表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/30

第3話 限界突破

20mの高さがありそうな天井から落ちる光が、アリーナ状に広がる闘技場内を昼間のように明るく照らしていた。

換気用のプロペラファンがまわり空気を循環しているものの、地面に染みついていた血生臭い空気が漂ってくる。

俺を含む地下2階層を守る雑兵30名は、まもなく闘技場へ入ってくる迷宮の攻略をしているという冒険者達を、今か今かと待っていた。

全員が興奮状態となり、いきり立っている。

これから始まる命をかけた戦いにむけて、自身を鼓舞しようとする様々な雄叫びが大きなホール内にこだましていた。

その中で、空気感が違う者が一人いた。

そう。俺のことだ。

俺だけが死を身近に感じ、緊張し萎縮していた。


その時である。

上層となる地下1階層に昇る階段に繋がる両開き扉が開いた。

純白の装備品を身にまとった4名の姿がそこにある。

2m以上の背丈があり頑丈そうな体格が、すっぽりと隠れるくらいの盾を装備した者を先頭に、男達がゆっくりとした歩調で俺達が待っている場内へ入ってきた。

全員が教会が定めた最強騎士団の候補生で、Level29。

しかも『rare職』と呼ばれている『ネームド』だ。



・黄金盾士(正騎士候補)

・Level29(D+)


・蒼穹聖職者(正騎士候補)

・Level29(D+)


・龍狩槍使(正騎士候補)

・Level29(D+)


・雷剣士(正騎手候補)

・Level29(D+)



4人共が『D』級の上限値に達している。

人類の最高到達地点と呼ばれているLevel40となる『C』級への昇格前の状態だ。

奴等がこの人馬迷宮を攻略しに来た目的は、迷宮主を倒し、『限界突破』の資格を得るためなのか。

なんて迷惑な奴等なんだ。

お前達を迎え討たなければならない立場にある俺達のことを、少しくらい考えてほしいものだ。

俺達雑兵は、全員がLevel19の『E+』。

上位職に加えネームド職である正騎士候補達とは、Level差以上にその実力はかけ離れている。

誰がどう判断しても、圧倒的敗北が確定してしまった。

俺が召喚した神聖職3個体にて『永続回復効果』を仲間達に付与したとしても、これから始まる戦闘には何のプラス要素もない。

何故なら、回復する間もなく一瞬で戦闘不能にさせられてしまうからだ。

どうあがいても、烏合の衆である俺達が絶対に勝てない相手なのである。

正騎士候補の奴等は余裕綽々の表情を浮かべ、俺達を舐め切っている会話が聞こえてきていた。



「見るからに雑魚ばかりだな。」

「雑兵達のLevelを一応『鑑定』してみたんだが、結果を聞きたいか?」

「聞かなくても分かる。」

「見た目がみんな雑魚の顔をしているからな。」

「雑魚達のLevelは、『19』なんだろ。」

「ふっ。その通りだ。」

「また『E+』級かよ。」

「まったくもって雑魚ばかりだな。」

「一応、降伏勧告でもしておくか?」

「降伏勧告か。いや、全員、殺しておかないと駄目だろ。」

「そうだ。俺達と同じ人間でありながら、迷宮を守護する闇堕ちした奴等だ。」

「殺されて当然だろ。」

「こいつ等はもう人じゃない。魔物と一緒の扱いだ。」

「地上世界を脅かす奴等だ。掃除してやるぜ。」

「クククク。こんな雑魚、相手にもならねぇな。」



畜生。俺達を殺すことを楽しんでやがる。

正騎士候補達のいうとおり、俺達は地上世界の者からすると害でしかない。

だが、同じ人間であるはず。

人を殺すことに躊躇がないって、こいつら鬼畜過ぎるだろ。

何が正騎士だ。

俺の中にとてつもない怒りが湧き上がってきていた。

とはいものの、この戦いの結末は見えている。

正騎士候補1名が相手でも、俺達雑兵達30名は簡単に惨殺されてしまうだろう。

俺達雑兵の死が確定しているということだ。

どうあがいても絶対にその結果は覆ることはない。

全身の毛穴が開き、大量の汗が流れ始めていた。

まるで死刑台に立たされている気分だ。

俺が絶望的な状況の中、唯一、生き残る手段である者が存在する方向へ、すがるような気持ちで視線を送った。

もちろんその対象は、優雅にアリーナ席に腰掛け、こちらを観戦している黒髪の美少女だ。

その名は奈韻。

ここの階層主だ。

その表情は、この状況を楽しんでいるようにも見える。

俺達が正騎士候補生達に手も足も出ないことは分かっているはず。

優雅に茶を飲みながら、部下達が惨殺されていく様子を見て、性的興奮をするタイプなのかよ!

