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第4話 人狼召喚

換気用の風が吹き、血生臭い空気が流れていた。

静まり返った闘技場は、20m程度ありそうな天井から落ちてくる光に明るく照らされている。

1000人以上が座れる椅子が確保されているアリーナ形状の観客席には、貧弱なバディの女が一人で優雅に座っていた。

その名は奈韻。

通常、黒髪麗嬢。

冒険者だった俺を地獄の底に叩き落とした凶悪無比な美少女だ。

そして、闘技場内の奥では戦闘不能になった俺の仲間を機械人形達が治癒、蘇生してくれていた。

その残骸の中には、俺が親しくしていた槍使い(男)達の姿もある。

俺の目の前にいる十字架のデザインが刻まれた純白の装備品で身を固めている正騎士候補達の一人、黄金盾士による『カウンター』をくらい、奥の壁まで吹っ飛ばされ半死半生の状態になってしまったのだ。

奴等は同じ人間である俺達のことを虫ケラのように扱っていた。

奈韻から見下されるような視線を貰うことはご褒美になるのだろうが、こんなクソ野郎共にそれをされると胸糞が悪い。

こいつ等だけは絶対に許さない。

とはいうものの、実際に追い込まれているのは、村人Aである俺の方。

奴等と俺とのLevel差を考えると、生き残ることは絶望的であり、殺されることが約束された状況になっていた。

そんな俺ではあるが、『限界突破』に成功し、頭の中に『転職』が可能となったメッセージが流れてきていた。



・名前 : 水烏(みずがらす)

・通称 : 青髪

・種族 : 人間

・職業 : 術士 →

・年齢 ; 17歳

・Level : 19 → 20(D-)

・力  : 10 →

・速  : 10 →

・体  : 15 →

・異能 : 召喚E、戦術E、鑑定E

・状態 : 支配、洗脳解除

・特殊 : 女王陛下の加護

・経験 : 0/10000

・cost  : 6/6 →



―――――転職可能な職業―――――

・下級赤魔術士・下級黒魔術士

・下級闇魔術士・下級音魔術士

・下級時魔術士・復讐の召喚士

・下級魔狩人



正騎士候補達はLevel29の『D+』級。

更にいうと通常の職業よりも格上となれる『ネームド職』だ。

いま俺が生き残るためにしなければならないことは『転職』であるが、転職をしたとしても奴等との実力差は、遠くかけ離れているのが現実。

だが、ここでしない選択肢はない。

黄金盾士、龍狩槍使、雷剣士の3人は余裕綽々の表情を浮かべ、最後尾に立っていた蒼穹聖職者の男は、怒りに顔を歪ませていた。

ノーダメージだったものの、俺がその聖職者へ一撃を加えたことがそうさせていたのだ。

正騎士候補の3人は、こちらへ背中を見せながら和気藹々とした様子で会話を交わしている。



「マジかよ。俺の防御ラインが突破されるなんて、普通あり得ないだろ。」

「前衛職。ちゃんと仕事をしろよ。」

「まぁまぁまぁ。ノーダメージだったんだろ。別にいいじゃねぇか。」

「だがよう。プライドが傷つけられたのも事実だぜ。」

「そうだ。拷問してやる。あいつは簡単には殺さないぞ。」

「おいおい。物騒だな。」

「お前。神に仕えているんだろ。拷問なんてしてもいいのかよ。」

「何、言っているんだ。下等動物が俺を攻撃したんだぞ。」

「確かに、許されることではないな。」

「クソカスの分際で、許すなんて出来ないぜ。」

「そうだ。拷問をしてやろうぜ。」



俺を人であることを認識していない。

だが、それはこちらも一緒。

正騎士候補か何だか知らないが、こいつ等が屑だ。

生きていては駄目な奴等だろ。

とはいうものの、俺はLevel20。

実際のところ俺が転職したとしても、生き残ることが出来る可能性はない。

たが、アリーナ席に座っている奈韻の姿を見ると、絶対にこのままでは死ぬことが出来ないという怒りの感情が、俺を支配していく。

そう。俺は洗脳が解けたばかり。

だが、まだ何も成し遂げていないのだ。




高貴でプライドの高い美少女を見ていると、生と性への執着心が湧き上がってくる。




————————まだ俺は奈韻に踏みつけられていないんだよ。

蹴りとばされてもないし、罵倒もされてない。

そう。もう一度いうが、俺はまだ、何も成し遂げていないんだ。

こんなところでは絶対に死ぬわけにはいかないだろ。

奈韻が踏み付けてくれるのなら、出来ることは何でもやってやる!

