第28話 俺のターン
天空から降り注いできた閃光が突き刺さった大地が、マグマのように真っ赤となりドロドロと生き物のようにうごめいていた。
陽炎で空気が歪み、焼け焦げるにおいが漂っている。
目の前では『灼熱地獄』という言葉が相応しい景色が広がっていた。
見上げると黒灰色の分厚い雲にぽっかりと開いた穴から差し込んでくる太陽光が、辺り一面を照らしていた。
全長が50m程度あったはずの飛行物体が、天空から降り落されてきた閃光に焼き払われ、細切れになり現在進行形で燃えながらパラパラと落下してきている。
ここは世界の中心に位置する十三都市内で、最も危険な場所とされる|Kaus-Australis地区。
小汚い建物に燃え広がっている炎は、人狼から繰り出す長距離斬撃にて、斬り刻まれていく。
その様子を眺めている奈韻の背中から、『早く行け』という無言の圧力を感じていた。
戦力外である俺がここにいる理由とは、まだ生きているであろうと思われる飛行物体内にいた機械人間へトドメをさすこと。
調子をこいて黒髪麗人へ喧嘩を売ってしまった身の程知らずが落下してくるであろう、目の前に広がる『灼熱地獄』の場所へ奴を探しに行かなければならないのだ。
というか、あそこへ落下してしまったら、機械人間の野郎も生きてはいられないのではなかろうか。
とはいうものの、行かなければゴミのような存在である俺が奈韻にぶっ殺されるかもしれない。
まさに、進むも地獄退くも地獄という言葉が当てはまる状況に陥っていた。
どうしていいのか分からないでいる俺に対し、背中を向けたままの状態で、奈韻が空を指さした。
「水烏。あれが見えるか?」
指さす方向へ視線を向けると、飛行物体の残骸がわさわさと落ちてきているその先。
空に違和感のある物体が降下してきている姿を視認した。
あそこに見える物体。あれは落下傘なのだろうか。
落下傘とは、いわゆるパラシュートと呼ばれるもので、空気抵抗を受け降下する速度を下げるためのものである。
そうか。機械人間は飛行物体から脱出していたっていうのか。
俺が奴の立場だったなら、飛空艇が破壊された時のために備え、脱出装置を実装しているだろう。
頭のいい機械人間なら、そういう設計をして当然だよな。
そしてもう一つ。悪党属性である者は、何故か生命力が強いという法則がある。
そう。『ざま―』のおかわりをするため、なかなか死ぬことが出来ない存在なのだ。
奈韻は、機械生命体の上位存在が殺すことが出来ない制約を『ラプラス』からかけられていると言っていた。
そして26話で『奴が命乞いをし、俺に惨殺される』と予告していた。
黒髪の美少女には、奴がぶっ壊された飛行物体から脱出する未来が見えていたということなのか。
あれこれといろいろ考えていると、黒髪の魔人が、悪党属性である者達が物凄く喜ぶ言葉を不意に口にした。
「あの機械人間は、体の半分以上を欠損している。」
その言葉を聞いた俺は、沈んでいた心の中にリズムカルな楽しい曲が流れ始めてきた。
心を重く縛っていた鎖が破壊されていく。
背中に翼が生え、一気に体が軽くなる。
イヤッホー!
笑いが込み上げてくる!
奴は、半死半傷の状態になっているということなのか。
もしかして、これは楽勝なのではなかろうか。
ついに俺のターンがやってきたぜ!
仕切り直しでもう一度宣言させてもらおう!
ここから先は俺の独壇場だ!
俺は弾丸のように標的へ向け走り始めていた。
◇◇◇◇
―――――空門士からの視点―――――
私の名は空門士。
『不変の鋼技師』と呼ばれるmasterに生み出されてきた機械生命体である。
これまで数多くの成果を上げ、Level30の『C』級に成り、人型まで進化をした親衛隊員だ。
そして半身でもある『飛空艦』を操る私は空の支配者である。
・名前 : 空門士
・別名 : 空の支配者
・種族 : 機械生命体(人間型)
・職業 : 飛空技師
・Level : 30(C-)
・力 : 30
・速 : 30
・体 : 50
・異能 : 技師C、重力場
・名前 : 飛空艦
・全長 : 50m
・攻撃 : 0
・防御 : 100+100
・耐久 : 100
・特殊 : 飛行(反重力)、爆撃、boost
・空門士の半身
|Kaus-Australis地区で人間の女をいたぶり楽しく過ごしていたある日のこと。
厄災と呼ばれる人間の女が姿を現した。
その名は奈韻。
Masterからは、我等機械生命体を滅ぼす者と聞いている奴だ。
だが、その女への備えは万全にしており、私に敗北する要素は微塵もない。
空を制する者こそが、最強たからだ。
半身である存在の『飛空艦』のStatus値からしても、私の勝利は揺るぎない。
空を航行する私を相手に、遠隔攻撃となる手段を持たない者は、戦う土俵にすらのってこない。
例え攻撃が届いたとしても、防御値『200』を誇る半身である飛空艦にはダメージを与えることは出来ないだろう。
Catastropheと呼ばれる奈韻がどれくらいの実力であるかは知らないが、私の相手になりえる存在でないのは確実だ。
そして、高度50mを保ちながら、爆撃を開始しようとした瞬間の時。
天空から閃光が降り落されてきた。
防御値200を誇る飛空艦の装甲が、ペランペランの紙切れのように光の熱に貫かれ、焼かれていく。
何故、頭上から攻撃をされているのだ!
このありえないほどの威力は何なんだ!
唯一神『ラプラス』が私へ攻撃しているとでもいうのか!
50mある半身の巨体が成すすべもなく破壊され、墜落していく。
私の生命活動を計測する快適値の針が振り切れ、万が一に備え用意していた自動脱出装置が発動した。
圧縮していた空気圧を解放させ、私は蛙が跳躍するように飛空艦から離れていた。
半身である飛空艦から強制的に切り離され、脱出したのだ。
本体となる自身の体をみると、閃光の熱により半分以上が欠損している。
視界に入っている離れていく飛空艦についても、もうその原型は無くなり崩壊していた。
防御値が200ある機体だぞ。
想定では龍からの攻撃も凌ぐはず。
世界蛇や深紅蠍でも、これほど圧倒的な攻撃をすることは出来ないだろう。
それを下等生物である人間のあの女がやったとでもいうのか。
自由落下が開始されている中、降下速度を緩和するための落下傘が広がっていた。
両足を焼かれて失った状態では、移動することができないが、私の特殊能力となる『重力場』を使用すればLevel29以下の攻撃なら迎撃することは可能だろう。
問題はあの『catastrophe』の女だけ。
あの無茶苦茶過ぎる存在については、私が計算できる範囲を余裕で超えている。
選択肢は、かかわってはいけないこと。
より遠くへ逃げることになるだろう。
地面が近づいていた。
着地点を確認した時、不吉な存在が視界に入ってきていた。
青髪の男が笑顔を浮かべながら私に対し手を振っていたのだ。