畜生。何もかもに腹がたつ。

迷宮主からの『支配』を受けているせいなのだろうか、それとも深く植え付けられた恐怖心のせいなのか、黒髪麗嬢に対して反抗的な行動も言葉も口にすることができない。

くそぉぉぉ。



むさ苦しい正騎士候補達に殺されるくらいなら、奈韻に蹴り殺されたいぜ!



俺は、ここの雑兵になる前の記憶を失ったままの状態だ。

そう。いい想い出が全くない。

こんなところで死んではいけない男のはず。

奈韻。俺を見殺しにするんじゃない。

お前は恐ろし過ぎて恋愛対象にはならないが、俺は美少女に蹴られたいんだよ!

お前に蹴り殺されされたいっていう願望は、贅沢すぎることだっていうのか。

俺をここの雑兵にした責任感みたいな負い目は全く無いのかよ。

悔しい。悔し過ぎる。

至近距離からコンコンと説教をしてほしかったぜ!

駄目だ。

精神を支配されているせいなのか、文句の一つも言うことができねぇ!

周りでは、侵入者達の姿を確認した仲間の雑兵達が、雄叫びの音量を上げていく。

敵を威嚇するというよりも、強敵を相手に自身を奮い立たせている感じがする。

正騎士候補達4人も奈韻の存在には当然気付いていた。



「おいおい。あそこを見てみろよ。」

「アリーナ席に座っている女のことだな。」

「そうだ。かなり可愛くないか。」

「俺の好みだぜ。」

「ヒュー。美人だよな。」

「すまん。あれは俺の女だ。俺が連れて帰るぜ。」

「いや。ここは平等に全員でまわして楽しむところだろ。」

「ここの迷宮主はハーレム嬢を囲っていると聞く。」

「期待以上の女だな。」

「念のためにあの女のLevelを『鑑定』してみてくれないか。」

「それなら、もうやっているぜ。」

「さすが仕事が早いな。」

「それでどうなんだ。」

「あの女もやはりLevel19なのか?」

「いや、それが『鑑定』が出来ないようなんだ。」

「鑑定が出来ないだと。」

「どう言うことだ?」

「あの美人。俺達と同格のLevel29だとでも言うのか。」

「いや待て。俺達より格上だという可能性もある。」

「だとしたらLevel30以上になってくるぞ。」

「だが、俺達は『ネームド』だ。」

「そうだな。4人もいるしな。」

「慌てることはないだろ。」

「とにかく、クソ雑魚達を一掃しようぜ。」

「あの美人ちゃんをどうするかは、それからだ。」



正騎士候補達の話しを聞いて、耳を疑った。

マジか。

漆黒麗嬢はLevel30の『C』級かもしれないのかよ。

それって人類の最高到達地点じゃないか。

だとしたら、迷宮主よりもLevelが高いってことにならないか。

正騎士候補生4名については、大盾で装備している黄金楯士と龍狩槍使、雷剣士が各々自由な感じで闘技場へゆっくり歩みを進めてくる。

後方から蒼穹聖女者が1人、後を追うようなや歩いていた。

特に『陣形』は組んでいない。

その表情には余裕が感じられる。

俺達相手に警戒する必要はなくて当然なんだろう。

俺以外の雑兵達は雄叫びを上げ、自身を奮い立たせている。

闘技場内のボルテージが上がり、俺を除く仲間達はあきらかに前のめりになっていた。

