第2話「陽葵もフロイトを見た」(3、)浜井が見せたもの
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「知らない外国のオジサンよ」
という陽葵の言葉を聞くと、浜井は何かウキウキした様子で、その場を離れ、そのまま少し離れた場所にあったイスの上に靴のまま登ると、棚の上にあったダンボール箱を持ち上げ、それを抱えて、陽葵のところに戻って来た。
「陽葵ちゃん、ごめん、もう一度、聞くよ。君には、僕の顔の上に、知らない外国のオジサンが見えるんだね。今も見えるかい?」
陽葵は浜井の行動に少し驚いたが、敢えて関心のない素振りで、
「うん」
と答えた。すると浜井は再び大きく目を開いて、ダンボール箱の中から1枚の紙を取り出し、陽葵の前に掲げた。
「その見えるオジサンって、こんな顔かい?」
見れば、そこには人の顔らしいものが書かれていた。あまり上手ではない、走り書きのような絵だったが、陽葵が少し驚いたのは、その顔に描かれた髭だった。描かれている髭の全体の形が、今、陽葵の目の前に見える顔と同じだったのだ。
「ううん・・・、よく分からないけど、見えてるオジサンと同じ髭のオジサンかな」
すると、
「そうか、そうか」
と浜井がうれしそうな声を上げた。
ただ、陽葵には、まだ確信が持てなかった。確かに髭の形はそっくりでも、絵が走り書きのような簡単な絵だったので、同じ人とまでは思えなかったのだ。
浜井は、そんな陽葵の様子も、じっくり伺いながら、再び、ダンボール箱の中に手を伸ばした。
「なら、これは、どうだい?」
次に浜井が取り出し、陽葵に掲げたのも、1枚の紙だった。が、今度は絵ではない。少し古い感じの、人物のモノクロ写真、それをコピーした紙だった。
「あ!」
陽葵は声を漏らした。陽葵の見る限り、陽葵の目の前に見える顔と、紙に写った人物の顔が、ほとんど同じだったのだ。
しばらく、言葉も発せず、2つの顔を凝視していた陽葵の顔に、やがて笑顔が浮かんだ。
「あ、そうなんだ。先生も見えるんだね。でも、先生にも同じ顔が見えるって、どういうこと?それは、陽葵の脳が嘘つきじゃないってこと?そうだったら、いいな。陽葵は、陽葵の脳が嘘つきじゃないって、先生に言ってほしいの」
陽葵は、そう言いながら、やがて大粒の涙を流し始めた。見ていると涙の量は、だんだん増えていくように思われた。
「陽葵ちゃん、君はずっと、罪悪感を抱えてたんだね。でも、心配はいらない。君の脳は嘘つきじゃないし、顔が見えることは、決して、悪いことではないんだよ」
浜井の言葉に、陽葵の涙が収まって来た。浜井は陽葵が泣き止むのを確認すると、ちょっと困ったような顔を見せて、言った。
「でも陽葵ちゃん、僕には何も見えないし、あの絵を描いたのも、僕じゃないんだよ」




