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第5話 ※※※※※奈韻の視点

(いったん時間軸が一話まで戻ります。) 



――――奈韻(ナイン)の視点――――



ここは人馬迷宮の地下2階層に唯一存在し、この階層を守護する300名が暮らしている街。

私は2階の窓から雑兵達がうごめく姿を見下ろしていた。

真っ直ぐ伸びる路地の両側に、建物が軒を連ね密集して建てられている。

3m幅の路地を、この階層を護る雑兵達が隙間なく埋め尽くし歩き、それぞれがぶつからないようにすれ違っている。

お酒の匂いが蔓延し、街全体が陽気な空気に包まれていた。

ここにいる全雑兵達が、迷宮からの洗脳と支配を受けている。


私の名は奈韻。

漆黒麗嬢と呼ばれている女だ。

自身が何者であるかを知りえない。

だが、それについてはそれほど気にしていない。

私が生まれてきた使命だけは、分かっているからだ。

目的を達成するためにはいかなる犠牲もいとわない。



・名前 : 奈韻(ナイン)

・通称 : 漆黒麗嬢

・種族 : 新人間

・職業 : 女王陛下、至高の銃士

・年齢 ; ??歳

・Level : 50(B++)

・力  : 10 

・速  : 99 

・体  : 15

・技  : extra

・異能 : 宝具、抜擢、治癒、回復

・特殊 : ラプラスの後継者E

・状態 : 交戦中

・cost : 10000



Levelは既に人類の最高到達点と言われている『40』を超えていた。

種族が『新人類』のためなのか、人の概念という枠に収まらない能力値になっている。

そう。一般の人間には存在しないステータスがいくつもあった。

『技』や『宝具』などがそうだ。

内容については私自身も分かってない部分も多い。

その原因となっているのはこの世界の唯一神である『ラプラスの後継者』だからなのだろう。

私がこの世界に生まれてきた理由はその後継者に指名されること。

全くもって理不尽な話しだ。

生まれてきた時から、そのための戦いが始まっていることを認識していた。

生き抜くため、勝利するためには、当然に私個人が戦力を引き上げることも重要であるが、自身に限界というものが存在することも事実。

戦いの中心に私はいた。

そう。私は戦力を補強、増強しなければならない状況にある。

『抜擢』により自らの力で『限界突破』が行える者を見つけ出さなければならない。

その発動条件は『cost10000』を消費すること。

ステータス値を見てのとおり、現在『cost10000』を獲得している。

つまり、『抜擢』を発動させるための条件を満たし、今しがた使用する決断をしたところだ。

抜擢を発動させる対象は地下2階層にいる雑兵達。

全員がLevel19。

この中に自らの力にて『限界突破』を果たすことが出来る可能性を持っている者がいるのだろうか。

一般的には、その者がいる確率は1万人に1名もいないだろう。

地下2階層にいる雑兵の数は300人。

『抜擢』にHITする者がここ地下2階層に存在する確率を単純計算すると、300/10000以下。

0.03%以下となる。

とはいうものの、彼等は元々獅子(レオ)乙女(バルゴ)達にその才能を見出された者であり、そしてこの迷宮を護る雑兵として過酷な環境を生き抜いてきた者達。

『限界突破』を自らの力で出来る者がいる可能性はかなり高いはず。

何にしても『抜擢』を発動させない選択肢はない。

大きく息を吐き、『異能』を行使する決意をした。



私は異能の力『抜擢』を発動させる。



『抜擢』の効果が地下2階層にいる雑兵達へ発動された。

獲得してきた『cost10000』が消滅していく。

2階も窓から見下ろした細い路地には雑兵達が何事もなく動いていた。

陽気に時間を過ごしている。

いつもと何ら変わらぬ景色だ。

――――――――――――だが、『抜擢』に何者かが引っかかった手応えがある。

魚が針にかかるような独特の感触が手元にあったのだ。

酒場の方へ向き路地を歩いているあの男。

身長は平均よりもやや低い。

体はそれほど鍛えられていない。

青髪がながく、イケメンの部類ではない。

確か水烏という名の男だ。

『召喚E』と『戦術E』を獲得している君が、『限界突破』をする可能性を秘めているというのか。