俺にはやり残したことがあるんだよ。

このままだと、死んでも死にきれないぜ。

今できること。

それは『転職』。

それしかないだろ。

転職可能な職業は7つ。

本来ならば、何週間もかけて適正jobを熟慮し、選択するべきところなんだろうが、今の俺にはそんな余裕はない。

直ぐに決断しなければならない状況だ。


物事を選ぶ時の定石は、条件をあてはめ、選択肢を絞りこむこと。

最もメジャーな手段は消去方。

推理小説なんかでよく用いられる手法だ。

まず、絶対に選んでいけない職業は、『復讐の召喚士』になってくるだろう。

その名のおとり、能力値に影響を与え、同じLevelでありながら格上となる『ネームド職』であるが、駄目なものも存在する。

俺の記憶では『復讐』とは『闇堕ち』することを意味するはず。

これを選んでしまうと、人でなくなるという。

つまり『魔物』堕ちしてしまうのだ。


次に、『召喚士』という職業も絶対に選んではいけない。

その汎用性は高く、人類最強になることが出来る可能性を秘めているものの、あくまでもそれは可能性があるだけのこと。

召喚士が最強になるためには強力な召喚個体をGETしなければならないのだが、その手段が皆無なのが現実。

つまり、強力な召喚個体を獲得することは、難しいというよりも可能性が無いのだ。


そして更にもう一つ。

最悪なことがある。

召喚士は『cost』値が飛躍的に上昇するものの、『力』『速』『体』値は上がらない。

そう。能力値は低Levelのまま。

更に『cost』が増えても、高Levelな召喚個体を獲得できない。

まさに最弱。

『復讐の召喚士』だけはありえない職業だ。


実質的に俺が振るいにかける職は6つとなる。

その全てが『術士』系。

一般的に選ばれている順でいくと、下級黒魔術士が1番人気だ。

下級魔狩人なんかも評判がいい。

他の職への成り手もいないこともないが、人気はそれほどでもない。

となると、やはり黒魔術士か魔狩人のどちらかを選択するべきなのだろう。

黒魔術士はパーティ戦では重宝される。

だが、いま俺が直面している状況は、個の力で戦わなければならないこと。

俺の経験では、単独戦では『速』値が重要になってくる。

消去法により、選ぶ職業は『下級魔狩人』だ。

この職種は移動しながら魔法による遠距離攻撃を行う特性をもっている。

連射能力、正確性は低いものの、ある程度、自分自身で身を守れることが有難い。

迷っている暇はない。

いま重要なのは決断すること。

やってやるぜ!

絶対に生き残るんだ。

現れているステータス画面に向け、力の限り心の中で絶叫した。

―――――――――――俺が『下級魔狩人』に転職するぜ!

ステータス画面が変化していく。



・通称 : 青髪

・種族 : 人間

・職業 : 術士 → 復讐の召喚士

・年齢 ; 17歳

・Level : 19 → 20

・力  : 10 → 10 

・速  : 10 → 10 

・体  : 15 → 15 

・異能 : 召喚D

      戦術→戦術眼D

      鑑定D

・状態 : 支配、洗脳解除

・特殊 : 女王陛下の加護

・経験 : 0/10000

・cost  : 6/6 → 36/12+24



これは一体何が起こっているんだ。

職業が『復讐の召喚士』になっているのは何故なんだ。

俺が選んだ職は『下級魔狩人』のはず。

そう。それじゃない。

何が一体どうなっているんだ。

やはりというか、能力値の『力』『速』『体』が当然に上がってない。

全然駄目じゃないか。

転職前とほぼ変わってない。

これはもう、生き残る可能性が0%から−100%になってしまったぞ。

内に湧き上がっていた生と性への渇望が急速に枯渇していく。

駄目だ。

俺。もう立つこともできないわ。

奈韻へ視線を送ると、何故か楽しそうにしているように見える。

放置プレイを楽しんでいるのだろうか。

畜生。あり得ねぇ。

世界の男達全員が、放置プレイ好きだと思っているのかよ!

そもそもだが、転職とはどういうシステムなんだ。

確か唯一神である『ラプラス』に認められた者が『限界突破』をはかれるはず。

職を選び直すことは出来ないのだろうか。

もう訳が分からない。

戸惑う俺を置き去りにして、新しく獲得した『異能』についての説明が頭の中に流れこんできた。



――――戦術眼D――――

先の戦局を見極め、勝ち筋を見つけることができきる。

自身のLevel以上が参戦する個体に関しては、除外対象となる。



『戦術眼』。

名前だけは格好いいじゃないか。

説明を読むと、かなり使えそうな予感がする。

勝ち筋を見つけるって、それだけ読むと優秀過ぎるだろ。

とはいうものの、格下相手にしか効果を発揮しないだなんて。

そう。格下が相手なら、普通に戦って勝てるというもの。

格上相手に戦力差をひっくり返すっていうのが必殺技の醍醐味なんじゃないのか。

追い込まれている俺からすると、格上となる正騎士候補達に発動しなければ意味がないんだよ。

転職してから怒りの感情しか沸いてこない。

何だか、この転職。駄目過ぎないか。

とりあえず『戦術眼』を使用してやるぜ。



奈韻からご褒美を貰うことなく死んでしまう人生なんて絶対に受け入れられないんだよ!



