第六十九話
「京君はどれにするの?あ、これとか美味しそう!」
「ああ…美味そう…」
(だから近ぇんだよ距離が…!)
今までやたら女子から敬遠されてきた京。生まれて初めての距離感にかなり動揺している。
(落ち着け、オレ…。普通に飯食って帰ればいい。普通に。)
「じゃあオレはこれにしよっかな…」
「わ、グラタン!美味しそうだね。すみませーん!」
ミヤが店員さんを呼び、料理を注文する。
「はぁー、お腹すいたね」
「あぁ…てかもうメニュー見ねぇだろ。そっちの席戻れよ」
「えぇー?いいじゃん別に。」
「いや良いけど…横だと食いにくくね?」
「んな事ないよ、食べやすいよ」
しばらくすると、ミヤの頼んだパスタと、京の頼んだグラタンが運ばれてきた。
「わぁ!美味しそう!いただきまーす!」
味はすっごく普通。しかし、ミヤが美味しそうにパスタを食べる為、普段よりも美味しく感じた。
「はー、お腹いっぱい!」
「だな。オレはまだ普通くらいだけどな」
二人は店を出て帰路に着く。
「ねぇ、京君。泊まる場所とかってあるの?」
「…そういやそうだったな。とりあえず野宿するよ」
「…うち来る?」
京の思考が止まる。「うち来る?」という一言の意味に、京は思考を巡らせる。
(えこれもしかして…いや考えすぎだよな。まだ出会ってそんなに経ってないし…いやでもこれは誘ってるよな?!誘われちゃってるなオレぇ!)
「…」
黙っている京の顔を見て、ミヤは何かを察したらしい。
「…なにヘンなこと考えてんの?京君は床で寝てよね」
「ッ?!考えてねーし!」
「その反応は考えてるって!アハハハ…!」
「あ?!笑うな!」
しばらく歩き、ミヤの家についた。
「ついたよ!ここ、知り合いに借りてるんだ。」
「へえ…住み心地よさそうだな。」
小さな一軒家。外観は北欧風の素朴な造りになっており、そこまで広くはなさそうだ。
「さ、入って!」
ミヤの家に入ると、少しオレンジがかった優しい照明に、ちょっとだけ散らかった部屋。服やタオルなんかが落ちている。
「ばあちゃん家思い出す部屋だな。なんか安心するぜ」
「ちょっと!女の子の部屋にばあちゃん家って酷くない?」
「いや酷くねーだろ!褒めてるぜ!」
明日も早いので、今日はもう早めに寝ることにした。カストレア家はかなりの名家らしいし、闇の主に関する有益な情報を持っているかもしれない。風呂を借りて、京とミヤは眠りについた。
…
ふと目が覚めると、辺りは真っ暗だ。月明かりが窓から差し込んでいる。
(あぁ、嫌なタイミングで起きちまった…背中いてぇ…)
寝返りを打って反対側を向くと、ミヤが寝ているベッドが見える。が、少し様子がおかしい。
ベッドの上に、立っている。ピクリとも動かず、真っ暗な部屋に一人。ほんの僅かな月明かりでミヤのシルエットが見えるが、顔まではよく見えない。
(なにやってんだ…?)




