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第1話 【禁呪・チートマジック】と追放

「王の前で私に恥をかかせおって、この無能が! 屋敷から出て行けぇ!!」


 俺、ベゼル・カーベルトは激昂した父上に殴り飛ばされた。


 加減されること無く振り回された拳は魔法で強化されていたらしく、顔面にハンマーで殴られたような激痛が走る。


「ぐっ……。ち、父上……」

「黙れベゼル! 貴様に父と呼ばれる筋合いはもう無いわ!」


 俺は何とか起き上がるが、怒り狂った父上は侮蔑に満ちた目で見下ろしている。


「ククク、そんな一方的に殴っちゃ可哀想ですよ。ほら、兄さんはまともな魔法が使えないんですから」


 父上とはまた違う冷ややかな視線を向けるのは弟のマーベルだ。

 俺のことを兄と慕ってくれていた弟の姿は、もうどこにもなかった。


 どうしてこんなことになってしまったのか。


 それは全て、今日の《魔法契約の儀》が原因だった――。


   ***


「ほほ。大きくなられたな、ベゼル君」

「ありがとうございます、ロイド王。これもここまで育ててくれた父上やカーベルト家の人たちのおかげです」


 白い顎髭をさすりながら柔和な笑みを浮かべているのは、この国で最高の権力者であるロイド王だ。

 今日、俺は自身が扱う魔法の契約を執り行うため、父上や弟のマーベルと共に王宮を訪れていた。


 魔法――。


 それはこの世界で誰もが授かる特殊能力。


 18歳以上が魔法を扱う適正年齢だとされており、《魔法契約の儀》をもって正式に自身の扱う魔法を会得することになる。


 魔法の種類は直接的な攻撃手段となるものや身体を強化する魔法、生活を支える魔法と千差万別だ。

 当然、どのような魔法を会得したかにより自身が活躍する分野も異なる。


 俺はこれから王の御前で《魔法契約の儀》を行うわけだが、まるで自分の未来を決めるくじでも引かされる気分だ。

 いや、どのような魔法を授かるかは今後の人生を左右すると言っても過言ではない。

 そういう意味では、これから行う《魔法契約の儀》は文字通り人生のくじ引きだろう。


 ――といっても、やっぱ期待しちまうよな。


 この日のために魔法を扱うための基礎鍛錬を積んできたと言ってもいい。

 今までには持ち得なかった、ずっと想像だけを膨らませてきた異能の力をいよいよ授かるのだ。

 期待するなという方が無理だろう。


 そんな俺の心境を知ってか知らずか、隣に立つ父上は自信満々の笑みを浮かべていた。


「ロイド王よ。このベゼルは、賢者の家系である我らカーベルト家の跡取りとすべく手塩にかけて育てて参りました。本人も寝る間を惜しんで日々努力してきましたからな。きっと世にも珍しい魔法を授かってくれることでしょう!」


「ふむ。お主がそう言うなら期待せざるを得んのぅ。ベゼル君が有用な魔法を授かった暁には、我が娘リリアドネとの婚姻の件も進めるつもりでおるからな」

「ははぁ! そのお話、カーベルト家の当主としても恐悦至極に存じます!」


 意気揚々と話す父上はロイド王の言葉に興奮を隠せない様子だった。

 それも無理はない。


 数々の賢者を排出し、王家を支えてきたカーベルト家にとって王族との婚姻は悲願だっただろう。


 俺はともかく、当事者である王女の気持ちを蚊帳の外にして進めているのはどうかと思うが……。


 玉座から離れたところで静かに佇んでいるリリアドネ・アーバンシュタイン王女、もといリリアは俺の視線に気付くとわずかに笑って手を振っている。

 整った顔立ちに腰まですとんと落ちる金髪が美しく、この王都でも稀代の美姫と噂されているほど。


 カーベルト家は賢者一族として王家に仕えてきたため、俺はそんなリリアと昔から接点があった。

 同い年ということもあり、幼い頃はよく一緒に遊んだものだ。


 最近ではそのような機会も減ってしまっていたが、今日はどうやら俺の《魔法契約の儀》に同席してくれるらしい。

 密かに応援されているような気持ちになり、少しだけ緊張がほぐれた。


「さて、それでは早速ベゼル君の儀を執り行うとするか。おい、神官よ。準備にかかれ」


 ロイド王が宣言して、いよいよ《魔法契約の儀》が行われる。


「ふふ。そう不安げな顔をするなベゼル。これまでお前は研鑽を重ねてきたのだ。それに左腕の家紋が示す通り、我が一族は賢者の家系。お前もさぞ優秀な魔法を授かるだろう。自信を持って臨むがよいぞ」

