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第6話 単独行動

ここは人馬迷宮の地下2階層。

階層主が冒険者達を迎え撃つ場所として用意されていたボス部屋に俺はいた。

天井は20m程度あるだろうか。

100人規模での集団戦が十分にできるくらいの大きさが確保されている。

場内の端では、迷宮内の衛生活動をしてくれている機械人形達が、戦闘不能となった俺の仲間である槍使い達に治癒・蘇生処置をしてくれていた。

闘技場の周りを囲むように配置されているアリーナ席には、ここの階層主である奈韻が優雅に腰かけている。

黒髪に照明の光が反射し、キラキラと輝いていた。

見た感じ、高貴でとびきり我儘そうなお姫様のようだ。

まぁ個人的には肉付きがいいちょいムチっとした女子の方が好みではあるものの、極上の美少女であることには違いない。

とはいうものの、洗脳が解けてからも黒髪麗嬢は恐怖の対象であることは変わりない。

その奈韻であるが、迷宮攻略をしている地上からやってきた正騎士候補達と俺達が戦う姿を他人事のように観戦していた。

そう。いま俺は、正騎士候補達と戦っているのだ。


正騎士候補は4名。

そのメンバー構成は、2mを超える盾を持った黄金盾士。

貴族の優男のように見える蒼穹聖職者。

装備品で全身を隠している龍狩槍使。

長い髪をなびかせ速度重視の軽装備をした雷剣士。

全員がLevel29の『ネームド職』。

俺の『鑑定』効果ではLevelと職業までしか見ることが出来ないが、遥か格上の存在なのは疑いようがなく、力関係でいえば、万に一つも勝ち目はない。


そして俺の前には人狼が背中を見せ、正騎士候補達と対峙していた。

その名は『老練なる人狼』。

2mを超える背丈に、生れながらのアスリートのような体型をしていた。

筋肉隆々でありながら、一切の無駄をそぎ落としたような体付きをしている。

色あせた浴衣を身にまとい、自身の身長よりも大きい大太刀を腰に携えていた。

その瞳は鋭く、まさに狼そのもの。

だが、姿は狼というよりも人に近い。



・通称 : 老練なる人狼

・種族 : 宝具

・職業 : 侍

・Level : ⁇

・力  : ⁇

・速  : ⁇ 

・体  : ⁇

・技  : ⁇

・異能 : 一騎討ち、刀技、単独行動

・召喚cost : 0



種族である『宝具』とは、唯一神『ラプラス』が創生し、Level50以上の戦闘値があるものと言われている。

職業である『侍』は、高い戦闘力を有していると聞いているが、詳細についてはよく知らない。

そもそもであるが、この『伏せステータス』はどういうことなんだ。

召喚主である俺がステータスを見ることが出来ないって、おかしくないか。

召喚個体と俺とは、主従関係にあるはず。

何故この俺が、召喚個体のステータス値を見ることが出来ないんだよ。

それに、見たことがない能力がある。

『技』とは一体何なんだ。

当然、俺のステータスにも無いし、他の者にもないものだ。



俺のステータス

・種族 : 人間

・職業 : 復讐の召喚士

・年齢 : 17歳

・Level :  20

・力  : 10 

・速  : 10 

・体  : 15 

・異能 : 召喚D、戦術眼D、鑑定D

・状態 : 支配、洗脳解除

・特殊 : 女王陛下の加護

・経験 : 0/10000

・cost  : 36/12+24



『技』という能力。それは『宝具』だけが保有している特別なものなのだろうか。

だが、今はそんなことを気にするような余裕はない。

人狼と正騎士候補の4人とが、これから戦おうとしているからだ。

奴等は、俺の仲間を虫けらのように殺した。

こいつ等だけは絶対に許せない。

俺の運命は『老練なる人狼』にかかっている。


先にも書いていたとおり『宝具』の能力は、俺達人類をLevel50の『A』級まで引き上げるものだと聞いている。

それは世界最強生物と言われている龍に匹敵する。

その話しが本当だとしたら、人狼はLevel50以上。