建物の窓から雑兵達がうごめく路地を見下ろしていると、青髪の男、水烏が挙動不審な行動をとり始めていた。

あきらかに動揺している。

『抜擢』がHITしたその者は『私の加護』が付与され、その結果自我を取り戻す。

つまり迷宮からの『洗脳』が解けたのだろう。

だが『支配』は受け続けているため、雑兵である立場は何ら変わっていない。

私はLevel20への『限界突破』を果たすことができるチャンスを君に与えた。

ここから先は、自身の力で『限界突破』をしなければならない。

もしそれに成功することが出来たなら、私は君に力を貸すことを約束しよう。


ちょうど、その時である。

地下1階層を突破し、ここ2階層へ降りてきている侵入者達の情報が入ってきた。

正騎士候補が4名。

全員が獅子(レオ)が力を与えたLevel29の『ネームド職』。

自身の力にて『限界突破』をしていない者達ではあるが、Level29の『D+』級。

才能は十分にあったのだろう。

だが、獅子(レオ)によってその才能を潰されてしまったようだ。

その正騎士候補達を迎撃する30名に、水烏の名前も入っている。

普通に考えると、全滅は免れない。

実力差を考えると、青髪も確実に殺されてしまうだろう。

君が『限界突破』を果たすには、ちょうどいい機会じゃないか。

自ら鍛錬を重ねたとしても、限界点を超えることは出来ないだろう。

他人から与えられるものも、所詮は偽物。

極限の状態に追い込まれてこそ、一線を越えられる。

舞台は、私専用で冒険者達を迎撃するために設計された闘技場。

レイド戦が十分に行えるくらいの大きさが確保されている。

早速といった感じで立ち上がり、目的となる闘技場へ向かい歩き始めていた。



◇◇◇



アリーナ形状となっている闘技場を囲むよう

に配置されている観客席に、私は一人座っていた。

これまでに数百人以上の雑兵達がここで死に、土で固められた地面に彼等の血が浸み込んでいる。

そう。流れていく風の音が、死んでいった雑兵達の怨念のように聞こえていた。

雑兵30名が侵入者達を迎え討つには十分すぎる広さだ。

アリーナ席から闘技場内を見下ろすと、正騎士候補達を待ち構えている30名の雑兵達はそれぞれの手法で士気を高めている。

雄叫びを上げている者。

必要以上に体を暖めている者。

会場全体から熱気が伝わってくる。

その中に一人だけ様相が異なる者がいた。

青髪の水烏だ。

洗脳が解け、死を身近に感じ、緊張しているのだろうか。

どこか落ち着かない様子でソワソワとしているように見える。

君が迎え討つ者達は教会が選別した『正騎士候補生』。

全員がLevel29の『ネームド職』。

遥かに格上の存在だ。

君が生き残るためには、ここで運命を変えなければならない。


これから始まる戦いには関係ないことだが、少し気になることがある。

ここに座ってから、水烏とちょいちょい視線が合っていた。

そこまではいい。

その瞳が、血走っているというか、犯罪者のような空気感を滲みだしていたのだ。

何か危険な雰囲気を感じるものの、見た目で人を判断するのは良く無いのだろう。


その時である。

地下1階層へ通じる両扉がゆっくりと開き始めた。

純白の装備品を全身に身にまとった4名の男達の姿がある。

その表情は自信に満ち溢れ、余裕が感じられていた。

黄金盾士。蒼穹聖職者。龍狩槍使。雷剣士の『ネームド職』だ。

獅子(レオ)』の加護を強く感じる。

初見ではあるが、全員のその力量がLevel30の『C』級へ片足を踏み入れている。

烏合の衆である雑兵達では傷一つつけることは出来ないだろう。

仮に私が手を貸し、全員が生き残ったとしても、自身の力で『限界突破』出来ない者はいずれ同じ運命を辿るというもの。


聖騎士候補達であるが、各々の歩調で闘技場へ侵入し始めていた。

当然のごとく、地下2階層を守護する雑兵達を相手に陣形は組んでいない。

雑兵達については自身を鼓舞する雄叫びを一層大きくしていくが、正騎士候補達には何ら動揺した様子は見られない。

ボルテージが上がり、緊張の臨界点を超えたのだろうか。

『挑発』を発動させた黄金盾士へ向け、雑兵の一人が突撃を開始した。

結果は見るより明らか。

突撃した雑兵は、黄金盾士が構える巨大な盾に攻撃した瞬間、強烈なカウンターが発動していた。

