第24話 punipuni-hunterとは
見上げると空を覆う雲の高さが低い。
人馬迷宮から出てきた地上は、昼間の時間帯であるにもかかわらず暗く湿気ていた。
ここはKaus-Australis地区。
十三都市を守護する4聖人達が来たるべく戦争に備え、戦場指定にした区域だ。
その災害とは、前を歩いている女王陛下様のこと。
その名は奈韻。
俺にご褒美をもたらしてくれる女神であり、一般的には|catastropheと呼ばれる存在だ。
足を進め度に後ろで束ねている長いポニーテールがリズムカルに揺れていた。
まさに神映像と呼ぶに相応しい最高レベルのご褒美。
底辺に生きる深く淀んだ俺の心に、暗黒色の活力がメラメラと漲ってくる。
今の俺の状態は、上質な肉の味を覚えてしまった雑食動物。
ご褒美の味を知り、欲望という名のコップのサイズが大きくなり、満たされる欲望の容量が膨れがっていた。
そう。以前の俺ならこの神映像を見て十分に満たされていたのだろう。
だが、level-upしてしまった今は違う。進化成長してしまったのだ。
まだだ。まだご褒美が足りないぜ。
もっと欲まみれに俺はなってやる!
奈韻を先頭に、薄汚れた建物が並ぶ道を歩いていた。
ゴミが散乱し、素行の悪そうな者達がこちらを見ている。
治安の悪い空気が漂っており、秩序というものが感じられない。
ここ『K-A地区』は、犯罪者達が逃げ込んでくる無法地帯として有名な街ではあるが、俺達を見てちょっかいを出してくる者は誰もいない。
黒髪の暴君・奈韻に関しては、知らない者が見ると世間知らずのお姫様のように見えるのだろうが、後ろを歩く2人についても異彩を放っていた。
背丈が2mを超える人狼は、アスリートのように一切の無駄が削ぎ落された体型をし、大太刀を腰にぶら下げている。
細マッチョで180cm超えの魔倶那は、あきらかに他と毛並みが異なっていた。
はたから見ると俺はどう見えているのだろうかと考えていると、前触れなく、黒髪令嬢が足を止めてこちらへ振り向いてきた。
悪いことをしたわけでもないのに、恐怖指数がMAX値を突き抜けていく。
絶対にろくでもないことを言ってきそうな気がする。
極度の緊張状態に陥り、過呼吸気味になっている中、人馬迷宮を出た目的みたいな言葉と、そして予測外過ぎることを口にしてきた。
「私の目的。それは全迷宮の攻略だ。その前にだ。少し私の話を君達に教えておこう。」
この世界には12の迷宮があると言われており、十三都市内には人馬迷宮の他に、4聖人が支配している4つの塔が東西南北に建っている。
更に、地下に広がる砂漠には深紅蠍、大海には世界蛇がいるという。
そいつ等については、人がどうこう出来るようなlevelの相手ではない。
うむ。モブである俺には関係のない世界だな。
その話は置いといて、圧倒的に興味があるのは奈韻が自身の話をするという方だ。
俺は女が自己申告するスリーサイズは当てにならないことを知っている。
Aカップであるにも関わらず、Bカップだと見栄を張ろうとする生き物なのだ。
奈韻さんよぉ。
残念ながら、punipuni-hunterである俺様の『戦術眼』は誤魔化すことは出来ないんだぜ。
俺が、お前の嘘を暴いてやる!
だが黒髪の魔人は、予期せぬ話を俺達にしてきた。
「私は、唯一神『ラプラス』からいくつかの制約を与えられている。」
なぬ。何の話をしているんだ。
普通、自身の話をすると言えば、スリーサイズの申告だと思うじゃないか。
punipuni-hunterの能力を自慢してしまった俺の立場はどうなるんだよ。
というか、ラプラスから制約を与えられているだと。
すいません。その話、全く興味がありません。
失意に沈む俺をよそに、奈韻は自身にかけられている制約についての話を続けてきた。
「私が与えられた制約の一つ。それは人を殺してはならないことだ。」
ラプラスから人を殺せない制限が与えられているのかよ。
騎士候補達が攻略をしてきた際もトドメを刺さなかったのはそういうことだったのか。
つまりあれだな。
奈韻は、自身の代わりに人を殺せと俺達に言っているのだろうか。
無理です。最弱の俺には無理過ぎる要望です。
あれこれ物事を考え始めていると、不意に名前を呼ばれてしまった。
「摩倶那。水烏。私と人狼はゆっくり歩いていく。君達2人は先行し、敵らしい者、障害物がいるならば排除しろ。」
◇◇◇◇◇
魔倶那の斜め後ろを歩いていた。
俺より身長が頭一つ高い。
イケメンな上、運動性能もバカ高く、全スペックに劣る俺と同じ目線で接してくる。
いいよなあー。
この男は日常的に女の方から逆ナンされてしまう立場なんだろうなー。
その時、俺はあることに気付いてしまった。
今の俺のポジションについてだ。
もしかしてだが、逆ナンしてくる女の『おこぼれ』に、俺はありつくことが出来るのではなかろうか。
