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第22話 人狼からの『ざまあー』②

背丈が2m以上ある人狼の大きな背中が至近距離で見えていた。

戦闘状態となった人狼は、武闘家の男と骸骨から繰り出されてくる連続攻撃を『パリィ』を発動させながら大太刀にて受け流していた。

近くで見ると、全員の動きが速すぎて俺の情報処理が追い付かない。

――――――――――そして骸骨から10m程度離れた『五芒星』の陣形を発動する指定の位置。奴を包囲するように5体の聖職者は召喚されてきていた。

目的は、骸骨を浄化すること。

そう。俺は奈韻から『ご褒美』を貰うために命をかけて超危険な戦闘地帯に飛び込み、聖職者の召喚に成功させたのだ。

人狼に護ってもらわなければならない状況にあるものの、Greatな偉業を成し遂げたことにはかわりない。

俺はやればできる子。

誰かこの俺を褒めてくれ。

そう。俺様という男は褒められて伸びるタイプなんだよ。

心の声にて自画自賛をしていると、ようやくといった感じで、人狼へ攻撃を仕掛けていた丸坊主の武闘家が、召喚されてきた聖職者の存在に気が付いた。



「あの聖職者達。どこから現れてきたんだ。あれは召喚されてきたのか!」



続けて骸骨も状況を確認しようと周囲を見渡し人狼への攻撃を中断した。

おいおいおい。今頃かよ。

お前等。気がつくのが遅過ぎなんだよ。

まぁいいだろう。

仕切り直しだ。

クックック。お前達。聖職者が現れたことに驚いていやがるのか。

いいだろう。今回だけの特別サービスだ。

クールな感じで、アホづらをしている武闘家の男へ指さした。



「なんだ。あれが何なのか知りたいのか。しゃねーな。教えてやるぜ。あの聖職者達は今しがた俺が召喚した切り札だ!」

「…」



俺の言葉に反応がない。

静寂な時が流れていた。

もしかして、俺は無視されているんですか。

確かに召喚した聖職者はLevel9。戦闘力がゼロ。

天敵であるはずの死霊系からしても、脅威には成りえる存在ではない。

だがそれは、単体での話だろ。

なぜ俺が、わざわざ危険な目をして、5体の聖職者を召喚したのかを察してくれよ!