槍使い(男)、拳闘士(男)、弓使い(男)の3人も同様だ。

無謀過ぎるだろ。

俺は3人に聞こえるように突撃をしないように声を掛けた。



「お前達。突撃するんじゃないぞ!」

「突撃するなだと。」

「そうだ。奴等は俺達よりも格上だからだ。」

「ああ。あいつ等が格上なことくらい、俺にも分かるぜ。」

「奴等、正騎士候補なんだろ。」

「俺も知っている。Level20以上の『D』級だってことを。」

「だがよう、青髪。ここは突撃するしかないだろ。」

「そうだ。死ぬと分かっていても、突撃するのが雑兵の使命じゃないか。」

「お前達が言っていることはよく分かる。それでもおもい留まってくれ!」

「青髪。お前に何か策があるのか。」



3人が一斉の俺の方を振り返った。

策か。

策といえるものがあるとしたら、それは戦わないこと。

無駄死にしたら駄目だろ。

その時である。

雑兵の1人が奇声を上げながら正騎士候補へ向けて突撃をした。

黄金盾士が迎え討つように前に出てくる。

勝負は一瞬だった。

突撃した雑兵が持っていた武器を大盾に突きたてた瞬間、俺達の背後へ吹っ飛ばされてしまった。

闘技場の壁へ体をぶつける衝突音が響いてくる。

遅れて背後を振り向くと、雑兵の男は人の原型がなくなるくらいの姿になり、壁に打ち付けられていた。

カウンタースキルだ。

それもかなり強烈。

黄金盾士に攻撃するということは、即ちそれは死、もしくは戦闘不能となることを理解した。


雄叫びを上げていた雑兵達は一瞬静まりかえるものの、全員が狂気に満ちた表情を浮かべ、黄金盾士へ一斉に突撃を開始した。

槍使い(男)、拳闘士(男)、弓使い(男)の3人も静止をかける暇もなく例外でなく走り始めている。

今更ながらに気が付いたのだが、あの黄金盾士の奴、『挑発』を発動してやがるのか。

俺に限っていうと低いテンションをキープしたままの状態だった為、『挑発』にのることがなかった。

俺は一人、突撃していく仲間達が次々に惨殺されていく姿を茫然と見ていた。

無抵抗に等しい状態だ。

まるで、蟻を踏み潰しんでいくように簡単に殺されていく。

お前達。どうして死に急ぐんだよ。

正騎士候補達の4人は殺戮を楽しんでいる。

俺は無意識のうち、召喚していた聖職者3個体を解除していた。

今、生き抜くために必要な奴は聖職者ではないからだ。


俺は死にたくない。

生きて地上へ戻りたいんだ。

奴等相手に、正面から攻撃するのは絶対駄目だろ。

俺が狙う標的は、正騎士候補達4名の中で、最も安全な位置にいる者。

まずは神聖職であるあの男から殺してやるぜ。

パーティ戦での定石は、回復系の異能を持つ者から潰していくこと。

あきらかにあの聖職者の戦闘力が最も低い。

だが、成功する確率はほぼ0%。

は言うものの、可能性が無くでも、俺が生き延びるには、そこを狙うしかない。

俺は『影斥候』3個体を召喚する。



・名前 : 影斥候

・Level : 10(E-)

・力  : 3

・速  : 10 

・体  : 3

・異能 : 影潜行、影移動

・召喚cost : 2



行け。影斥候!

