第五話
その日の夜はイナの家の「前」で寝た。家の中には流石に入れてくれなかったのだ。
|(モンスター…か。魔力なくても勝てるって言ってたっけな。どんなバケモンが出て来るんだ…?いや、案外可愛いヤツかも)
そんなことを考えながら、ふと上を見る。満点の星空だった。光に反射するかのように星々が輝き、元いた世界では見たことのない惑星のような星も見えた。夜空を彩る宝石を眺めていると、段々眠気がやってくる。その日、京はこれまでにないくらい穏やかな気持ちで眠りについたのだった。
「ーーきてください、起きてください」
声が聞こえて目を覚ます。そこにはイナが居た。
「あぁ…イナさん、おはようござっす」
「おはようございます。朝食はどうされますか?」
「……食いたいっす」
京がそう言うと、イナは京を家の中へと招いた。どうやら入ってもいいらしい。
「お邪魔しまーす」
なんだか甘い香りがする。そりゃそうだ、女の人の家なのだから。そして綺麗だ。それ程大きくない木製のテーブル、その横に椅子が一つ。奥を見てみると衣服が干してある。
「あまり豪華なものは準備出来ませんが…パンと
スープでよろしいですか?」
「食えるモンならなんでもいーぜ」
イナは奥の調理場に向かっていった。待っている間、京は床に座っていた。
|(そういえば…異世界にはテレビがねぇのか?スマホも持ってなさそうだしな…)
そうだ、スマホ。京はポケットを探ってみる。手になにか当たる、スマホだ!スマートフォンは無事だったのだ。
|(うわ、流石に圏外か…これじゃクソの役にも立たねぇな)
そういえば、今向こうでは俺はどうなっているのだろうか。死んで葬式の準備が進んでいるのか?それとも消えたのか?それとも…存在ごと消えてしまったのか?おそらく、イナに聞いても分からないだろう。
|(俺は…元の世界には帰れねぇのか?)
「準備出来ましたよ、食べましょう」
イナに声をかけられて、京はハッとした。
「あぁ、サンキュー…」
朝食を食べながら、イナに質問してみる。
「俺ってさ、元の世界に帰れたりってするか?」
「そうですね…貴方は元の世界で死んでしまったんですよね?」
「あぁ、そうだな…死んじまった」
「なら…元の世界に戻るのは難しそうですね。恐らくこちらの世界に転移したということは、貴方の存在は元の世界から消えてしまっているでしょうね…」
嫌な予想が的中してしまった。ちっとも嬉しくない。
「そう気を落とさないでください…とりあえず、今のことを考えましょう。まずは試験に合格しないと」
「ちなみにさ…もし合格したけど学費免除にならなかったら…どうするんだ?」
「ティアー国立魔法学園には、転移者のためのサービスがあるんですよ。転移者は年に一人来るか来ないか…ぐらいですが、転移してからは何をすれば良いかも分かりませんからね。貴方も、私がいなければ今頃野垂れ死んでいたでしょうしね。」
「でもなぁ…そもそも上位100人に入れるかも怪しいだろ?」
「貴方なら出来ますよ…多分。とりあえず、朝食を食べ終わったら、モンスターと戦ってみましょう。」
朝食を食べ終わり、イナの家から少し離れた草原にやってきた。京は入念なアップを済ませ、来たる敵に備えた。
「…現れたようですね」
京は目を疑った。ぷるぷるした液体のような生き物?がこちらに向かって来るではないか。
「あれは『スライム』ですね。魔力に反応して向かってきます。」
スライムは…イナのほうに向かって行っている。どうやら京の魔力には興味がないらしい。
「これから私は魔力を完全に封じます。これで貴方のほうにスライムが行きます。」
イナは特別変わった動作はしなかったが、スライムが京の方を向いた。バトルスタートだ。