いや、まぁ別に理解してくれなくてもいいんだけどよ。

俺は無視されることに慣れている、スペシャリストだからな。

でも。やっぱり。悲しいです。

心の中にある何かが、プツリと切れた気がした。

俺は叫んでいた。



「聖職者達に命令する。『五芒星』の陣形を形成して、死霊骸骨を浄化しろ!」



五芒星とは、陰陽論的観点から諸々の摂理により、不条理な存在を浄化する陣形である。

聖職者達は既に『浄化』の力を発動済。

俺の宣言と共に地面に光のラインが走り始め、星の姿を形づくっていく。

まさに一瞬のうちだった。

――――――五芒星の陣形が完成していた。

地面に描かれた星型の光が輝きを増していく。

俺達には何ら変化のようなものは感じない。

だがしかし、骸骨だけは違っていた。

おどろおどろしい呻き声を発っし始めていたのだ。



『ΛЖШ∀ЁфГ…』



魂が抜けていくような声が鳴り響く。

この世界に存在しない音ではないだろうか。

骸骨って、どういう理屈で声を発しているのだろうか。

背丈が5mある骸骨の背骨が折れ曲がり、力無くへたり込んでいく。

武闘家の男はようやく異変に気が付いたのだろう。

猫のように跳躍すると、『浄化』を発動していた聖職者に強烈な鉄拳を見舞っていた。

聖職者の一体があっけなく倒されると、光のラインで描かれた五芒星の陣形が崩されていく。

ふっ。残念ながら、時遅しだぜ。

骸骨の奴には致命的ダメージがとおった後なんだよ。

実際に五芒星の陣形が消滅しても、いまだ地面にへたりこんで動けないでいる。

勝利を確信し叫んでいた。



「俺は影斥候を召喚する。お前達に命令する。あの骸骨の『Core』を破壊し、トドメを刺すんだ!」



宣言と共に、地面に浮かび上がった魔法陣から影斥候3体が姿を現した。

自身の手で直接、骸骨の『core』を破壊してやりたいところではあるが、俺という男はビビリなのだ。

お前達に任せたぞ。

影斥候が持つ短剣が、動きを止めた骸骨のあばら骨の内側へ伸びていく。

決まったかのように思われたが、その先端が『core』に跳ね返る接触音が聞こえてきた。

一撃では、破壊できなかったようだ。

おいおいおい。お前達。どんだけ攻撃力が低いんだよ。

追撃の2撃目、3撃目が入ると、ようやくといっか感じで『core』が破壊された。

実験室に置いてある人型の標本模型がバラバラになるように崩れていく。

奈韻から与えられた絶対不可能なミッションを達成した瞬間だ。

喜びの雄叫びを上げようとした時である。

丸坊主の武闘家が、俺を睨みつけていることに気が付いた。

まさに鬼の形相だ。

眼は血走り、全身から湯気が昇っているように見える。



「お前か。お前が召喚士だったのか!」



地獄の底から絞り出されてきたような声だ。

武闘家から、恨み、破壊的な怒り、どす黒い感情がにじみ出ている。

幽霊と出会ったような悪寒が背中に走り、あまりの恐怖に金縛りになってしまっていた。

なんともこれはまずい状況だ。

攻撃されてしまうと超低ステータスの俺に抵抗する力はない。

そもそもだが、俺と武闘家が戦う理由なんてないんじゃないのか。

両手を突き出し待て待てのポーズをつくりながら、決死の説得を試みた。



「ちょっと待ってくれ。お前と戦うつもりはない。奈韻様に命令されて骸骨を倒したんだ。俺の話だけでも聞いてくれ!」



武闘家の男が腰を沈めた。

拳に装備した金属製の爪を構えている。

当然といえばそうなのだろうが、俺の説得は失敗した。

やばい。

殺される。

人狼を見ると、知らん顔をしているのは何故なんだ。

お前の手口は分かっている。

また、ノールック・パリィをして俺に恐怖を与えつつ、結局のところ助けてくれるんだろ。

そういうのいらないから。

普通な感じでやってくれないかなー。

その時である。

回復・再生した迷宮主の摩倶那が、ゆっくりとこちらへ歩いてくる姿が視界に入ってきていた。



「おいおいおい。お前達。なにか楽しいことをやっているじゃないか。俺も混ぜてくれよ。」



その声を聞いた丸坊主の武闘家は動きをとめ、怒りに歪んでいた鬼の形相が青くなり、玉の汗が溢れ出てしてきた。

チリチリ毛のイケメンが、very-coolに拳をボキボキと鳴らし歩いてくる。

格好いいというよりは怖い。

怒りの感情を爆発させていた時の武闘家よりも、近づいてくる魔倶那の方へ俺の本能は強く警告音を発していた。

魔倶那については俺のことを下に見ている様子なないが、真に恐ろしいのは本当に実力があるイケメンの方。

下剋上を起こそうとした武闘家も、俺と同じ反応をしており、営業スマイルを浮かべながら迷宮主の方へ振り向き愛想を振りまき始めた。



「これは、これは、摩倶那さんじゃないですか。もう回復されたのですか。いや。本当に、元気になって良かったですね。」



もう回復したじゃねぇだろ。

お前。ついさっきまで、その魔倶那を殺そうとしていたじゃないか。

下剋上を起こそうとしていたんだろ。

まぁどうでもいいんだけどよぉ。この俺を巻き込まないでくれよ。

揉め事なら、よそでやってくれ。

関係ないはずの俺ではあるが、イケメンが近づいてくるだけで心臓の鼓動が跳ね上がっていた。

絶対にここから逃げた方がいいよな。

だが、魔倶那から発せられていたプレッシャーが消えていき、丸坊主の武闘家へ向け普段と変わらぬトーンで言葉を返してきた。



「どうしたんだ。俺を倒して迷宮主に成ると言っていたじゃないか。」

「勘弁して下さい。僕の負けです。見逃してもらえませんか。」

「なんだ。俺とは戦わないつもりなのか。」

「もちろんです。僕が魔倶那さんと戦うはずがないじゃないですか。何か誤解があったかもしれません。ここは穏便に話をして解決しませんか。」



武闘家の男がキャラ変していやがる。

お前。致命傷を負った魔倶那を踏み付けて、高笑いをしていたじゃないか。

何が誤解だ。

裏切り者は許されないのが定番なんだよ。

俺も一緒になってお前をボコボコにしてやるぜ!

魔倶那は予想に反し、何か残念そうにしている。

弱い者がへりくだってきた時は、嬉しそうにするのが定番ですよ。

嫌な予感がする。

もしかしてだが、下剋上を起こそうとした奴を素直に許すつもりなのか。

真の一軍は一体なにを考えているんだよ!

