【短編】男と犬
雨の中、 男が足早に歩いていた。
雨が傘をはみ出し、 服を濡らすのも構わずに。
どこか、その姿は家族とはぐれてさ迷う子供のようにも見えた。
やがて、 男は河川敷へとたどり着いた。
何かを探すように川岸を降りていき、 橋の下へと向かっていく。
そこには、 1匹の犬の座る段ボール箱があった。
箱を見つけると、 男は傘を放り出して犬の元に駆けていった。
それを見て、 犬も箱を飛び出して男の元に走っていく。
「捨てたりしてごめん。 もう、 二度とお前を離したりしないよ……」
その言葉に呼応するように、 犬も尻尾を振りながら男にしがみつく。
ややあって、 1人と1匹が抱き合う光景は少しづつ消えていき、 視界は暗転していった。
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「これくらいでいいだろう」
そう言うと、 男はスイッチを切った。
それと同時に、 何本ものコードが繋がれた機器の前部の扉が開いていく。
「まったく、 安易にペットを捨てる飼い主にも困ったもんだな」
「本当になあ。 これじゃあ生類憐れみの令の時代に逆戻りだよ」
「おっと、 言葉には気を付けろよ。 保護団体の耳に入ったりしたら厄介だぞ。 連中がこんな物を作らせたから、 俺たちも仕事にありつけてるんだからな」
2人の作業員の視線の先には、 ゴーグルを着けた1匹の犬が座っていた。
20××年。 少子化に歯止めが掛からなくなっていた日本では、 その隙間を埋めるように爆発的なペットブームが到来していたが、 それとともに安易なペットの遺棄も重大な社会問題になっていた。
これは、 捨てられたペットの心を癒すために開発された精神再生用マシン。