目の前では、拳闘士が瞬殺されているところだった。

弓使いの攻撃が撃ち落とされている。

そして、槍使いが突撃をしていた。

すまない。

お前達を助けることは出来ない。

俺が生き残るために、お前達を利用することを許してくれ。

影斥候達が、槍使いの影の中へ姿を消していく。



召喚した影斥候3個体を、突撃をしていく槍使いの影の中へ素早く『潜航』させたのだ。



そしてその槍使いは、攻撃を仕掛けた黄金盾士のカウンターを受け、あっけなく後方へ飛ばされていく。

槍使いの末路は、当然に他の仲間達と全く同じ。

後方の壁に体をめり込ませ、戦闘不能に陥ったのだ。

そうなることは想定どおり。

俺は、この局面から反撃を開始する。

余裕綽々にしているお前達のその顔を、絶対に恐怖で歪ませてやる。

俺の標的は、安全地帯にいる蒼穹聖職者の男。

戦闘値が最も低い回復職なら、俺の攻撃でも届くかもしれない。

何よりも、パーティ戦では回復職の者から叩くことが定石だ。

槍使いが突撃をした際、槍使いの影に忍ばせていた『影斥候』3個体を、『影移動』の効果により黄金盾士の影の中へ『潜航』させることに成功していた。


黄金盾士は、自身の影に異変があることを既に感じているようだ。

やはり分かるか。

お前自身の影なんだからな。

影斥候がそこに『潜航』していることくらい気がついてしまうよな。

黄金盾士が、自身の影へ攻撃しようとしていた。

遅い。遅い。遅すぎだぜ。

お前がそうすることは予想済みなんだよ。

攻撃が届く寸前。

2個体の影斥候は『潜航』を解除し、黄金盾士の影から姿を現していた。

蒼穹聖職者との間合いを一気に詰めるため、『影潜航』を解除し、跳躍させたのだ。

届いてくれ!

だが、正騎士候補4人は余裕な感じで反応している。

2個体の影斥候は、黄金盾士の影から姿を現すと、あっけなく斬り刻まれていく。

ほぼ無抵抗。

反撃する余裕なんてまるでない。

よし。いい感じだ。


ここまでの展開は想定どおり。

影斥候2個体が影からの『潜航』を解除し、姿を現した本当の狙いは、囮だ。

最後の一個体を『影移動』させるため、お前達に攻撃させたのだ。

奴等が派手に影斥候を切り刻んでくれたおかげで、目的を達成した。

————————黄金盾士の影から蒼穹聖職者の影までが線で繋がっていた。

この戦いは、俺の勝ちなんだよ!



最後の1個体となる影斥候を、蒼穹聖職者の影へ、『潜行』させることに成功した。



仕上げは、蒼穹聖職者の背後から致命傷を与えるだけ。

実際のところ、蒼穹聖職者を殺すことに成功できたとしても、3人の正騎士候補は残ってしまう。

どうあがいたところでも、俺の死は免れないのは確定済み。

だが、やってやる。

お前達の1人は道連れにしてやるぜ!


最後の影斥候が、『潜行』していた蒼穹聖職者の影から姿を現した。

その様子に気が付いた正騎士候補達が慌てている。

遅い。遅い。遅すぎなんだよ。

慌てる表情が傑作だぜ。

もう俺の攻撃は、阻止することは出来ないぜ。

行けぇぇ!

影斥候が、蒼穹聖職者の背後から勢いよくナイフを首へを突き立てた。


だが、影斥候はダメージを与えたものの、標的を殺しきることは出来なかった。

首筋に、かすり傷を負わせる程度のものだった。

影斥候の攻値は『3』。

攻撃力が低すぎたのだ。

影斥候が蒼穹聖職者が持っている杖で殴り殺されてしまった。

畜生ぉぉぉ!

何で俺はこんなに弱いんだ!

当然のことなのだろうが、腹が立つ。

怒り咆哮をあげたその時である。

予期していなかった奇跡が起きた。



―――――――――――――――――――――

・あなたは『限界突破』に成功しました。

・経験値1を獲得。

・Level20『D-』へ上昇します。

・新しい職業を選択することができます。

―――――――――――――――――――――



・名前 ; 水烏(みずがらす)

・通称 : 青髪

・種族 : 人間

・職業 : 術士 →

・年齢 : 17歳

・Level : 19 → 20(D-)

・力  : 10 →

・速  : 10 →

・体  : 15 →

・異能 : 召喚E、戦術E、鑑定E

・状態 : 支配、洗脳解除

・特殊 : 女王陛下の加護

・経験 : 0/10000

・cost : 6/6 →



マジか。

生き残れる可能性があるってことなのか。

選ぶ職業によってステータス値が変わってくる。

俺以外の雑兵達は既に戦闘不能。

ここで階級を上げ、選ぶ職業によっては起死回生になるかもしれない。

転職可能な職業が表示されていた。

・下級赤魔術士 ・下級黒魔術士

・下級闇魔術士 ・下級音魔術士

・下級時魔術士 ・復讐の召喚士

・下級魔狩人

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