魔倶那が深くため息をつくと、確認をするような言葉をはいてきた。



「本当に俺を倒す気力はなくなってしまったのか。」

「はい。僕が摩倶那さんに勝てるはずがないじゃないですか。」

「そうか。なら仕方がないな。だが、お前のおかげで骸骨2体を倒し、俺はLevel-upすることが出来たぜ。ありがとよ。」

「マジですか。魔倶那さんのお役にたててなによりです。」



イケメンの階層主が労をねぎらうように丸坊主の肩をポンポンと叩いている。

何が起こっているんだ。

制裁を下すどころか、感謝しているっておかしすぎるだろ。

更に魔倶那は、ありえない行動を始めてきた。

自身に手に付けていた指輪を外し、武闘家の男へ見せたのだ。



「摩倶那さん。その指輪は何ですか。」

「これは、迷宮主の指輪だ。」

「迷宮主の指輪。」

「お前にやるよ。」

「え。今、なんと?」

「お前、迷宮主に成りたいんだろ。」

「いや。迷宮主は摩倶那さんが相応しいかと思います。」

「俺は野暮用があってここを離れる。お前、迷宮主になりたくないのか?」

「摩倶那さん。もしかして、僕に留守番役を任そうとしているのですか。」

「留守番か。まぁそうだな。それでどうなんだ。迷宮主になるのか。ならないのか。」

「やります。僕に任せて下さい。迷宮主代行をやらせて下さい!」



武闘家が満面の笑みで、魔倶那から渡された迷宮主の指輪を装備していた。

その成り行きを見ていた村人Bの佐加貴が鬼の形相を浮かべている。

魔倶那の説明によると、迷宮主は自身と同等以上の『階級』である者は支配できないらしい。

俺と武闘家は同じ『D級』だ。

奴が迷宮主になったとしても、支配されることがないということか。

魔倶那が上の階層へ繋がる階段に向け歩いていく。

何故かその後を追うように人狼が歩みを進め、当然のごとく声をかけてきた。



「小僧。ぼーっとするな。我等行くぞ。」



◇◇◇◇◇



人馬迷宮から十三都市へ繋がる出口前に来ていた。

訳の分からずいわれるがまま、魔倶那についてきたのだ。

そこには黒髪の美少女が、俺達が来るのを待っていた。

俺がお仕えする女王陛下である。

その名は奈韻。

黒く長いポニーテールが、キラキラと光っている。

マジで天使にしか見えないぜ。

そうだ。俺は黒髪麗嬢からのミッションを達成していた。

骸骨1体を破壊したのだ。

Levelについては20から21まで上昇している。

命をかけて超絶的に理不尽な命令を遂行したのだ。

それもこれも『ご褒美』のため。

Deadlineを何度も乗り越えそうになったものの無事に生還してきた。

奈韻が俺達の姿を見ると声をかけてきた。



「待ちかねたぞ。」



人狼に続いて魔倶那が歩いていく。

ちなみにだが、チリチリ毛のイケメンも俺と同じ立場であるらしい。

自身の力で『限界突破』を果たした者で、奈韻の奴隷だということだ。

魔倶那は正真正銘の一軍であるが、そんな奴を奴隷扱いするって、どういうことだよ。

人狼が奈韻に向け頭を下げている。



「陛下。ただいま戻りました。」

「人狼。私が課した命令について、無事に果たすことが出来たようだな。」

「はい。水烏が骸骨を1体倒すことに成功し、Level-upすることに成功しました。」

「さすが人狼だな。よくやった。」



奈韻が一瞥してくると、迷宮の出口に向かい歩き始めていく。

え、え、え。

―――――――――――な、なんだと!

奈韻はいま、なんて言ったんだ。

さすが人狼だと、言っていなかったか。

あり得ねぇ。

おかしいだろ。

俺が骸骨を倒した成果が、人狼の評価になっていないか!

なんで人狼が褒められているんだ。

俺が生死をかけて戦った理由。



それは奈韻に踏みつけてもらうため!



訳がわからねぇ!

怒りと混乱、そして絶望感が襲ってくる。

人狼の奴。マジで許せん。

純粋無垢な俺の気持ちをなんだと思っていやがる。

その時である。

俺を一瞥した人狼の口角が吊り上がっている姿が見えていた。

何故、俺を見て笑っていやがるんだ。

おい。お前。もしかしてだが。

――――――――俺に『ざまあ―』をしたのかよ。

前にされてものと比べると今回の『ざまあー』はメガントン級だぞ。

うおおおおおお!

俺から生きる気力が消滅していく。

膝から崩れ落ちていた。

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