闘技場の端まで吹っ飛ばされ、奥の壁に体をめり込まされてしまった。

一瞬のうちに戦闘不能にさせられたのだ。


力量の差を目の当たりした場合、通常なら戦意を喪失するのだろうが、洗脳されている彼等は更に戦意を剥き出しにし、狂乱状態に陥っていた。

全員がタイミングを計り、突撃を開始していく。

10秒くらいが経過したころだろうか。

雑兵達の半数以上は戦闘不能な状態になっていた。

突撃した全員が黄金盾士が発動しているカウンターの餌食になったのだ。

こうなることを知っていたかのように端で待機していた機械人形達が、半死半生になった者達へ蘇生処置を行うため、ゴソゴソと動き始めている。

一人浮いた雰囲気の水烏であるが、召喚個体を『神聖職』から『斥候職』へ変更していた。

その行為は、仲間達を見捨て、自身が生き残る最良の手段を選択したということか。

その判断は間違っていない。


水烏は、召喚した3個体の斥候を、迷いなく槍使いの影の中へ忍ばせたようだ。

そして、ありえないことが起きていた。

―――――――――――水烏が召喚した斥候が、防御ラインを擦り抜け、蒼穹聖職者へダメージを与えたのだ。

最も弱い者を狙い、戦局の打開を図ったのだろうか。

現実は、かすり傷さえも負わせることが出来なかった。

だが、それだけで充分だった。



水烏が『限界突破』に成功した。



水烏がLevel20へ上昇した。

私の前に青髪の転職可能なリストが表示されている。

―――――転職可能な職業―――――

・下級赤魔術士・下級黒魔術士

・下級闇魔術士・下級音魔術士

・下級時魔術士・下級召喚士

・下級魔狩人


水烏は転職先を考えている様子だ。

何を選ぶつもりなのだろうか。

この中で言うと、黒魔術士、魔狩人あたりが無難。

だが、君には選択権はないのだよ。

そう。君の職業は、私が選択するからだ。



―――――――私は水烏の職業を『復讐の召喚士』に選択する。



・名前 : 水烏

・通称 : 青髪

・種族 : 人間

・職業 : 術士 → 復讐の召喚士

・年齢 : 17歳

・Level : 19 → 20

・力  : 10 → 10 

・速  : 10 → 10 

・体  : 15 → 15 

・異能 : 召喚D

      戦術→戦術眼D

      鑑定D

・状態 : 支配、洗脳解除

・特殊 : 女王陛下の加護

・経験 : 0/10000

・cost  : 6/6 → 36/12+24



復讐の召喚士。

これは通常の職業より格上となる『ネームド職』。

もちろん闇堕ちすることも魔物になることもない。

いま君が対峙している正騎士候補は、獅子(レオ)から分け与えられ『ネームド』。

君は、彼等とは違う。

―――――――――君は自らの力でなった『ネームド職』だ。

その恩恵は『cost+24』。


とはいうものの、転職したにもかかわらず、『力』『速』『体』の数値は変わっていない。

能力は底辺のF階級並みのまま。

増えた『cost』に関しても、現状では使い道がない。

まさに、転職の無駄遣いという言葉が当てはまる。

今の君は絶望しているのだろう。

だが、安心したまえ。

非力な君に『宝具』を一つプレゼントしよう。



――――――――――――私は『老練なる人狼』を『換装』する。



手の中に1枚のカードが姿を現した。

私の職業は『女王陛下』。

世界で唯一の『宝具』使いだ。

『宝具』使いであることが、人として最強であるということを示している。

だが私は召喚が出来ない。

召喚個体となる『老練なる人狼』を呼び出すことが出来なかったのだ。

君の職業を『召喚士』とした理由は、至極簡単。

『老練なる人狼』を召喚してもらうため。

『換装』し姿を現したカードが語りかけてきた。



「陛下。お呼びでしょうか。」

「老練なる人狼。あそこに青髪の男が見えるか。」

「はい。陛下。ひ弱そうな者が見えます。」

「彼は召喚士だ。」

「私を召喚出来る者だということですか。」

「そうだ。あの男の名は水烏。君には、あの男を護ってやってほしいんだ。」

「承知しました。全力を尽くさせて頂きます。」

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