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「噓つき陽菜」(3)

「陽葵、起きなさい。あなたには今から、私の師匠に会ってもらうね。本当は、あなたがもっと大きくなってから、と思ったんだけど、もう、あなたは十分大きいし、心の病にかかっているのか心配だものね」

 そこは、母親の運転する車の助手席だった。車はその時、まさに,

道標教地域本部

 と書かれた、大きな門をくぐろうとしていた。

 陽葵の母親は、もう随分前から、宗教法人道標教の熱心な信者で、陽葵がそこを訪れるのも初めてではない。以前も母親と一緒に、そこを訪れた記憶がある。ただ、その後のことは覚えていなかった。

 二人は車を降り、

統括本部

 というビルに入ると、途中、誰に会うこともなく、エレベータで6階に向い、その中の1つの部屋に入った。

「夏井さん、娘さんも来てくれたね。さあ、二人とも、そこに座ってください」

 そこは、中国風の絵画や書画、それに仏像などが所せましと飾られた部屋で、入ってすぐの机に、大柄で肌ツヤのいい男性がいて、二人をその机の正面にあるイスに促した。、

「実は今日は、師匠にうちの娘の、何と言えばいいのでしょう、育て方について、ご相談がありまして」

 イスに座るや否や、母親はしゃべり始めた。陽葵が母親を亡くした同級生に心のない言葉を浴びせ、学校に呼ばれたこと。それ以外にもこれまで時々、娘が意味不明の言動をすることなど、話は止めどなく続く。男性は、

「私は道標教の教務部長・高道官と言う。君のお母さんと共に、人々を幸福に導く、信仰の道を歩むものだ」

 と途中、陽葵に自己紹介した後は、時々相槌も打ちながら、母親の話に熱心に耳を傾けていた。そして、やがて母親の話が一段落すると、改めて陽葵を優しく見詰めて言った。

「どうやら君のお母さんは、君が心の病にかかっているのか、心配されているようだ。君は本当に友達に、心ない言葉を言ったのかい」

 陽葵は少し考えたが、やがて心を決めたように話し始めた。

「私、間違ってたんです。柚ちゃんの頭の上に見える人が、柚ちゃんのお母さんかと思って。その人が泣いていたので、どうしてお母さんが泣いているのかって、聞いちゃったんです」

 陽葵の、この言葉を聞き、母親は不意に「ばかな」と叫び、高は「う~ん」と声を漏らした。そして、しばらくして、陽菜に質問を投げかけた。

「人の顔の上に、他の人の顔が見えるのかい?だったら、私やお母さんの顔の上にも、誰かの顔が見えるのかい?」

 すると、陽葵は2人を見ながら答えた。

「おじさんの上には、坊主頭のおじいさんが見えます。何だか、穏やかな表情で、遠くを見つめています。お母さんの上には、いつも黒い布をまとった女の人がいます。テレビを観たら、この服装の人はシスターと呼ばれてました」

「陽葵!」

 母親は陽葵を叱った。道標教は、大きく仏教系に属す。その道標教の教徒である彼女の頭の上に、キリスト教のシスターがいるなどと、高に聞かれたことに、怒りと恥ずかしさを感じたのである。

 母親に叱られ、陽葵は身をすくめた。

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