世界の国からこんにちは
映画またはドラマの脚本です。
ここでの登場人物
吉村和夫 73歳 大阪府吹田市で暮らす初老の男
相沢博美 45歳 和夫の一人 娘
〇 とある古い民家の和室(大阪府吹田市)令和 夏
和夫 博美 段ボール箱に服等を詰めている
博美 「お父ちゃん ほんま 貧乏性なんやか
ら この際 いらんもん 処分したら
(と 派手なシャツを見せて)ほら もう
こんなチンピラみたいな服 着る事な
いやろ?」
和夫 「おっ おおお・・・ でも それは
持って行くわ・・・」
博美 「ふーん この服に 何か 思い出でも
あるの?」
和夫 「・・・」
博美 「お母ちゃんとの初デートに着た服とか?」
和夫 「アホ!」
博美 「(手を止めて)まさか お母ちゃんの前の
彼女と? なあなあ そやろ?」
和夫 「口ばっかし動かしてんと 手ー動かせ!」
博美 「せっかくの休みの日に来てあげてんのに
その言い草はないわぁー」
二人 段ボールに服等を詰める
博美 「(仏壇を見て)お母ちゃんが生きとった
ら お父ちゃんも もうちょっと ええ
暮らしがでけとったのにな(部屋の中を
見回しす)」
部屋の中 散らかっている
和夫 「それはそうと お前の方は どうなって
にゃ?」
博美 「どないなってるって?」
和夫 「亮太君とのことや」
博美 「やっぱり 別れようと思ってる・・・」
和夫 「(手を止めて)別れるって! 健太は
どうするんや 来年 受験やないか
やり直せへんのんかいな」
博美 「ほら 手ー 動かして!」
和夫 「おっ おお・・・」
〇 夕陽に照らされた吹田市の街並み
〇 家の前 夕方
和夫 タバコを吸いながら家を見上げている
と 博美 買い物袋を持って帰って来る
博美 「また タバコ吸うてる!」
和夫 振り返る
博美 「タバコ 心臓に悪いってセンセゆうた
はったやん センセのゆうことけかん
かったら ほんまに死んでしまうで」
和夫 「もう わし いつ死んでもええわぁー」
と 和夫 タバコ吹かす
博美 「はいはい 人間 我慢せんと 好きな
事して 死ぬんが 一番 幸せや
これが お父ちゃんの口癖やもんな」
和夫 家を見上げてタバコを吹かす
博美 「(しみじみと家を見て)もうすぐ
この家とも お別れやな」
和夫 タバコを吹かして 家を見上げる
博美 「今日 久しぶりに 家で すき焼き
食べよ!」
和夫 「すき焼き? この暑いのにか?」
博美 「今 夏に鍋食べるん 流行ってるんやで」
和夫 「変なもん 流行らすな!」
博美 「何にも うちが 流行らしたんとちゃう
けど・・・でも お母ちゃんの作った
すき焼き 美味しかったなぁー」
和夫 「美味しかたって お前 味 覚えてるん
かい?」
博美 「なんとなくやけど 覚えてる あもうて
美味しかった 残念ながら お母ちゃんの
顔は 覚えてないけど・・・ でも
昔からの不思議なんやけど なんで
お母ちゃんの写真 一枚もないん?」
和夫 無言で家に入る
博美 「もう!」
〇 居間
和夫 博美 向かい合って すき焼きを食べている
テレビから2025年に開催される大阪・関西万
博の話題が流れている
和夫 「お前 ちょっと砂糖入れ過ぎとちゃうか?」
博美 「ちょっと 甘過ぎた?」
和夫 「糖尿病になるわ!」
博美 「(ふくれて)せっかく 奮発して ええお肉
こおて来たげたのに 文句いわんと 黙っ
て食べる!」
和夫 「(ボソッと)亮太君の気持ちが ようわかる
わぁー」
博美 「何て!」
和夫 微笑む
博美 「(テレビを見て)また 大阪で万博するん
やな」
和夫 「・・・」
博美 「昔からの不思議なんやけど お父ちゃん
吹田に住んでるくせに 昔から万博の話
せえへんもんな 何で なあなあ 何でぇ
ー?」
和夫 「うっさい! 黙って食べ!」
と 和夫 テレビのリモコンを持って
プロ野球中継に変える
博美 「もう! 心配せんでも 今年も 阪神
優勝せえへんから!」
と 博美 すき焼きを食べる
博美 「なあ 今日 泊まってええ?」
和夫 「泊まるって?」
博美 「もう この家 今日が 最後や
から・・・」
和夫 「そら ええけど・・・ 亮太君と健太は
知ってるんか?」
博美 「旦那は 出張中・・・どこに行ってるか
知らんけど・・・(カバンからスマホを
出して耳に当てる)もしもし 健太?
