第5話、「陽葵、憧れの超能力者に出会う!」(1)
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結局、道標教の現教祖・足利信満の出現により、高直師は赤井舞を解放し、夏井陽葵と舞は、矢井田太郎、大谷珠代に守られて部屋に戻った。
ただ、その間に、陽葵には思いも寄らぬ幸運があった。それは、今回、教祖・足利信満が現場に訪れたのは、矢井田の守衛への連絡以外に、超能力者・柴原葵が予知夢で何らかのトラブルの発生を教祖に伝えていたことがあって、研究棟の建物の外にいた数人の中に、何と柴原葵がいたのだ。
大谷が陽葵に、
「あ、柴原葵さんだ」
というので、陽葵がビックリして、青色の服の女性を見ると、その女性・柴原葵も陽葵を見て、
「大丈夫だった?」
と声をかけ、陽葵はそれに、
「はい、大丈夫です」
とだけ答えた、それだけの出逢いだったが、憧れの女性にあった陽葵は、部屋に戻っても、心臓のドキドキが収まらなかった。
そして、その日は寝て、翌日、朝の準備をして教室に入ると、陽葵は驚いた。いや、担任の大谷珠代も、
「え!?」
と声を漏らしたので、驚いたのは、大谷も同じだった。
いつものように教室に入ったら、いつものように演壇にいたのは、あの高直師だったのだ。
「おはよう。昨日は悪かったね。私は、もう二度と過ちは繰り返さないし、今から昨日の事情もキチンと説明するから、席についてよ。お、基君、君も回復したみたいだね」
ちょうど、その時、入って来たのは、基だった。基は、ぶっきらぼうに、
「はい。おはようございます」
と言って、席に座った。陽葵はその時、舞を見たが、舞も、特に表情を変えることなく、そのまま席に着いた。どうやら昨夜のことに、それほど悪びれる様子もない高に驚いているのは、陽葵と大谷だけのようで、大谷は首を傾げたまま、陽葵は思い切り顔をしかめがら、席に着いた。全員が席に着くと、高の話が始まった。
この教室の黒板は、画像を映すモニターとしての機能もあり、その時、そのモニター機能で黒板に大きな画面で現れたのは、
「十界論」
と書かれた表だった。
「みんなは、ここにある『十界論』とか『六道』、さらには、『六道』の中にある『地獄界』『畜生界』といった言葉を聞いたことがあるかな。『地獄界』とか、ここにある『仏界』などというと、これらは人が死んで、この世から去った後に訪れる世界のように思いがちだが、実はこの十個の世界、すべてはこの現世にあって、みんなの心が属している世界なんだ」
突然始まった高の話は、陽葵が理解するには難しすぎたが、要は、
・この十界は、六道と四聖に分かれている。
・信仰を持ち、通常の生活を整えることによって、六道の最上位「天界」までの到達は比較的可能である。
・しかし、その上の四聖「声聞・縁覚・菩薩・仏」については、厳しい仏教修行を通じてでしか、通常は到達できない。
・それを薬物の化学的作用によって、容易に到達へ導こう、というのが、高と文部省官僚・五代後世が共同で推し進めるプロジェクト「宗教化学研究」である。
・今回、高の不祥事は、その結果を急ぎ過ぎたための、不測の出来事であり、高も十分反省し、二度と不祥事は起こさないと誓った。
というものであった。




