第二十九話
「う゛お゛ぉ!!放せ!!」
京は全力で暴れ出す。拘束を解くために、陸に打ち上げられた魚のようにジタバタと暴れる。ウォンも少し引いているが、こんな所で捕まってたまるかという気持ちが強かったのだ…。
「大人しくしなさい!」
「グヘッ!」
騎士風の女が、京の頭を踏みつける。身動きが取れない…。ウォンは京に比べておとなしい。寝そべったままじっと二人を睨みつけている。
「…貴様らまさか、アストレア王国の聖騎士団か?」
「…ほう。ワタシたちの事を知っているのか」
アストレア王国…ウォンはこいつらについてなにか知っているようだ。
「魔力が増える石…といったな。多分それは『プラシーボストーン』だね。発動条件はかなり厳しい筈だけど、その人がそうだと思った石になる…という代物だね」
「…は?」
京の頭を踏みつけたまま、騎士風の女は続ける。
「例えば君たちがその石のことを『触ると死ぬ石』だと思い込んでいたら、その石は本当に触ると死ぬ石になっていたのだ。魔力は増えただろうけど…増加量は少なかっただろ?」
…すべてこの女の言う通りだ。
「…ハァ。悪用されるかもしれないと思ってね…出来れば回収したかったんだけど、君たちが使ってしまったんだね。」
「そ、それに…リザードマンの群れを倒してこいっていう任務も、この人たちが達成してくれましたね」
少女が言う…このチビは京とウォンを見てかなり怯えている。そりゃあそうだろう。薄暗い廊下の物陰から、鉄の棒を持った男と、血走った目をした長い髪の男が飛びかかってきたら…流石に怖いだろう。
「そこのチビは…心を読むスキルを持っているようだな」
ウォンが少女を睨む。少女はひっと声を上げ、騎士風の女の後ろに隠れてしまった。
「ハァ…つまり君たちは、ワタシたちの国を荒らした元凶を退治してくれたんだね」
女は京の頭から足を離し、拘束を解いた。
「君たちは強盗まがいな事をしたけど…同時にワタシたちを助けてくれた。ワタシたちに敵意はないよ」
京とウォンは立ち上がる。
「いってぇな…ていうか、アンタらはリザードマンを退治しに来た…てことでいいのか?」
「そうだ。外にはワタシの部下たちが待機しているぞ」
部下…見た目や発言からするに、この女はかなり偉い人のようだ。そんな人が今ここにいるのだ…恩を着せておきたい。
「しかし…君たちはたった二人で、この数のリザードマンを倒したのか?それにグレイザードまで…一体何者だ?」
「オレ達はしがない農家だよ」
京はウォンに目配せする。学校がバレたら強盗に入った事をチクられて、退学になってしまうかもしれない…そんなのはゴメンだ。
「あ、ああ、俺達は農家だ、小麦で寝ているぞ」
ウォンが言う。小麦で寝る?こいつは何を言っているんだ。
「あ、こ、この人たちはティアー王国の学園の生徒みたいです」
(そうだったー。このガキ、心読めんだった…)
「へぇ…おっと、自己紹介がまだだったね。ワタシはアストレア聖騎士団団長、エイシアだ。この子はクスィーだ」
「クスィーです…あっ、学校にチクったりはしないから、あ、安心していいよ」
相手側に敵意はないらしい。それに、京もウォンもかなりダメージを負っている。あまり無駄な争いはしたくない。
「…ていうか君たち!すごい怪我じゃないか…クスィー、治してあげられるか?」
「うう、はい…」
クスィーが京とウォンに手をかざすと、傷口が光り出し、怪我が治っていく。体も軽くなってきた。
「おぉ、サンキュー。やっぱ、魔法って便利なのな」
少しすると体は完全に元通りになって、しっかりと動けるようになった。
「さて、これからだが…君たちには、ワタシ達の国…アストレア王国について来てもらう。」
「…無理って言ったら?」
「キョウ、やめておけ。大人しくついていくぞ。」
ウォンがやけに素直なのが少し気になったが、京たちはエイシアたちについていく事にした。