お母さん 今日 おじいちゃんの家に
泊まるさかい ご飯 冷蔵庫に昨日の
すき焼きの残り入ってるし たらんかっ
たら 水屋の引出しに財布入ってるし
適当に 何かこおて えっ? 明日
遠足やったけ? ゴメン 忘れてた
行きしなコンビニでお弁当でもこうて
遠足 ちゃんと行きや はいはい
お母さん 明日の夕方には 帰るし
はい はい バイバイ(と スマホを
切る)」
和夫 「お前 昨日も すき焼き 食べたんかい?」
博美 微笑む
〇 和室
和夫 博美 布団を並べて寝ている
博美 「(天井を見つめて)こうやって お父ちゃん
と寝るん久しぶりやな」
和夫 「(天井を見つめて)そやったかいな」
博美 「(天井を見つめて)あの時みたいに 隣に
お母ちゃんが居くれたらなぁー」
和夫 「隣 見てみ」
博美 「えっ?」
和夫 「寝てるで」
博美 「(布団を 被って 大きな声で)もう!
怖い事 言わんといてえな!」
和夫 「すまん すまん お前 天下一品
怖がりやったな」
博美 「(顔を出して)なあ 覚えてる?」
和夫 「何をや?」
博美 「南公園で 三人で お花見したん」
和夫 「花見?」
博美 「うん! ほら 私が保育園の時・・・」
和夫 「そやったかいな」
博美 「うちが 何で それ覚えてるんか知っ
てる?」
和夫 「そんなもん 知るかい」
博美 「あん時 お父ちゃん お母ちゃんが
作ってくれた うちが好きな豆ご飯
全部 芝生の上に ひっくり返した
やろ 芝生のふりかけがかかった
豆ご飯 一生 忘れられへんわ」
和夫 「そやったかいな」
博美 「食いもんの恨みは怖いでぇー それに
あれが お母ちゃんとした最初で最後の
お花見やったから・・・ そや! 明日
行かへん?」
和夫 「どこへ?」
博美 「(むくっと 起きて)南公園!
なあなあ 行こー」
和夫 「はよ 寝え!」
博美 「もう!(と 布団を被る)」
和夫 天井を見つめている
博美 「でも お父ちゃん 凄いわぁー」
和夫 「凄いって 何が 凄いんや?」
博美 「だって お母ちゃんが 死んでから
再婚してないんやもん」
和夫 天井を見つめている
博美 「何で 再婚せえへんかったん?
寂しなかったん? なあ なあ?」
和夫 「うるさいなぁー はよ 寝えって
ゆうてるやろ! お前 ほんま
お母ちゃんに 似てきたなぁー」
博美 「似て来たって?」
和夫 天井を見つめている
博美 「お父ちゃん?」
和夫 「何や?」
博美 「でも うち あの時の事は 覚えて
るのに 何で お母ちゃんの顔
覚えてないんやろ? なあなあ
ほんまに お母ちゃんって 死んで
しもたん? うち 昔から お母ち
ゃん どっかで 生きたはる様な気
がしてるんやけど・・・」
和夫 天井を見つめている
〇 千里南公園の入口
和夫 博美 入る
〇 千里南公園
和夫 博美 池の傍を歩いている
〇 千里南公園の広場
和夫 博美 歩いて来て
博美 「(一本の大きな木を見て)あっ!
