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「噓つき陽菜」(6)

6

「孝彦さん。あなたはわが家と教団との関係に一線を引きたい、とおっしゃいますが、わが家が教団にどれほどお世話になっているのか、分からないはずはないでしょう」

 母親の突然の乱入に、すねたような表情を見せたのは父親だった。

「あなたが大学を辞め、作家宣言をして、作家活動に専念すること、それに私は反対はしなかった。でも、あなたが最初に書いた小説『アンデルセンになりたくて』が一定程度売れ、文学新人賞を取れたのは誰のお陰?それは道標教が、あなたを教団出身の作家と認め、組織的に書店で本を買ってくれたことも大きかったんじゃない」

 父親は何も言わず、壊れた機械のように何度か相槌を打った。

「今もあなたは、教団から、月刊誌の連載の仕事をもらっている。うちの家計は教団の助けがあって成り立っていると言っても、言い過ぎじゃないのよ」

 すると、何度かの相槌の後、父親は口を開いた。

「僕ら二人が出会ったのも最初は教団の集会だったね。その後、僕は足利信満教祖派、君は幹部・高道官さんの弟子と、少し道は分かれたが、僕は今でも、宗教は人の心に大きな影響を与える、つまり宗教の力は偉大だと信じでいるさ。同じ道標教だしね。でも、それは僕ら二人の問題であって、陽葵には関係ない。ここで陽葵の心を矯正するようなことは、すべきでないと思うんだ」

 父親の言葉に母親は少し表情をゆるめた。

「高師匠も、心配ならってことで、どうしてもセミナーに参加しろ、とは言ってないわ。でも、どうしてなの、陽葵。突然、あんなに嫌がるなんて」

 突然尋ねられた陽葵は、その原因が、突如、心に響いた声とも言えず、俯いて押し黙った。すると、父親が、

「そう言えば、今、私が講師に行っている大学に、新進気鋭の精神医学者がいる。何でも彼は、現在政府が進めている、能力者のための学校プロジェクトの委員もやっていて、その方面の知見も相当のものだと聞いたが」

 と言ったが、母親は陽葵を視界に入れたまま、

「あなた。教団のセミナーにさえ行かない陽葵が、そんな精神科医の患者になると思うの?陽葵が嫌がるのは目に見えているわ」

 と言った。父親が続ける。

「そう、確か、浜井徹先生だったな。私の知る限り、今の教団に、その方面の知見を持った人間はいない。教団の高幹部の派閥のことは知らないが、浜井氏は教祖とも面識があるようだ。高派閥のセミナーに行ったとしても、教団の教義に沿わない事実は否定さえ、教団の子供用教学本を無理矢理覚えさせらるくらいだろう。それよりも浜井先生を訪ねるべきだよ」

 母親は呆れたように、

「いくら、あなたが足利教祖に親しかろうと、高師匠の悪口はだめよ。それに、何を言っても、肝心の陽葵が嫌がったら、どうしようもないんだから」

 と言って、陽葵の反応をうかがった。

 陽葵は押し黙ったままだった。正直、父親と母親の会話の半分も、陽葵には理解できなかった。陽葵は再び、あの時のような声が聞こえるような気がして、黙ったまま、耳を澄ませていた。

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