古代エジプト詩『ファラオ讃歌』
古代エジプトを治めた王=ファラオたちの歴史を、エジプト神話に登場する神々の名を織り交ぜ、神話伝説風に歌った詩です。この詩をナルメル王、クフ王、ツタンカーメン、ラメセス2世、クレオパトラら古代エジプトの歴代ファラオと、自分が尊敬するエジプト考古学者の吉村作治先生や河江肖剰先生、河合望先生や大城道則先生をはじめ、古代エジプトを愛するすべての方々に捧げます。
ナイルの賜物エジプトは、
古来上下二つの地に分かれ、永らく一つとなることなかりけり。
そを統べ合わせしはナルメル王、エジプト最初の王なり。
見よ! 沈泥岩の化粧板に、
工匠が刻みしナルメルの、頭に白き冠を戴きて、
亜麻布、牛の尾腰につけ、棍棒手にした雄々しき姿。
荒れ狂う鯰、力強き雄牛、隼神の化身ナルメルは、
従う者には気前よく、麺麭を食べさせ麦酒を飲ませ、
抗う者には容赦なく、棍棒振り上げ打ち下ろす。
民に優しきこと善なる兄神のごとく、
敵に厳しきこと悪なる弟神のごときナルメルは、
翼持つ母なる女神の加護受けて、
幾多の戦に勝利をおさめ、上下二つの地を合わせ、己が国を打ち立てたり。
おお――創造神、湿気の女神、大気の神、大地の神、天空の女神、
冥界の神、豊穣の女神、砂漠の神、葬祭の女神――偉大なる九柱神よ!
御身らがつくりし黒き大地、麦豊かに実るエジプトは、
ナルメル亡き後、黄金と青の縞模様 美々しき頭巾受け継ぎし 歴代王が治めたり。
数多の名君暴君 世に出でて、歴史にその名を残したり。
六つの方形墳墓積み重ね、階段模したる金字塔 初めて築きし偉大なジェセル、
権勢並ぶ者なきスネフェルや、
ギザの三つの金字塔 築き上げたるクフ、カフラー、メンカウラーも後の世に その名を知られし王なり。
長寿のペピにサフラー、ウナス、混乱収めしメンチュヘテプ。
丈高きセンウセルトとその息子、迷宮築きしアメンエムハトもまた然り。
他にも神聖文字もて神殿に 名を刻まれし王、数多あり。
女王ハトシェプストにトトメス、セティ、王の中の王ラメセス。
アメンへテプにアクエンアテン、ツタンカーメン、プスセンネスにアメンエムオペト。
ローマの英雄カエサルさえも魅了した、最後の女王、鼻高き クレオパトラの死をもって、栄華の時代もついに終わりぬ。
されど時は歩みを止めず、流れゆきたりナイルと共に。ナルメルの国滅びし後も悠揚と。
そして歴代の王が夢の跡、数多の神殿、方尖塔、都は砂に埋もれて眠りたり。
神々の王、太陽神の眼照りつける 砂漠の下に、今もなお――。
歌の大意は、以下のようになるかと思います。
ナイル川の賜物というべきエジプトは、古来、上エジプトと下エジプト、二つの地に分かれ、一つになることはありませんでした。
それを統合したのがナルメル、エジプト最初の王です。
沈泥岩の化粧板に職人が刻んだナルメル王の勇姿、腰に亜麻布と雄牛の尾をつけ、棍棒を手にした姿をご覧なさい。
ナルメルは自分に従う者には気前よく食べ物と飲み物を与えますが、自分に抗う者には容赦なく暴力を振るうのです。
民には善良なオシリス神のように優しく、敵には邪悪なセト神のように厳しいナルメルは、幾多の戦に勝利をおさめ、上エジプトと下エジプトを合わせて自らの国を打ち立てました。
ナルメル亡き後、エジプトは彼から王権を受け継いだ、歴代の王が治めました。
数多くの名君や暴君が現れ、歴史にその名を残しました。
ジェセル、スネフェル、クフ、カフラー、メンカウラ―、ペピ2世、ウナス、サフラー、メンチュヘテプ2世、センウセルト3世、アメンエムハト3世、ハトシェプスト、トトメス3世、セティ1世、ラメセス2世、アメンヘテプ3世、アクエンアテン、ツタンカーメン、プスセンネス1世、アメンエムオペト。
最後の女王クレオパトラの死をもって、栄華の時代もついに終わりました。
しかしナルメルの国が滅んだ後も、時はナイル川と共に悠揚と流れてゆきました。
そして歴代の王の夢の跡というべき数多くの遺跡は、太陽神ラーの眼が照りつける砂漠の下に今もなお眠っています。