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「嘘つき陽葵」(2)

「陽葵、今回はやっちまったね。こうなったら、柚ちゃんに、心を込めて謝るしかないな。それと、1つ、教えてあげるけど、陽葵が見ていたのは、柚ちゃんのお母さんじゃないからね」

 陽葵の頭の中で、声が響いていた。それは、女性の、若い女性の声で、聞き覚えのある声のような気がしたが、誰の声なのかは思い出せなかった。

 陽葵は閉じていた目を、ゆっくりと開けた。すると目の前に人が見えた。

「西条先生・・・」

 見えたのは、保健室の西条先生だった。彼女は、陽葵の目が開いたのに気づくと、

「陽葵ちゃん、起きたの。もうすぐ、お母さんがお迎えにいらっしゃると思うから、それまで寝てていいよ」

 と、陽葵に笑顔で語りかけた。陽葵は保健室のベッドに横になっていた。ところが、陽葵はすぐに立ち上がった。

「ダメなの。私、柚ちゃんに謝らないといけない。行ってくる」

 西条先生は陽葵に何か声をかけたが、陽葵はそう言うと、そのまま風のような勢いで保健室を後にした。

 保健室から廊下を抜け、そのまままっすぐ行けば、陽葵の教室だったが、ちょうど、その時間は休み時間だったのか、廊下にも教室にも、何人かの児童が思い思いの時間を過ごしていた。

 陽葵は、自分の教室へと歩いていくと、その前の廊下に立っていたのは、同じクラスの男子、芝原好夫だった。好夫は、陽葵の進路をふさぐように近づいて来ると、

「あ、嘘つき陽葵が戻って来たぞ」

 と言った。それを聞いて、同じくクラスの男子、上重武義も近づいて来た。

「ホントだ。嘘つき陽葵だ」

 彼も、そう言うと陽葵をにらんだ。

「夏井さん、どうして、あんなこと言うの。お母さんを亡くした柚ちゃんに、あんなこと言うなんて、ひどすぎる」

 武義の後ろから、突然出て来たのは、同じクラスの女子・須地結月だった。彼女は、にらむだけでなく、大きな声で陽葵にそう、言い放った。

「私、私・・・」

 陽葵は何か言おうとしたが、嗚咽でいっぱいになり、何も言えない。そこに慌てて、出て来たのは、クラスの担任・梅岡幸代と、陽葵の母親・夏井礼音だった。

「先生から許可はもらったの。さあ、陽葵、一緒に帰るよ」

 母親はそう言いながら、他の子の視線を遮るように、陽葵に近づくと、陽葵の体を包み込んだ。

「お、か、あさん。でも、柚ちゃんに謝らないと」

 陽葵が泣きながら、そう言うと、今度は担任の梅岡が、陽葵に声を掛けた。

「夏井さん。前から御病気だった里山袖ちゃんのお母さん、今さっき、容態が急変して亡くなられたの。その連絡が入り、里山柚ちゃんは先ほど、帰りました。今日は、あなたも、体調が悪いみたいなので、帰った方がいいわ。お母さんも迎えにみえてるしね」

 母親が陽葵を抱き抱えると、陽葵は力なく母親に寄り掛かった。母親は梅岡先生に挨拶をすると、陽葵を連れて、学校を後にした。そこで気を失ったのか、その後、どうなったのか、陽葵は覚えていなかった。

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