何でもやってやる。

――――――――俺は『戦術眼D』を発動するぜ。

宣言と共にその結果となるメッセージが頭の中に流れ込んでくる。

【俺の生存確率0%】

そうか。0%なのか。

おい。これはどう言うことだ。

『戦術眼』が俺に死刑宣告をしてきやがったのか。

おい。いい加減にしろよ。

生存確率が無いメッセージなんていらないんだよ。

なんて役にたたない効果なんだ。

『戦術眼』を殺ろせるものなら、ぶち殺してやりたいぜ。

頭の中に昇っていた血液が、急速に冷やされていく。

いや。俺に勝ち筋がないことなんて、最初から分かっていた。

最初から俺は詰んでいたんだ。

『限界突破』を果たし『転職』したのだが、何の意味もなかった。

その時である。

突然、起死回生とも思えるありえないメッセージが頭の中に流れこんできた。



【女王陛下から『宝具』が届いています】



宝具だと!

この世界にいる者で、『宝具』について知らない者はいない。

それは、人が造りだすことが出来ない武具品。

この世界の唯一神『ラプラス』が創生したと言われている。

送り主となる女王陛下とは一体何者なんだ。

そもそも俺に『宝具』は扱えない。

神の直系にしか使用できないと言われているはず。

だがもし、宝具が扱えるのなら、この絶対的窮地を打開できるのではなかろうか。

―――――――――――宝具を扱う者は最強生物ドラゴンに匹敵すると聞く。

俺達人類の最高到達地点はLevel40の『C++』級。

だが、『宝具』が扱える者はLevel50以上の『A』級並みの戦闘力を持つという噂だ。

もしかして、俺は『A』級並の存在になったというのか。

宝具を獲得した俺は、『人類の頂点』に君臨してしまったのかよ。



「うぉぉぉぉぉ!」



無意味に叫んでいた。

生と性への渇望がそうさせたのかもしれない。

とにかく獣が咆哮を上げるように吠えたかった。

もちろん正騎士候補達に動揺する様子は見られない。

気が付くと、見知らぬ『召喚カード』を握っていることに気が付いた。

これが女王陛下から送られたという『宝具』なのか!



―――老練なる人狼―――

・cost0 ・Rare種



『Rare種』。

それは召喚個体が意志を持ち、独自に判断し行動する個体のことだ。

意志をもたない召喚個体は召喚主が全ての行動を指示する必要がある。

俺に限っても同時にコントロール出来る召喚個体は3個体までが限界。

それ以上の個体を召喚しても扱えないのが現実。

そして、シュミレーションどおりの行動しか出来ないのだ。

つまり、敵に想定外の行動をとられてしまうと対応できなくなる。

『Rare種』に関しては、その点を改善してくれるのだ。

だが欠点も当然ある。

それは、召喚主の意に沿わない行動をとることがある点だ。

トータルでいうと利点が多いので、そこはいい。

――――――問題なのは『cost0』の方だ。

召喚個体は、『cost』が高くなるに比例して強力となるのが通常だ。

その法則に従うと、『cost0』の召喚個体は『雑魚』に該当する。

召喚個体が『宝具』であるにも関わらず、雑魚だなんておかしくないか。

畜生。

『宝具』を手に入れた俺は、Level50並みの戦力を手に入れ、人類最強生物になったんじゃないのかよ!

正面に正騎士候補達4人の姿が見えていた。

全員が残虐無比な顔つきをしている。

俺をなぶり殺しにするつもりのようだ。

どうしたらいいんだ。

俺の人生はなんでいつもこうなんだ。

その時である。

何者かの声が聞こえてきた。



「小僧。我を召喚しろ。」



心臓が止まった。

聞こえてきた声の元は、『老練なる人狼』で間違いないと直感した。

『Rare種』の召喚個体は意志を持っていることは知っている。

だが、召喚前から喋ることが出来るものなのかよ。

というか、召喚主の俺になんで命令口調で喋っているんだ。

『cost0』のくせに生意気だぞ。

とはいうものの、召喚しないという選択肢がないことも現実。

いいだろう。

召喚してやるよ!



―――――――――――俺は『老練なる人狼』を召喚してやるぜ!



宣言と共に、暗黒色の魔法陣が地面に浮かび上がってきた。

暗黒色の魔法陣。

つまり属性は『闇』。

『光』属性の正騎士候補達とは、互いが弱点の関係だ。

その属性だけでいえば、奴等を倒す可能性があるということか。

だが人狼は『cost0』の雑魚。

属性がどうこういうレベルではない。

暗黒色の魔法陣から、身長が2mをゆうに超える人狼が姿を現した。

デカい。かつ強靭だ。

ゆるりとした色あせた浴衣を身にまとい、自身の背丈よりも長い大太刀を腰にさしている。

見るからに歴戦の強者。

間違いなく、雑魚といった雰囲気ではない。



・通称 : 老練なる人狼

・種族 : 宝具

・職業 : 侍

・Level : ⁇

・力  : ⁇

・速  : ⁇ 

・体  : ⁇

・技  : ⁇

・異能 : 一騎討ち、刀技、単独行動

・召喚cost : 0

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