「はい、父上」


 俺は左腕に刻まれた賢者の家系を示す家紋をそっとなぞる。


 父上は俺が賢者の一族に相応しい魔法を授かることを疑っていない。

 でなければ、わざわざ王の御前で《魔法契約の儀》など行うはずもなし。


 これは王族との関係性をより深めるための通過儀礼。

 恐らくそんな考えを持っているのだろう。


 ――とはいえ、王族との関係性を深めたいのは俺も同じか……。


「では。ベゼル・カーベルト殿、前へ」


 錫杖を持った神官に促され、俺は足を踏み出す。

 そして、神官が俺の頭上に杖を振りかざすと、厳かに儀が開始された。


「数多の神々よ。ベゼル・カーベルトのこれまでの行いのもと、古より伝えられる異能の力をかの者に授けたまえ――」


 神官が宣告すると、俺の周りには怪しげな黒い霧が立ち込める。


 その時から嫌な予感はしていたんだ。


 話に聞いていた《魔法契約の儀》では、精霊に祝福されるかのような光が降りかかると聞いていたのに、そんなものとはまるで逆の光景が広がっていたのだから。


 そうして、黒い霧は俺の体内に吸収されたように消え去ってしまった。


「こ、これは……!」

「おお、完了しましたか。それで、どうなのです? 我が息子の授かった魔法は。神代魔法か、それとも精霊魔法か――」


 神官が顔を歪めた理由を良い意味のものだと解釈した父上が嬉々とした声をあげている。


 が……、


「ベゼル・カーベルト殿が授かった魔法は……、【禁呪・チートマジック】です」


 神官から発せられた魔法名は予想もしないものだった。


「な、何ですと? 禁呪……? チートマジック……?」

「詳しくは分かりませぬ。恐らく禁呪と冠するあたり、魔族が扱う魔法の一種ではないかと……。残念ながら私も魔族の魔法に関しては分かりかねますので……」

「ハ、ハハ……。そんな馬鹿な。魔族といえば我々人族が長年に渡って駆逐しようとしてきた種族ではないか。我が一族からそんな魔族の魔法を扱う者が出るなど……」


 ――魔族が、使う魔法……。


「いや、チートマジックというのが有用な魔法の可能性もある! おいベゼル、魔法を使用するのだ!」

「……はい。父上」


 促されるままに魔法の使用を念じると、俺の眼前には青白い文字が並ぶ。

 父上は俺を押しのけるようにして、浮かんだ文字列に目を通した。


=====================

【禁呪・チートマジック一覧】

●強化魔法

・対象:スライム

=====================


「強化魔法……。対象は、スライム……だと……」


 父上が愕然とした様子で後ずさる。

 俺も、予想外の出来事に呆然とすることしかできない。

 最弱とされるスライムを強化できるからといって何になるというのか……。


 期待外れ――。

 その言葉が俺の脳裏に浮かぶ。


「ベゼル……」


 リリアが胸の前で手を組み、心配そうな表情を浮かべていた。


「コホン。どうやら、ベゼル君には魔法の才に恵まれなかったようだな。これでは我が娘リリアドネとの婚姻も無かったことに……」

「そ、そんな……。お待ち下さいロイド王!」


 焦る父上に声をかけたのは、それまで黙っていた弟のマーベルだった。


「父上、僕にも《魔法契約の儀》を受けさせてもらえないかな」

「マーベル……。お前にはまだ少し早いかもしれぬぞ……」

「でも、こんな体たらくじゃカーベルト家の名折れでしょ」

「そ、それもそうだな……」


 そんなやり取りを弟と父上が交わしていたが、どこかとても遠い世界の会話に聞こえた。


 そして――、


「おお、マーベル殿の授かった魔法は【精霊魔法】ですぞ!」


 儀を終えた神官の声が響き渡る。


 精霊魔法――。

 この世界に存在する精霊の力を借りて炎や氷、風など全ての属性を扱う攻撃魔法のスペシャリストに現れる魔法だ。


「よくやった、マーベル! よくやった!」


 俺のときとは打って変わって、皆が笑顔でマーベルを祝福している。


 羨む気持ちがわずかでも無かったと言えば嘘になるが、一族で期待されていた魔法を授かった弟を祝福したいという気持ちの方が勝った。

