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「噓つき陽菜」(4)

 陽菜が押し黙ると、それを見た母親は、改めて高を見つめた。

「私は、道標教という素晴らしい宗教に出会い、信心を通して日々、人々が幸福になる道を追求しています。でも、私が学んだ範囲には、陽葵のような症状は見当たりません。ということは陽葵は、心の病にかかっているのでしょうか。それが心配なんです」

 出て来たのは母親の悲痛な叫びだった。高道官は、それを聞くと、「まあまあ」と両手で、それを制止し、話し出した。

「人の頭の上に人が見える、などと言うと、それを守護霊であるとか、スピリチュアルな現象であると言う人もいるが、それが脳の錯覚であることは分かっている、だが、そうしたものが見えるからといって、何も心配することはない。人の脳の機能は本当に複雑なものなので、そうした現象を自らの脳が作り出してしまうことも、決して珍しいことではないし、この世界の知性、常識が深まることによって、つまり大人になることによって、脳自体がそうした現象を打ち消してしまうことだってある」

 高がそう言うと、母親は陽葵を優しい笑顔で改めて見つめた。

「そうですか。先生にそう伺って、少し安心しましたが、・・・結構、この子、頑固なので、それも心配で」

 そう言いながら、母親が陽葵を見ていると。陽葵は俯いた。それを見て、高が声を上げた。

「そうだ。もし、それほど心配なら、うちに、年少者向けの10日間プログラムというのがある。10日間、うちの研修センターに寝泊まりをして、子供向けの遊びも楽しみながら、学校の学習もこなし、さらに、うちの子供向け教学テキストを学んでもらおうというものだ。あらかじめ陽葵ちゃんの症状を係りの者に伝えておけば、それなりの対応をしてくれるはずだが」

「そんなプログラムがあるんですか?」

 母親がすぐに反応を示すと、

「費用は確か10日間で40万円ほどだったが、希望があれば、今週末にでも、受け入れは可能なはずだ」

 母親は「40万円」という費用を聞いた時、少し考えたようだったが、視線は陽葵に向けたまま、

「どうする?あなたが見ている変なものは、脳が見せる錯覚、つまり脳があなたにウソを見せているの。そんなの嫌でしょ。陽葵がそれを直したいというのなら、お母さん、考えるよ。どう?」

 と優しくも、きっぱりとした口調で言った。

 その時、脳裏に浮かんだのは、クラスの芝原好夫や上重武義に言われた、

「嘘つき陽葵」

 という言葉だった。

 陽葵は、もう、そんな風に言われるのは嫌だし、そのプログラムに参加することで、母親が喜ぶ、目の前にいる高という人も喜ぶなら、その方がいいか、とも思った。

 ところである。その時、ちょうと頭のこめかみの辺りから、大きな声が響いた。

「ダメよ。そんなプログラムに参加したら」

 あの声だ。ひょっとしたら、お母さんたちにも聞こえたのかと思ったが、様子を見ると、それはなさそうだった。

「行かない!」

 陽葵は自分でも分からないうちに、そう答えていた。

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