第三話
「それでよ…ここは一体何なんだ?知らねぇモンばっかだぜ…」
彼女は眉間にシワをよせ、考えるような素振りをしている。
「…どうやらあなたは『転移者』のようですね。
転移者というのは、こことは違う別の世界から来た人の事ですね。」
「てんい…?そうだぜ!俺さっき車に轢かれたんだ!それで死んだと思ったら扉があってよ…」
「扉?!その扉は何色でしたか?!」
彼女の目の色が変わった。「扉」がなんか重要らしい。
「えーっとな!茶色いふつーの扉だったぜ!!」
「あぁ…では違いますね、失礼しました。」
明らかにガッカリしている。京はなにか自分が悪い事をしてしまったような気分になった。
「ん?どういうことだ?違うって…」
「…いえ、なんでもありません!それよりも、ここがどこか、でしたね」
すごく気になる。そういう事は隠さず言って欲しい…
「ここは『ティアー王国』です。あのお城にはこの王国の国王、ティアー八世が住んでいます。」
「はぁーん…?王国ね、絵本みてぇなハナシだなぁ。」
「アナタが元いた場所には王国はなかったのですか?」
「なかったよ…あ、あるとこはあるのかな…?アメリカとかそうじゃね?」
「あめりか…?貴方の元々いた世界の名前ですか?」
「いや、えーっとな…ダメだ、この話やめようぜ」
京は自分のいた世界のことについて、自分が思っていたより知らなかった。無知だということにすら気付いていなかったのだ。これが真の阿保だ。
「あぁ、そうですか…?あ、そうだ!転移者はたまに
『魔力』を持って転移して来るのですよ!」
魔力。なんとカッコいい響きだ。もし魔力なんてものがあれば、かめはめ波とか打てるかもしれない。
「魔力…?俺も持ってるかもってことか?」
「そうですね…測定してみましょうか?」
「あぁ!!頼む!」
(魔力だと…すげぇカッケェじゃねえか!魔力があれば、夢のかめはめ波が撃てる!うおぉお!!)
魔法使いの女は、京の胸の辺りに両手をかざす。彼女の手のひらが微かに光った。
(オイオイ、この女…手が光ってるぜ。実感湧かねぇが…ここは「異世界」てやつなんだろうな…)
「…貴方の魔力は『2』ですね。」
「…に?それって魔力あるってことか?!」
「はい、貴方には魔力があります。しかし、言ってしまえばクッキーの食べカス程度の魔力量ですね」
絶望した。クッキーの食べカスだと。ひどい、いくらなんでも酷すぎる。
「…ちなみに、アンタの魔力はどれぐらいなんだ?」
「私ですか?私は…そうですね、最近少し上がったので一万程度ですかね」
またまた絶望した。クッキーの食べカスどころではない。焼き肉した時にプレートの隅で黒くなってる肉ぐらいの魔力量らしい。かめはめ波など撃てるわけがない。
「ですがご安心ください、魔力は増やせます。今の貴方の魔力は赤ちゃん程度…伸び代しかありません」
「増やしたいぜ!!どうすりゃ魔力ってのは増えるんだ?」
「この王国には『学校』があります。今のあなたは身寄りもないでしょうし、魔力について学ぶなら学校が一番でしょう。それに、丁度二日後に入学試験があります」
「燃えてきたぜ…!乗った!で、その試験ってのはなにをすりゃいいんだ?」
「受験生たちと戦っていけばいいのです。トーナメント式で行われて、百名が入学出来ます。百名の中でも、10位以内に入ることが出来れば、学費も免除されます」
「学費免除?!金かかんのかよ…」
「当たり前でしょう…見た感じ貴方は体格もガッチリしていますし、百名の中には入れるはずです」
「まじか!じゃあよ、残り二日間の間、魔法とか教えてくれよ!絶対10位以内入ってやるぜ!」
「あそうだ、アンタの名前!聞いてなかったな」
「私ですか?私は…『イナ』です。」