第3話「陽葵が見つけた友達」(5)
5
ワオー、ドカン
だんだんと近づいて来た、唸り声と物音が、陽葵たちの教室の間近に迫った時、矢井田太郎が叫んだ。
「みんな、できるだけ教室の奥に隠れなさい」
そう言うと彼は、物音に近い側の扉を、
ドサッ
と開け放った。
「誰だ、君は?」
矢井田がそう言った時、陽葵が机に隠れながら、教室の外を見ると、教室の外にいたのは、うううと、うなりながら、体をフラフラさせて左右の窓やドアにぶつかり、物音を立てながら歩いてくる人だった。
「あ、あれは」
その時の彼は、目がつり上がり、歯もむき出しになって、口からは泡のようなものが噴き出していたが、その服装と体格から、陽葵には、先ほど自己紹介で一緒だった、中学生の基樹だと分かった。
基は矢井田に近づくと、両手を上げ、ワオーと矢井田に襲いかかった。矢井田は、その両手を両手で受け止め、力比べのような形になったが、
「ダメです。ものすごい力です」
と、すぐに音を上げた。ところが、基は、そんな矢井田に向って、噛みつこうというのか、開いた口を矢井田の首へと近づけた。
「わああ」
と矢井田が悲鳴を上げた途端、基の後ろから誰かが基の首に腕を巻き付け、基から矢井田が咬まれる寸前のところで救った。高直師だった。
「おい、深沢君、僕が彼を押さえている間に、彼に鎮静剤注射を打つんだ。頼むよ」
高がそう言うと、その後ろに注射器を手にした深沢瑞穂がいたが、彼女は、
「できません。咬まれるのが嫌なので、できません」
と叫ぶ。高は、
「大丈夫、ゾンビじゃないんだから、咬まれたって少し痛いだけだ。早く、さあ早く、打ってくれ」
だが、深沢は動かない。動くことすら、できない状態だった。
その時、陽葵は、基に浮かぶ、人の映像を見ていた。基の頭上に映っていたのは、やせこけた老人で、その老人は、激しく動く基とは対照的に悲しそうに俯いていた。陽葵には、その姿が、基の暴走を止められないことを悔いているように見えた。
すると、次の瞬間、基は高を振りほどいて立ち上がり、矢井田の両手も振り払うと、
ヲオオー
と大きな雄たけびを上げ、その叫び声が、建物内に響いた。ところが、そこで動きは止まってしまった。
不思議に思って陽葵が基を見ると、動作を止めたまま、大きく開いた基の目が、どこかを見つめている。そして、それと同じ場所を、基の頭上の老人が顔を上げ、驚いたような表情で、見ていた。
その視線を追うと、基と老人が見ていたのは、舞の頭上に浮かぶ、あの看護婦さんだった。