 だから俺も、儀を終えたマーベルと握手しようと手を差し出す。


「おめでとうマーベル」


 しかし、マーベルがその手を取ることはなく、代わりに返ってきたのは嘲笑だった。


「うむ。賢者一族の名は伊達ではないな。マーベル君、だったな。どうかね? 我が娘リリアドネとの婚約を考えてはくれまいか?」

「リリアドネ王女とですか? はい、僕でよろしければ是非に」


 ロイド王がそう告げてマーベルが答えると、リリアが息を呑むのが分かった。

 対象的に父上は救われたような顔を浮かべてロイド王に詰め寄る。


「それではロイド王……」

「ああ。今後も変わらぬ付き合いを頼むよ、当主殿。但し、一部の例外を除いて、な」

「ええ! 我が息子、マーベルを今後ともよろしくお願い致します!」


 なんだよ、それ。

 もう俺のことはどうでもいいっていうのか?


「お父様、それはあまりにも浅慮ではございませんか!? ベゼルが何をしたというのです!」

「リリアドネ。お前も王族としての自覚をいい加減に持ちなさい。魔法の才が無い者と精霊魔法を扱う者。そのどちらが王家にとって有益か、少し考えれば分かるだろう」

「ですが……」


 そこから先のことはよく覚えていない。

 気付くと俺は屋敷に帰った後で父上に殴られていたのだ。


   ***


「あれだけの恥を私にかかせたのだ。この屋敷から出ていってもらうだけでは当然足りん」


 そう言って父上はヅカヅカと俺の方に向けて歩み寄ってくる。


 何だ?

 何をする気だ……。


「貴様はもうカーベルト家の人間ではない。その左腕に刻んだ賢者一族の家紋も返してもらうぞ」

「返すと言っても、これは刻印ですよ。どうやって……」


 父上は俺の問いには応えず、その手に火炎魔法を発動させた。


 まさか。

 まさか……。


 父上は躊躇すること無く、火炎魔法を発動させたまま俺の左腕を掴んだ。


「ぐがぁああああああ!」


 全神経が焼かれる左腕に持っていかれる。


 ――。


 ――――。


 永遠とも思える時間が経ち、俺の左腕に刻まれていたカーベルト家の家紋は炎の跡で黒く塗りつぶされていた。

 飛びそうな意識の向こうから弟マーベルの笑い声が聞こえる。


「まったく。容赦ないなぁ、父上は」

「仕方ないであろう。スライムの強化などしかできんゴミがカーベルトの一員と思われては堪らんからな」

「ああ、そうそう。スライムといえば……」


 ――ぐ、が……?


 マーベルから何か柔らかい物体が投げつけられ、我に返る。

 それは一匹のスライムだった。


「ポヨォ……」


「兄さんの部屋から見つけましたよ、そのスライム。そんなのを飼ってるからあんな訳の分からない魔法を会得しちゃうんじゃないですか?」

「マーベル、お前……」


 スライムの名前は、レネ。

 以前、屋敷の近くに怪我して倒れていたのを見つけ介抱してやったところ、妙に懐かれていたのだ。


 魔族でありながら知性を持っているらしいレネは、よく俺の話し相手になってくれた。

 日々厳しい修行に明け暮れる俺にとって、レネは良き友人でもあったのだ。


 しかし、投げてよこされたレネは激しく痛めつけられている。

 誰にされたかは考えるまでもない。


「やだなぁ、そんな怖い顔で睨まないでよ兄さん。魔族は僕たち人族の敵でしょ? 殺さないでやっただけ感謝してよ」

「バカ野郎! コイツはちゃんと知性を持っているし危害は無い! 魔族だからってこんな……」


「クックック。スライムの強化魔法しか使えん無能とスライムか。お似合いではないか」

「く……」


 嘲笑う父上は、そして俺に告げる。


「さあ、貴様なぞもう必要ない! 早くそのスライムと一緒に屋敷を出ていけ! 魔族領でもどこへでも行くんだな、ベゼルよ」


 ……。


 ――必要なのは役に立つ人間だけ、か……。


 悔しさなのか自分自身への怒りなのか、よく分からない感情と共にレネを抱え上げる。


 そうして、俺は屋敷を後にした。


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