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6. やっぱりお酒は鬼門です


『じゃあ、俺は帰るから』


 不機嫌な智樹の態度と、一緒に帰ろうと言われない事に、気が付いた。

 多分愛莉さんに会うんだなあ──って。


 幼馴染なんだし、彼らにしてみれば会うのは当然なんだろう。

 子供の頃から仲が良かったとも聞いている。上京ってしてみると分かるけど、出身地について語り合えるって、それだけで楽しいし嬉しい。


 でも……


「幼馴染」は変わらないと、私は信じた。

 初めてできた「彼女」は私だって言ってた言葉が、私を強くしていると思ってた。から、


『うん、気をつけてね』


 これが正解なんだと思って手を振って見送った。




『……日向って何の用事なの?』


 智樹の背中を見送った後に亜沙美さんが告げる。時刻は、十九時を指していた。遅い時間では無いものの、彼女を置いて帰る姿勢に少しだけ不服そうに見える。


 片や私は幼馴染ちゃんの存在に慣れ過ぎていて、彼女とは別枠の大事な人だと言われれば、否やは無い。

 いや、智樹が愛莉さんに会いに行ったと決まった訳では無いけれど……


 親兄弟とか同性の幼馴染だったらここまでモヤらないだろう、と自分で自分に言い聞かせている。

 それに、たった一人を大切にする、そんな智樹を好きになったのだから、仕方がない。とも思う。

 とは言え亜沙美さんに何て返そう……


『どうせ母ちゃんの用事だろ。上京してると親に頭上がらないからなー』


 私が答える前に河村君が適当に返す。


『……まあねー、離れて分かる親の有り難みには逆らえないわ』


 納得した風の亜沙美さんをまじまじと見つめ、ほっと一息つく。河村君の回答に感謝をして、そっと笑顔を送れば、何だか照れ臭そうに笑ってくるものだから、ついどきまぎと胸が騒いで……


『ね?』

『う、うん』


 つい勢い良く首肯したりして。


『ねー、それよりさあ、日向との馴れ初め教えてー。なんか堅物のイメージがあるんだけど、どうやって知り合ったのー?』

『あ、俺も聞きたい』


 その後はお酒の力も手伝って、暫く私なんかの話で盛り上がってしまった。きっと後々誰も覚えて無いだろうけど。

 とは思いつつも、何だか恥ずかしくて自分も大分飲んで……で、




 転んだ。




 盛大に。




 それが原因で受け止めてくれた河村君と事故ったのだ。


 多分誰も、見ていなかった……


 とは言え、流石にその直後はお酒が飛んだし、挙動が普段の五割増しでおかしくなったのを覚えている。


 しかもすっかり出来上がっていた亜沙美さんは私を送るどころでは無くなっており、他の子の家に泊まる事になったり──と、結局私は河村君に家に送って貰う事になったのだ。

 勿論何も無い。ただだだ私が居た堪れなかっただけだ。


 そんな私的な事情がある河村君なのだけど、ご都合により私の記憶から排除させて頂いておりましたが、お陰様でまざまざと思い出しましたですよ。ええ、まざまざと……


「消えたい」

「え?」


 叫びながら走って逃げたいけど、そんな事が出来るのはフィクションだからだと思う。私には無理だ。

 代わりに頭を抱えた。


「あのね、あれは事故だったでしょ?」


 ぎゅっと目に力を入れて河村君を睨みつける。


「そうだね……あの後三上さんずっと謝ってたもんね。日向にも謝ったの?」

「……そ、れは……」

 私は目を泳がせた。

「日向を見てるとそんな様子は無かったけどさ、三上さんはあれからサークル来なくなったし」


 ……智樹に言うべきだったのかは良く分からない。

 あの飲み会自体、智樹は話題にして欲しく無さそうだったし、それに智樹はあの後どうしてたかなんて、気軽に聞く事も出来なくて……だからあの飲み会の日の話は、お互いにしなかった。


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