第六十一話
京はとイナは、イナの家の近くの湖まで歩いた。
「なぁ…イナ、あんたの声が聞こえねぇんだ…」
イナは悲しそうな顔をしている。少しすると、両手で京の耳に触れる。
「…聞こえますか?」
イナの声が聞こえる。だが、他の音は一切聞こえない。
「聞こえる…でもイナの声だけだ。どうやったんだ?」
「私が貴方の脳に直接語りかけているのです。他の音は聞かせてあげられません…すみません。」
「いや…十分だ。十分すぎる」
湖の近くに座り、二人は話を続ける。
「京さんが私と出会って、もう三ヶ月くらいになりますね。学園に入学してからも、ちょくちょく私のとこに顔出してくれてましたね」
「まぁな…イナは強えからな。正直学校より何倍も有意義な時間だったぜ。」
「あら…それは嬉しいですね。貴方の助けになれていたなら良かったです。」
イナは微笑んでみせる。モノクロでも、その笑顔はなんだか温かい。
「…まあ何回か殺されかけたけどな?!オメェアレはやりすぎだ!雷魔法三回も直撃させやがって!!」
「うぅ、すみません…魔法はあまり得意じゃなくて…」
「え?イナは魔法得意じゃねぇのか…?」
イナの魔法はその辺の人と比べればとんでもない威力をしている。しかし、イナは魔法が不得意らしい。
「はい…私は魔法よりも近接戦のほうが向いてたみたいで。授けられた『宝具』も巨大な斧でしたし。」
「宝具…?なんだそれ」
「ああ…宝具は私たち五傑集に『天使』たちが授けたものです。『天使』は、神様のようなものですね」
「へぇ…とんでもねぇ規模の話だな…」
二人は湖を見つめる。本当ならすごく幻想的な景色なのだろうが、京の目には白黒の無機質な湖しか映らない。しかし、それでも京はこの安らかな時間が心地よかった。
「…京さん、貴方にはもう時間が残されていません。今から私の力を貴方に譲渡します。」
「…待ってくれよ。そしたらイナが…」
「私のことはいいんです。もう長い時間生きました。ここで貴方に力を託せるなら、私は十分幸せです。」
「違う…!オレはもっと…イナと一緒に居たいんだよ…」
イナは少し驚いていたが、また笑顔をみせる。
「京さん…貴方は私と似てるんです。」
「どこがだよ…魔力もからっきしだし、イナはオレみたいな奴にどこまでも優しくしてくれて…オレそんな出来た人間じゃねぇよ…」
「…私も二百年前は、なんの才能もないと言われ続けてきました。しかし、師から力を託され、その力をここまで練り上げました。」
イナが京の手を握る。イナの手から光が放たれ、京に流れ込んでいく。
「どうですか?私たち…似てると思いませんか?」
「待ってくれ、イナ…!」
その光はどんどん大きくなっていき、京の視界は真っ白になった。イナが光に包まれ、少しづつ消えていく。
「京さん…貴方なら出来ます。今の貴方は、『闇の力』と『光の力』、二つを持っている…私の願った明日を体現しています。」
「待ってくれよ!!イナ!!」
最後にイナが何か言った。すると、真っ白だった光は消え、目の前には、夜の月明かりに照らされた湖が広がっていた。
月明かりに照らされた湖の周りを、ホタルが泳いでいる。虫の音が響きらイナがいた場所には花が咲いていた。イナの匂いが鼻に残っている。
「…うっ…クソ…クソ…!!」
京はただ泣いた。このどこにぶつければ良いかわからない喪失感を、叫ぶことで世界にぶつけた。最後に見たイナの微笑んだ顔が目に焼き付いて離れない。一生、忘れる事はないのだろう。
「イナ…オレはどうすれば、イナみたいになれんのかな?」