俺は龍並みの力を手に入れたことになり、正騎士候補なんぞ軽く倒せるはず。

だが、問題がある。

それは人狼の『召喚cost』が『0』であること。

『cost』とは文字どおり召喚に必要な数値を意味する。

その数値が高いほど、召喚個体は強力になるのだ。

目安でいえば『cost2』の召喚個体は、Level9の『F+』級程度に該当する。

その法則に従うと『cost0』である人狼は『Level1』。

だとしたら奴は史上最弱の召喚個体となってくる。

どちらにしても、今は俺が生き残ることが最優先事項。

背中を向けている人狼へ、敵の情報を教えるために声を張り上げた。



「人狼。今のこの状況は分かっているんだろうな。」

「奴等は正騎士候補。人馬迷宮を攻略しようとする者だ。」

「そうだ。ここの雑兵である俺は、いま奴等と交戦中なんだ。」

「ここを護る雑兵達が、小僧を残して戦闘不能な状態になったことも認識している。」

「その通りだ。そしてお前が敗北してしまうと、俺も殺されてしまうということを忘れるなよ!」

「承知している。小僧。お前は最弱。だから我が戦うのだ。」

「そうだ。俺は最弱だ。というか、何気にそんな情報を混ぜてくるんじゃない。」

「奴等はLevel29の『ネームド職』だということも知っている。」



人狼は警戒した歩調で歩みを進めていく。

俺達の会話を聞いていた正騎士候補達は余裕綽々な表情を浮かべせせら笑っていた。

この人狼。召喚個体のくせに、召喚主である俺をなめていないか。

Rare種と呼ばれる個体の特性なのか。

まぁいい。

人狼には絶対に正騎士候補達に勝ってもらわなければならない。

念押しをするように再度、声をかけた。



「人狼。奴等に勝てるんだろうな。俺の命がかかっているんだぞ。」

「全力を尽くすことを約束しよう。何せ、我は『陛下』より小僧を護るように使命を受けているのだからな。」



今、何て言ったんだ。

陛下だと。

陛下と言ったのか。

『限界突破』を果たしてLevel20となり『転職』した際、その『女王陛下』という者から、『老練なる人狼』の召喚ガードが贈られてきた。

洗脳が解けてからもそうだ。

俺のステータスには『女王陛下の加護』というものが加筆されていた。

陛下とは、俺の運命に強く関わっている奴だ。

それは何者なんだ。

どこにいるんだ。

人狼からの言葉をきいて、反射的に質問をしていた。



「人狼。いま何て言ったんだ。陛下だと。陛下と言ったのか。それは女王陛下のことを言っているのか。」

「そうだ。女王陛下だ。」

「その陛下とは何者なんだ。どこに『そいつ』はいるんだ。」

「おい、小僧。口の言葉に気を付けろ。次、陛下のことを『そいつ』と言ったら、問答無用でぶった切るぞ!」



人狼がこれまでにないくらいに凄みを利かせてきた。

空気がピリついている。

俺はその迫力に思わずへたり込んでしまった。

急に何だ。

そもそも俺は召喚主。

召喚個体である人狼が逆らってはいけない存在のはず。

恐怖を感じつつ、同時に怒りが込み上げてくる。

気がつくと、感情のままに叫んでいた。



「おい。人狼。調子にのるなよ。お前の方こそ舐めたことを言ってんじゃねぇぞ。俺はお前の召喚主なんだぞ。召喚個体は召喚主に対して絶対的存在だろうが。」

「小僧。お前が我の絶対的存在だと。雑魚のくせに笑わせるな。我の召喚には、お前の『cost』は必要ない。我は、お前に生かされていないということを知るがいい。」

「どういうことだ。人狼。お前、俺の命令は聞けないと言っているのか。」

「そうだ。雑魚の命令など聞けるはずがないだろ。」

「いい加減にしろよ。確かに俺は雑魚だと認めてやる。だが、お前の主人なんだぞ。」

「小僧。お前の方こそ分をわきまえろ。」

「俺は、お前の召喚を解除することが出来るんだぞ。言葉遣いには気をつけろよ!」

「我の召喚を解除するつもりか。なら、やってみるがいい。」



どうしよもないくらいの怒りが沸いてくる。

俺の敵は正騎士候補。

人狼ではない。

だが、召喚対象が召喚主に逆らうなんて前代未聞。

お前は俺に生かされている存在だ。

その人狼が俺に召喚を解除してみろという。

