第4話「陽葵に救いを求めたもの」(6)
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研究棟
閉じられたドアの前で、陽葵が立ちすくんでいると、
「来てしまったのね」
いきなり声を掛けられ、陽葵は一瞬、驚きで意識を失いそうになったが、反射的に振り返ると、そこにいたのは大谷珠代だった。
「矢井田君が言うには、舞ちゃんは催眠術にかけれているみたいで、こんなことを予想して、二人で見張ってたの。今、矢井田君は警備室にマスターキーを取りに行ってるの。陽葵ちゃんは戻った方が・・・って、戻る気はないみたいね」
大谷は、陽葵の口を一文字に結んだ硬い表情を見て、そう言った。
「さあ、これで中に入れるよ。陽葵ちゃんは一緒に来てもいいけど、一歩、下がっててね」
鍵を手にした矢井田が現れると、そう言いながら、さっそく鍵を使って、正面のドアを開けた。建物の中は、照明が消え、ほぼ真っ暗だったが、入ってすぐの階段の下、地下室だけは灯りが見える。矢井田が速足で階段を降りると、大谷、陽葵も後を追った。
「やめろ、お前、舞ちゃんに何をするつもりだ」
先頭を行く矢井田が、灯りのついた部屋に入るや否や、中に向って、そう叫んだ。
「高君、何だね、こいつは?」
陽葵も追いついて部屋に中を見ると、ベッドに横になった舞の傍らに、高直師ともう一人、高よりも年長の黒い背広の男が立っていた。言葉は、その男から発されたものだった。
「ああ、彼は、ここのアルバイトですよ。おい、君。君には僕に命令をする権限などないはずだよ」
高がそう言うと、
「あなたは能力開発と称し、児童に危険薬物を使ってますね。そんなことが許されると思いますか」
矢井田がたたみかける。
「何だね、証拠もなしに、危険薬物だなんて。私も前回の基君での失敗も踏まえ、今回は、顕著な劇薬など控えてるよ」
と高が言葉を返したが、そこで慌てて口をはさんだのが、黒い背広の男だ。
「高君!君は今、何って言った?薬物だなんて。・・・私は、この件には無関係なので、帰らせてもらうよ」
男はそう言うと、矢井田の横をすり抜け、部屋から出て行ってしまった。高は、
「ご、五代さん」
と男に呼び掛けたが、男が去ると、
「矢井田、お前、余計なことを」
と言って、矢井田を睨むと、舞が横になるベッドの脇のテーブルにあった、注射器を手にした。
「とにかく舞ちゃんには、教団の将来のため、このPIで宗教レベルを上げてもらうよ。邪魔はするなよ」
高がそう言って舞に近づくと、矢井田が、慌てて高に駆け寄り、高を阻止しようとした。
「何が邪魔をするなだ。そんなこと、させないぞ」
「お前、今、ここで、この瞬間、バイトはクビだ。つまり、もう部外者だ。だから、ここを出ていけ」
「何が部外者だ。人として、そんなこと、させないぞ」
高と矢井田は、言い合いながら、お互いの手をつかみ、力比べのように揉み合っていた。だが、陽葵には、どちらかと言えば、華奢な体格の矢井田に比べ、歳は上だが筋肉質の高の方が、優位に見えた。思ったbとおり、次第に高が、矢井田をねじ伏せていく。すると、
「高君、何をしている。やめなさい」
不意に、陽菜の背後から、声がかかった。振り向くと、そこにいたのは、白い髭、威厳を持った容貌の男性だった。
「きょ、教祖様、こ、これは違うんです」
高が、うろたえる。そこにいたのは、どうやら、道標教の現教祖・足利信満らしい。教祖を見ると、高は観念したように、そこで立ったまま俯いた。
舞の危機は、ここで回避された。




