第3話「陽葵が見つけた友達」(6)最終回
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その後の光景は、陽葵にも信じられないものだった。陽葵は、基の頭の上の老人と、舞の頭の上の看護婦さんを交互に何度も見たが、大人しくなった基が、その場でゆっくりと膝を落とした時、老人の口から、何と看護婦さんに向って、言葉が発せられたのだ。
「ありがとう、お嬢さん」
その老人の言葉は、誰にも聞こえないのか、その時、老人に注意を向ける者は皆無で、舞さえ何の変化もなかったが、老人はそう言うと、舞の看護婦さんに、ゆっくりと頭を下げた。
陽葵には、頭の上に映る人が、言葉を発しているのを見るのも初めてなら、動くのを見るのも初めてだった。
「悪いが、深沢君、そして悪いが矢井田君、基君を、保健室まで連れて行ってくれないか。深沢君、彼をベッドに寝かせたら、必ず鎮静剤を打ちなさい」
場の雰囲気を変えるように、高が大きな声でそう指示すると、深沢と矢井田は2人がかりで基を支え、その場から離れていった。
その頃には、他のクラスから様子を見に来ていた何人かの児童も去り、残ったのは、高と、担任の大谷、陽葵、舞の4人で、大谷が二人をパソコン学習に戻そうと、声をかけようとすると、
「ちょっと待って、君。君、赤井舞さんだったね。私はね、君に最初に面接でお会いした時から、君の持つカリスマ性と言いますか、眼力と言いますか、その並々ならぬ能力に注目してました。そして今、見たのは、まさに、それですよね。先ほど、君は、暴走状態にあった、基君を止めた。一体、どうやって彼を止めたのですか?君の持っている能力は何ですか?」
いきなり高の質問を浴びた舞は、何も言わなかった。というか、何も言えなかった。陽葵は舞をかばって高をにらんだが、言葉は出ない。大谷が言葉を発した。
「高さん。あんなことがあって舞ちゃんも、陽葵ちゃんも、ショックを受けてます。こんな時に質問をしても、答えられる訳ありませんよ。今は、二人を休ませないと」
すると、高は表情をゆるめ、少しわざとらしい笑顔を見せて、言った。
「そうですね。申し訳ない。私は、あなたの素晴らしい能力に感動し、冷静さを失ってました。赤井さん、あなたには、いや、もし、一人で心細いなら、夏井さんと御一緒でもいいですよ。一度、私の能力開発プログラムに参加してもらいましょう。決まりですね」
高は、そう言うと、ゆっくりと離れていった。高がいなくなると、
「わあ~ビックリした。私、初めてよ。統括責任者に反発したの。クビにならないか心配だわ。でもね、高さんも悪い人じゃないと思うけど、今は足利信満教祖のマスコミ利用の拡張路線に対抗して、独自の実績を挙げたくて必死なのね、次期教祖選びの件もあるしね」
陽葵は、その時、自分の心臓が激しく動いているに気がついた。そして、改めて舞を見ると、舞も、そして舞の頭上の看護婦さんも、高に誘われたのがショックだったのか、力なく俯いているのに気がついた。
その時だ。
「仕方ない、舞ちゃんを守ってあげよう」
あの声が頭に響いた。
「分かったよ、メアリー」
声に、そう答えたのは陽菜だった。陽葵はこの時、その声に「メアリー」と名付けた。