魔倶那さん。有難うございます。一生ついていきます。
ぼーっとしている場合ではない。
ここはコミュニーケーションを図り、イケメンと仲良くならないといけないところだろ。
そうだな。まずは軽い会話をしながら、いい奴であると思い込ませることが大事だな。
「魔倶那さん。少し聞いてもいいですか?」
「なんだ。何か聞きたいことがあるのか。」
「魔倶那さんも俺と同じように奈韻様に従っているじゃないですか。」
「そうだな。それがどうした。」
「魔倶那さんって、マジで強いじゃないですか。それでも奈韻様には勝てないのかなって疑問を持っていまして。」
「そう言うことか。Catastropheに、俺が勝てる見込みがあるかをしりたいということか。」
「奈韻様も俺達と同じ人間じゃないですか。絶対に勝てないこともないのかなって、思うんですよね。」
「水烏。俺が単独で『龍』に勝てると思うか?」
「え。龍ですか。奴等は最低Levelが50の『A』級ですよ。さすがに人が単独で勝てるはずがないでしょ。」
魔倶那は何の話をしているんだ。
奈韻が龍並みの実力があるとでも言いたいのか。
騎士候補達を倒した際に使用していた『魔銃』は強力なのだろう。
利点は貫通力が高く、使い勝手がいいこと。
そして欠点は、威力が低いことだ。
俺の見立てでは、魔倶那が奈韻に対し歯の立たないほどではないように思える。
チリチリ毛のイケメンは、普通に歩きながら話を続けてきていた。
「水烏。お前も『龍の千機戦役』のことは知っているだろ。」
「はい。その名前のとおり、1000機の龍が十三都市に侵攻してきた話ですよね。」
「俺は、その戦場にいたんだ。」
「マジですか。生存者はいないと聞いていましたが。」
「俺はその時、龍の一撃を喰らい半死半生の状態になってしまったものの、なんとか生き残り、Level20へ『限界突破』を果したのだよ。」
「凄いっすね。龍の一撃を喰らって生き残るって、凄くないですか。」
「問題はその後だ。俺は少しの間、気を失ったんだ。時間にして1分くらいだろうか。そして意識を戻した時には、1000機の龍が死体になって転がっていたんだ。」
「十三都市は唯一神『ラプラス』に護られているからですよね。」
「唯一神『ラプラス』に護られている都市か…」
「違うんですか。」
「そうだ。『ラプラス』が1000機の龍を瞬殺したわけではない。」
「まさかとは思いますが、龍を皆殺しにしたのは奈韻様だという話じゃないですよね。」
「そのまさかだ。俺達が女王陛下と呼ぶ『catastrophe』だ。」
「マジっすか。ありないでしょう!」
「俺が意識を戻した時に、『catastrophe』は涼しい顔をして、俺に『モブ達は私が一掃しておいた』と言っていた。」
「龍1000機がモブ!」
1000機の龍のことを、モブ達と言ったのか。
だとしたら、奈韻からすると、Level50の龍達とカースト最下位の俺とが、同じモブ扱いということなのか。
その話。本当なのか。
内容が飛躍し過ぎて、頭の中に入ってこない。
黒髪の魔人が『銃士』でLevel50相当の戦闘力をもっていたとしても、1000機の龍を一瞬で殲滅することなんで不可能だろ。
ありえねー。
絶対にありえねーだろ。
動揺している俺に、先を進んでいた魔倶那が再び話かけてきた。
「水烏。あれを見ろ。おかしな奴等がたむろしているぞ。Catastropheからの命令だ。障害物になる雑魚共は適当にぶっ殺すぞ。」
視線の先に、犯罪者組織のような一団が見える。
すいません。適当にぶっ殺すという意味が分からないんですけど。
俺からすると絶対にかかわり合いになっては駄目な奴等だが、魔倶那からするとクソ雑魚だということなのか。
ふっ。魔倶那。モブ達の相手はお前に任せる。
———————俺は、奴等に捕えられている女達を救うことにするぜ!
その女達の両手には手錠が付けられていた。
遠目ではあるが粒ぞろいでなかろうか。
人身売買のために攫われてきたのだろう。
となると、若くて見た目がいい女を連れてくるのが鉄則というもの。
俺に風が吹いている。
ハーレム王になる道筋が見えてきた。
モブ男がハーレムを築くには法則があることをpunipuni-hunterである俺様は知っている。
人は、恐怖や不安を一緒に体験した者に恋愛感情を持ちやすくなるのだ。
奴隷から解放された女は、無条件で俺に惚れることが確定するんだよ!
目の前では、早速といった感じで、魔倶那が半グレ集団をぶっ飛ばし始めている。
戦闘狂かよ。
とういか、圧倒的すぎる。
女達から助けを求める声が聞こえてくる。
完璧な展開だ。
あとは俺が女達を救えばいいだけのこと。
俺は女達に向かい叫んでいた。
「お嬢さん達。大丈夫ですか。俺が助けます。もう少しだけ辛抱して下さい。」




