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第21話 人狼からの『ざまあー』①

暗い空間を灯りが照らす地上と同様の夜が迷宮内に広がっていた。

高く広くとられている最下層は、日中に温められた熱が放射されており、少しずつ冷たくなってきている。

他の階層とは異なり雑多な空気感はなく、静寂な時が流れていた。

間口が広く古い邸宅の前。

地下3階の階層主と人類の敵である骸骨1体が、老練なる人狼へ向かって突撃していた。

俺の画策により騙され、迷宮主である魔倶那との戦闘を邪魔した影斥候を召喚した者が人狼であると思い込んだための行動だ。

イケメンの迷宮主については、骸骨2体を倒したものの、体を槍に貫かれ致命傷を負っており、動くには再生が追いついていない状態である。

俺の隣にいる佐加貴は、村人Bであるにもかかわらず冷静な様子で戦況を見守っていた。


丸坊主の男は俺と身長はさほど変わらないが、体格が桁違いに大きく、俺が村人Aならば、この男はヘビーモスくらいに該当するほど鍛えられていた。

まともに戦ってはいけない相手であり、思考よりも感情が先行するタイプのようだ。

両手には武闘家達が好んで使用する金属製の爪を装備している。

人狼を護るように周囲に配置していた15体の影斥候達を、その爪で紙きれのように粉砕していき、速度を緩めることなく突き進んでいた。

人狼については2mを超える大太刀を抜き、腰を沈めて迎撃態勢をとっている。

お互いから殺気が漏れていた。

大太刀を構える侍の間合いに、武闘家が入ったのだろう。

深く沈められた姿勢から居合抜きをするように、大太刀を素早く一閃した。

素人の俺から見ても、洗練した斬撃であることがよく分かるほどの一刀だ。

突撃していた丸坊主の武闘家は、人狼から繰り出されてくる電光石火の刃を、金属製の爪でしっかり受け止めてきた。

その衝撃に火花が生じ、甲高い金属音が鳴り響く。


あの一閃を完璧に受け止めるとは。

武闘家の方もそれなりに実戦を積んできているようだ。

さすが階層主。俺とは違いなかなか出来るということか。

2人は大太刀と爪を合わせたままの体勢で一瞬静止するものの、前足へ荷重移動させてきた人狼が、力任せに大太刀を振り切ってきた。

体重差を活かし、強引に武闘家を後退させたのだ。

Levelだけでいえば、人狼と武闘家の男の実力は拮抗しているが、この戦いは2対1。

後ろへ下がった丸坊主の男と入れ替わるように、背丈が5m程度ある骸骨が、遠い間合いから槍を突いてきていたのだ。

人狼は、予めその攻撃を読み、行動していたのだろうか。

迷うことなく流れるような動きで遠い間合いから放たれてきた突きを綺麗に受け流した。

衝撃音のようなものは一切ない。

骸骨からすると手応えがなく肩透かしにあった感覚に陥っているだろう。


人狼がいま使用した技。あれは『パリィ』。

シビアなタイミングで攻撃を受け流し有利な体勢にもっていく技だ。

誰でも使用できる技ではあるが、実戦で使うにはかなり難しいはず。

憎たらしい奴ではあるが、さすがとしか言いようがない。

骸骨については、『パリィ』により受け流された槍は戻りが遅く、連続攻撃をキャンセルさせられている。

Level以上にその力量に差があることがよく分かる。


人狼は奈韻から俺に協力してはならないと言われており、骸骨を倒すことはしないはず。

うむ。思惑どおり、いい感じに時間稼ぎをしてくれそうだな。

この時点で俺が骸骨を倒す成功確率が1%から30%までに上がったくらいだろうか。

とはいうものの、骸骨を倒すために組み立てたスキームの折り返し地点に、いまだ達していない。

そう。この先には最大の難所となる試練が俺を待っているのだ。

その最大の難所とは、骸骨の周囲に『五芒星』の陣を敷く位置に聖職者5体を召喚すること。

『五芒星』の陣には悪なものをはらい浄化する効果があり、死霊系には絶大なダメージを与えることができる。



だが、この陣形を敷くには俺が骸骨に接近し、召喚する必要があるのだ。



目の前では人狼が骸骨達からの攻撃を簡単そうに受けさばいている景色が見えている。

最弱の俺にとって、そこに接近するという行為は軽く見積もっても自殺行為であるが、奈韻からのミッションを成功させるためには成し遂げなければならない。

俺の勝算は人狼の道徳が高いこと。

奴は卑怯なことが嫌いで、弱い者を守ろうとする謎の習性を持っている。

義を重んじる高潔たる侍だということだ。

俺のような弱者を絶対に見捨てないはず。

大丈夫だ。

俺の賭けは成功するはずだ。

恐怖で体が震えていた。

だが、今の俺には後退という文字はない。

行くぜ!

人狼の背中に向かい地面に矢印が伸びている。

『戦術眼』が攻略するための最適ルートを指し示しているのだ。

走りながらできるだけ大袈裟に人狼へ向かい叫んだ。



「人狼ぉぉぉー。大丈夫か。いますぐに助けにいくぞ!」



人狼は、武闘家と骸骨から絶え間なく飛んでくる攻撃をさばき続けながら、背後から走ってくる俺へ視線を向けてきた。

あからさまに不快感を抱いていることが見て分かる。

当然だ。

助けに行くと言ったものの、俺が戦力になることは断じてないし、人狼を助ける気持ちなどサラサラ無い。

俺こそが、足手まといのエリートなのだから。

しっかりこの俺様を守ってくれよ。

聖職者を召喚する予定のポイントへあと数歩まで近づいた時である。

―――――――――――骸骨からの突きが、俺に向かって飛んできた。

おいおいおい。普通、そこからでは届かないだろ。

その遠い間合いから、俺がいるここまで槍を伸ばしてくるのかよ。

最短距離で真っ直ぐ伸びてくる突きは、遠くから見ていた以上に危険なもので、死を予感させる一撃であった。

視界に入っている人狼についても、俺へ飛んでくるその一撃に反応していない。

このままだと、確実に俺はその槍に突き殺されてしまうだろう。

最悪の結果だ。

人狼の力量を見誤ってしまったのか。

俺はここで死んでしまうのか。

奈韻に踏み潰されている映像(妄想)が頭の中に流れこんできた。

俺の走馬灯は妄想の出来事で終わってしまうのか。

うわぁぁぁ。こんな死に方は絶対に受け入れられねぇ。

死を覚悟した時。

人狼は目視確認を経ない状態で、その攻撃を最小限にさばいてくれていた。

骸骨から繰り出された槍が僅かに弾かれ、その軌道を変えると俺をかすめていく。

視線を違う方向へ向けたまま、技を繰り出す『ノールック・パリィ』かよ!

その時、信じられない映像を見てしまった。



人狼が口角を上げニヤリとしていたのだ。



何故、そこで笑っていやがる。

面白いことでもあったというのか。

こいつ。もしかして、いま俺に『ざまあー』をしたんじゃないのか。

俺に恐怖を与えるために、わざと『ノールック・パリィ』をしたという疑惑が生まれてきたぞ。

いや。間違いねぇ。

人狼は俺に『ざまあー』をしてきたんだ。

ドロドロとした負の感情がわなわなと湧き上がってくる。

分かっていたことではあるが、なんて性格が悪い奴なんだ。

まさに怒り心頭だ。

だが今は、骸骨の処分の方が優先される。

人狼の処分は後回しだ。



俺は聖職者5体を召喚し、五芒星の陣を敷く。

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