失礼ながらコンラーディンお兄様。わたくし、別に自分の意思でお部屋にいたわけではないのですが」
「……は?」
嘘を言うな、と言う目で見られた。嘘ではない。思わずフーベルトゥスを振り返って声をかける。
「そうですわよね?お父様。わたくしに外は危ないから部屋からは朝食以外出てはいけないと、言いましたわよね?」
嘘は許さねえぞこっちは覚えてんだからな、と見つめるとあぁと頷いた。よかった、覚えてた。
「確かに言った覚えがある」
「よかったですわ、覚えていてくれて。それともう一つ。勉強をサボっているとはどういうことです?家庭教師なんて一回も来たことがありませんわよ?」
今度はフーベルトゥスが目を見開いた。
「……家庭教師が来たことがない?」
「ええ。もしかして、わたくしの側近が家庭教師なのですか?違いますよね?」
「勿論だ」
なんと、家庭教師をもう派遣していると思っていたらしい。そんなわけがないだろう。
家庭教師の手配をするのは側近かもしれないが、最後に了承のサインをするのは当主だろ!している覚えがないのになんで勝手にいる思っているんだ!馬鹿め!
しかしながらこの男、上三人の子供達の時にはきちんと家庭教師を手配していたのだ。つまり、やればできるのである。
……好感度が一気にさがったよ。もとからそんなに無かったけどさ。リーゼロッテを放置しすぎ。
本人がなんのダメージもないとはいえ、上三人との扱いの差が酷すぎる。一見なんともないように見えるのが怖い。周りがリーゼロッテになんの事情も聞かず、自分の想像だけで完結している。おかしいと思わないのか。
「とりあえずすぐにでも手配をするよ。すまないね」
「……お心遣いありがとうございます。文字はもう読めるので、他のことを教えて欲しいですわ。あと、コンラーディンお兄様と同じ人をつけてください」
「は?」
思いっきりコンラーディンに顔を顰められたが華麗にスルーした。
「何故コンラーディンと同じ教師にしたいのだい?」
「目標のためですわ、お父様」
それから私は嘘を語った。いや、嘘じゃないよ。おべっかだ。
「お兄様はこの家の次期当主として高度な教育を受けています。別に跡取りの座を競う気はありませんけれど、今のお兄様がどれくらい上の存在なのか知りたいのです」
嘘である。多分剣術の稽古をしたり遊んだりしていたコンラーディンより、部屋でも孤児院でも時間があれば勉強していてカオリお姉ちゃんに英才教育を受けたリーゼロッテの方が頭はいい。そしてその体験を引き継いだ私もきっと頭がいい。だがここは秘儀ヨイショである。いい気にさせるのが大事。ここ、テストに出ます。
「今の私の実力と十一歳になった時になっておきたい理想像をしっかり知っておく方がいいと思いますの。それに、もしかしたら勉学の才が開花するかもしれませんわ」
恥じらう乙女の如く、顔を赤らめ頬を抑えた。ちなみに中身はシスコンである。詐欺だね。
「父上、いいのではありませんか?リーゼロッテは身の程を知っているようですし、遅れている教育を早く進めなければいけません」
「そうだな……。よし、わかったぞリーゼロッテ。後日コンラーディンの教師を派遣する。励むように」
「いたみいります」
……身の程を知るのはどっちの方だろうね、コンラーディン。私は例え貴方が前世の享年よりも年下だとしても、容赦はしないよ!だってさっきのやり取りでだいぶイライラしたからね!叩き潰す!
そこではたと気づいた。図書館の使用許可をもらっていない。ついでに部屋を自由に出たい。
私が口を開くより早く、誰かが声を上げた。
「リーゼロッテ」
イングリートだ。オレンジ色にも似たプラチナブランドの毛先が緩やかなウェーブを描いている髪に、淡い柿のような色合いの瞳の、吊り目が冷ややかな美人だ。
「はい、なんでしょうお母様」
イングリートは宵闇の女王と呼ばれているそうだ。どちらかと言うと色彩的に陽だまりでは?と思ったが、キツめの顔立ちとひんやりとする声に思わず納得してしまった。
「気づかなくて申し訳ありませんね。良いでしょう。図書館の使用と部屋の自由な出入りを許可します」
「……ありがとうございます」
当主であるフーベルトゥスの意見を聞かないで大丈夫?怒られない?と思ったがそっと心の中にしまった。フーベルトゥスよりイングリートの方が当主らしい。
……多分、フーベルトゥスは尻に敷かれるタイプだ。きっと。
ちょうど食べ終わったのでお暇の挨拶をしたあと、さっさと出た。もう用はない。今日の予定は一日中お部屋でリーゼロッテと会議である。
味のしないご飯は残念ながら残してしまった。そして、一部始終をフリートヘルムがどんな顔をして見ているのか、私は気づかなかった。
ところでリーゼロッテ。私昨日は腰まであった髪をバッサリ肩より上まで切ったんだけど、何で誰も気づかないのでしょうか?
側から見ると一見なんともなく見えて自分でも気づかないけど、友達と話してるとあれ?これおかしいのか?となる事が多々あります。今回はそんな感じです。
次回は、魔法の使い方です。