ままごと
少女が一人でままごとをしている。色々なものをお母さんやお父さん、お兄さんに見立てて。そのモノを動かしてままごとをする。少女自体は幼稚園児、年相応な、何の変哲もない光景だろう。一つだけ変わった点がかるとするなら、人形を使わないことだろう。人の代わりをするはずの人形でなく、お父さん役は白のマグカップ、お母さん役はきれいな髪飾り、お兄さん役は黒のシャーペン。本来の人とは結びつかないものばかりだ。この子の家族はここにはいない。幸いなのか不幸なのか一人だけポツンと生き残ってしまった。この少女はこれから多くの困難に見舞われるだろう。一種の現実逃避としていつかの日常を繰り返しているのだ。そんな少女は虚ろな目をして笑っていた。ここじゃないどこかをみつめて。自分が持っていた幸せを抱えて。今も少女は家族がいないことを受け入れていない。こんなにもたくさんの記憶が幻影を作り出す。誰が彼女に現実を見ろと言うのだろうか。見て見ぬ振りをする。そうして、闇はより少女を飲み込んでいく。
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