第十五話
風が皮膚を切り裂く。またウォンが腕を振り上げると…風が見える。
風がまるで刃物のように、目に見えるようになった。
風の刃が京目掛けて飛んでくる。両腕で防御を固めると、幸い小さな切り傷程度で済んだ。しかし、京の現在の魔力量では、風の刃を防ぎ切ることは出来ないということも分かってしまった。
またウォン本人が飛び込んでくる。そして、超至近距離で火の玉を爆発させる。
「うおわっ…!」
ガードするが、爆風でかなり吹っ飛ばされる。が、京はすぐに立ち上がり、距離を詰める。
(コイツの魔法は俺の魔力量じゃ受けきれねぇ…なら、少しでも距離を詰めて戦うしかない!)
一気に間合いを詰め、右ストレート。一発目は防がれるが、腰を回転させ飛び上がり、二段蹴りを食らわせる。ウォンがよろける。京はすかさずウォンの服の襟を掴み、思いっきり頭突きした。
「ぐぉあッッ」
まだだ。屈んだウォンの頭に、全力の踵落とし。今までの攻撃は、すべてクリーンヒットしている。しかし…ウォンは立っている。
しかし、ウォンもかなりのダメージを負っている。立っているだけでもやっと、といった具合だった。次で終わらせる、京はそう思った。もし出来なければ…
なにか、嫌な予感がする。
腹に前蹴り、さらに顔面に右ストレートを食らわせる。最後に、もう一発右ストレートで終わりだ…そう思った時だった。
「…風塵鎌」
無数の風の刃が小さな竜巻のようになり、京を切り裂く。血が飛び散る。観客からは悲鳴が聞こえる。
(ま…まじか…)
京はその場に倒れ込む。体の至るところから血が出ている。
起きあがろうにも、力が入らない。
(クソ…こんなとこで…)
京がまだ中学生の頃だった。
京は桂威流古武術の伝承者として、周りから天才だと言われ続けてきた。中学2年の時には全国大会にも出場し、京自身も、自分が負けることはないと思っていた。高校生になっても、全国で…いや、世界で一番強くなれると思っていた。しかし、そんな時にある男と出会う。年はその頃の京と同じぐらいだった。
その男は突然道場に入門し、京に試合形式の勝負を申し出た。京は承諾し、勝負が始まった。京は持ち前の瞬発力で、その男に何度も攻撃を繰り出す。しかし、すべてガードされ、ボディへのパンチ一発で、京は動けなくなり、勝負はその男の勝ちとなった。
それから京は、世界一を諦めた。突然現れた男に、
たった一撃で落とされたのだ。そんな自分では、世界でなど通用するわけがない…。武道自体は続けていたが、練習への熱は大きく下がっていた。その男は、京に勝つとすぐに道場を去ってしまい、どこの誰だったのかも分からなかった。京はこの時、人生最大の挫折を味わったのだ…。
「…し、勝負あ…」
審判が試合終了の合図をする寸前に、静止が入る。
「ま…まだ終わって、ねぇ」
京が立っていた。
「まだやれるぜ…さぁ、来いよ…!!」
京も満身創痍だ。しかし、絶対に負けたくなかったのだ。
「俺はもう…絶対に諦めねぇんだよ!」
「チッ…なら殺してやる!」
ウォンが両腕を振り上げる。また風の刃が京に向かって放たれる。
風が京を切り裂く。だが足を止めず、ウォンとの距離を縮めた。
「バカが!そのまま死ね!」
ウォンとの距離は1メートル程度…しかし、ウォンは火の玉を手から放とうとした。
「うぉぉおおおおッッ」
「な…なにィッ」
しかし、京は火の玉ごと殴り、火の玉で炎を帯びた拳はウォンの顔面に直撃し、そこで爆発した。
ウォンは大きく吹っ飛び、起き上がらない。
会場がどよめく。誰もが京の勝利を確信した。しかし、まだだ。
「ウ…ウオォ…!」
ウォンは体を大きく揺らしながら立ち上がった。
「チッ…タフな、野郎だぜ…」
京の視界がぼやける。かなりのダメージを負っており、少しでも気を抜けば倒れてしまいそうだ。
恐らく、それはウォンも同じだ。
「オラ…来いよ!」
よろよろと歩きながら、二人は距離を詰めていく。
最終局面だ。