あの木の下やった!」
と 博美 大きな木に走って行って
博美 「こここ!(和夫に手招きして)
お父ちゃん! お父ちゃん! この木!
この木! ここやろ!」
和夫 木を見上げる
博美 「まだ あったわぁー ここが 豆ご飯
ひっくり返した現場や!」
和夫 「・・・」
博美 「懐かしいなぁー でも どうしても
お母ちゃんの顔だけは 思い出されへん
・・・ ここで お花見した事も お母
ちゃんが 隣に寝てた事も すき焼きの
味も 覚えてるのになんでやろ? なあ
なあ 何でぇー?」
和夫 歩いて行く
博美 「もう!」
博美 後を追いながら
博美 「なあなあ ついでに 万博 行かへん?
まだ 私 エキスポシティに 行ってな
いんよ それに 久しぶりに 太陽の塔
も 見たいなぁーって なあなあ 行
こ? ええやろぁー? なあなあって?」
和夫 歩いて行く
〇 大阪モノレール万博記念公園駅の出入口 翌日
和夫 博美 出て来る
博美 「万博! ばんぱくー!(と 歩いて
行く)」
和夫 博美の後姿を見て 手で胸を押さえる
〇 太陽の塔の前
和夫 博美 歩いて来て
博美 「うわー 懐かし! やっぱり
大きいなぁー」
和夫 しみじみと太陽の塔を見上げる
〇 かつてのパビリオンの跡地
和夫 博美 歩いている
と 博美のスマホが鳴って 博美 カバンから
スマホを出して見て耳に当てる
博美 「もしもし 相沢です あっ! センセ
健太が何時もお世話になってます・・・
えっ!? また ですか!? すいませ
ーん! 多分 梅田か難波の映画館やと
思います いやね ずすちゃんが 出て
る映画が 今日 初日で 舞台挨拶があ
るとか ゆうてましたし・・・ すいませ
ーん 帰って来たら ようようゆうとき
ます すいませーん!」
博美 電話を切る
和夫 「どないしたんや?」
博美 「健太のアホ! また 社会見学 ずる休み
しよったんや ほんま しゃーない子や
で いったい 誰に似たんやろな?」
和夫 「誰やろなぁー」
〇 エキスポシティへ続く道路
多くの家族連れやカップルが楽しそうに歩いて
いる中を 和夫 博美 歩いている
〇 観覧車の前
博美 「乗ってみる?」
和夫 観覧車を見上げる
博美 「あっ! お父ちゃん そんな顔してて
高所恐怖症やったな 昔から 遊園地に
行っても 乗るんは メリーゴーランドと
コーヒーカップだけやったもんな なあ
なあ 何で 高いとこ 嫌いなん? な
あ なあ」
和夫 「うっさいわ! 乗ったらええにゃろ!
乗ったら!」
〇 ゴンドラの中
博美 外を眺めている
和夫 うつむいて 目をつぶっている
博美 「けっこう 吹田もタワマン建ったなぁー
まるで 未来の街や ほら あそこが
うちらの家の辺かな? 三中はっと・・・
ほら! お父ちゃん!」
和夫 「(恐る恐る眼下に広がる万博公園を見つめ
て 小声で唄う)こんにちは こんにち
は 世界の国から・・・(と 手で胸を押さ
えて目を閉じる)」
と 三波春夫が唄う「世界の国からこんにちは」
が流れる
〇 ゴンドラから見た吹田の街並みと万博公園を
バックにクレジットタイトル
「転校生は未来人」(仮)
つづく