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第1話「嘘つき陽葵」

 夏井陽葵ひなた、6歳。小学校1年生。最近、陽菜がよくしゃべるようになったのが、教室で陽葵の隣の席に座る、里山柚という子だ。

 陽葵は内気で、授業で先生に向って大きな声で返事をしたり、分からないところを先生に質問することなどは苦手だったが、柚は明るい性格で、先生とも気軽に会話をかわしている。最初に陽葵に声をかけてくれたのも柚だった。

 やがて陽葵からも柚になら、しゃべりかけることもできるようになり、次第に会えば毎日、自然に会話をかわす仲になった。

 陽葵には、本人は気づいていないようだが、人と違った不思議な能力がある。それは陽葵が、柚や、先生、クラスの他の生徒、時には町を歩いている知らない人までも、人を見ていると、その人の頭上、時によっては横だったり、重なっていたりもするだが、その人とは別の人が目に入ることだ。

 例えば、柚なら、大抵、大人の女の人が、柚の頭のすぐ上に見えていて、彼女はまるで柚を見守るように、じっと柚を眺めていることが多い。その女の人の顔立ちが柚に似ていたので、陽葵は勝手にその女性を、

柚ちゃんのお母さん

 と名付けていた。

 そして、その日。その日は、いつも陽葵より早く教室にいる柚が、遅れてやって来た。何も言わず、小走りに近づいて来た柚を見て、陽菜はびっくりした。陽葵が驚いたのは、柚ではない。柚の頭の上にいる「柚ちゃんのお母さん」が、目を真っ赤にして泣いていたのだ。

 陽葵は、思わず柚に声を掛けた。

「柚ちゃん、どうしたの?お母さんが泣いている」

 すると、その言葉を聞いて、柚は一瞬、動きを止め、目を見開いて言った。

「何?お母さんって」

 陽葵は唯の反応に驚いたが、言葉を続けた。

「だって、柚ちゃんのお母さんが、・・・泣いてる」

 陽葵は目の前に見える、「柚ちゃんのお母さん」の様子を確認しながら、そう言ったのだが、そこで柚は陽葵をこわばった表情で睨むと、

「嘘つき陽葵!」

 と叫び、涙をいっぱい浮かべたかと思うと、すごい勢いで教室から走り去ってしまったのだ。

「柚ちゃん・・・」

 陽葵には何が何だか分からなかったが、自分の言葉が、柚をひどく傷つけてしまったことは分かった。そして、それを思うと、心の中が後悔でいっぱいになり、さらには息苦しくなり、やがて、その場に倒れ込んでしまい、ついには意識をなくしてしまった。

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