意志をもっている召喚対象とは、これほどまでに生意気なのか。

そもそもだが、喋り方が上から目線なところが気に入らない。

いいだろう。

こいつには主従関係ってものを分からせる必要があるようだ。

一度、召喚を解除してやる。

怒りのまま、心の中で叫んだ。

――――――――俺は人狼の召喚を解除する。

…。

…。

結論からすると、背中をむけている人狼に何ら変化は見られなかった。

つまり召喚が解除されなかったということだ。

何故だ。どうしてなんだ。

俺は召喚主なんだぞ。

どうしようもないくらいの敗北感と、怒りの感情が湧き出てくる。

こいつ。どうして俺のいうことを聞かないんだ。

そう言えば、人狼のステータスの中に『単独行動』というものが記載されてあった。

もしかしてだが、それが原因なのか。

召喚主の意志にかかわりなく自由勝手に行動できるとでもいうのか。

何にしても、こいつを制御しようがないのは確か。

だが、俺を護ることが最優先事項だ。

いいだろう。

上から目線の言葉については大目にみてやるよ!



「人狼。お前は、正騎士候補達を倒すことが出来るんだな?」

「うむ。我に任せろ。」

「さすが宝具。Level29の正騎士候補ごときを相手にするには、余裕だっていうことなんだな。」

「我は宝具。それは間違いない。だが、奴等との戦いは、余裕というものではない。」

「どういうことだ。宝具の力とは、Level50以上なんだろ。」

「小僧。今の我の状態はLevel20だ。勘違いするな。」

「Level20だと。お前は『宝具』なんだろ!」

「我は『宝具』。だが、召喚者であるお前と同じLevel20ということだ。」

「どういことだ。俺を騙したのか。お前。本当は『宝具』の偽物なんじゃないのか!」

「少しくらい冷静に物事を考えてみろ。」

「冷静にいられるはずがないだろ。いい加減にしろよ!」

「小僧。お前は知っているはず。召喚には、唯一神『ラプラス』が定めた『ことわり』があることを。」

「『ラプラス』が定めた『ことわり』だと。」

「そうだ。召喚者は、自身のLevelを超える個体は召喚出来ないはずだ。」

「なるほど。そうか。そう言うことか。そうだとしたら、人狼、お前のLevelは俺と同じ『20』になるじゃないか。」

「お前は雑魚な加えて、馬鹿なのか。先ほどから、我はLevel20と言っているだろうが。」



俺はLevel20。

人狼からの指摘のとおり、召喚主は自身よりも格上の個体は呼び出すことが出来ない。

『宝具』にも、その『ことわり』が適用されているというのか。

お前って、世界の法則から逸脱した存在なんじゃないのかよ。

召喚主の俺に逆らうくせに、1番重要なそこはどうして『ことわり』どおりなんだ。

人狼が俺と同じLevel20だとしたら、Level29である正騎士候補4名を倒せるはずがない。

ハズレだ。

この『宝具』はハズレじゃないか。

凄まじい怒りと絶望感がこみあげてきた。

結局のところ、俺は死ぬしかないっていうことなのか。

駄目だ。もう何も考えられないわ。

老練なる人狼が淡々とした調子で、更に俺を逆なでさせるような言葉を吐いてきた。



「小僧。ここは我に任せよ。」



我に任せろだと?

Level20であるお前に、この局面を打開できるはずがないだろ!

マジでいい加減にしろよ。

希望を持たせた直後に絶望感を味合わせるって、これはたちの悪いドッキリかよ。

怒りの感情が渦巻く中、背中を向けている人狼が、腰に携えている大太刀をゆっくりと抜いていく。

駄目だ。こいつ。

力関係といものが、まるで理解出来ていない。

逃げることが可能ならばそうしたい。

迷宮主から支配を受け続けている俺にはその選択が出来ない。

この戦局を打開できる力もアイディアもない。

消去法になるが、俺の死は免れようがない状況だ。

2m以上の背丈がある人狼が片手に大太刀を持ちながら、正騎士達候補達へ一歩二歩と間合いを詰めていく背中を見つめていた。

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